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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第8話 暴走牛型装置とふたりの魔法少女

 突如現れた牛型の物質とそれを追いかける二人の少女。

 勢いよく迫ってくるその物質は止まることを知らず、まっすぐ走ってくる。

 牛型物質の特徴は胴体や顔は牛、足はキャタピラーでできている。牛戦車みたいに言ったほうがいいのかもしれない。

 その先には私たちふたりが待ち構える。問題ない、対処可能だ。


「手荒な行動はあまり得意ではないもので」

「しっかり戦ったら強いのに、よく言うよ」

「あら、わたしは貴女方に比べるとまだまだ未熟ですよ」

「どうだか」


 魔力を込めて、集中する。

 その間にアイは展開した眼で周囲を見渡していた。

 彼女は自身の魔力を利用することで使い魔や眼そのものを展開することで視野を広げることができる。過去に戦った時から行っている得意技だ。


「街の人たちは安全確保の為に離れていますね。手慣れています」

「了解、それなりに魔力は展開できそう」

「あぁ、あと。追いかけてる少女がふたり、なにやら牛に対して色々言ってますね。片方は涙目で口を大きく開けてます」

「叫ぶように色々言ってるのは私も聞こえた」


 改めて確認しても「止めてくれ」という声が響き渡っている。

 なんていうか、不慮の事故だったのだろう。自分にはどうしようもならないという悲痛な声だ。

 状況確認を行っている間にも牛型装置は迫ってくる。

 ぼんやりしていると私たちと衝突しそうだ。


「……壊します?」

「いや、いきなり壊すのも暴力的だし、止めるだけに留める」

「できるんですか?」

「やってみる」


 両方の腕を地面に置き、魔力を照射。結晶の魔法として地面から展開していく。


「コバルト・ヴェーク!」


 腕を通じて展開した魔力が結晶の道となって牛型の物質の足元に展開される。


「止まって!」


 牛型の物質が結晶の道に入ったのを確認して、一気に魔力を凝縮させる。

 そうして、キャタピラー周囲を固まらせ、牛型装置の動きを止めることに成功した。


「あ、あの技……!」

「えぇ、あれはあのアニメのやつですね」


 まだガタガタと揺れてはいるものの、私の魔力による拘束はきっちり機能している。

 これ以上動く様子はなさそうだ。

 装置を追いかけていたふたりが私の行動を見て反応していたのは気がかりだけれども、これで解決だろう。


「この技、随分久しぶりだったけど、問題なくて使えてほっとした」

「あまりやらないんですか? あれ」

「相手が無機物や魔物じゃないと危険だから、結晶使うタイプの魔法はなるべく使用を控えてるの。魔法少女が酷い怪我を負わせたなんてニュース、見たくはないでしょ?」

「なるほど、戦闘向けにしてはかなり取り扱い注意な魔法と」

「そういうこと」


 牛型装置に近づいて、近くにいた少女ふたりに話を聞いてみるべきか。

 そう思って訪ねようとする。


「あ、あの! さっきの技! 『魔法少女ひとみ・アイゼン』の24話のみらいが放った技だよね!?」

「ちょ、ちょっと、レガ?」

「まさか、ひとみ・アイゼンの技が生で見られるなんて……! 凄い! しかも、ばっちりあの『うーしーちゃん3号』を止めるなんて! 凄い凄い!」


 目を輝かせるのはレガと呼ばれた少女だった。

 奇術師のような、おしゃれな恰好をした彼女は、まるでマジックを見せられた子供のようにはしゃいでいる。


「レガ、まずは一旦うーしーちゃんを止めましょう。強制的に電源オフみたいな感じで」

「あっ、そうだった。切らなきゃ切らなきゃ……」


 はっと思い出したかのようにレガと呼ばれた少女が牛型の機械……うーしーちゃん? の機能を停止させた。

 これで、音を立てていた機械は無事に静かに鎮静化したみたいだ。

 テンションが高いレガにどう対応しようか悩む。

 そもそも私はひとみ・アイゼンに登場するみらいの元ネタというか本人だし、それを言葉にしてしまうのもなんだか夢を壊してしまいそうで心配だ。どうするべきか。

 色々悩んでいる私の隣では、微笑ましいものを見ているという表情でアイが笑っていた。


「すみません。相方のレガがはしゃいじゃって……」

「ううん、大丈夫。それにしても『魔法少女ひとみ・アイゼン』の24話かぁ、なかなか渋いところのシーンを覚えてるね」

「機械の形をした魔物を拘束する為に、ピシャーンって固めて、バッキーンってとどめを刺す! 王道の良さがあって好きなの!」

「なるほど……」


 私の正体を明かすかはともかくとして、こういう形で好きだといってくれる存在がいることは嬉しい。

 なんていうか、話してくれる表情が明るいのもほんわかした気持ちにさせられる。


「足止め用の技を使った後に、そのまま必殺の一撃に繋げるのは王道でいいよね。ひとみの技って貯める動作が結構多いから、そういうところでアニメ的にも映えがあったと思うんだ。あの技、他には35話とか42話で使われたりしてたけど、必殺コンボみたいになってたのが点数高いと思う」

