第52話 立ち向かう時
一週間という時間は自分たちが想像している以上にあっという間に過ぎていくもので、何気ない日常を繰り返していく間に『破滅の日』の発生予想日になっていた。
もちろん、その間になにもなかったわけではない。例えば、私が魔法少女に向けて言葉にしたメッセージが魔法少女のSNSに、アニメの予告映像と同時に伝達されていったというのは大きな出来事だっただろう。
「あのメッセージ、凄い反響でしたよね、未来」
朝。戦闘準備を整える前の、朝ご飯を食べる時間。
アイはいつも通りの様子で私に微笑んだ。
「大丈夫だってことを第一に伝えたかったからね。みんなに届いていたなら幸い」
映像が出回ったのち、少し気になって魔法端末を確認して反応を確認することは多くなっていた。
そこから見れる反応はしっかりと前向きなものがたくさん見え、言葉にしてよかったと心から思えた。
「おはよう、アイ、未来。今日もいつも通りだな」
クオリアが寝室から現れ、私たちに挨拶する。
何気ない日常の瞬間。のんびりとした雰囲気だ。
「えぇ、焦っても仕方がないですから」
「下手に緊張して、コンディションを乱すのもよくないからね」
「なるほど、戦う前だからこそ平常心を維持していると」
「そういうことです。あっ、今日の食パンは目玉焼きを乗せてます」
「素直だが、美味しいやつだな。ありがとう」
「どういたしまして」
クオリアが座り、食パンを味わう。
アイが作る目玉焼きを乗せた食パンは焼き加減がちょうどいいのもあってなかなか美味しい味わいなのだ。私も気に入っていたりする。
ゆっくりと食べるクオリアの表情には笑みが浮かぶ。やっぱり美味しいのだろう。
「発生予定時刻は伝えられているか?」
「イヴィルから来た情報によると、午前中にやってくるみたい。お昼時よりは二時間くらい早いくらいの時間かな」
イヴィルから随時報告される内容は、日を増すごとに正確に補足しているらしく、三日前に届いた文章には『破滅の日』発生予測日の午前十時に発生すると断言されていた。そのメッセージの後に、軽く応援の言葉が添えられていたのを見て、彼なりの律儀さも感じられた。
「大体十時くらいですか……終息させられたらいい感じにお昼を食べられそうですね」
「もうお昼のことを考えているのか」
「ふふっ、こういう時は成功した後のことを考えておいた方がいいと思いますので」
「他の魔法少女の準備は問題ないのだろうか」
「少なくとも知り合いの魔法少女はみんな準備を整えられてるみたい」
カランドとシャンテは早朝から音楽を届けられるように花吹雪町で魔法機材のスタンバイを行っている様子がSNSで発信されていた。
『今日はスペシャルライブ! 戦う魔法少女を全力でボクたちが支えるからね!』
『こ、後方支援を行う魔法少女も、応援してるみんなも、一緒に戦ってるはず。あたしたちは音楽で戦うから、協力しあおう』
手慣れた雰囲気で話すカランドに対して、シャンテは少し緊張気味。
とはいえ、両者とも切実に向き合っているということはしっかり伝わってくる。
一方で、レガとクミはまっすぐな応援の言葉を投稿していた。
『みんな! 絶対に大怪我しないようにね!』
『辛くなったら撤退しても大丈夫。支えるから』
『レガちゃんとクミちゃんは花吹雪町で戦うよ! みんなで笑顔で乗り越えよう!』
『また、舞台を見られるように、頑張ろう』
動画にして届けているあたり、切実に届けたかったという気持ちを感じられる。
かなたとかがみのふたりも、しっかり協力の姿勢を取ってくれているというのは私自身の端末に届いた情報から伝わってきた。
『あたしは現地で戦うよ。腕っぷしが落ちてないかは少し不安だけど……まぁ、気合はあるから心配しないでいいよ』
『後方支援としてそれぞれの魔法少女に情報伝達する予定です。専属のサポーターにはなれませんが、優位に立ち回れるように支援します』
各々の準備が整っているのを確認して、私たちも改めて覚悟を決める。
「絶対に負けられないね」
「ふふっ、作戦の中核ですからね」
「私たちにできることをやるべきだ」
「うん、再来した『破滅の日』の終息の為に力を尽くそう」
それぞれの眼を見つめる。
覚悟を決めた表情のクオリア。
マイペースな様子はそのまま、それでも信頼の視線を向けるアイ。
ふたりからは、やり遂げるという意思を強く感じる。
そして、私自身それは同じ気持ちだ。
「誰一人いなくならない戦いを目指して」
「力を合わせれば、きっとうまく行くはずです」
「世界を、みんなで守るんだ」
覚悟を決めて、立ち上がる。
みんなの顔には迷いはない。
「準備を整えたら、出発しよう」
「あぁ、身支度を整えよう」
先ほど起きたクオリアは着替えや戦闘用の道具を用意する為に更衣室に移動した。
