第53話 それぞれの戦い
普段人が多い花吹雪町も、今日は人影がない。理由ははっきりしている。
『破滅の日』による事故を未然に減らす為に避難をしているからだ。
中央公園。どの位置に敵が現れても問題ないように構える私、アイにクオリア。
静寂の時間。その一瞬を変えるかのように魔法端末に連絡が届いた。
『そろそろ『破滅の日』が顕現する。気を付けろ』
「わかった」
リアルタイムで状況を確認しているイヴィルからの報告だ。
状況が動く、というのは間違いない。
「……魔力に揺らぎを感じる。魔物が攻めてくるぞ」
「しっかり対応していかないとね」
両方の手に魔力を込める。
臨機応変に対応していきたい。
「来ますっ」
使い魔を偵察させていたアイが、合図を送る。
不安定な周囲を覆っていた魔力が形となり、魔物へと姿を変貌させていく。
私は、アイの言葉に反応して即座に魔力を使い、黒鉄の剣を創る。
「アイゼン・シュヴェルト……!」
補足した黒い影のような魔物を横に切り裂く。
まだ具現化して間もないからか、まだそこまでの強さを感じない。
しかし、どれほど敵が強くなるかもまだ予測できない。
黒鉄の剣を維持したまま、周囲を確認する。
黒い霧が収束していき、それぞれが魔物へと変わっていく。
空も、瞳と戦った時ほどの赤さではないが赤みを帯びた歪な色へと変貌していた。
『空の変化が発生している箇所は花吹雪町とその周辺のみだ。つまり、中心点といってもいいだろう』
再びイヴィルから連絡が届く。
魔法端末から直接声が発信されるので、そのまま私も会話する。
「外部の魔物の状況は?」
『これから分析する。……が、その町が一番発生するだろうな。外部の魔物の発生記憶はまだそこまでない』
「被害を最低限に抑える」
『あぁ、そうするといい』
また連絡の声が大人しくなる。
データ調査に励んでいるのだろう。
「さて、ここから先は持久戦でしょうか?」
「『破滅の日』の終息には決定打を与えられる瞬間が必要だ。魔物を出没させる原因をひとつひとつ潰していこう」
「瞳の時と同じパターンなら、それぞれ魔物を発生させる裂け目を狙えばきっと、相手は動くはず」
「裂け目に対応している魔法少女を探しながら、援護していきましょうか。なるべく遭遇した魔物も撃退していきましょう」
「うん、その方向で行こう」
それぞれの行動が始まる。
中央公園から移動し、路地裏付近へと足を進めていく。
「クオリアさん、上ですっ」
鳥のような魔物と遭遇し、上からの奇襲を避けるクオリア。
その総数は五羽ほど。降下してきたのは一羽だ。
「このくらいなら、一撃でっ!」
地面に降下した鳥型の魔物に一撃、鋭い拳をぶつけて撃退する。
鳥の魔物は空でいくつか羽ばたいていて、接近して倒すのは厄介そうだ。
「だったら、狙って落とす……!」
剣を生成していない左手で狙い、魔力を集中させる。
「トパーズ・バレット!」
結晶の魔力弾を飛ばし、ひとつひとつの魔物に狙う。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
それぞれの魔物に攻撃を当てて、飛行能力を奪っていく。
「飛行特化で、耐久面は脆いみたいですね……でしたらっ」
アイの使い魔が機敏に動き、態勢を不安定にした鳥型の魔物にそれぞれ赤い魔力で攻撃を行う。
使い魔の数は8つほど。ひとつの敵に対してふたつの使い魔が集中砲火を行い、撃破していく。
魔力を浴びてダメージを負った魔物は、やがて光となり、消えていった。
「まだ、大人しいといったところですかね」
「あぁ、敵の数は多いがな」
次は道を阻むかのように、不定形な人型の魔物が路地裏に向かう私たちの前に立ちふさがる。
「押し通ろう、クオリア、一緒に撃退していこう」
「わかった、アイは周囲の安全確保を頼む」
「了解ですっ」
人型の魔物に斬撃を繰り返しながら、前へと進んでいく。
クオリアはひとつひとつの敵を得意の格闘で撃退していた。
しかし、敵の数がなかなか増えていき、思うように前に進めない。
「物量戦法は厄介だな……」
「負けることはないけど、これじゃ前に進めない」
「どうする?」
「ここで大技使うのはなかなかリスクがあるけど……!」
纏めて倒そうと魔力を集中する。
「いいえ、まだその必要はないみたいです」
アイがそう言葉にした瞬間、突如空間に明るくて、勇気を貰えるような音楽が聞こえ始めた。
「今日はボクたちのとっておきのスペシャルライブ! ガンガン歌うし、どかって響かせちゃうからね!」
カランドとシャンテの声が空間全域に広まっていく。
彼女たちが用意した特殊な音響装置の力だろう。
音楽もはっきりと聞こえてくる。
