第54話 強大な魔物
「イヴィル、次に怪しい空間の裂け目がある場所を教えてほしい」
魔物に対応しながら、移動する時間。
怪しい箇所を対処していきたいと思った私は状況を見渡せそうなイヴィルに魔法端末で連絡を送る。
同行しているアイやクオリアに聞こえるように音量は大きくしている。
『花吹雪町、中央広場だ』
「なんだかイヴィルさんに縁のある場所が多いですね?」
『確かに事件を起こした場所ではあるな』
「それは偶然?」
『……偶然じゃなかったら僕は間違いなく今拘束されてるだろうな』
「ですよね」
くすっと笑うアイ。
わざわざ今イヴィルが行動を起こす必要はないだろうし、そもそも悪事を行うつもりもないだろう。
その上で、強いて中央広場に空間が発生した理由をあげるとしたら……
「前に強力な魔物を顕現させた場所だから、魔物が発生しやすい環境になってるのかも」
「確実に撃破していけば問題ない、むしろわかりやすい位置にあるならば対応もしやすいな」
『僕が言えた義理ではないかもしれないが、気を付けろ。空間に余裕がある広場に発生するとなると魔物の規模も大きくなるかもしれない』
「大きく……? わかった、気を付ける」
その意味を把握しきれなかったものの、油断できないのは間違いないだろう。
イヴィルとの通信を中断して、再び走りだす。
目標は中央広場。
「いこう。アイ、クオリア」
「現地の状況把握は引き続き行います、いきましょう」
「あぁ、悠長にはしてられない」
人影がない街では、多くの魔物が歩いている。
私は走りながら魔物に剣を突き立て、切り裂く。
「やぁっ!」
直接空間の裂け目から現れるような魔物と比べて、各地に出没しているものはそこまで耐久性はない。
私やクオリアの魔法の威力なら各個撃破は問題ないくらいだ。しかし、やはりそれなりの量がある。
範囲を制圧できるような大型の魔法は市街地に被害が及ぶ可能性があるから、そうそう撃てない。
大きく移動する場合、どうしても行動速度を奪われてしまう。
「中央広場まで、一気に到達したいが……!」
「こうも敵が増え続けると対処もしたくなるね……!」
ひとつ、ふたつ、みっつ。
それぞれ魔物を撃退しながらも、少しずつ中央広場へと進む。
それでも、なかなか到達しきれない。
先ほどまでいたイヴィルの実験室は街外れに近い場所にある。そこから町の中央まで移動するとなるとどうしても距離がある。
「……援軍が来ますよ、未来」
「援軍?」
「えぇ、頼りになる方です」
アイがそう言うと、空からふたりの魔法少女が降ってきた。
「さて、久しぶりに暴れるよ! かなた!」
「そうですね、活躍を期待してますよ、かがみ」
色鮮やかな魔力を展開して、杖で攻撃を行うかなた。
そして、その運動神経を活かして、臨機応変に剣で戦うかがみ。
『ひとみ・アイゼン』における主役のふたりが援軍でやってきてくれた。
「未来は切り札だからな! ここで足を止めてもらったら困るんだ!」
「未来さんを助ける為に来ました! 移動手段なら、お任せを!」
「ありがとう!」
かなたが小さく呪文を詠唱すると、彼女の前に3つ、箒のようなものが現れた。
「あら、魔法使いの箒ですか?」
「はいっ、これを使って中央広場まで移動しますっ」
「箒か……乗ったことはないが」
「大丈夫です、私が先導して魔力を発して移動させますので」
「つまり、乗るだけでいいんだね」
「はいっ!」
宙に浮かぶ箒にそれぞれが座り、移動の準備を整える。
その間もかがみは戦う。
私と同じように、剣を使って確実に敵を処理する。
「かがみ、ガンガンやっつけちゃってくださいっ!」
「当然! 主役を引き立たせるのも大切だからなっ!」
少しずつ箒が空に浮かんでいき、加速準備が始まる。
「管制制御よし、魔力循環率問題なし、加速準備もよし……!」
かがみが集中している間も魔物は襲い掛かる。
宙に飛ぶ鳥型の魔物が迫ってきていた。
「かなた、気を付けろ!」
「えっ、ええっ!?」
「……トパーズ・バレット!」
狙撃するように魔力の結晶を飛ばし、それぞれ私は狙ってきた魔物を撃墜していく。
