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クリスティナの回想・1

 クリスティナの覚えている伯爵様と奥様は、とても上品な方だった。上品とはどんなものか、七歳の今も分からないけれど、おふたりが他の誰とも違っていたのは本当。


「シンシアお嬢様も生まれながらにして品があって高貴でいらっしゃる」と母が言っていたから、あの特別な感じが「品」だと思う。にっこりしてくれたエイベル様も。


 みんな土の下にいるなんて、クリスティナには信じられない。だからお墓には行かない。







 お城に敵が攻めて来た時のことは、覚えている。それまでとそれからと、まったく別のものになった。二か月の間だったと知ったのは少し大きくなってからだ。


 シンシアお嬢様がずっと手を握っていたのは自分のお母さんではなく、私のお母さんだ。

この「お母さん」は「今の母さん」ジェシカとは別の「前のお母さん」のこと。


 暗いお部屋のなかで伯爵夫人は泣いてばかりで頼りなかった。お嬢様が私のお母さんにくっついていたのもわかる。



 昔のことだから忘れたことも多いけれど、部屋にあった秘密の出入り口から母とお嬢様が出て行ったのを覚えている。


 母が左手に荷物持ち、右手をシンシアお嬢様と繋いでいるのを見て「手はふたつしかないから、私は置いていかれてもしかたない」と思った。


 怖いような暗い方へ踏み出した時、振り返ったのは母ではなくシンシアお嬢様で。泣くでも笑うでもないちょっとだけ緊張したお顔に、バイバイと手を振った。


 お嬢様は同じようにバイバイを返して暗い所へ消えていった。



 奥様は長椅子に伏せたまま、お見送りをしなかったような気がする。

四人でいた部屋はふたりになった。


 お母さんがいない今、奥様のお世話は自分の仕事だ。水差しからコップに水を注ぐ、これでよし。



 いつの間にか半身を起こしていた奥様が「こちらへ」と細い声で呼んだ。

優しい手つきで頭を撫でて、髪の乱れを整えてくれる。


「ごめんなさいね、あなたからお母さんを奪ってしまったわ」


クリスティナは頭を振った。

「お仕事だから」


 お仕事はなにより大事と知っている。それに欲張りは悪いことだと教えられた。あれもこれも欲しいと言い張るのは、悪い子のすること。

ふたりも連れて行くのは欲張りがすぎるから、お母さんが私を置いていくのは正解。


 

 クリスティナがどうにか説明すると、奥様は泣きそうなお顔で少し笑った。


「ここにいてくれると、私は心強いけれど、あなたを道づれにするのはよくないことだわ」


 そんな感じのことを言われて「誰か知った顔を見つけて助けてもらいなさい。侵略者だって、さすがにこんな小さな子を酷い目に合わせたりはしないと思うのよ」と、部屋から出された。


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