表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/178

さようなら、オヤジ狼

 フレイヤお姉さんにお別れを言い、住所を教えてもらった。落ち着いたらお手紙を書くと約束する。


 クリスティナがひとり廊下に出ると、不思議なほど静かだった。


 廊下の突き当りにぴぃちゃんとはうるちゃんが並んでいる。

おしゃべりでもしていればいいのに、揃ってこちらを向いていて、ぴぃちゃんには少し疲れた感が。

これからお出かけするのに大丈夫かと思う。



 クリスティナがつま先立ちで足音を立てないよう小走りにすると、はうるちゃんが「この辺りにゃ誰も近寄らないようにしてあるから、コソコソしなくていいぜ」と簡単なことのように言う。


「はうるちゃん」

「改まるなって。いい、言わなくていい。俺との別れが辛いんだろ」

「……たぶんそうかもしれない、かな」


 いや、そうじゃなくて。にんまり心得顔をされたけれど、いつもながら、はうるちゃんの自信はどこから来るんだろう。

こうまで言い切られると否定しづらい。



「ぴぃにお役立ち情報は伝えておいたが、ぴぃの頭ではどこまで覚えられたか、ちょい心配ではあるな」


 これはまさにオヤジの手法。押しつけがましくお礼を言わせるあれ。


 例えぴぃちゃんが「クドい、クドいんですよ。はうるちゃん。ぴぃは同じ話を百回聞きました。ついでにお礼も百回以上言いました」と半眼でがっくりとしていても。


顎をしゃくる狼にはこう言うしかない。


「ありがとう、はうるちゃん」

「いいってことよ」



はうるちゃんにお願いしたいことがあった。


「はうるちゃん、フレイヤお姉さんをよろしくお願いします。守ってあげて」

「ん? おお」


 もうひと押ししておくか。クリスティナはとっておきの情報を伝えることにした。


「お姉さんね、あんなに若いのに旦那さんを亡くしてるんだって」



 お気の毒な境遇に同情して親身になることを期待した、クリスティナの策だ。はうるちゃんの金眼がこれまで見たなかで一番の輝きを放つ。ギラリ。


「未亡人か! たまんねぇな、ヤル気出るわ。任せとけ」


 繰り返し「たぎる」って言ってるみたいだけど、なんだろう「たぎる」って。

ぴぃちゃんに解説を求めると、「ケダモノ、ケダモノがここにいますよ」と恐ろしそうにしている。


 はうるちゃんは狼だから、元からケダモノなのに。ぴぃちゃんったら今さらですよ。



 そろそろ本当に行かないと。クリスティナは、はうるちゃんの前に膝をついた。


「親切にしてくれてありがとう、はうるちゃん。ここでのこと忘れない、はうるちゃんも私とぴぃちゃんのこと忘れないでね」


 クリスティナの肩に狼の頭が乗る。自然に首に腕を回した。


「今生の別れみたいな言い方はよせよ。会いたい時にはいつでも会える、だろ?」


 ルウェリンさんちには戻らないので、そんなことはない。それに、そこまで、はうるちゃんに会いたいかは謎。なんて思いが油断に繋がってしまった。



「ぎゃっ、舐めた! ヨダレはつけないでって言ってるのに! 」


 狼を押しのけて頬を必死で拭うクリスティナ。してやったりの狼。やれやれと首を振る白いカラス。


「はうるちゃんって、本当にオヤジみたい!」


狼は悪口にも余裕で「ふっ」とした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