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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第5話 お友達になりましょう

 オルクス・アイとの遭遇に、警戒をさらに強める。急に攻撃を仕掛けてくるということはなさそうではあるが、彼女も魔物。油断しない方がいい。

 そんな私の姿を見て、彼女は頬を緩めていた。


「キリっとした表情になると、昔のままなのですね、未来さんは」

「瞳がいなくなったとしても、魔法少女なのは変わらないからね」

「そうですね、未来さんはそういう方でした」


 くすくすと笑いながら、じっと私の顔を見つめるオルクス・アイ。ふと、気が付いたことがあったのか、さらに続けてくる。


「あら? イメージチェンジしているなと思ったら、片方の眼を髪で隠しているのですね」

「なにか、気になるの?」

「いえ、それが愛染瞳を失ったことによるセンチメンタルから来ているのならば、わかりやすいなと」

「……一目で『愛染未来』だと思われないようにするためのカモフラージュよ」


 今の私の髪型は片方の目を隠している、片目隠れだ。

 愛染未来として活動していた時期は両方の目を出していたけれども、今はあえてこの状態にしている。

 両方の眼で世界を見つめるのが怖くなったというわけではない。純粋に、そうした方が気持ち的に落ち着くというのが本音だ。

 愛染瞳を失ったから片方の『瞳』を見せたくなくなった、というセンチメンタルについては言葉にしたくはない。自分の中のめんどくさい感情が外に出てきてしまいそうだから。


「そうですね、そういうことにしておきましょう」


 不敵に笑い、頷く彼女。

 それ以上言葉が引き出せないことを察したのか、オルクス・アイは話題を変えてきた。


「ところで、花吹雪町で気になることがあるのですが……未来さんは知っていますか?」

「情報を共有しようとしても、私は今日来たばっかりだから知らないよ」

「そうだろうと思ってました」


 むしろその方が都合がいいと言いたそうな雰囲気のまま、彼女が続ける。


「単刀直入に言いましょう。現在、花吹雪町の魔物で気配が増えています」

「……なんで知ってるの?」

「元々同じ立ち位置だったから、という答えはどうでしょう? これでも魔物側の導き手として、色々見てきましたし」

「なるほど」

「あと、わたしは目がいい方なので」


 そう言いながら彼女は空間中に一つ目の使い魔を召喚する。

 オルクス・アイの能力。それは視野を共有したいくつもの眼を空間に展開できるというものだ。

 彼女の情報網をかいくぐることは困難。敵対していた時は能力の影響もあり、何回も彼女と交戦を繰り返していた。


「目撃情報も多くなってるの?」

「魔物と交戦した魔法少女も多くなっているとよく話題にはなってますね」

「貴女みたいな人型の魔物が先導しているというのは?」

「残念ながら、その可能性は少ないかと。同じような存在の姿は視認できませんでした」

「……うん、最近、私が撃退した魔物に人型のものはいなかった」


 人型の魔物との遭遇は少なくとも今日まではなかったことは断言できる。

 そうした魔物が活動していたのは『破滅の日』の事件解決前だ。少なくとも今はそこまで魔物の勢力は強くない。


「実際、人型の魔物はほぼいないと考えていいと思いますよ。わたし以外のその手の魔物は『破滅の日』以降、出現したという情報などはなかったので」


 それにしても魔物である彼女が、魔物の情報を私に対して伝えてくるというのが不思議だ。

 その疑問をどうぶつけようか考えていたら、先に彼女が言葉を紡いでいた。


「突拍子もないことをいいましょうか」

「どういうこと?」

「あら、わかりません?」


 そういうと彼女は魔力が込められた小さなペンダントを私に見せてきた。

 ペンダントの形も、込められている魔力の傾向も覚えがあった。

 各地で魔法少女を見かけている時にも見かけたことがある。

 あのペンダントは間違いない。


「今のわたしは魔法少女オルクス・アイだ、ということ」

「人型の魔物が魔法少女になるって……」


 聞いたことのない話だ。

 私が活動してきた中でも、見たことがない。

 私の反応を見つめた彼女は、遠くを見るように空を見上げた。


「『破滅の日』の時、わたしたちは共闘しましたよね」

「……そうだね、世界を終わらせない為にオルクス・アイは戦ってた」


 かつてのオルクス・アイとの関係は敵だったものの、ずっと敵対していたわけではない。

 瞳の説得、そして彼女の心境の変化によって、繰り返す戦闘から、次第に直接的な戦闘はなくなり、最終局面では共闘していた。

 大勢の魔物を引き受け、瞳が決着をつけるまでの時間を稼いでくれたのは紛れもない事実だ。

