フレイヤの決断
クリスティナが明るく元気に出て行った後には、急な展開についていけないフレイヤが残された。
待って待って、これ難しくないかしら。
「落ち着こう」と頭を整理しようと思えば、自然に指はこめかみにいく。
私はルウェリン様が叙爵に相応しい人物かどうかを確かめに来ました。
若すぎる女の子がお好きなんじゃないかと不安視する向きがありましたが、ティナちゃんの証言によれば「ここに来てお会いしたのは一回だけ」で「お話ししたのは私が何を習いたいか」
ティナちゃんはいかにも子供子供していて、嘘で大人を翻弄するタイプには見えません。
以上をふまえまして、ルウェリン様は奥様を迎えるにあたり上級使用人をいちから育てようとしている。または、この家にはいない「侍女」女主人専用のお話相手兼信頼のおける管理職を持とうとしていると結論づけました。男爵家には通常侍女がいないとご存知なくて。
叔父には「ルウェリン様は人格的に問題はなく、城もよく整えられている」と報告するつもりでいる。私のここでの仕事は終わった。
フレイヤはこめかみを揉んだ。
考えてみれば、十歳の女の子がひとりで宿屋に泊まれるものか。保護者もなしに。
「私ったら、なんてことをしたの」
祈ったり願ったりしている場合じゃない。そんなの何の役にも立たない。フレイヤの視線は持ち出し袋にとまった。
都合の良いことに荷物までまとまってるじゃないの。
大きい荷物は叔父のところに届けてもらえばいい。爵位が欲しいんだから、それくらいするでしょう。
フレイヤは書き置きをするために、テーブルへと駆け寄った。
クリスティナは窓の前にたたずんでいた。ぴぃちゃんが「ここ、ここから出ます」と羽でつんつんした窓は、掛けがね錠の位置が高くクリスティナには届かない。
床に踏ん張って「ぐにににに」と唸るぴぃちゃんは、どうやら念力で開けようとしているらしい。
他のところから出よう、と喉元まで出かかっているけれど、ぴぃちゃんが「ダメそうです」と振り返るまでは待つつもり。
城のなかはまだざわついていても、ここには誰も来ない。はうるちゃんのおかげかな。
ついでに鍵も開けておいてくれたらよかったのに。さっきしっかりお別れを済ませたから、呼んでお願いするのもあれだし……でも呼んじゃったほうが早いかも。でもでもまた「ふっ」てされるの嫌。
クリスティナが頭を悩ませていると。
「間に合ってよかった、ティナちゃん。なにかお困り? あ、開かないのね」
声がして手が伸びた。
「お姉さん!!」
足音に気がつかなったのが不思議だけれど、フレイヤお姉さんだった。
肩に斜めがけにしているのは持ち出し袋。それってつまり。
窓から外の香りのする空気が一気に流れ込む。それはクリスティナをわくわくさせた。
「さあ、行きましょう」
フレイヤがクリスティナを「んんっ」と重そうに抱き上げた。