「自分の作業に集中して平気!」
「わ、わかりました! 最大加速、準備完了……!」
「ふふっ、撃ち落とそうというのは甘い発想です」
アイは使い魔を展開して、飛行する魔物を使い魔の眼から発射される魔力で攻撃を行う。
これにより、時間が稼げたか。
そう思った瞬間だった。
「大型の魔物が迫ってる! ここはあたしに任せてくれ!」
「私も動こう」
加速移動までもう少しというところで、怪鳥と言うべき大きさの魔物が目の前を塞いできた。
人の大きさより、2、3倍ほど大きい。
それに対し、かがみは大きく飛ぶ。
そして、クオリアも……箒を蹴って、怪鳥に空中で真正面から向かった。
「魔物の消滅を狙う」
「なら、あたしはサポートすればいいんだな!」
かがみが持っている剣が別の武器へと変化していく。
大型の布に変わり、それを怪鳥の魔物に解き放つ。
「相手を拘束するよ!」
「助かる」
ぐるぐると布が怪鳥にまかれていき、相手の動きが拘束されていく。
翼を動かせなくなり、落下する怪鳥に、ちょうどぶつかるようなタイミングで、クオリアはまっすぐ拳を突き立てた。
「これで……」
怪鳥の胴体に魔力が籠った一撃が加わる。
そして、クオリアの掌から魔力がさらに照射される。
「消し飛ばすっ!」
爆発する怪鳥。その一撃によって魔物は消滅し、光となって消えていった。
クオリアは自身の魔力の衝撃を利用し、箒まで戻り、再び座った。
「手伝ってくれてありがとう! この場はあたしが引き受ける! 裂け目の処理は任せる! かなた、移動任せた!」
「準備、できました! 行きます!」
「わかった!」
「お願いしますっ」
「稼働……っ!」
箒の魔力が充填され、そして飛翔していく。
全身で風を感じるほどの速度だ。
少し、息をするのも大変だ。
「中央広場まで到達しましたら、こちらは再び魔法少女のみなさんのサポートに回る予定です!」
「応援しています、未来さん、アイさん、そしてクオリアさん……!」
箒が魔物を引き離して、中央広場まで到達する。
中央広場、前にレガとクミが舞台を開いていた場所付近。
そこには大きな空間の裂け目が存在していた。
減速し、空から確認する。
まだ、不審な魔物は存在しない。
「運んでくれてありがとう、かなた」
「あとは私たちにお任せを」
「裂け目の攻略を開始する」
それぞれ、空から地面に降下していく。
魔法少女は魔力を使うことである程度の空中制御は行えるのだ。
「気を付けてください、決してくじけぬよう……!」
そのかなたの言葉に頷き、地面に着地する。
空間の裂け目が広がりつつある。放置するのは危険だ。
「一気に進もう」
黒鉄の剣を再び形成し、その魔力を底上げさせる。
クオリアも魔力を拳に乗せていく。
「正面突破の予定ですね。なら……」
使い魔を16匹ほど召喚し、アイは不敵に笑う。
「こちらは陽動といきましょう。魔力は大胆に使っていきます」
使い魔を分散させ魔物に攻撃を行う。
その一撃で敵がやられるわけではないものの、使い魔に気を取られた魔物は空間の裂け目から離れていく。
「使い魔制御に集中しますので、わたしも守ってくださいね?」
「その役割は私が引き受けるね」
「つまり、裂け目を塞ぐのはこちらがやればいいんだな」
「そうなるね」
「よし、いこう」
中央広場に存在する空間の裂け目に向けて移動していく。
その最中、獣の形をした魔物がいくつか襲い掛かる。
「甘いっ」
アイに向けて襲い掛かる攻撃を確実に対処する。
陽動しているとはいえ、裂け目は魔物にとっても重要なのもあってか防衛は徐々に硬くなっていく。
「……む?」
先に向けて移動している間に、アイが不審に思ったのか、疑問を感じているような表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「いえ、引き離した魔物が私たちとは別の箇所に集まっていたのが気になって」
「……なにかをしようとしてる?」
根源を絶たないと危険か。
相手の行動は阻害するべきではあるものの、魔物が集まっている場所は空間の裂け目の正反対。
