第50話 笑顔を忘れないように
準備期間三日目。ちょうど『破滅の日』の再来が訪れる予測日の一週間前になった時、魔法少女用のSNSに情報網が展開されていた。
内容は単純明確。『破滅の日』の残滓が強い影響を与える日があるから力を貸してほしいといった内容だ。特に影響が大きいとされる場所は花吹雪町。それぞれ魔法少女には協力してほしい、と繰り返し書かれている。
情報提供者は大手の魔法少女組合組織。つまり公式発表だ。
「魔法少女に組合組織なんてあったのか……」
家の部屋の中、隣で情報を確認しあっていたクオリアが少し驚いた様子でそう言葉にする。
部屋にはいつも通り私、クオリア、アイの三人が集まっている。
「ある程度、魔法少女独特の文化というのが成立してるのは事実ですね。この魔法端末も別の企業が作っているものですし」
「魔法少女が得るべき情報と、一般市民が受け取るべき情報は違うからね。魔物退治は基本魔法少女が請け負うし」
「一般にはどういう発表がされているんだ?」
「えっと……」
魔法端末から通常のSNSに繋いで、情報を確認する。
そこには端的に『一週間後、魔物の発生が増加する恐れあり。不要な外出はなるべく控えてください』と書いてあった。
ここでも、花吹雪町の住民は特に気を付けるようにと書かれていた。
「こんな感じ」
「魔物も一般人には知れ渡っているのか」
「そうですね、危険な存在なことは把握しているかと」
「今回みたいなケースだと、下手に外に出歩いていると怪我しちゃう可能性も増えちゃうからね。事前に伝えておいたんじゃないかな」
「一般には『破滅の日』とは公表しないのか?」
「それは……」
少し考えて、答える。
「過度な不安を引き立たせたくないってところなんじゃないかな」
「前回の破滅の日は十年前、ちょうど瞳さんが阻止したものですが、その印象が強い方も多いとは思いますね」
「魔法少女がまたひとりまたいなくなるんじゃないか、という心配を無くす為にあえて伏せたという可能性もありそうかなって私は思ってる」
前回の『破滅の日』は大規模なものであった。
今回がどれだけの影響があるかは正直わからないけれども、不安を増幅させてしまうと状況が悪くなることもあるかもしれない。
だから、魔法少女のみんなにだけ伝えたといったところだろう。
「それで……『破滅の日』の残滓について魔法少女はどう捉えているんだ?」
「ちょっと待ってね、画面を戻す」
SNSの画面を切り替えて、魔法少女用のものへと変更する。
そこに書いてある内容には心配の声が多くあがっていた。
『魔物が強くなってるの感じるから、怖いなぁ……怪我しなければいいけど』
『魔物退治は大切だから協力はするけど、ちょっと心配』
『こういう発表そうそうないからプレッシャー凄い。大丈夫かな』
前向きな声もないわけではないものの、どちらかというと不安を言葉にしている魔法少女が多い印象だ。
私たちのように強力な魔物に対抗できるのならともかく、そうでない場合、やはり心配が勝ってしまうのはやむないだろう。
「あら、カランドさんのアカウントが動いてますね」
アイが発見したカランドの投稿を見せてくる。
『内気になってるそこの君たち! ボクは一週間後、戦いながら魔法少女のみんなの届ける特別ライブを行うよ! 当然、全世界に届けられるように音響道具もきっちり用意済み!』
『歌をバックに戦うって、なんだかアニメの主人公みたいじゃないか? ロマンを感じようじゃないか!』
……なんというか、彼女らしい投稿だ。
励まし方もぐいぐい攻めてるような感じの印象。
「引用ではシャンテが、魔法少女に対しての励ましの言葉を送ってますね」
『不安も心配もあると思うけど、あたしたちはあたしたちにできることをやるつもりだよ。だからみんなも……無理しないで、命を大切にしながら立ち向かおう。みんなの平和を守るんだ』
等身大の魔法少女としての言葉に、大胆な行動をとる存在の大きさ。そのふたつに励まされて、気合を入れ直している魔法少女も少なくなかった。
中には、カランドの歌をバックに歌うなんて素敵だといっているアカウントもあった。
「凄いな、影響力」
「有名な人の力って凄いものなんですよ」
「……未来はそういうのしないのか?」
「残念ながら、私のSNSアカウントは基本見る用だから……」
「発信力は弱いんです。多分、私のアカウントの方が横の繋がり多いですよ?」
「そうだったのか、意外だ」
「下手に不特定多数の場で私として言葉を発すると変なトラブルが起きちゃいそうで、自重してたんだ」
多分、私がなにか鼓舞の言葉を発したら影響はあるのだろう。
それでも、その行動を行うのは今ではない。もっと適切なタイミングがあるはずだ。
それを今は待つべきだろう。
「私たちも相応の準備はしておいた方がいいのかもしれませんね?」
「具体的にはどんなことをするべきだろうか」