 こうして立ち話をしても、ある程度の警戒だけで留まっているのは、彼女が嘘偽りない感情で戦っていたという事実も大きい。


「あの時、戦い続けていたのが好印象だったのか、未来さんとは違う魔法少女の方から魔法少女にならないかと提案されたのです」

「それを、貴女は受け入れたと」

「はい。同じ立場を知りたいとも思ったので」


 そう言葉にする彼女は、相変わらず漠然と遠くを見つめていた。

 どこかに行ってしまったものを追いかけているような、その視線。私にも身に覚えがあった。


「わたしは魔物ではありますが、魔法少女になることによって、この世界に留まるだけの力を手にしました」

「魔法少女にならなかったら、消えていたの?」

「そうですね……はぐれ魔物として、彷徨っているところを誰か、知らない魔法少女に撃退されていたかもしれませんね。だから、魔法少女になるという決断そのものは悪くない判断だったと自分のことながら思うのです」


 言葉を交わしながら笑う彼女。

 さらっと言葉にしていた魔法少女になったというオルクス・アイも、私の知らないところで決断している場面もあったということか。


「……話が反れてしまいましたね、わたしが言いたいことは単純です」


 ふと、表情を変えて、オルクス・アイがまっすぐ私を見つめて言葉にする。


「わたしとお友達になりましょう」


 微笑むような笑顔。

 その言葉は本心から発せられているのは態度からもわかった。


「友達……?」


 その言葉が意外で、聞き返してしまった。

 困惑する私に対して、彼女は真剣に返答を待っている。

 友達。最近はそんな言葉を口にすることもなかった気がする。


「友達になって、何がしたいの?」

「気になっている事柄の調査ですかね」

「それだと協力者でもいいような……」

「あとは、花吹雪町のグルメとかを共有するとかどうでしょう。多分、楽しいですよ?」

「多分って」

「まぁ、適当でいいんですよ。で、どうします?」

「……友達の作り方なんて、わからないけど」

「あら」


 その言葉を聞いて、オルクス・アイが笑いだす。


「あらあらあら、歴戦で、色んな魔物を撃退してきた魔法少女さんにそんな弱点があるなんて」

「わ、私は瞳と仲良かったから! 彼女関連で繋がった人とは、それなりに関係あるから……」


 自分で弁明を口にする。

 とはいえ、そう言葉にするものの、ちょっとキツイ感じがある。

 かがみとはそれなりに話す関係ではあるものの、友達と言っていいのか不安なところ。

 かなたはビジネスパートナー的な部分が強い。そう考えると、やっぱり友達はいないのかもしれない。


「未来さんとわたしは似たもの同士だと思うんです」

「そうかな」

「色々似てますって」

「全然違うと思う」

「私も友達いませんよ?」

「そう堂々言うことかな」

「今日増えるから、いいんです」


 そう言葉にする彼女は、私を離すつもりはなさそうだ。なかなかに強引な部分も感じ取れる。

 とはいえ、知り合いではあるし、悪意はなさそうだから、断る必要もなさそうだ。


「……まずは協力者ってところから始めようか」


 だから、無難な言葉から始めることにした。

 そんな私に対してオルクス・アイは小さく微笑んでいた。


「あら、まるで『付き合ってください』に対してお友達からにしましょうって感じですね?」

「どう捉えても構わないけど……私も花吹雪町にしばらく滞在はするつもりだから、手伝いはほしいなって」

「それなら心配しないで大丈夫ですよ。わたしはこの町に住居があるので、そこで一緒に過ごしましょう」

「ん? 一緒に?」


 宿泊する場所がほしいというのを、どこかで話を聞かれていたのか。言葉にはしてないつもりだったけれど。

 それが気になって、疑問の目をオルクス・アイに向ける。

 すると、彼女は微笑みながら答えた。


「外でちょうど視覚した時に、未来さんは宿に目を向けてましたので」

「それだけで判断できると」

「目は口程に物を言いますよ?」

「……確かに、宿に悩んでたけど」

「それなら都合がいいと思いません? 一緒に行動するいいきっかけにもなりますし」

「それは……そうかも。なら、言葉に甘えようかな」


 とにかく、休む場所ができたことはありがたい。

 かつて敵だったとはいえ、旧知の存在と出会えたことも悪くはない出来事だったと思う。

 なにか、これから先、アニメの状況、そして花吹雪町の調査が活動的にできたらありがたい。

 おっとりとした様子ながら、張り切っているオルクス・アイの様子は気合十分といったところ。

 ……少し仲良くなったら、もっと警戒を解いて、気安く呼んでもいいかもしれない。そう心の中で呟いた。

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