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行こう!ぴぃちゃん・1

 フレイヤが背にした扉の向こうで、さざなみのように騒ぎが広がっていく。


 私はここにいて大丈夫? クリスティナの頭に疑問が浮かんだ。

ご用のない時は私室から出てはいけません、はい出ません、とお城へ来てすぐにお約束をした。


 今、部屋に誰か様子を見に行ってでもしたら――不在のクリスティナは曲者の一員と疑われる状況だ。 


「ティナちゃん、心配しないで。騒ぎはこの階じゃないわ。本当に侵入者がいたとしても、騒ぎになったら逃げ出すはずよ」



 そうであって欲しいと願うことを、フレイヤが口にしているのを聞きながら、クリスティナは別のことを考えていた。


 春になったらフレイヤお姉さんは、帰ってしまう。そうしたら私はひとりぼっち、他にも人はたくさんいるけれど気分はひとりぼっち。


 ジェシカ母さんに会いたくなった。旅も慣れたことだし、急がないから歩けばいい。

お金はたくさんないけれど、アンディみたいに「働かせてください」と置いてもらって、少し貯めてから先を行ってもいい。


 持ち出し袋に入っているのは上等な服なので、町で売って代わりにちょっと汚い古着を買ったら、その差額も手元に残る。

うんうん、なんとかなりそう。



 帰り道もジェシカ母さんの居場所も知らない。でも安心してください、クリスティナにはぴぃちゃんがいますよ。


 ルウェリン城から出られる気がしなかったけど「騒ぎに乗じて逃げだす」なら……いけそう。ううん、いけるいける。ぴぃちゃんが頑張れば。


だってジェシカ母さんに会いたい。



 戻ってきて、ぴぃちゃん。それで廊下で待ってて。口のなかで唱えつつ、クリスティナは持ち出し袋の肩紐に親指をかけた。


「お姉さん、私、行くね」



 急になにを言い出すのかと、フレイヤの目が大きくなる。目鼻の位置が完璧だから、驚いた顔まで美人だ。


「行くって、ティナちゃんのお部屋に? それならもうしばらく様子を見てから、私がお部屋まで送るから、待ってて」

「違うのお姉さん。このお城を抜け出すの、家出。うんと、ここはお城だから城出」」

「!!」



 お姉さんと一緒にいたくても、どうせあと少しでさよならしなくちゃならない。

お見送りするのと置いていかれるのは同じように、寂しい。


「母さんもそろそろ私に会いたいと思うから、会いに行く」


 クリスティナが踵を上げ下げしながら行先を告げると、フレイヤは息を呑んだ。


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