オヤジ狼
「秘密ちょうほう部員」が分からなかったクリスティナは、昨夜フレイヤお姉さんが帰ってすぐ疑問を解消しようと試みた。
まずはぴぃちゃんを呼ぶ。説明のダンスが難しい。
「壁をなでる? しゅたっとカッコよく着地する? 飛んできたものをのけぞってよける?」
ぴぃちゃんは胸を張ってうんうんとするが、それがどうしたらお仕事になるのか、クリスティナには謎だ。
そうこうするうちに狼はうるちゃんが来てしまった。
「なんか、面白いことやってんな。俺も交ぜろ」
で合っていると思う。はうるちゃんの言うことは分かりやすいのだ、悔しいことに。
「秘密ちょうほう部員ってなにか分かる? はうるちゃん」
なんだそんなことも知らねえのか、という顔をするのが感じ悪い。
「ひと言で言やあ、他人を探る仕事だな。時によっちゃ命がけ」
「うそ」
「ほんと」
クリスティナがぽかん口で驚いたのがお気に召したらしく、狼も真似して口を開ける。
「だから、そういうの嫌いになるっていつも言ってる」
「へえへえ、素直じゃないね。俺のこと好きなくせに」
なんとか言ってぴぃちゃん。この狼もうやだ。
クリスティナが救いを求めても「ぴぃにできることはないので、悪しからず」と羽でお顔を隠すだけ。それ隠れてないからね。
お礼は絶対に言わないけど、寝つけない夜、はうるちゃんが足元を温めてくれているのは知っている。
心細くて寒い夜でも、冷えた足が温まれば眠れるってどうして分かったんだろう。
でもお礼は言わない。言えば毎日来て「温めてやる俺に感謝しろよ」と押しつけがましいに決まっている。それに夏はいらないですと断っても「遠慮するなって」とかなんとか来ちゃって、暑さを我慢することになるのもまたお決まりだ。
「お姉さんは自分が危ないお仕事をしているから、私の心配をしてくれたんだ」
「おお、あのべっぴんさんな」
と、狼がにやける。
「『俺好み』って言わなくていいから。キレイなお姉さんは全部『俺好み』なの知ってるからね」
「おーー、よく分かってるな」
狼がニンマリする顔は、オヤジとそっくり。ここにジェシカ母さんがいたら言いつけてやるのに。
クリスティナの冷めた視線など、狼は全く気にしない。
「クリスティナにはクリスティナの可愛さがあるから、あんまひがむなよ。またな」
ひがんでなんかないし余計なお世話です! と目を三角にした時には、狼の姿は消えていた。