第51話 届けたい想いがあるから
花吹雪町を歩くお昼過ぎ。
目的地のスタジオまでまだまだ遠い。
今の町の雰囲気はのどかで、心配そうな顔をしている人はいない。
いつもと違う雰囲気になるのはきっともう少し時間が立ってからなのだろう。
「こういう平和がずっと続けばいいよね」
ぼんやり歩いていると、公園までたどり着いた。
まだ、子供たちが遊んでいて賑やかではあるものの、いつもより人は少なくなっていることに気が付く。
これから、『破滅の日』が近づいていくにつれて人は減っていくのだろう。
「私にできることは……」
戦う魔法少女のみんなを励ますことだ。
私なりに伝えたいことを伝えて、心の支えになる。きっと私という魔法少女だからできることだ。
少しずつ歩く速度を上げて指定されたスタジオまで移動する。
花吹雪町の中でも少し都会な雰囲気が強い敷地まで到達。
建築物が多く、もらった情報を頼りにどこに行くべきか確認していた時だった。
「未来、あたしが案内するよ」
「かがみ」
「ちょっとぶりかな? 音楽の時以来だね」
「こうしてかがみとふたりで話すのは珍しいかも」
「違いないね」
かがみに案内されながらも雑談を続ける。
「未来はさ、結構雰囲気変わった気がするよ」
「そうかな」
「少なくとも、花吹雪町に来た時は結構暗い顔してたな」
「……ずっと引きずってたからね、瞳のこと」
「今も気にしてはいるのか?」
「気にしてないって言い切るのは嘘になるかな。まだ考えることもあるよ」
10年間悩み続けていたことがすぐに解消されることはないだろう。それでも、雰囲気が変わったのは事実なのかもしれない。
客観的に見ても、明るくなっているのは間違いない。
「でも、花吹雪町で新しい出会いがあって、みんなが前を向いて生きているのを見て、私も私なりに生きてみたいって思えるようになったんだ」
「そうだな、今の未来……久遠未来のエピソードは明るい物語がいっぱいだ」
「アニメーション用に渡した資料は結構日常も多いんだけどね」
「いや、それがいいのさ。楽しそうなのは伝わって来たよ。筆圧からも楽しい感情がわかった」
「そんなところからもわかるんだ」
「演技をするときは細部にも気にするからな。そういうのわかるんだ」
「凄いね、かがみ」
こういうのが職人魂というのだろうか。
楽しかった記憶を書き記す時は筆が進んでいたのは覚えている。
「むしろ、ここまで明るい表情が増えてくれたのはあたしから見ても嬉しいって思うよ、未来」
「そこまで戻ってこれたのは、色んな支えてくれた人がいたからだよ」
魔法少女のみんな。
なにげない日常を支えるお店の人。
期待を寄せてくれる存在。
色んな出来事が私を変えていっている。
「だから、恩返しもしたいなって思うんだ」
「今回のメッセージで?」
「うん。少しでも魔法少女の勇気を支えられるように、今度は私がみんなを前向きにする番」
「なるほど、かっこいいんじゃないか」
「できることをするだけだよ。かがみだって役者として魂を込めて演技してたんでしょ?」
「そうだな」
「そういうことができるっていうのもかっこいいと思うよ」
「褒め上手だな」
「お互い様」
かがみと話していく中で、少しずつメッセージとして届ける内容が頭の中でまとまっていく。
移動しながら考えていた内容もあるけれど、しっかりと言いたいことが明確になってきた。
「さて、そろそろ着くよ」
新しい雰囲気がある小型ビルに入り、エレベーターに乗る。
3階の一室。そこにはレンタルスタジオの存在があった。
「待っていましたよ、未来さん」
その空間ではかなたが笑顔でスタジオ内を調整していた。
白い背景の前にしっかりとしたカメラが置かれていて、インタビューするという意思を強く感じる。
「……今になって緊張してきたかも」
「未来でも緊張することあるんだ?」
「いや、こういう場でメッセージを残すのはそうそうやったことがないから」
「そういえば、そっか。瞳はやってたけど、未来は初だったね」
「その、やり直しとかするのは大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫。逆にたどたどしくやってたら心配かけちゃいそうだし、ここはしっかり決めるつもり」
少なくとも頼れる先輩みたいな雰囲気は出した方がいいだろう。
それに、みんなの憧れというイメージを崩すわけにはいかない。
