レイ・マードックの正体・2
花を摘むのを中断して、クリスティナとレイは並んで草地に座った。お話をちゃんと聞くためだ。
「まず名前は、レイ・マードックが本名だ。オヤジといる時は通称を使ってた、俺だけじゃなくて全員ね」
「捕まった時対策?」
クリスティナはひらめいた。レイが頷く。
「おっかさんが今いる場所を知ってる。でもまだ不定期で見張りがつくから、クリスが行くのは勧めない。手紙や物のやり取りならなんとでもなる」
「ジェシカ母さん元気?」
「元気元気。豪快なのも変わってない」
なら良かった。クリスティナは嬉しくなって、にこりとした。
「俺達は解散させられて皆散り散りになったが、連絡は取り合ってる。船に乗ってる奴もいれば荷貨の運搬を仕事にしていたり、まあ色々だ。クリス、オヤジのことは聞かないのか」
「どっちでもいい」
クリスティナの冷淡さに、レイが苦笑する。
「オヤジは鍛冶屋と組んで剣の改良をしてる。剣術を教えてもいる」
元山賊なのに、先生なんかしていいのだろうか。私が習うならオヤジじゃない先生がいい。
「ベンジー、あ、レイは?」
「俺はあちこちで働いて、実家に立ち寄ったところだ」
「ふうん」
実家という言葉が引っかかる。はうるちゃんは、ルウェリンさんちの狼。レイを子分だと言っていた。
「レイ、お名前にルウェリンってつく? レイ・マードック・ルウェリンとか」
レイの目が細くなる。
クリスティナは思いつきを順に口にした。
「実家に行ったのは、夜だった? 」
「どうして、そんなことを聞く。夜だったとして、なぜクリスがそれを知っている?」
「だって、私、ルウェリンさんちにお世話になってたもの。夜に騒がしくなったから、このお城も攻められて落ちるかもしれないと思って、早めに脱出したの。お姉さんもルウェリンさんちにいたから、一緒に来た」
敵に囲まれると抜け出すのは難しくなる。けれど最初から完璧な包囲網は敷けない、どこかに穴があるものだ。ぴぃちゃんとはうるちゃんが手伝ってくれれば大丈夫だと思った。
城を捨てて逃げるなら早い内だというのは経験上知っている。
レイが心底驚いているのが伝わった。そして頭を抱えている。
「話がのみ込めないが、クリスだけじゃなくてフレイヤさんまで俺の実家に? なんでまた」
「うん。ラング様のお嫁さんにって誰かが推薦したみたい。でもお姉さんには、その気はないの」
ここは強調しておかなくちゃ。そしてお姉さんが秘密諜報部員であることは絶対の秘密。
「ラング様はレイのなに?」
「俺は愚兄ラングは賢弟」
意味が分からない。
「もっと簡単にして」
「不出来な兄が俺、よく出来た弟がラング。だからラングが当主なんだ」
はうるちゃん、知ってたんだから先に教えて欲しかった。今度会ったら忘れずに文句を言おうと思う。
ひとつ聞くと新たな疑問が生まれる。
「どうしていいお家の息子が山賊なんかになったの?」
レイがすっと表情を改めた。つられてクリスティナも真面目な顔になる。
「俺が勝手に教えていいことかどうか分からないが、クリスなら理解できると思うから話す。オヤジが率いていたのはただの山賊じゃない。山賊を装った反ハートリー勢力なんだ」




