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山荘暮らしのはじまり

「これ、山小屋?」


 クリスティナの素直な感想は、フレイヤが飲み込んだのと同じもの。

 山小屋は謙遜が過ぎる、とても瀟洒な山荘。見た感じ納屋と厩も別にあり、使用人を置いていてもおかしくないほど立派だ。 


「お兄さんち、本当にここ?」


 器用にフレイヤの背中から滑り降りながらの失礼な発言もまた、大人は口に出せないながら同意見。



「そうだ」


 レイ・マードックはフレイヤを背負ったままで鍵を開け、クリスティナを先に通した。

 室内は綺麗に片付いていて、どこか女性的な雰囲気を感じさせる。


 ぐるっと室内を見回したクリスティナが「奥様とかいそう」ちらりとレイ・マードックを見上げる。



「父が祖母の為に建てたものを、俺がもらったんだ」


 なるほど、それで全体に優しい雰囲気なのだとフレイヤは納得した。ひとつひとつが大きすぎず住みやすそうな山荘だ。



 上品なつくりのソファーにフレイヤを降ろしたレイ・マードックはクリスティナの荷物を預かると、二階へ置きに行く。

後にはフレイヤとクリスティナが残った。



「ティナちゃん、来て」


 クリスティナはおずっと近寄るが、まだ距離がある。


「もっと」


 またひと足だけ。フレイヤは座ったまま両腕をいっぱいに伸ばしてクリスティナを抱き寄せた。


「そんな悲しそうにしていたら、私が泣きたくなるわ。ごめんね、お母さんの所へ行くのが遅れてしまうけど許してくれる?」



 クリスティナが「なんてことを言うのだ」と驚くのが、小さな体から伝わる。


「ティナちゃんが悪いんじゃない。私も悪くない。もちろん猟師さんも悪くないわ、お仕事だもの」


 弱々しく首を横に振るクリスティナは、まだ自分が許せないのだろう。



「ね、レイさん、カッコよくない?」


いたずらめかして言ってみた。


「へ?」

「この山荘も素敵よね」

「?」

「悪いことばっかりじゃないかも」


 クリスティナががばっと身を離した。信じられないと見つめてくるので、良からぬことを企むように笑ってみせる。



「こんな機会は滅多にないでしょう。私、山で暮らすのは初めてだからワクワクしてる。ティナちゃんは?」

「私は山賊の子だから、山は慣れてる」


 「山賊の子」は冗談ではなかったらしい。道理で山に詳しいわけだ。


「じゃあ、色々教えてくれる?」

「もちろん!」


意気込むところが可愛い。


「頼りにしちゃうわね」

「任せて!」

「お部屋にお花があると素敵だと思うの。後でレイさんと摘んできてくれると嬉しいわ」

「分かった。行ってくる」


 早速行こうとするクリスティナを慌てて止める。


「待って、待って。レイさんと一緒に行って」

「大丈夫、はうるちゃん呼ぶ」


 元気になったのは喜ばしいけれど、はうるちゃんって何かしら。犬?



「俺がどうかした?」


 二階からレイが降りてくる。フレイヤに浮かんだ疑問は瞬間に消えていった。


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