「……だから、みんなも負けないで! あたしたちがみんなの力になるからっ!」
響き渡る歌声に音楽。
それにより、数多くいた魔物は苦しみだし、微弱な魔物は消滅していった。
ふと、空を見上げると、赤い空が少し、本来の青さを取り戻したような気がした。
彼女たちの支援によって、道に余裕が生まれていく。
これなら、突破もしていけるだろう。
魔法端末を魔力で宙に浮かし、再度イヴィルに会話を繋ぐ。
「直感で路地裏に向かってるけど、そっちになにかあるよね?」
『いい加減だな、お前……! まぁ、間違いではない。俺が実験していた施設に大きな魔力反応がある。そこに裂け目があるはずだ』
「わかった、対処する」
『ただ、大型の裂け目ではないから、ここを塞いだだけでは終息することはないだろう。他の場所も探しておく』
「助かる、じゃあまた」
『あぁ、気を付けろ』
目指していた方向は間違っていなかった。
情報を確認したのち、私たちはイヴィルの元実験室に向かう。
「イヴィルさんとの確執とか案外ないんですね、未来」
「改心したならそれでいいよ。まぁ、瞳のことで突っかかって来たことは今でもムッとしてるけど」
「罪を憎んで人を憎まずってことか」
「そういうこと」
イヴィルの元実験室に再び足を運ぶ。
これで三回目になるだろうか。それなりに因縁のある場所になってしまった。
「この間の調査では、ここで歪な魔物と遭遇したわけですが……」
「裂け目を守るような魔物は、いないはずがないだろうな」
実験室の部屋に足を踏み入れた瞬間。
突如、鋭い足音が響き渡った。
少なくとも私たちの音ではない。
迫り来る音、間違いない、魔物だ。
「未来っ」
正体不明の魔物に対して、クオリアが思い切り蹴りを放ち、距離を離す。
「ありがとうっ」
見えない相手には一手遅れてしまう可能性もあった。
だから、クオリアの支援は素直にありがたい。
「周囲を見渡せるようにしないとですね」
アイが使い魔を動かし、周囲に光を展開していく。
光によって正体を見せた魔物。それは、竜の強靭な肉体と虎の脚力を兼ねそろえた、キメラの魔物だった。
「あれは……!」
「イヴィルさんの時に発生するかもしれなかった魔物ですね?」
「知っているのか?」
「前の騒動で、あれを顕現させようとした奴がいてね」
「イヴィルさんですけどね」
「それと同じような魔力の雰囲気を感じる」
「……ざっと考えるにイヴィルさんの負の感情といったところでしょうか」
「グガアアア!」
魔物が咆哮をあげ、私たちに襲い掛かってくる。
その速度は即座に距離を詰めてくるほどだ。
「見えていれば!」
剣を構えて、キメラの魔物に振りかぶる。
しかし、その一撃は強靭な鱗によって防がれる。
「硬いっ……!」
「直接魔力をぶつけた方が有効手になりやすいだろう」
キメラの魔物の攻撃を捌きながら、クオリアは打撃を加える。
有効な一手にはならないものの、相手をひるませることはうまくいっているみたいだ。
「わかった、そっちを意識する!」
「では、私は弱点を調べます」
魔力を集中させて、確実に仕留められる一撃に備える。
アイはそれぞれさらに使い魔を展開し、急所を探し当てる。
「そうですね、結合部分がやや弱いと思われます。そこを狙えば両断も狙えるかと」
「イヴィルの時と同じだね」
「はい、思いっきりやってみてください」
「なら、こちらも、仕上げにいこう」
クオリアが魔力を込めて、思い切り各方面から打撃を加える。
そのそれぞれの打撃がキメラの魔物の攻撃を束縛し、隙を作り出す。
「グオオオッ……!」
……今が、チャンスだ。
黒鉄の剣に魔力を集中させて、さらに鋭い一撃を用意する。
一点集中、その武器の名前は……!
「アイゼン・シュヴェルト・ライトニング!」
貫く為の一撃。
キメラの魔物の結合部分に鋭く剣を突き刺す。
「グガアアアアッ!」
けたたましい悲鳴が響き、魔物が撃退される。
どしんと音を立てて、巨体が倒れ、光になって消えていく。
……まずはひとつ。うまくできただろうか。
魔物を倒すと、その中から『破滅の日』を引き起こす要因でもある裂け目が現れた。
裂け目は文字通り、空間の裂け目のようなものとなっていて、封印するには魔力が必要だ。
「この裂け目は私が対処しよう」
魔力を思いっきり込めて、クオリアが裂け目の修復を行う。
やがて、目の前にあった裂け目は消え、実験室を覆っていた不穏な魔力は消えていった。
「まず、第一目標達成といったところですね」
「まだ、油断できない。先を急ごう」
「あぁ、まだこれからだ」
次もうまくいくとは限らない。
気を引き締めながら、対処していこう。
再び、集中を高めながら私たちは実験室を去っていった。




