はうるちゃんの子分登場・1
「はうるちゃん、早くお姉さんを助けて!」
笑っている場合じゃない。クリスティナが詰め寄ると、狼はにんまりとする。
「もうじきに来るから、待ってろって。『えーんえーん』って泣く声を響かせたから、辿ってくるはずだ」
その「えーんえーん」は私の泣き真似。こんな時まではうるちゃんは感じが悪い、とクリスティナが睨むと。
ガサゴソと逆側の繁みをかき分けて現れたのは、昨日三人組を追い払ってくれた男の人だった。
「あ! はうるちゃんの手下!」
「手下じゃなくて子分な」
変なところで細かいんだから、はうるちゃん。子分が来てくれたなら、はうるちゃんはもういいや。
「ありがとう、はうるちゃん。またね!」
「おい、冷てえな。俺にもっと感謝していいぞ」
クリスティナはお礼もそこそこに繁みを飛び出した。
「人の気配がすると思ったら」
あなたでしたかと言いながら、すでにレイ・マードックは状況を察してフレイヤの側で膝をつき罠に手をかける。
「すみません。度々お手を煩わせてしまって」
恐縮するフレイヤに「これもめぐり合わせでしょうから」と、笑む。
駆け戻ったクリスティナがほっとするそんな笑い方だ。
男の人はクリスティナを目にして、はっと息を飲むように動きを止めた。
どうかしたのかとフレイヤが訝しむほどの驚き方だ。
「こんにちは! 今日も助けてくれてありがとう、親切なお兄さん。心配しないで、お姉さんは独身です。私はお姉さんの娘ではありません!」
誤解はさっさと解くに限る。こじらせるとこんがらがるのが男女の仲なんです。
というのは、ジェシカ母さんの受け売りだ。
一気に言い切ったクリスティナが可笑しかったらしい。フレイヤが吹き出したことで、場の空気が和む。
「もう、ティナちゃんったら。泣き跡のあるお顔でなんてことを言うのかしら。ちょっと待っててね、お顔を拭きましょう」
そんなの自分で拭ける。クリスティナは腰にぶら下げていた手巾で顔をごしごしした。
その間に、罠は外され動かせるようになったフレイヤの足を靴から抜き、男の人が丁寧な手つきで「ここは?」と触れたりひねったりする。
「うっ」
「痛みますね、すみません。これは?」
「少し痛いです」
「かなり、でしょう。顔色が悪い」
手の動きに合わせて、フレイヤが顔を強張らせたり肩を震わせる。
見ているクリスティナは心配のあまり拳を握りしめた。




