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旅のはじまり

 街道を行くより船を使うほうがより安全。フレイヤの判断にクリスティナは賛成した。だってなんにも分からないから、どれも「いいと思う!」だ。



「川に向かうと地図上は遠回りになるのよ。でも船は乗っていればいいから、体は楽よね。ティナちゃん船酔いは?」

「お船に乗ったことがないから、船酔いが分からない」

「実は私も船旅はしたことがないのよ」


「一緒ね」と笑い合うだけで、クリスティナは楽しい。



 はうるちゃんと離れたせいか、ぴぃちゃんものびのびした感じに「コロッコ アッアー」などと適当な歌を歌っている。


 私の見ていないところで、はうるちゃんに絡まれて相当我慢していたのかもしれないと、クリスティナは同情した。



「ルウェリン様はティナちゃんを追ってくるかしら。来るわね、きっと」


 乗った馬車は分かれ道で降りて「空のまま今日行けるところまで行って欲しい」と、フレイヤは先の代金まで貸し馬車屋に渡した。


「探しに来た人達は、うまく行けば馬車を追ってくれるはずよ。おじさんには別の場所で降りたと言ってもらうよう頼んだから」



 そんなお約束を聞いてくれるのかと思うクリスティナに、フレイヤは素敵な笑顔をする。


「大丈夫。『暴力的な夫から逃げて、子供と一緒に実家に戻るところだ。連れ戻されるとどんな仕打ちを受けるか分からない』と、涙ながらに打ち明けておいたから」

「……お姉さん、すごい」

「良かったわ。私、幸薄系の顔で」

「さちうすいけい?」


 ジェシカ母さんは、たくましいとみんなが言っていた。お姉さんはなんだろう。たくましいとはまた違う。



「船つき場のある川へ行くには山を越えなくてはいけないけど、そこまででもかなりの距離ね」


 ため息混じりのフレイヤに比べ、クリスティナは元気いっぱい。


「進めば着くから大丈夫!」









 数日かけて着いた少し大きな町。髪をヘアバンドをしているような編みこみにしたクリスティナはご機嫌。


 活気のある町で人が多い。この規模なら物を売っても足がつきにくいと考えたフレイヤは、クリスティナを人の良さそうな女店主のいた雑貨店に預けた。


 つくりが華奢で歩くのには不向きな靴を売り、山歩きもできそうな靴を買おうと思ったからだ。




 人の集まる町には、よからぬ輩も集まる。気を引き締め、雑貨屋に教えられた買取り屋を急ぎ足で目指す。


 嫌な予感は当たった。行く手を塞ぐように立つ男三人組には見覚えがある。


 今朝から二度ほど見かけて不自然に感じていたのだ。そう、つけられているというような。

 ティナちゃんを預けてきて良かったわ。フレイヤの肩に力が入った。


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