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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第6話 同居生活

 オルクス・アイに案内されて到着した彼女の住居。

 そこの景色には見覚えがあった。


「……私や瞳が暮らしていた場所に住居を置くなんて、随分大胆なことするね?」


 花吹雪町の森林地区付近。人がそこまで寄り付かないような場所。

 そこはかつて私や瞳が住んでいた家があった場所だ。今はもう家はなくなっている。


「繋がりは大切ですからね」

「……瞳含めて、みんないなくなっちゃったからね、ここにいる家の人は」

「そうですね、世界を救う為に身を殉じた方々でした」


 オルクス・アイが静かに下を向く。

 瞳含めた、愛染家の人々は『破滅の日』を阻止する為に行動した。この家で暮らしていた家族と呼べる人たちは、世界の滅亡を阻止する為に去ってしまった。その影響で家を構成していた魔力は消失。家という存在も消えてしまったのだ。

 みんないなくなって、残ったのは私だけ。その事実を受け止めるのが怖くて、この場所から離れていた。


「今のわたしの家はどうでしょうか。気が休まる空間になります?」

「どうだろう、わからないけど……」


 ぼんやりとオルクス・アイの住居を見つめる。

 それなりの広さがある家になっている。二階建て、部屋の大きさもそれなり。ひとりで暮らすには広い空間。

 そして、雰囲気は不思議なことにかつて暮らしていた家に似ていると感じられた。家具とかそういう話ではない。感覚として、似ていた。


「身を落ち着けるのにはちょうどいいのかも」

「それはよかったです」


 微笑みながらそう言葉にする彼女。

 外で立ち話をし続けるのもよくないと思い、そのまま家に入ることにした。






 家の内装はかなりシンプルなものになっていた。

 それなりの大きさのお風呂、律儀にテレビがある大部屋。キッチン他色々。

 個人的には電化製品も多かったのが意外だった。


「魔法で動かすこともできたんじゃないの?」

「魔法道具だけではなく家電も使えた方が色々と便利なんですよ。アニメ見るのとか」

「……それは大切かも」


 魔法で家を建設するのは魔法を扱う存在からすれば容易なことである。だけれども、すべてが賄えるかといえばそんなことはない。

 冷蔵庫とかそういうのはなんとかなるものの、アニメをリアルタイムで見るみたいなことをする場合、テレビがあった方が色々と融通が利くのだ。テレビ放送されているものを、魔法で感知するというのは手間だし。


