第61話 終わりの先の物語
『破滅の日』の核である水晶を破壊した私。
破壊に成功した瞬間、私の身体を白い光が包み込む。
瞬きする間もなく、光に包まれた私は先ほどまでいた空間とは違う場所へとたどり着いていた。
赤い世界とは違う、真っ白な世界。
どこまでも、どこまでも白く、何もない空間。
『破滅の日』を終息させた魔法少女のたどり着く場所、なのだろうか。
「……魔力が届かない」
魔法端末は音信不通状態。
私自身が魔力を発して、アイやクオリアとも連絡を取ることができない。
誰もいないという事実に、孤独と不安を感じる。しかし、諦めるわけにはいかない。
「出口を探さないと」
この場所からは外の状況がわからない。
『破滅の日』はなくなったのだろうか。
みんなは無事なのだろうか。
その安否を確認するまでは安心できない。
走り出し、白い空間をどこまでも進んでいく。
しかし、どこまで歩いても果てなどないように白い世界が広がっているだけだった。
魔力の流れを確認しても、変化を感じられない。
行動を起こせば起こすほど、何もない世界だということを実感する。
「……瞳も私がいるような場所にいるのかな」
他に話す相手もいない。
楽しめる風景もない、日常が存在しない、そんな世界。
空虚とも感じてしまうような時間を過ごす瞬間を味わい続けていたのだろうか。
もし、そうだとしたら……
「条理を覆したことに対しての罰が、この空間の意味なのかな」
『破滅の日』という現象を消し去った罪を魔法少女の身で請け負わせる。
自我を失うその日まで、ひとりの苦痛を味合わせ続ける。
そんな世界のシステムなのだろうか。
「いや、それは違う」
暗い考えに気持ちが支配される前に、その考えを否定する。
「魔法少女は祈りを宿してる」
上を向き、どこまでも歩き出す。
行く当てなんてわからない。だけれども、立ち止まる理由はなかった。
「そして、みんなの希望を背負って戦う魔法少女の物語の続きはきっと、明るいものになってるはずだから」
私はみんなが思うほど崇高な存在でもないし、きっと神様になんてなれないだろう。
それでも、私にできることはきっとまだあるはずだ。
蹲って、泣き言をいうのはまだ早い。
どこまでも歩く。
白い世界を、私の足で歩んでいく。
私は元の世界に帰るのだ。
諦めるつもりはない。
振り向かずに歩いて、前だけを見つめる。
ふとした瞬間、音楽を流したくなり手のひらに魔法端末を用意する。
そして、思い出す。
カランドとシャンテのふたりから完成したオープニングテーマを貰っていたことを。
「映像もあるけど……今は、ローテで聞きたいかな」
ひとみ・アイゼンの楽曲、そしてみらい・アイゼンの楽曲。
その両方を聞いて、自分を励ましたいと思ったのだ。
オープニングサイズの楽曲をそれぞれ確認して、聞いていく。
私ひとりの空間であっても、音は無事に流れてくれた。
オープニング楽曲、『瞳の未来』を耳にしながら、私は走り出す。
『朝焼けの彼方に 願い重ねて 今はただ夢を見るの』
『「幸せ」を探して 君と歩む世界』
繰り返し見た夢は、幻想だったのかもしれない。
瞳と一緒じゃない時間は増えてしまった。
それでも、幸せを求めている。私なりの幸福を。
『知らないモノ見つけて 笑顔になった』
『新しい景色見えたら また歩き出そう』
ふと、クオリアの顔を思い出す。
未知を知り、もっと世界を理解しようとしていた彼女の姿。
もっと、教えてあげたい。
『世界 空 見渡せば キラキラ 瞳 輝いて』
『どんな瞬間も 大切でぎゅっと抱きしめた』
友達と過ごした時間。
パートナーと生きる日常。
すべてが今の私を形成している。
私は、支えられて生きている。
『想い願ったストーリーは きっと未来に届くから』
『ほら、進もう 希望の明日へ』
……だから、諦めたくない。
私が望んだ結末に進んでいく。
力強く進む瞬間。
ふと、空間を見渡すと白い世界の風貌が変わっていった。
夕焼けのような温かさを感じる赤い風景。
どこかノスタルジックな雰囲気を発するような空間へと変化したのだ。
きっと、この先に何かがある。
そう信じた私は、さらに走り出す。
次の曲は、これから物語が放送される物語のもの。
みらい・アイゼンの楽曲『未来の明日』だ。
