フレイヤとティナ・2
クリスティナが「お姉さんに会えたら一緒に食べようと思っていた」と言って出したバターと砂糖多めのビスケットは少し日が経ってしまっていたけれど、フレイヤにはこの上ない美味に感じられた。
「おいしいわ」
「ねっ」
聞けば調理場の人と仲良くなり、生地が余ると適当な形で焼いてくれるようになったのだと、少し得意そうに教えてくれた。
フレイヤの食事は、朝の食事をする部屋、夕食を食べる部屋が決まっていて見る顔ぶれはいつも同じ。
不足なくもてなしてくれるけれど、お互いの領分は侵さない。デザートなどという余分なものはないから、久しぶりの甘さだ。
ふたりでしばしモグモグする。
「ティナちゃんは、ここの子なの?」
「ううん。しばらくここにいるけど後は分からない」
分かりきったことのように口にして、フレイヤに聞いてくる。
「お姉さんは、ここの人なの?」
「いいえ。旅行の途中で立ち寄って、春までここにいるの」
「春まで」と聞いた瞬間、とてもがっかりとした顔をさせてしまったので、気持ちを変えようと考えた。
「ここだけの話よ。『ラング・ルウェリン様のお嫁さんに、私はどうですか』って売り込みにきたの。――というのは表向き、実はラング様の身辺を探りにきた秘密諜報部員、それが私」
意味ありげに唇の前に人差し指を立てて、にっこりとする。
クリスティナの瞳が輝いた。前のめりにフレイヤを見つめる。
「私の本当はね、引き込みの修行なの」
「引き込み?」
「近い将来山賊は流行らないお仕事になるの。世の中が豊かになるこれからは、山賊じゃなくて強盗がいいって。一味には引き込み役が必要で、私にはその才能がありそうなの」
山賊、強盗、引き込み役? よい笑顔と内容の差が激しくて、なんと返していいのかと面食らうフレイヤに、クリスティナは人差し指を顔の前で左右に振る。
「みんなには言わないでね、お姉さん」
「言わないけど……え、え?」
消化しきれない夜になった。
まだまだ話し足りなくても、子供に睡眠は大切。続きはまた明日。
「明日は私がお姉さんのお部屋に行きたい」
「見つからずに来られるかしら」
「大丈夫」
自信たっぷりの様子に、そこまで言うならとフレイヤが折れた。
「明日待ってるわ。気をつけてきてね」