「おぉ、通っぽい発言! レガちゃん、そこまで見てなかったかも!」

「アニメの楽しみ方は十人十色。そこまで気にしなくてもいいと思うよ。もちろん、じっくり見るのも楽しいけど」


 あえて客観的にアニメのことを話してみたら、つい饒舌になってしまった。

 後半の方はあの出来事を引きずってしまうのもあって、なかなか見返せないけれど、中盤まではよく振り返りで見ていることは多いから、語りたくなってしまう。


「なかなかオタクなんですねぇ、未来さん」

「……否定はしないよ?」

「ふふっ」


 楽しそうな表情で笑うアイ。私の表情変化を楽しんでいるのはよくわかる。


「……ん、未来?」

「もしかして、未来ってあの、みらいなのかな?」


 名前が出てきたことによって、驚くふたり。

 その仕草を見て、ハッとする。まずい、自分の名前をつい言葉にしてしまった。

 普段、私は名乗って活動することはない。色々聞かれたりするのが面倒だからだ。相手から察したりでもされない限りは基本的に名前を言葉にすることはない。

 とはいえ、今日はアイが名前を出してきた。ということは、名乗る必要が出てくる。どう言葉にするべきか。


「……えっと、私は久遠未来っていうんだ。愛染未来のことはよく知ってる、と思う」

「おぉ、未来っていう魔法少女の人! それだけで強そう……!」


 レガが目を輝かせる。

 ちょっとずるい答え方をしてしまったか。そう思っていたら、もうレガのパートナーの少女がゆったりと話してきた。


「よく知ってるっていう言葉には含みがありそうですね」

「まぁ、色々あってね」

「……なかなか悩みも多そうですね、それなら深く詮索はしませんよ」

「ありがとう」

「まったく、未来さんは素直じゃないですねぇ」


 アイは全てわかっているからこそ、皮肉っぽく笑っていた。


「うーん、大先輩っぽい雰囲気だし、強そう! 本当にうーしーちゃん止めてくれてありがとう!」

「その大先輩っぽい感じの魔法少女にレガは迷惑かけそうだったんですが?」

「うっ、スミマセン……」


 とりあえず私の印象は悪くないものなのかもしれない。

 大先輩っぽいというのはきっと嘘じゃない。だから、ちょっと内心照れてしまう。

 ただ、照れたりするのはいいけれども、状況は説明してもらった方がいいだろう。少なくともあの牛型装置うーしーちゃん3号という機械について尋ねないといけない。


「ところで、あの『うーしーちゃん3号』ってどんなもの?」

「よくぞ聞いてくれました! うーしーちゃん3号は!」

「いつでもミルクティーを用意できる素敵な牛型マシンです。あと、手品道具も格納可能ですね」

「全部言われた―!?」


 なるほど、大きめな装置の中にはミルクティーが入っているのか。

 なかなか冷えてそうで美味しいのかもしれない。

 そして、もう一つ気になる点が出てきた。手品……?


「手品ってどういうことするの?」

「定番の切れてるものをくっけたりするのとか、カードマジックとか! そういうの!」

「目の錯覚を使うやつとか、ありますね。私も好きですアレ」

「ふっふっふ、手品やトリックは奥深いもの! ま、レガちゃんは得意分野なんだけどね」

「こういう人なんです、レガは」

「なにそれ、変な人ですって紹介はしないで!」

「はいはい」


 ふたりとも仲良しみたいだ。

 適度にレスポンスのいい会話を繰り広げているのもあって愉快な雰囲気がある。


「そういえば、未来さん以外の自己紹介がまだでしたね。わたしはオルクス・アイ。そうですねぇ……まぁ、こちらにいる未来さんの助手的な魔法少女だと思っていただけたらいいです」

