表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第三章 幾星霜のクオリア、願いを紡ぐ未来
57/64

第56話 未来を願う歌声

「敵の動きに変化があったってどういうこと?」


 魔法端末を手に取り、イヴィルに確認する。

 すると、彼は淡々と説明を続けた。


『空をよく見ろ、少し異質なものになってないか?』

「空……」


 空を見つめると、ある地点に違和感があることに気が付いた。


「空が赤くなってきている?」


 私が瞳と共に戦った『破滅の日』の空のように変貌していっている。ただ、空の全域が赤くなっているわけではない。

 空のある中心点のみが赤く変化していっている。


「大規模な空間の裂け目に魔力を集めている、といったところでしょうか」


 空の中心点。そこにあるのは空間の裂け目だ。

 しかし、その大きさは今日、私たちが封印してきたものより、比べ物にならない大きさだ。

 町のどこから見ても、その空間の裂け目は見えるだろう。


『アイが言ってることは正しいだろう。今までの反抗に対して、破滅の日側も対応してきたということになる』

「……空間の裂け目も収束してるってこと?」

『それについての情報も分析していた』


 そう言って、イヴィルは私の魔法端末から花吹雪町全体のマップとデータを送ってきた。

 そこには、各地に存在していた空間の裂け目の反応が消えたという情報が書かれていた。


「私たち以外に封印をしていた存在はいたのか?」

『それはないな。お前たちが封印してきたのに対して反応を示したというところだ』

「なるほど、つまりあの巨大化した裂け目を封印できれば……」

『今回の破滅の日に打ち克つことはできるかもしれないな』


 私、アイ、クオリアがそれぞれ巨大な空間の裂け目を見つめる。

 『破滅の日』に立ち向かう。かつて、瞳が行ったこと。私たちにもできるはずだ。


『確実な切り札は未来、アイ、クオリアだ。だから、確実に対応してほしい。おい、そこのお前たちもできるな?」

「え? レガちゃんとクミちゃんは命令されるまでもなく、動くつもりだけど?」

「うーしーちゃんに悪さした恨みは忘れてないですよ、悪役さん」

『ぐっ、積年の恨みってわけか……』


 レガとクミに対して通信を繋ぐイヴィル。

 しかし、彼女らの反応は辛辣だった。ステージを台無しにされそうになったのもあってなかなか口を尖らせたくなるのだろう。


「そうそう、結構根強く恨んじゃってるよ?」

「まぁ、改心してるみたいですので、それ以上は追及しませんが。適切なデータを送ってもらわないと困ります」

『い、一時休戦といこうじゃないか! もしよかったら僕もそのうーしーとやらの補強を手伝う!』

「うーしーじゃないよ」

「うーしーちゃん3号です」

『……あぁ、わかった! うーしーちゃん3号の補強用のパーツを今度やる! だから怪我とかするなよ! うーしーちゃん3号も守れよ!』

「当然です、全て守ります」

「町の安全を守るのも、魔法少女の役割だもんね! 負けないからっ」


 ……とりあえず、イヴィルとはほどほどの距離感を保てているのだろう。

 ふたりの心配はいらなそうだ。


「行こう、あの大規模な空間の裂け目に」

「ふたりは、後ろを守ってください。安心してわたしたちが戦えるように」

「うん、わかった! ばっちり動くよ!」

「クオリアも気を付けて。まだ見せてない舞台がいっぱいあるから」

「そうだな。もっと見てみたいものはいっぱいある」


 会話を終え、それぞれ別の方向へ向かっていく私たちと、レガとクミのふたり。

 私たちは切り札として、『破滅の日』を終息させる役割があるのだ。

 負けるわけにはいかない。そう思いながら、先へ進んでいく。


 裂け目に向けて移動する道中、いくつかの魔物と遭遇する。

 それぞれが不定形な人型の形をした魔物だ。ものによっては熊のような体躯のものもいる。


「足止めのつもりだとしても!」


 魔力結晶の弾を発射し、牽制。そして思い切り近づき黒鉄の剣で切り裂く。

 牽制で大きく動いた敵に対して発せられる斬撃は、魔物を撃退するのに十分な一撃だ。

 剣によって両断された魔物は光となって消滅していく。


「わたしたちは止まるつもりはありません」


 アイは使い魔に魔力を充填させて、鋭い魔力弾を発射させていた。

 急所を確実に射抜く一撃。それらが魔物の核を狙い、撃退させる。


「一気に進もう」


 クオリアはその掌底で魔物を掴み、確実に攻撃を加えていく。

 格闘を中心とした攻撃はリーチこそ短いものの、その攻撃力は高く、魔物を迎撃するのに十分な火力を持っていた。


 それぞれが魔物を撃退しながら、赤い空へと変貌させている巨大な空間の裂け目の位置まで近づいていく。

 そこは花吹雪町の中央公園から離れた場所……私たちの家まで通じている道路がある空間。

 普段は静かな道路も多くの魔物が道を塞いでいた。


「アイ、敵の量は多くなってる?」

「そうですね……先ほど町で遭遇していた量よりは多いかと」

「つまり、この付近に集まってると見てよさそうだな」

「えぇ、目で見て判断する分にはそう考えるのが無難かと」


 空間の裂け目の中央部に向かい移動する。空にあるからといって、そう遠い距離ではない。