「道具を使うなら、道具整理を行うとか」
「基本拳があれば十分だ」
「……まぁ、私も魔力がしっかりある状態なら長時間戦えるよ」
「支援用の使い魔もそれなりに元気ですし、いまのところは問題ありませんね」
そこで話が止まってしまった。
……準備をする、となってもなかなか思い浮かばないものだ。
「当日、不健康にならないようにしよう」
「遠足ですか?」
「それぐらいの気持ちでいた方が、気持ちが落ち着くかなって」
「破滅の日を食い止める手段はどうする予定なんだ?」
「それは……」
ふと、瞳のことが頭を過る。そのことを考えると胸が締め付けられる感覚になる。
でも、今は別の手段も取れるはずだ。私の考えを言葉にする。
「前にかなたと話してたように『破滅の日』を再度生成している裂け目に対して、正の感情をぶつける」
「具体的に、誰がその感情を集めるだろうか」
「私が正の感情を引き寄せて、思いっきりぶつけるつもり」
「『破滅の日』の裂け目ではどんなことがあるかわからない。それでも……役割を請け負うのか?」
不安そうな声。
それに対して、私はなるべく笑顔で答える。
「誰にも犠牲になってほしくないからね」
「本来は私の役割だろう」
「クオリアには封印する為の道標を作ってほしいんだ」
「道標?」
「うん。私が確実に成功させる為に、色んなものを守ってほしいんだ」
「守る……」
その言葉で表情が曇る。
アイはそんな彼女の表情を見て、静かに続けた。
「夢を、叶えてみませんか?」
「私が世界を守るのか?」
「えぇ、自分の意思で、誰かを守る。その意思を貫き通す。きっと、クオリアさんの気持ちも晴れると思うのです」
「……私にその資格があるかはわからない。だが、もし、それを成し遂げられる瞬間があるのなら……」
決意を固めた表情でクオリアが言葉にする。
「より多くのものを守れるように、善処したい」
「ありがとう、クオリア」
「未来も、無理だけはしないでほしい」
「当然、気を付けるよ」
みんなで結束しあう。
誰一人犠牲にならない幸せな決着を目指して、私たちは進んでいくのだ。
「ふふっ、みんなやる気になってるみたいですよ」
満足げに私たちを見つめ終えたのち、再び端末を見るアイ。
彼女が端末を私たちに見せてきた時、レガとクミが励ましの投稿を送っていることに気が付いた。
『レガちゃん、クミちゃんは花吹雪町でみんなと一緒に戦うよ! もちろんうーしーちゃんも仲良く参戦!』
『不安もあるだろうけれど、大丈夫。みんなで無理をしないように戦えば、きっとうまくいく』
『もし辛いとか、苦しいとか、そんな気持ちになった時は私たちの舞台を思い出して!』
『どんな時だって私たちの舞台はハッピーエンドで終わってた』
『そう! 今回だって、幸せな結末になる! だから、一緒に頑張ろう!』
『今回、新しい秘密道具もあるので、現地で戦う人は楽しみにしてね』
元気な二人組の投稿。それを見て、私も頑張りたいという気持ちが増してくる。
「負けてられませんね」
「うん、なんだか私もエールを送りたくなってきた」
「未来の言葉ならきっと励ましになるよ」
「でも、どうやって届けるべきか……」
私も前線で戦う魔法少女としてなにか言葉を伝えたい。けれども、自分のアカウントではなかなか伝えられないだろう。
悩んでいた時だった。
魔法端末から音が鳴り、通話が繋がっていた。
「誰からだろう」
確認してみたところ、かなたからだった。
早速通話を行うことにする。
「かなた、どうしたの?」
「ひとつ、お願いしたいことがありまして……少し、早急に来てもらえますか?」
「トラブルでもあったの?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ……」
少し考えたのちに、彼女が言葉にする。
「アニメーションのPVの終わりに、魔法少女のみんなに伝える、未来さんのメッセージが欲しかったんです」
それは、私が望んでいたチャンスだった。
この機会を活かせば、伝えたいことも伝えられる。
「是非、よろこんで!」
「ありがとうございますっ! スタジオを用意してますので向かっていただけると幸いです!」
「いつ行けばいい?」
「……本日、お願いしてもいいですか?」
「わかった」
「ありがとうございます。場所、送っておきますのでよろしくお願いしますっ! ではっ」
そこで通話が途切れる。
ちょっと大変だけれども、やれることが増えたのはいいことだ。
そう思い、身支度をする。
「行くんですね」
「うん、みんなに希望を届けられるようなメッセージを考えないとね」
「応援してるよ」
「ありがとう、しっかり伝えたいことを伝えるね。今日も魔物退治の留守番お願い」
「任された」
「はい、頑張ります」
それぞれ準備を行い、外に向かう。
どんなメッセージを伝えるべきか。それを頭の中で考えながら、私は現地に赴くことにした。