今から向かうと、裂け目の対応が遅れてしまうだろう。
私がどうするべきか悩んでいた時、クオリアは私たちの目を見て提案してきた。
「私が一気に空間の裂け目を制圧しよう」
「一気に距離を詰めるということですね」
「裂け目を消滅させられれば、それを使って顕現する魔物は消えるだろう。狙うべきだ」
「わかった、気を付けてね。クオリア」
「あぁ、行ってくる」
そう言葉にすると、クオリアは全速力で移動した。
多くの魔物と会敵するのを避け、空間の裂け目までたどりつくクオリア。
彼女はその場で魔力を収束させ、裂け目を消滅させようとする。
「これで……!」
あと一歩で裂け目が消え去りそうになった瞬間だった。
裂け目が広まり、力を増していった。
「なに……!?」
困惑するクオリア。
「クオリアっ!」
状況が悪い。
そう判断した私は、急ぎ彼女に近づいていく。
アイも私の後ろから同行していく。
立て直すべきだ。
このままでは危険なことが起こりそうな気がする。
警戒を深める。
「……っ! 周囲の魔力の反応が強くなっています!」
「一体何が……!」
「まさか、あの魔物……!」
アイが集まっている魔物に注視する。
そこには黒い影を纏いながら合体している魔物の姿があった。
「合体して、裂け目を守ってる……!?」
そこには怪獣のように変貌した魔物の姿があった。
高層ビルほどの大きさの魔物。
それが、中央広場の空間の裂け目と繋がっていた。
「グオオオオオォッ!」
怪獣の魔物が咆哮をあげるとその声に呼応するように空間の裂け目も鼓動する。
放置するわけにはいかない。
あの怪獣を倒すべきだ。
「いけますか、未来」
「戦うよ」
「あぁ、放置していたら町は間違いなく被害を負う……!」
黒鉄の剣を使い、足に切りかかろうとする。
しかし。
ガキンッ!
魔力でできた黒鉄の剣は怪獣の鱗には突き刺さらず、折れてしまった。
「硬い……っ!」
私が魔力を練り直そうとしている間に、クオリアも拳を胴体に向けてぶつける。
「くっ……!」
その一撃も怪獣には届かず、怯ませることもできなかった。
「これは、分が悪いか……!」
「小さな攻撃だと微動だにもしない! なにか、対応しないと……!」
別の方法を考えるべきだ。
物理的な攻撃では分が悪い。
なにかしら、対応できる一手が欲しい。
なにか、ないだろうか。
対抗できる手段が。
「未来! 怪獣が攻撃をします!」
「……っ! ルビーズ・ディフェクト!」
手を使って私とクオリアに攻撃を仕掛ける怪獣。
その攻撃に赤い結晶の防壁で受ける。
その防壁も少しずつ壊れていく。
「壁が割れる! 動いて!」
「わかった」
移動して、攻撃の先から退く。
大きな音を立てて、粉々になる防壁。
質量が違う。
間違いなく、このまま戦っていたらこっちが消耗するばかりだ。
アイと合流して、怪獣の魔物から少し距離を離れる。
もちろん、野放しにするつもりはない。
確実に対応するつもりだ。
「貫通力を高めた一撃で撃破を狙うべき、でしょうか」
「弱点は見つけた?」
「強いて言うなら胴体にある空間の裂け目ですね。しかし、鱗はかなり頑強ですので、狙うのも難しいかと」
「魔力を使い尽くす覚悟で戦うしかないか……」
先のことを考えるより、今、目の前のことを対応するべきだ。
そう思いながら、魔力の全力使用を覚悟していた時だった。
なにやら、キャタピラが動く音が聞こえてきたのだ。
「あれは……!」
怪獣とは正反対の場所。
そこからやってきたのは、レガとクミ、そしてうーしーちゃん3号だった。
「ちょっと待ったぁ!」
「この場の支援、しに来たよ」
「大怪獣バトルになるなんて想像はしてなかったけど……! でも、対策の一手は考えてあるんだ!」
「だから、協力してほしい。レガとクミのとっておきの舞台に」
「ふたりとも……!」
なにか策がある。
そう断言するふたりからは、魔法少女らしい強い眼差しを感じた。
「協力するよ。みんなで、あの怪獣を……やっつけよう!」
「うんっ!」
「戦おう」
危機的状況。
それを打破する手段。
巨大な怪獣を見つめながら、私は負けないと誓うのだった。




