切り込み隊長の本懐
「難しい」
「オヤジは、マクギリス騎士団の切り込み隊長と呼ばれた男なんだ。伯爵の命を直々に受けて、ハートリー団長を生け捕りにして交渉に持ち込む作戦だった。が、どこからか漏れて直前で断念せざるを得なくなった。そこから打開に転ずるのは困難を極め、負け戦になったそうだ」
「お話、簡単になってない。もっと難しくなった」
クリスティナの恨みがましい視線を受けて、レイが肩をすくめる。
「これでも難しいか」
「オヤジが大失敗したことは分かった」
もう少し思いやりのある言い方をしてくれとばかりに、レイが苦笑する。
でもクリスティナにしてみれば、「切り込み隊長」なんて呼ばれ方ばかりカッコよくて実力が不足していたんじゃないか、と言いたいのを我慢しているのだから、優しさ満点だ。
「レイは、いつ仲間になったの?」
「俺は、ハートリーが去ってからだ」
「なんで仲間になったの?」
「剣が使えそうにみえたんだろう、酒場で勧誘された。ハートリーのやり方は気に入らなかったし、騎士四家合議制の復活が長年の父の望みであり弟もその遺志を継いでいる。ずっと勝手をしてきたが、俺も力になりたいと思った。山賊になれば内情が知れると誘いにのった。そうしたら、山での暮らしが性に合ったってとこかな」
酒場で勧誘ですと。大人ってなんて安易なんだろう、呆れちゃう。
「オヤジは野郎どもを集めてなにがしたいの?」
「砦の奪還」
低くてもよく響く声で、端的に返った返事に、クリスティナは耳を疑った。
砦の奪還、普通に言うけど普通じゃない。オヤジを含めて野郎どもの頭はどうかしている。
「本気? そんなことできると思うの?」
「ハートリーにやれたんだ、俺達にだって出来るさ」
「……バカみたい。本当にバカみたい」
クリスティナは下を向いた。無意識のうちに握りつぶしたらしく、膝に置いた花の茎は折れてしまっている。これではお姉さんにあげられない。
「……クリスは城砦にいたんだって、おっかさんから聞いてる。大変だったろう」
「大変」でまとめないで欲しい。食べ物がなくてお腹が空いていたとか、いつどうなるか分からなくてずっと泣きそうだったとか、奥様の気持ちが追い詰められていくのを見ているだけの私の気持ちとか。
そんなひとつひとつを説明することはできないし、レイには関係のないことだ。
「すまない。話しすぎた」
レイが腰を上げ、クリスティナに手を差し出す。少し迷ったけれど、手を握って立たせてもらう。
お互いの顔を見つめるのは、探り合いじゃない。
ああ、ぴぃちゃんがとても心配して顎の下をすりすりしてくる。
「ううん、私が聞きたいって言ったの」
ぴぃちゃんがくすぐったくて、自然に笑えたのが良かった。
レイの心からほっとした様子を見てそう思う。
「お花、もう少し摘んでいい?」
「ああ、俺も手伝おう」
砦の奪還、砦の奪還。クリスティナは声に出さずに繰り返した。