『ひとり見つめた夕暮れの空 夕日の色は綺麗で』
『地平線眺めて 世界と向き合う』
世界は孤独じゃない。
見渡す町にはみんなの生活があって、それぞれが支え合っている。
日常は、決して消えない。
『ふと進んだ先には みんなの笑顔があって』
『瞳を閉じないでと 声が届いた』
レガとクミが元気に笑顔を増やしていた。
そして、花吹雪町に来てからは、アイがいつも私に笑いかけてくれていた。
みんなと出会ったことで、私は変わることができた。
塞ぎこんで、後ろ向きになっていた私も、立ち上がり、動くことができる。
『あなたのくれた想いをそっと胸に抱いて』
『いま、物語を続けよう』
まだ、私は生きている。
アイやクオリア、そして、みんなとまだ日常を過ごしていきたい。
だから、迷わない。
まっすぐ進んでいく。ただ、希望を信じて。
『秘めた心の内を明かせば 数多くの想いがあるから』
『愛で染まった感情で 私なりに歩いていこう』
日常の歩幅をみんなに合わせて。
決してひとりでいなくなることもなく、幸せな結末を迎えたい。
『君が祈った願いを 受け継いでいくから』
『行こう 希望の明日へと』
瞳の願いも、今を生きる友達の約束も、みんな背負って進む。
きっと、そうすることで浮かび上がる希望もあるはずだから。
ふたつの音楽のオープニングサイズを流し、走り続ける。
改めて再生を行おうとした時だった。
世界の色が再び変化したのだ。
「オーロラ?」
そう、光のオーロラが見えてきたのだ。
元々白しかなかった世界が、まるで夜空のように彩られていき、幻想的な雰囲気を発する。
それはまさに魔法のようだった。
世界に変化がある。
それは、脱出する糸口になるはずだ。
そう思い、さらにある気だそうとした時であった。
「あれは……」
オーロラの光の中から、真っ白な人が下りてきたのだ。
表情は見えない。顔も白いからだ。
ただ、はっきりとわかるのは衣装の造形。
ふわふわした雰囲気のフリルが付いた服。
装飾されている靴と合わせて、それらは下りてきた存在が魔法少女だと気が付かせるようなものだった。
「この世界に改めて魔法少女がやってくるなんて、ちょっと想像もしてなかったかな」
軽い口調でそう言葉にする彼女。
私に対して警戒している様子もなさそうだ。
「あなたは……?」
「私かぁ……うーん、『破滅の日』が人々に大きな災害を起こさないように注視してる門番さんかな」
自分を門番という姿からは、親しみやすさも感じる。
寄り添うような感覚というべきなのだろうか。そうした気安さを覚える。
「神とかじゃないの?」
「まさか。そこまで万能じゃないよ? だって『破滅の日』は再来しそうになってたし」
「意図しない出来事だったの?」
「うん。だって、本来『破滅の日』はあの時を境目に顕現することはなかったもん。私がしっかり監視してたし」
「なら、今回の『破滅の日』は」
「様々な偶然が重なって発生した過去の災厄が顕現した形になるかな。だから、止めてくれて助かったんだ、未来」
「私の名前、知ってるの?」
「あっ」
こほんとわざとらしく誤魔化して彼女は話を切り替えた。
「とにかく! 今回の『破滅の日』は終息した! おめでとう!」
「あ、ありがとう……?」
困惑することが多いものの、彼女から情報を引き出すしかないだろう。
そう思い、私からも言葉を発してみる。
「急に聞いて申し訳ないけど、いいかな」
「なに? なんでも聞くけど」
「ここから出る方法ってあるかな」
そう、ここで立ち止まっているわけにはいかない。
みんなの元に帰らないといけない。
そう思い、尋ねてみる。
すると、悩んだ様子で白い魔法少女は答えた。
「……普通は難しいかな」
「どういうこと」
「魔力をぶつけて空間が切り裂かれるとか、元の世界に通じる通路が普通に存在するとか、そういうのはないんだよね、ここ。だから……」
「出られないってこと?」
「まぁ、私も長年いるくらいだからね。普通に出るのは無理って言っていいと思う」
「そんな……」
私も、パートナーを置いていく立場になってしまうのだろうか。
後ろ向きな考えが一瞬過る。そんな私に対して、彼女は鼓舞をした。
「そんな顔しないで! 未来。あくまで、私が言ってるのは普通のやり方は厳しいってだけだから!」
