詐欺に引っ掛かった弟の兄
花を抱えて山荘に戻りながら「ラング・ルウェリン様がシンシア・マクギリス詐欺に引っ掛かったお話」をすると、レイは「めまいがしそうだ」と顔をしかめた。
「クリスは『シンシア・マクギリスじゃない』って言わなかったのか」
「だって『じゃない』って言ったら置いてもらえないでしょう。追い出されたら私、浮浪児になっちゃう」
クリスティナは黙っていていて当然だと思うのに、しばらくしてレイが言ったのは。
「さすがオヤジの娘だ」
ちょっとちょっと。オヤジは育ての親だから「さすが」は違うと思うし、オヤジの娘と言うなら、ジェシカ母さんの娘って言われたい。
でも、詐欺の片棒を担いだも同じなので、おとなしくしておくことにする。
ラング様にはレイから「あのシンシア・マクギリスを名乗る子供は恩人の娘であることが判明したので、親元まで責任を持って自分が連れて行く」と伝えてもらうことにした。
ラング様はお腹立ちになるかもしれないけれど、そこは兄弟なんだからうまく収めて欲しいし、だめなら親分のはうるちゃんが頑張ればいいと思う。
あんまりはうるちゃんのことを考えていると「少しの間も俺と離れたくないってか。仕方ねえな、ふっ」とか、にまにましながら来ちゃうような気がする。クリスティナは今した想像をお空の彼方にふっ飛ばした。
その後レイとはオヤジ達の話をせず、ある材料で夕食になにが食べられるかを話しながら山荘まで帰った。
寝室は二階に三部屋。フレイヤお姉さんの足は腫れていて階段が辛い。
「大丈夫です、手をつけば階段を上がれます」
「およしになって」と必死で断っているのに、レイは二階へと抱えて運んでしまった。
クリスティナとフレイヤが同部屋、別の部屋をレイが使う。
「ティナちゃん、レイさんとずいぶん仲良くなったのね」
「うん。話しててレイが母さんのお友達だって分かったの」
「あら、まあ」
寝支度をしながら答えると、フレイヤが目を丸くした。
知ってる? レイはラング様のお兄さんなの。と打ち明けたくて口がムズムズする。
でもレイが「俺から話したい」と言うので、残念だけれど譲ることにした。
「レイが母さんのいる所も知ってて、連れて行ってくれるって。その時はお姉さんも一緒に行こう」
「そうねえ、ティナちゃんのお母さんには会ってみたい気がするわ」
嬉しくなってクリスティナは寝台に飛び乗った。勢いで寝台が軋み、フレイヤの体が揺れる。
そこにクリスティナの頭がごちんと当たった。
「いたた」
「ティナちゃん、大丈夫!? 」
「平気」
ちょっとはしゃぎ過ぎたと反省して笑えば、フレイヤが「ここかしら」よしよしと頭を撫でてくれる。
もっと撫でて欲しくてすり寄ると、優しい声がした。
「そうよね。まだ親と離れるには小さいわよね。私じゃ代わりにはなれないけど、仲良くしましょう。ティナちゃんが可愛くて大切よ」
「ね、お姉さん。敵が攻めてきて逃げることになったら、どうする?」
クリスティナの突然の質問に、フレイヤは思案顔になった。




