フレイヤとティナ・3
まだか、もう来るかとフレイヤが廊下に顔出し引っ込めを繰り返していると、腿を高く上げる抜き足でクリスティナが廊下を進んで来た。
足音ひとつたてず、これならどこでも入り込めそうだ。
「到着! お姉さん、お待たせしました」
「ようこそ、なにもない部屋へ」
「お姉さんがいるから、なにもなくない」
うふふと笑うクリスティナの頭を撫でると、嬉しそうにする。
部屋の調度品はクリスティナの部屋より豪華でも、仮住まいなので生活感はない。
興味深そうにキョロキョロするクリスティナが「秘密の通路はどこにあるの?」と聞く。
「ええ? ないと思うわ。ああいうのは物語のなかだけでしょう。座らない? 」
納得しない表情ながらもクリスティナはそれ以上追求することはなく、ティーテーブルに向かい合って座る。卓上にあるのは、贈り物の石やどんぐり。
掃除にくるメイドが拭くのか、埃ひとつしていない。
ここでの生活などを話しながら、フレイヤは昨日から考えていたことを口にした。
「ティナちゃんは『引き込み』をいいもののように言っていたでしょう? 私の思う『引き込み』は悪者なんだけど違うかしら」
クリスティナが床に届かない足をぷらんとさせて、お行儀が悪いと思い出したのか動きを止める。
「でも、引き込みがいないと大勢が死んじゃう」
澄んだ瞳がフレイヤをとらえた。
「攻め手が大門から来るか、通用門から来るか分からないから、両方に警備を割かなくちゃいけないでしょう。陽動に引っ掛かれば、さらに酷いことになる。向こうが内部構造を知っていても、実際の使い方とズレていれば通るところ全部を荒らしてゆく」
フレイヤは息を詰めて聞き入った。
「侵入者だって死ぬのは嫌だしケガもしたくない。引き込み役がうまく手引きすれば、首尾よく目的が果たせて双方の被害が少なくて済む。狙われるお家は狙われる理由があるから、守るのは大変だと思う」
人ごとのようでもあり、まるで体験したことのようでもある。
「ティナちゃんは、強盗を悪いと思わないの? 引き込み役なんて捕まったら死罪になるかもしれないのよ。ティナちゃんにそんな風になって欲しくないのよ」
「大勢の人で堂々と襲って勝てばそのお城を好きにしてよくて、周りの人達も『そうなった』と受け入れる。それに比べたら強盗は欲しいものを手に入れたらずらかるだけで居座らないぶん、悪くないような気がする」
クリスティナが唇を素早く舐めて続ける。
「こんなこと、他で言ったりしない。お姉さんが秘密諜報部員だって教えてくれたからお話ししたの」
冗談のつもりが、とてつもない話を引き出してしまった。フレイヤはあどけないクリスティナの顔を見つめて、途方にくれた。




