エピローグ 魔法少女の瞳に映る未来
アニメ放送日の夕方前。
私とアイ、そしてクオリアは放送される瞬間を楽しみに待っていた。
これまでに私たちが経験してきた実話を元に作られたアニメーション。ちょっと気恥ずかしい気持ちもあるけれど、みんなで見つめたいと思っていたのだ。
家にある家電用のテレビからは様々な情報番組が流れている。
夕方の放送なのもあって、日常を映し出しているようなものも多い。
「こうして楽しみに待ってるのは、私たちだけじゃないみたいですよ」
そう言って魔法端末を見せるアイ。
画面を見つめると、シャンテとカランドのふたりが宣伝していたり、リアタイ視聴する! と宣言しているレガとクミのアカウントが見つかった。
みんな元気そうだ。
「こうしてアニメを実際の時間に見る経験は初めてだから楽しみだ」
そわそわした様子で落ち着きのないクオリアは、期待の表情を浮かべる。
当然、私も例外ではない。
「私が歩んだ軌跡……どんな風に描写されていくのかな」
アニメが放送されるのにはまだ時間があるのに、手元のメモ用ノートが手放せない。
今日という日を迎えるまで、そしてこれからもきっと書き続ける私が生きた証。そして、私が私らしく行動したことを纏めた文章。
ここに書かれた内容が、アニメとして放送されていくのだ。
「それにしても、ここまで画面に注視する未来も、なかなか斬新です」
「実は画面以外にも気にしてるものはあるけどね」
「あら、そうなのですか? 視線の位置は時間を見つめてますが……」
「……間に合ってほしいなって思ってるの」
「なにがですか?」
「ちょっとした願いが叶ってほしいなって」
今回の『破滅の日』を終息させた時に、瞳と交わした言葉を思い出す。
会える日を作るという約束、そして一緒にアニメを見るということ。
そのどちらも叶ってほしい。
私は瞳の背中を押した。あとは彼女を待つだけだ。
デジタル文字が少しずつ、アニメ放送時間に近づいていく。
このままだとやってこれないかもしれない。間に合わない可能性もある。
アニメは楽しみだ。
だけれども、彼女のことを考えると気になってしまう。
そんな私を見守るように、アイは微笑む。
「未来」
そっと私の肩に手を添えて、彼女が言葉にする。
「誰か、来たみたいですよ」
まるでわかっていたかのようなタイミング。
トントンと扉を叩く音が響いた。
「迎えに行ってあげてください」
「ありがとう、アイ」
「ふふっ、例には及びませんよ」
立ち上がり、家の玄関の扉まで向かう。
緊張する。
こうして、改めて日常という場面で対面する瞬間はあまりにも久しぶりだ。
10年も立っている。魔法少女の姿は変わらなくても、お互いに内面は変わってる部分はあるかもしれない。
家で出迎える。それだけなのに、とても緊張してしまう。
もう一度トントン、と音が鳴り響く。
控え目な音。相手も緊張しているのが伝わってくる。
それなら、扉を開けるのは私の方がいいだろう。
そっと扉に手を伸ばし、動かしていく。
扉の向こうにいたのは、かつてのパートナー。そして世界を救った魔法少女の愛染瞳その人だった。
「え、えっと、その……」
装いは普通の少女らしい衣装だ。
白いブラウスに赤いミニスカート。日常を感じさせる爽やかな服装。
魔法少女として責務を果たしていた時の姿とは違う、過去に私と一緒にいた時期と一緒の姿をしていた。
「瞳……」
いざ、こういう場面で会ってみると言葉が思い浮かばない。
白い世界で出会った時はすらすら話せたのに、今は何を言えばいいのかわからない。頭が真っ白だ。
ぎこちない沈黙が続く。
このままではいけない。そう思い、私は決心して言葉にした。
「お久しぶり! 元気にしてた?」
爽やかな声で、そう言葉にしてみる。
困惑した表情を一瞬浮かべた瞳は、すぐに表情を変え笑い出した。
「少し前にあったっぷりだよ、未来」
「い、いや、ね? 怪我とかしてたら心配だなーって思って」
「平気平気、元気だよ、私は」
一見すると他愛ない話。
ただ、漠然とした話をしているというのも自覚していた。
……普段通りの言葉が思い浮かばない!