 巨大な空間の裂け目は花吹雪町を少しずつ覆うように展開されていて、その中心部が町からずれているのだ。

 つまり、放置すると町にも魔物が大量発生する可能性が高い。

 魔物の量が多い場所まで赴き、そこで巨大な空間の裂け目の封印を行う。それが私たちの狙いだ。

 裂け目の力を収束させているのだとしたら、あの空のものを消し去ることができれば、『破滅の日』は止まるはずだ。


 魔物を再び撃破する為に魔力を集中させる私たち。

 ここで必要以上に時間を取られるつもりはない。

 剣を構えた瞬間だった。


「ちょーっと待ったぁ!」


 空から魔力の譜面を展開し、スライダーのように降下するふたりの魔法少女の姿が見えた。周囲からは綺麗な音楽が流れている。

 音楽、譜面。そして見えた姿から、その人物が誰かを把握する。


「カランド、シャンテ!」

「大正解っ!」

「援護するよっ!」


 カランドが魔力を展開して、質量を持った音符を魔物にぶつけていく。

 その間にも、シャンテは魔力の譜面を展開し、音楽を奏で続ける。負の感情を有する魔物に効果的な明るい音楽だ。

 各々の魔法少女に対して聞こえるように演奏されている音楽。それが直に聞こえる空間では、特に効力を発揮するみたいだ。

 多く存在している魔物の力が弱まり、動きが鈍くなっている。


「ふぅ、なんとかギリギリセーフ!」


 私の隣にやってきて、カランドがほっとした様子でそう話す。

 なにか、目的を持ってやってきたのだろうか。


「カランド、今は歌ってなくて平気なの?」

「少し長めの間奏だからね。少しの間は平気。でも、用事があったから手短にやりたいことはするよ!」

「やりたいこと?」

「これっ!」


 カランドの手から何かを手渡される。

 魔法端末に直接繋ぐことができる記憶端末だ。


「これは」

「師匠がどうしても今渡したいっていって譲らなかったから、今渡すことになったんだけど……」

「『未来の明日』のオープニングサイズ! つまりアニメのオープニングで使うやつが入った端末! 映像付き!」

「えっ」


 私の掌に手渡される端末。

 その中には、平和になった後に見たい映像がある。

 不思議な状況だ。


「今渡しかった理由は?」

「直感! あとお守りの代わり!」

「直感って」

「勝手にいなくなったりされたら困るからね! 絶対に戻ってくるように願いを込めたお守り!」


 そう言ってまっすぐ私の目を見るカランド。

 その表情と言葉には切実な祈りが込められていると感じた。


「師匠は瞳さんがいなくなったことも考えて、未来もいなくなりそうって心配だったみたいで」

「そう! なんか責任感じて自分の存在ごと封印しようとか考えそうでさ!」

「だから、意地でも戻ってこれるように今いる世界の繋がりを作っておこうって思ったらしいんだ」

「オープニングだけ見て、本編みないなんてもったいないでしょ? ボクなら悶えて苦しむね!」

「なるほど……」


 心配してくれていることが伝わってくる。

 みんな、各々がやれることをやっていて、私もできることをしようとしている。

 もしものことが起こらないように、それぞれが願いを込めて戦っている。


「未来、ますますいなくなる選択肢は取れなくなりましたね?」

「もしいなくなろうとしたら、アイに何されるわからないからね」

「ふふっ」


 不敵な笑みを浮かべるアイ。

 私がいなくなった場合、絶対に私を困らせてやろうという気迫を感じる。


「私からもなにか提案しておこうか」

「クオリアまで?」

「あぁ、そうだな……もしいなくなったら、聞こえそうな場所でアニメーションの物語を言い聞かせるとか、そういうのにするか」

「それもそれで恐ろしいかも……」

「そう思うなら、絶対に戻ってくるべきだ。やはり、日常はみんなで過ごす方が楽しいからな」

「そうだね、そう思う」


 クオリアの言葉に頷き、改めて気持ちを固める。

 私は絶対に『破滅の日』を封印する。犠牲になることなく、確実に。

 決心がついた私を見つめて、カランドとシャンテは嬉しそうに笑っていた。


「じゃあ、そろそろ歌も再開しないとね! 最高潮のビートでみんなを導くよ! 準備して! シャンテ!」

「わかりました。……フルの音量、全力の音楽を刻んでいくね、未来。先に進めるように、思いっきり演奏するから、進んで」

「わかった。……行こう!」

「はいっ」


 ふたりを信じて、まっすぐ前に進む。

 目標は空に浮かぶ巨大な空間の裂け目の付近。

 私たちが移動したのを確認して、カランドとシャンテは大きく掛け声をあげた。


「魔法少女に夢と希望を!」

「そして、明るい、ハッピーエンドの物語を!」


 音を刻まれ、音楽が形成されていく。

 様々な旋律が響き、心を前向きなものにさせる。

 その情熱的で明るい音楽によって、魔物の勢いは弱まっていく。

 地上の魔物が積極的に動くことはしばらくの間はないだろう。

 つまり……


「今、狙いに行ける……!」


 魔力を展開し、私たちは空を飛翔する。

 目標はあの巨大な空間の裂け目。

 どんな敵が待ち受けていたとしても、負けるつもりはない。

 私たちは、願いを託されたのだから。

 飛翔する空。赤く染まる空。

 私は、決意を胸に立ち向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