ある程度の準備が整っている私とアイが部屋に残る。
「……戦闘前に二人きりのタイミングになるのはなさそうなので、今伝えておきますね」
「どうしたの、アイ」
少し考えて、彼女が言葉にする。
「未来は、私が瞳の後に次ぐパートナーでよかったと思いますか?」
「随分と急な質問だね」
「ちょっとしたセンチメンタルですよ」
そう言いながら小さく笑う彼女。
決戦前だからこそ聞きたいという気持ちが強いのかもしれない。
少し考えて、私は私なりに言葉にする。
「その解答は思ってる以上にシンプルだと思うよ」
「シンプル?」
「アイのお陰で、こうして今の私がいる。だからパートナーになってくれてよかった」
「嬉しい、言葉です」
しみじみと言葉にするアイ。
彼女に対して言いたいことは多い。だから、今、話しておこうと思った。
「日常が楽しいって改めて思えるようになったのも、交友関係が改めて広まったのも、なにげない瞬間が楽しいって思えるきっかけをくれたから」
「わたしだけの力ではないですよ、未来が自分で立ち上がったのも大きいと思います」
「隣で刺激を与えてくれる存在がいてくれたからっていうのも大きいよ? 少なくとも、私の止まっていた時間を動かしたのはアイだって思ってるから」
「そうですか」
その私の言葉を聞いて、アイは嬉しそうに笑った。
いつもの彼女の様子だ。
「そっちの方が安心する」
「なにがですか?」
「不敵に笑って、いつもからかうようなアイの姿を見てると、あぁ、日常だなぁって思える」
「ふふっ、でしたらもっと存在感を発揮しないといけませんね」
「楽しみにしてる」
私もそんな彼女に対して笑いかける。
まだ、私たちは交友を深められるはずだ。これからも、きっと。
「生きて帰りましょう。ひとりで勝手にいなくなったら……そうですね、帰ってきたりした時、それなりに高いお店で奢ってもらいましょうか」
「帰ってくることは前提なんだ」
「えぇ、ひとりで満足げにいなくなるのは許しません」
そう言いながら、笑顔で私を見つめるアイ。
かなりの威圧感を感じる。
「いなくなることは想定してないよ」
「でも、気にはなるじゃないですか、『破滅の日』関連となると」
「封印する時にいなくなるって?」
「はい、それが今回未来の番だったら嫌だなと。かといってクオリアがいなくなるというのも考えたくないですが」
「ストレートな物言い」
「パートナーですからね」
彼女の心配に対して、私は私なりに返答する。
「今回はどんなことがあっても、みんな無事に解決させるつもりだよ」
「仮に、『破滅の日』の封印に自分の身を使ったとしてもですか?」
「うん、戻ってくるつもり」
「戻れる自信はどれほどに?」
「クオリアがこうして戻ってこれたんだから、きっと平気だって信じてる」
「正直なところ、わたしは心配ですが?」
「……そうやってアイが心配してくれるの、なんだか斬新」
「パートナーがいなくなる辛さは未来が一番わかってると思いますが?」
唇を尖らせてむっとするアイ。
なんだか普段見ない表情なのもあって、むしろ嬉しくなる。
パートナーがいなくなるのは辛い。そう、それは私が誰よりもわかっている。
だからこそ……
「意地でも気合でも戻ってくるよ。なんだったら、奇跡のひとつくらい起こすくらいの勢いでね」
「どんな奇跡を起こすつもりです?」
「そうだね……」
少し考えて、言葉にする。
「みんなが笑顔で終われるハッピーエンドになるような奇跡、かな」
「そうですか」
私の言葉を受け止めて、アイは微笑んだ。
「楽しみにしています」
アイとの会話で改めて、決意する。
絶対負けない、と。
「準備ができた。……ふたりで何を話してたんだ?」
ちょうど話が一区切りしたタイミングでクオリアがやってきた。
そんな彼女に対して、アイは嬉しそうに答える。
「指切りげんまんの約束ですよ。まぁ、色々心配させてきたら未来に奢ってもらうっていう感じです」
「なるほど、失敗できないな、未来」
「そうだね、心配かけたら色々注文させられそう」
何気ない会話が繰り返される時間が、いつまでも続くように。
私たちは戦うのだ。
「クオリア、私から言いたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「今日のお昼、一緒に食べよう」
「……そうだな、まだ、食べてないものもいっぱいある」
「約束」
「奢りにならないように気を付けるんだ」
「そうだね、気を付けないと」
戦いの前の時間。決意を固める時。
負けないという意思をもって、私たちは立ち向かうのだ。
家を出て、空を見上げる。
『破滅の日』が再来していない空は、まだ綺麗な青を保っていた。