どうしよう、どうしよう。
このままじゃ、ぎこちないままだ。
そう思っていた時、後ろから声がやってきた。
「未来、いつも通りにすればいいじゃないですか」
「無理に取り繕わなくていい。自然体で話せば、普段通りになるはずだ」
アイとクオリアのふたりが玄関まで顔を覗かせてきたのだ。
まごついていて見ていられなかったのかもしれない。
「え、えっと……ふたりは?」
「今、未来のパートナーをしているオルクス・アイです」
「クオリア。最近、この家に滞在している」
「今のパートナーに、お友達……!? 未来に友達ができるなんて!」
目を輝かせる瞳。嬉しそうな表情に逆に私が困惑してしまう。
「……私が友達できるの、そんなにビックリ?」
「うん、だって未来ってクール系というか人を避けたりしてそうだなーって思ってたから」
「扱いが酷い」
ある程度、事実ではあったからこそ否定しきれない。
とはいえ、瞳の元気がいつも通りに戻っていっているのに安心感を覚えた。
お互いにぎこちないままだとやっぱりもどかしいところは強かったのだ。
「でも、こうして今パートナーさんが増えたりしてるって聞けてよかった! 私は愛染瞳! 今日はある目的があってやってきた!」
「アニメを見る予定なんですよね?」
「な、なんでそれを!?」
「未来がそわそわしてましたので、なんとなく?」
「……未来、嘘とかつけないの変わらないね?」
「ポーカーフェイスじゃないからね、私」
呆れたような、懐かしむような表情を浮かべる瞳に対して私も苦笑する。
どんな月日、年月が経っていたとしても私という存在の本質が変わることはないのだ。
「ところで、そろそろ時間的に始まりそうだが……見に行かないのか?」
クオリアが指摘してきたので、時間を確認する。
残り3分ほど。もうアニメが放送される。
「やば、急がないと」
「みんなでテレビに集まらないとですね」
「あぁ、私も行く!」
「着いてきて、案内する!」
それぞれが焦りながらもテレビがある部屋まで移動していく。
人数分しっかり座れるだけのスペースがあるので、みんなで座っていく。
「時間は……よし、間に合った」
「これで見れなかったら大変だったな……」
「えぇ、クオリアのお陰です」
「未来のお話……すっごく気になるな」
やがて、番組が切り替わり、ついにアニメが始まる。
『魔法少女みらい・アイゼン』の1話。
『みらい。私は、行くね』
『きっと、これで、この世界の未来は幸せになるから』
物語はひとみ・アイゼンの結末から始まる。
瞳が飛び去り、『破滅の日』を終息させた瞬間の出来事を回想するみらいが目を覚ます。
そして、静かに呟くところから始まる。
『ひとみ。私は今も……元気だよ』
『幸せになれてるかは、まだわからないけれど……』
私が実際に悩んでいた瞬間を思い出す。
花吹雪町に来る前は悩んでいた。
幸せについて考えることもなかっただろうし、友人が増えることもあの時は思いもしなかった。
静かなプロローグから始まる物語は、私が花吹雪町に行くことによって変化を迎えた。
アニメ内では実際の私が歩んだ道のりとしてあったアニメ制作のことは省かれているので、イヴィルの事件から描かれることになる。
放浪していたみらいに対してひとつの連絡が届く。
それは、かつて過ごしていた町に怪しい影があるという内容だ。
『今の私にできることがあるかはわからないけれど……やってみる』
その後、私はアイに出会って、様々な日常を生きながら前向きになっていく。
アニメのみらいも出会いを重ねていって、成長していくのだろう。
その後の1話は、アイと出会い、レガとクミと遭遇する前まで話が進んでいった。
そして、エンディングのタイミングでは『みらい・アイゼン』のオープニングである【未来の明日】が流れる。
そこにはそれぞれ私が出会った魔法少女を元ネタとしたみんなの姿が賑やかに映っていた。
色鮮やかなオープニングは、アニメを見ているみんなも笑顔になっていた。
私もなんだか懐かしい気持ちになりながらも、新しい物語に期待が膨らんでいた。
アニメの1話を見終わり、次回予告を終えた後の部屋。