私が魔法少女を不安にさせてしまわないように、集中するべきだ。
深呼吸して覚悟を決める。魔法少女愛染未来として、そして今を生きる久遠未来としてみんなに向き合おう。
そして、『破滅の日』を乗り越えるんだ。
「……覚悟は決まったよ。準備してほしいな」
「わかりました、では荷物を置いてメッセージ発信用にそれぞれ調整してください」
「わかった」
荷物を部屋の端に置いて、魔法少女としての姿に変身してカメラの前に立つ。
大型のカメラは存在感を発していて、少し緊張してしまう。
それでも、心を落ち着かせてカメラに目を向ける。
「準備、できたよ」
「それでは行きます。さん、に、いち、はいっ」
録画が始まり、私はさっそく私なりに話していく。
「みんな、元気にしてるかな。私は愛染未来。『魔法少女ひとみ・アイゼン』の元になった愛染瞳のパートナーだよ」
言葉を詰まらせないように、声を出していく。
「今回のアニメーション『魔法少女みらい・アイゼン』は瞳が去った後の私をモチーフにしたお話になってるけれど」
みんなの顔が過りながら、話していく。
「……暗い話になってるわけじゃないから、安心してほしいな。みんなが笑顔になるお話になってるからっ」
そう言葉にしながら笑顔を見せる。
花吹雪町に戻って来たころの私は暗い顔をしていた。
それでも、今はこうして笑顔を見せることができる。
こうしてメッセージを送れているなんて、前の私に言っても信じてもらえないだろう。
「……『破滅の日』が再来する前にこのメッセージは送ってるから、私なりにエールを送りたいんだ」
胸に手を当てて、寄り添うように言葉を紡ぐ。
「魔法少女としての戦いは時々、辛いこともあると思う。怪我したり、うまくいかなかったり、失敗したり……全部が全部うまくいかないこともある」
自分なりの言葉で、伝えたいことをせいいっぱい伝える。
「けど、そんなとき、支えてくれる誰かはきっといるはずだよ。家族、友達……もしかしたら、見知らぬ魔法少女が助けてくれるかもしれない」
私は助けられてきた。
瞳に、アイに、レガとクミに、シャンテに……みんなに。
友達が増えて、こうして感情豊かに話しているのはみんながいるからだ。
だから、言葉にする。
「大丈夫、ひとりじゃない。きっと、支えてくれる人はいる。もし、今すぐ思い浮かばないとしても……私は魔法少女の味方。だから、私を支えにしてもいいんだよ」
私の存在が誰かの力になるのなら。
言葉を発することで変わるなにかがあるならば。
私は声をあげよう。みんなに届くように。
「私は『破滅の日』を終息させる。そして、みんなが笑顔になるハッピーエンドを目指したい。だから」
息を飲んで、決意をこめて言葉にする。
「みんなも、希望を持って戦ってほしいんだ。どんな些細な希望でも、それはきっと力になるから。アニメを見たいという理由でも、ずっと美味しいものを食べたいみたいな願いでも、どんな願いでもいい。私はみんなの想いを受け取って戦うから」
明るい未来の為に。
決意表明する。
絶対に、負けないと。
「みんなで一緒に勝利して、アニメの本放送を一緒に見よう! 私も楽しみにしてるから、みんなで楽しもう!」
あとひとこと。
何かを付け加えるとするのなら、なにかあるだろうか。
悩み、思い浮かんだ言葉。
それは……
「『想い願ったストーリーは きっと未来に届くから』!」
『瞳の未来』の歌詞だった。
この場における『未来』の意味はひとつだけではない。
私の名前の意味だけではない。将来的な側面の、本来の『未来』の意味もある。
祈りの言葉。
みんなに届けばいい。
そう思って、手を振ってメッセージを締める。
録画状況を確認したかなたが問題ないとサインを送った。うまく行ったみたいだ。
「よかったです、未来さん」
「受け取ったものをしっかり返していきたかったから」
「きっとみんなの励みになるよ」
「あとは、私たちがしっかり戦い抜けばいいんだね」
「あたしたちも戦うよ。みんなで戦えば、どんな敵だって倒せるはずだ!」
「それぞれにできることを、やっていきます」
改めて固まる意思。
できることを行い、『破滅の日』に対抗する。
その日が訪れたとしてもきっと大丈夫だ。
みんなの胸に希望があるのなら、立ち上がれる。
メッセージを録画したお昼過ぎの空は快晴で、この青さがいつまでも続いていくことをただ願っていた。