「アニメ、好きなんですか?」

「明るい物語のやつが好き。夢と希望に満ち溢れた魔法少女ものとか」

「結構拘りありそうですねぇ」

「シリアスすぎると、昔のことを思い出しちゃうからね」


 瞳が去ってからの十年間、娯楽抜きで生きていたわけではない。それなりに気持ちが持ち上がっている時なんかは映画を見たりとかアニメを確認していたことはあった。

 その中で好きなジャンルが明るい魔法少女ものだった、という部分が大きい。元気で、前向きな魔法少女を見つめていると、それだけで元気が貰えるからだ。


「電気使える環境をここに用意するのはなかなか大変だったんじゃない?」

「いい感じの業者さんを見極めてさっくりやってもらいました」

「見極めるって……」

「ふふっ、人の内面というものはなかなか目に現れるものなのですよ」


 そう豪語する彼女。自身に満ち溢れた態度でそう言っているということはきっとそういうことなのだろう。

 どういうコミュニケーションをとっていたかとか、少し気になったけれど、気にしないでおく。


「あと、疲れるから魔法だけでの生活を避けたかったというのは大きいですね。ひとりで魔法でがちゃがちゃするのは面倒ですし」

「魔法は慣れてない?」

「そうですね、魔法少女としての日用魔法をいくつか覚えたりしようとすると眠くなりますし、だったら日家電でいいかなと。お金は余裕ありますし」

「まぁ、その方が楽だよね」


 魔法少女の力を使えば、お湯を沸かしたりとかそういったことは簡単にできる。

 ……とはいえ、魔力を使う行為なことには間違いないので、疲労も溜まったりするものだ。そういったことを考えると日家電を利用するのは合理的と言える。


「瞳さんと一緒にいた時は全部魔法だったんですか?」

「そうだったね。地に足が付かないように、全部魔法で管理してた」

「大変そうですね」

「協力して生活してたよ。それなりに楽しかったかな」


 魔法のみの生活も今思い返すと不自由な部分もあったけれども、それ含めて楽しい思い出になっていた。

 瞳と手分けしながら洗濯とかしていたのは今でも思い出せる。

 ちょっとした外れの道を歩いて汚れた洋服を洗ったりしていた時はふたりで笑っていたりしていた。

 洗濯物を干すときなんかも、どこか日常の暖かさを感じていた。


「昔懐かしむ表情ですね」

「場所が同じなら、ちょっとはセンチメンタルにはなるよ」

「見てみたかったですね、未来さんと瞳さんの日常」


 静かに言葉にする彼女。純粋な好奇心なのだろうか。


「一応、参考資料としてはひとみ・アイゼンがあるけど……」

「あれも悪くはないですし、きっと現実にあったことを参考にしているとはいえ、やはり見たいのは未来さんの姿なので」

「そこまで私に興味がある?」

「パートナーですので」

「私はまだ協力者のつもりだけど……」

「もっと素直になってもいいと思いますよ?」


 私に興味を持ってもらえるのはありがたいことだとは思う。

 とはいえ、まだ、感覚的にパートナーというには少し遠いような感覚もある。少し距離感を掴めていない。なんだか申し訳ない。

 ふと、窓から空を見つめると、日が沈んでいた。もう夜だ。


「夕食は大丈夫ですよね」

「うん、一応」


 会場を出た後、考え事をしていた時に、ささっと済ましてある。

 家で食べる必要はいまのところない。

 オルクス・アイも私と同じように夕食は食べてあったみたいだ。


「ではお風呂にでも入ります?」

「誘ってる?」

「えぇ、まぁ、裸の付き合い的なやつかもしれませんね?」


 裸の付き合い。つまり一緒に入浴したいということか。

 少し考えて、頷く。


「別々に入るのも手間だと思うし、入ろう」

「あら、てっきり嫌だというものかと」

「……別にそこまで嫌ってるわけじゃないからね。あくまで敵だっただけだし」

「そうですか」


 お風呂前の更衣部屋でさっと衣類を折りたたみ、入浴の準備を済ませる。

 お風呂の構造は比較的シンプルだ。

 シャワーがあって湯船がある。ふたりくらいが一緒に入れるくらいの大きさだ。

 とりあえず、順序よく私たちは身体を洗って湯船につかることにした。




 お湯の暖かさは快適。

 静かにのんびりとお風呂に入るのは悪くない時間だ。

 ここ数年、外を色々動き回っていた時は、シャワーで時々済ましたりすることもあったもののお風呂に入れる時の方が気持ちが休まることも多かった。

 湯船に浸かっている時の方が、不思議と心が安らぐのだ。


「ふむ……」


 私がリラックスしている最中、目の前のオルクス・アイは私の身体をじっと見つめていた。

 一部分だけ見るというのではなく、まんべんなく見つめているという様子だ。


「不審者に思われるよ? 外でそんなことしたりしたら」

「お風呂場でそんなことはしませんよ、普通は」

「……私にはすると?」

「まぁ、未来さんだったら」

「そんなに興味を惹くものある?」

「そうですねぇ」


 微笑んだのち、彼女が言う。


「未来さんが10年前と同じ容姿なことを改めて実感します」

「……私は魔法少女だからね」

「厳密には、魔法少女でも特別な方、といった方がいいでしょうか」

「うん、否定しない」


 私の容姿はほぼ10年前と変わっていない。厳密には片方の目を髪で隠しているけれども、それくらいしか変化はない。身長などは変わらないままだ。

 通常の魔法少女はある程度、一定の成長があるものだとされている。身長が伸びたりするのも普通だ。アニメ制作に協力している魔法少女のかがみだって、昔に比べると大人びている。