「……また名前言ってる」
「あう。わ、私は門番! 門番だからね!? 知人かどうかと言われたら、門番!」
白いシルエットと透き通った雰囲気の声が正体を隠しているものの、彼女とのやり取りには何かを感じる。
心が満たされるような、どこか懐かしい感覚を。
「大切なのは繋がりだよ」
「繋がり?」
「そう、魔力って想いでできてるでしょ? だから、明るい感情で満たすようなことをすれば道は開ける!」
「でも、そうそう明るくなれるかはわからないけど……」
「そう? さっき白い空間を彩ってたじゃない」
「あのオーロラも私の魔力に影響を受けてたってこと?」
「その通り! だから、希望はあるよ! きっと戻れるはず!」
「なら……」
自分が明るくなれるようなことをすればいい。
そう思い、再び魔法端末を開く。
そこでふと、これまでに撮った写真をまず見つめる。
元の世界に戻って、元気に日常を過ごしたい。
そう思えるように。
「おぉ、この写真は?」
白い魔法少女が私の写真に注目する。
それはチュロスを食べている時の私の姿だった。
微笑している姿をアイが撮ってくれて、それを送ってくれたのだ。
「今のパートナーが撮った写真。色んな味のチュロスを食べて美味しかった思い出があるね」
「ふんふん、チュロス。私もここで空想して食べてるけど美味しいよね」
「そんなに便利なんだ、ここ」
「ふふっ、スーパー門番だからね」
日常の写真はいくつかある。
寝起きを撮られた写真。
調査中の真剣な姿、そしてレガとクミと撮った記念撮影。
最近はクオリアの写真も増えてきて、様々な思い出に浸れる。
様々な思い出がいっぱい詰まっている。
まだ、思い出を増やしたい。
そう思うと、力が湧いてくるような気がした。
「よかったぁ、結構笑顔がいっぱいで」
「こうなれたのは最近なんだけどね」
「えっ」
白い魔法少女が驚愕した表情を浮かべた、気がした。
少なくとも表情はわからないけれど、声のトーンでなんとなく凄い驚いているのはわかった。
「な、なにその声。しばらく引きずってた出来事があっただけだって」
「駄目だよ、未来。もっとがっつり色々楽しむべきだよ?」
「……すっごい親近感で話すけど、もしかして」
「あー、気のせい気のせい! 次のパワーを感じるなにかを頂戴!」
なんとなく、白い魔法少女の神秘性が薄れていっている気がする。
それどころか、なんだか知っている感覚が強くなっている。
……本人が気にしてほしくないなら、あえて突っ込む必要もないだろう。
そう思いながら、私は次の日常を繋げそうなものを取り出した。
魔法端末に記憶端末を繋ぐ。そして、映像を展開していく。
そう、『みらい・アイゼン』の物語を彩るオープニング『未来の明日』を流すのだ。
「え、えぇ、映像!?」
「本当は帰ってから見たかったんだけど、未練を増やすことによって日常に戻れるかなぁって思って」
「見る、絶対見る! 未来、私もオープニング見ていい?」
「嫌ってわけないじゃない。オープニングは逃げないよ」
そうして写し出される『みらい・アイゼン』のオープニング。
私の実際に遭遇した最近の出来事が重点的にアニメ化されている作品となっている。
その映像には、レガとクミがイヴィル……を参考にした敵と戦っている姿が映されたり、私とアイが歩んでいる姿などが映しだされている。
日常を映し出す場面ではみんなが笑顔で動いている姿が印象的だ。
『ひとみ・アイゼン』の続編ということでアニメに登場する私ごとみらいは少し大人びた風貌になっている。それもなかなかに面白い。追加で付与された解釈とか考えたくなるくらいに。
個人的に驚いたのは、影みたいな形であっても、しっかりとクオリアを映像に取り込んでいることだ。クオリアと行動している時にも原稿はいくつか渡していたけれど、ここまで早いものだとは思わなかった。
おおよそ、オープニングで見たいものがいっぱい見れたものの、先が気になる感じの映像展開なのもあって、戻ろうという気持ちがさらに湧いた瞬間。
「うぉおおおおお、未来いぃぃぃぃ!」
何故か、隣の白い魔法少女は隠そうという気持ちもないくらいには、気持ちが爆発していた。
「……途中から気が付いたけどさ」
「な、なに?」
「瞳、だよね?」
「門番です、私は門番」