私たちは感想戦に移っていた。
「私を元ネタとしたキャラクター、結構点数高いですね。ミステリアスなのが私らしいです」
「……アイってそこまでミステリアスかな? どっちかというと日常好きな変わり者って印象だけど」
「あら、初対面はあんな感じでしたよ?」
「アイは結構ぐいぐい迫っていたのか?」
「はい、未来さんは結構どんよりしていましたので」
「それを今みたいに導いたのって凄いよね……あっ、チュロスも食べてたの?」
「食べてましたよ。その時の未来の表情は今よりさらにクールな感じで面白かったです」
「いいなぁ、クール系が増してる未来、見てみたかった」
「そ、そこまで静かだったかな私」
「ふふっ、人は変わるものですよ。未来」
「なんだか言いくるめられた気がする……」
とはいえ、みんなのお陰で変わることができたのは事実だ。
何気ない日常について、語り合うのだってかつての私はしなかっただろう。
「これから先も、私と離れた後の未来のことを知れる機会があるなんて、楽しみっ! 今度も一緒にアニメ見ていいかな?」
「もちろん構いませんよ。みんなで未来の成長を見守りましょう」
「あぁ、知らないことを知れるというのは楽しいからな」
「いつでも待ってるよ、瞳」
「うんっ!」
みんなが笑顔になるお話。
特別なことをしているわけではない、日常の物語だって大切なものだと信じている。
美味しいものをみんなで食べる。
協力して困難に立ち向かう。
時に不安を感じても、支え合う。
私たちは万能じゃないし、暗い気持ちにだってなるだろう。
それでも、生きていればきっと幸せな明日を見つけることができるはず。
「瞳」
「どうしたの、未来」
「これだけは伝えたかったんだ」
まっすぐ彼女の目を見て、私なりに気持ちを込めて言葉にする。
「おかえりなさい」
この世界に姿を現すことができたこと。
そして、もう一度会えたこと。
その奇跡をめいいっぱい噛みしめながら、口を動かす。
そんな私の言葉に対して、瞳は優しい笑顔を浮かべながら、返事をした。
「……ただいま!」
昔の私たちとは違って立場は変わっているし、いつでも一緒にいられるわけでもない。
それでも、紡いだ縁は変わらない。
過ごしてきた日常も、これから続けていく日々も全てが私たちを支える糧になる。
だからこそ、このひとつひとつの幸せを大切にしよう。
「さて、積もる話もありますし、夕食、皆さんでいただきましょうか」
「いいの? 私、未来の話いっぱい聞きたい!」
「当然たくさん話すつもりだ。思い出話にしてほしいからな」
ふと、瞳を見送った時の言葉が頭を過る。
私のかけがえのない……その先の言葉が昔は思い出せなかった。
でも、今は思い出せる。
かけがえのない『友達』だ。そう言っていた。
なんで思い出せなかったのか。
きっと、私にはもう友達ができないと思っていたからだろう。
心を閉じて、静かに生きようとしていた。
幸せなんてないと思っていた。
けど、違った。
私の心を変えてくれる『友達』と出会えた。
かけがえのないと言える存在だっていっぱいになった。
私はもう、ひとりじゃない。
「ねぇ、未来」
「どうしたの?」
「明るい姿を見せてくれてよかったっ」
「……これからも『魔法少女』として、みんなの笑顔を増やしていくつもりだから楽しみにしててね」
「うんっ!」
多くの魔法少女が笑顔になれるように。
生きていてよかったと思えるように。
私はこれからも多くの存在を支えるような存在でありたい。
『魔法少女の瞳に移る未来』がより素敵なものになるように。
久遠の未来、私は愛を染めるように幸せを導いていくのだ。
私は、魔法少女だから。
大人びた考えになっていたとしても。
あどけない手は変わらなくても。
私は、私らしく生きていくのだ。
これからも、この先も『未来』を信じて。
魔法少女の瞳に映る未来のお話はこれで完結となります。
読んでいただき、ありがとうございました!
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