 しかし、私は違う。大人の容姿になることもないし、成長することもない。魔法少女でも、私は例外の存在なのだから。


「『魔法』で構成された『少女』だから『魔法少女』ということですよね」

「そう、私は魔法少女を導く為に顕現した存在。そして、魔力や魔法で身体を形成している『魔法少女』だから」


 ある意味で精霊やマスコットに近い存在なのかもしれない。

 魔法少女を導く為に顕現した存在。魔法生物。そういった部類。

 そうした事情もあり、私は本来の意味では魔法少女としては不適切なのかもしれない。


「……導く必要がなくなったマスコットキャラクターは妖精の国とかに帰るのが一般的ですよね」

「私には、帰る場所がないよ」

「それは寂しいですね」

「だから、こうして生きてるの。……色々考えながらね」


 元々は瞳を助ける為に私はいた。だけれども、今は離れ離れだ。

 そんな私は、いまどうやって生きていくべきなのだろうか。

 思い浮かぶことは多く、ひとつひとつ考えていくとなかなかセンチメンタルな気持ちに陥ってしまう。


「……やっぱり似た者同士だと思うんです」

「どういう根拠?」

「『破滅の日の導き手』という立場から離れた私、そして『魔法少女の導き手』ではなくなってしまった未来さん」

「立場は似てるかもね」

「それに、なんだかんだで同じ立場の魔法少女です、面白いですよね」

「親近感はあるよ、なんだかんだで」

「それはよかったです」


 笑顔で話すオルクス・アイ。

 彼女の性格はまだつかめないけれども、少なくとも話しやすい相手だとは感じてきた。

 これなら、一緒にいくつか行動しても問題なさそうだ。


「まぁ、違う部分もいくつかありますけれど」

「どういうところ?」

「体つき、ですね」


 そう言いながら、視線を身体に誘導させる彼女。

 魔法少女にしては大人びた風貌の肢体が眼に映る。


「……すらっとしてる方が魔法少女っぽいし」

「あら、羨ましいですか?」

「別に、そうは思ってないからっ」


 たまに色々成長したらどうなっていたのかは考えたことはあった。

 だけれども、オルクス・アイのように目立っていたら魔法少女らしさが損なわれてしまいそうだから、気にしていない。

 いや、少しあった方がいいかもしれないとか思ったことはあるけれども。


「なかなかかわいげがありますね?」

「人の顔を見て、怪しげに笑って……怪しまれるよ?」

「大丈夫です、未来さんはいい方ですので」


 そう言葉にする彼女の表情はやはり明るいものになっていた。

 彼女に会話の主導権を握られたらからかわれる可能性も高くなるだろう。ほどほどに気を付けておこう。


「明日は、花吹雪町で色々調査するから、よろしくね」

「即行動するのは流石ですね。真面目さを感じます」

「サボるつもりだった……というのはないよね」

「ほどほどに休憩を取りながら頑張りたいなぁとは思ってますよ?」

「少しいい加減に聞こえるけど……」

「切り詰めすぎるとよくないですからね、何事も」


 後日の予定を決めたのち、私たちはお風呂をあがった。

 なかなかの湯加減と、雑談で心がすっきりしたように思えた。

 身体を拭き、寝間着に着替えて、眠る準備を行う。

 何気ない日常がどこか懐かしい。


「明日は素敵な日になるといいですね」

「誰かが傷つくようなことにならなければいいな」

「後ろ向きですね?」

「動けるなら、私が動いて助けたいからね」


 消灯して、ベッドで横になる。

 寝室のベッドは律儀にふたつ用意されていて、その寝心地はなかなかに悪いものではなかった。

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