「いや、はぐらかさなくていいからね!? あんなオーバーリアクションみたら流石にわかる!」
「……イヤチガウ、ワタシヒトミジャナイ」
「片言にならない!」
流石にワザとっぽかったのでびしっと言葉にする。
「はい」
「……本当に瞳でいいんだよね」
「うん、間違いなく愛染瞳だよ。未来」
白い魔法少女としての姿が魔法少女愛染瞳としての姿に変貌していく。
主人公のような赤と白を基調とした華やかな雰囲気の魔法少女。懐かしい、記憶のままの瞳だ。
彼女のあどけなさを感じさせる優しい表情もそのままだ。
「まさか、ここにやってきちゃったのが未来だって想像してなくって。隠したくなったんだ」
「お互いの未練にならないように?」
「よくわかってるね? 私だと判断したら、留まっちゃうかもなぁって思って心配だったから」
「……大丈夫だよ、それは。日常を楽しみたい気持ちは増えてきてるから」
「そうだよね、あの映像と写真を見て、実感したよ。未来は私なしでも生きていけるって」
「それはちょっと寂しい言い方」
「でも、事実でしょ?」
「私は瞳にも楽しく生きていてほしいけど」
「それは平気。そこそこ門番としての生活は楽しんでるつもりだよ? アニメだってやろうと思えば見れる」
そういって魔力でテレビみたいなものを用意する瞳。
なんていうか、それなりにひとりの生活も充実しているみたいで安心した。
「でもまぁ、ひとりなのは寂しいかも。だから、未来が来たときはテンション上がってた」
「それもそうかも」
「だってアニメのオープニング見てた時なんか、雄叫び上げてたでしょ?」
「あれ、雄叫びだったんだ……」
「私も見たい、『みらい・アイゼン』の本編みたいっていう叫び」
「そっか。……ここからは見れないの?」
「すぐに見えない、リアタイで見たい」
「わがまま」
「うー……」
頬を膨らませながら、魔力を練る瞳。
私の周囲から展開される魔力を使ってなにかをするつもりだ。
「未来は、しっかり縁を繋いでるから、元の世界まで戻れるはずだよ。ほら、空間を開いてくね」
彼女が力を行使して、想いを媒体に世界の入口を作る。
私の眼前に映る世界の入口の先。
それは花吹雪町の町並みだった。
「未来が楽しいなら私はいいんだけどさ!」
「うん」
「……元パートナーとしては、やっぱりその輪に少しでも加わってみたいって思っちゃうわけ。未練みたいなものだけど。ほら、破滅の日の門番としてしっかり仕事はしないといけないし」
「……未練じゃなくて、叶えたい夢にすればいいじゃない?」
「それってどういうこと?」
瞳の手を取って、笑顔で答える。
「会える日を作ろう、『破滅の日』の再来が落ち着いているなら、休暇を取ってもバチは当たらないと思うから」
「え……いいの? 私も?」
「私が好きな魔法少女の物語は、みんなが笑顔になれるお話だからっ!」
ひとり寂しい想いをする魔法少女はいなくてもいい。
傷ついて、苦しむような存在にならなくてもいい。
私たちは、みんなで歩み寄って生きていけるはずなのだから。
めいいっぱいの笑顔を込めて、私は瞳に言葉にした。
その言葉に対して、瞳は少し涙を浮かべながら、微笑んだ。
「とびきりの笑顔で、友情を称え合うみたいな展開、私、好きだよ」
「知ってる。だから、叶えたいって思った」
「……ちょっぴり大人になったね、未来」
「でも、子供のように夢は持っていたいけどね」
「そうだね」
涙を自分でぬぐい、瞳が私を案内する。
元の世界、みんなが待つ場所へ。
「必ず、予定立てて会いに行くからね! アニメの最初の放送日に来るから!」
「その時は、みんなで待ってるから! 楽しみにしててね、瞳!」
「うん!」
お互いに手を振って別れを告げる。
今回の別れは悲しみの別れではない。
「平和な世界、楽しんでね!」
「そっちも、今度会った時は平和な世界を実感してほしいな!」
みんなが幸せになるような、次がある別れだ。
私ひとりの力ではたどり着くことができなかった結末。
みんながいてくれたから、私は行動することができた。
ただ、今はみんなと出会えた事実に感謝の気持ちでいっぱいだ。
「じゃあ、行ってくる!」
「いってらっしゃい!」
笑顔で手を振る瞬間。
瞳の見送る姿も私には大人びて見えていた。