花薄(はなすすき)レガ! 奇術師兼魔法少女! レガちゃんはみんなの笑顔の為に頑張ってるよ!」

花椒(かしょう)クミです。まぁ、レガの幼馴染の魔法少女でアシスタントですね」


 それぞれ挨拶を終えたのち、改めて話題はうーしーちゃん3号に戻っていった。


「でも、なんでうーしーちゃんマシントラブル起こったのかなぁ、普段は普通だったのに」

「怪しいの取り付けてたのが悪いと思いますがね」

「怪しいのってなんのこと?」


 クミに対して疑問を投げかけたら、すぐに答えてくれた。


「魔力増幅装置です」

「魔法使いとかがよく使うやつですね?」

「レガちゃんのマジカルステッキにも組み込まれてるよ!」


 魔力増幅装置。それは魔法使いや魔法少女からすると比較的一般的な装置だったりする。

 家電製品とは別方向の進化を遂げているマジックアイテムを動かすのによく使われたりする。

 正規品ならば、基本的に不備が発生することはないとは思うのだけれども、なにかあったのだろうか。


「もしかして、変なところで買ったとか……」

「違うよ、レガちゃんの家に試供品で届いたの」

「試供品?」

「はい、一度試してほしいという紙を添えられたもので……こんな感じのやつですね」


 試供品の紙を確認する。


『魔力増幅装置のサンプルを送らせていただきました。』

『普段のものよりも出力等高い数字になっているはずです。』

『ぜひ、使ってみて感想を送っていただけたらと思います。』

『廃棄しても構いません。自由に使ってください。』

『連絡先は……』


 連絡先は薄れて見えなくなっていた。

 魔力によって細工された経歴を感じる。


「連絡は魔力によるテレパシーしか対応してないみたいなんです」

「だから、レガちゃんとクミしか伝えられないんだ」


 なるほど、いかにも怪しい。


「それを使うのはかなり危機管理が危ういのでは?」

「ほら、レガ。反省するべきですね?」

「う、返す言葉もありません」

「とはいえ、こうやって怪しい現象が発生している以上、なにか事件に繋がる可能性があるよね。調べないと」

「ふふっ、そう言われると思いまして、予めちゃっかり回収しておきました」


 そう言いながら、手元にアイは魔力増幅装置を取り出していた。


「行動がはやい」

「アニメ談議に盛り上がってる時に、色々注目して見つめてまして。たまたま取り出しやすい位置にあったので取り除きました」


 そう言いながら、私に魔力増幅装置を手渡すアイ。

 こうして手に持っているのならば、調査はしやすい。

 魔力をぶつけて、異常があるかを確認する。そうしているとなにやら怪しい反応に気が付いた。


「魔物の力を感じる」

「えっ、魔物!?」

「この中に魔物が入ってるってことですか?」

「ううん、この装置に関してはそういうわけじゃないみたいだけど……悪い魔力が込められてるのは感じられた。だから、正規のマジックアイテムに対して使うと今回みたいな支障、不具合を発生させると思う」


 そうなると新しい疑問が発生する。

 意図的に入れられた魔物の力。それを組み込んでいるのはだれか、という問題だ。


「変ですねぇ、知識を持つ魔物というのは今時見かけなくなったというのに」

「それは事実なの?」

「えぇ、まぁ。少なくともわたしが観測した中ではいなかったかと」


 元々知識を持つ魔物として存在していたアイが言うならば、そういうことなのだろう。

 つまり、悪意を持ってなにか悪事を働いている人がいるということになる。


「とりあえず、この魔力増幅装置は預かっておいていいかな。使い続けると大怪我に繋がりそうだし」

「大丈夫です。遠慮しないで持っていってください。レガもいいですよね」

「レガちゃんも平気! ケガさせたりするのはよくないからね! 悪いことを企んでる人がいるなら、懲らしめないとだし!」

「ということで、どうぞ」

「ありがとう。なにか進展があったら伝えるね。これ、連絡先」


 私の普段使っている魔法端末の連絡先を送る。

 ちなみに名称はしっかりと『久遠未来』にしてある。


「ありがとう! レガちゃん、そしてクミちゃんの連絡先もどうぞ!」


 魔法端末を利用してふたりの連絡先を確保する。

 これでなにかトラブルとかがあった時に相談できるだろう。


「よ、よーし! じゃあ、準備ができ次第あの怪しい人に連絡送ってみる!」

「それはダメですよ、レガ。危険に足を踏み入れるのはよくないです」

「う、うぅ、だってぇ」

「……ひとりで先走って行動するよりも、私は一緒に安全を確保した方がいいと思うよ」


 静かにそう言葉にする。

 離れ離れになってしまうのは辛いことだ。極力危ない橋は渡らないでほしい。


「わ、わかった! じゃあまず、クミと調査する! 離れないように!」

「……それなら安全第一で、調べたりしますね」

「ありがとう、助かるよ」

「事件を起こすことなく解決できたお礼みたいなものです。あっ、そうです」


 移動してうーしーちゃん3号を再起動させるクミ。

 足元の結晶は時間によって自然消滅させてあるので、動きに支障をきたすことはないだろう。


「あれ、動くの?」

「予備電源的な奴です。普段使ってるやつなら問題ないので」


 悪い装置が取り除かれたうーしーちゃんはまるで生きているかのように飛び跳ね、起動に成功した。


「よしよし、いい子ですね。うーしーちゃん」


 うーしーちゃんの頭を撫でて、コップを用意するクミ。

 内蔵されている装置を利用してミルクティーを注いでいく。

 流石に牛の乳……みたいに再現されているわけではないみたいだ。身体の横にある扉を開いてその中にあるドリンクバー的な装置から飲み物を提供する形になっている。


「はい、応援のミルクティーです」

「自慢の一品! マジックショーとかの休憩時間に販売してたりするんだっ」

「こういった気分転換も大切だと思いますので。味はこだわってますので、美味しいと思いますよ」

「うん、ありがたく貰うね」

「はい、適度に休憩しながら探っていきましょう」


 そっと口に運び、しっかり味わう。

 ほどよく甘いミルクの味わいが心地よい。

 こうした日常を守るためにも、しっかりと調査を続けていこう。

 新しく手に入れた手がかりはひとつ。

 それでも、なにか怪しいものを探すきっかけに繋がっていたと思う。

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