第47話 想いを繋げて
かなた、そしてイヴィルと会話を行い、家に帰って来た日の夜。
状況について話したのち、私はひとり、考え事をしていた。
夕食を食べ終わった後、色々考えたいと言ってひとりの時間をもらっていたのだ。
『破滅の日』がいつ発生するかわからない、そんな漠然とした不安はなくなった。
しかし、次に考えることは、どうやってみんなで立ち向かうかだ。
友人の魔法少女は手を貸してくれるだろう。
アイも、クオリアも協力してくれるし、名前も知らない魔法少女だってきっと手伝ってくれると信じている。
しかし、それ以上に気にしてしまうことがある。
「あの日と同じような結末を迎えるには、どうすれば……」
考える。
ただ、ひたすら悩んでいく。
なにも策もないままに『破滅の日』を迎えたならば、きっと瞳との離別のような結末が待っているだろう。
『破滅の日』を終息させるために、魔力を持った魔法少女が裂け目に向かい、この世界からいなくなるという結末。
それは避けていきたい。少なくとも、その結末は私が納得しないから。
「十日後にすべてが決まるのなら、考える時間も短くしないといけないんだけどな」
長いようで短い十日という時間。
状況によっては前後する可能性だってあるし、悩んでいる時間は少ない方がいいはずだ。
それなのに、私は答えを見つけ出せていない。なかなかもどかしい。
机に置いてあるお茶を飲むと、喉か乾いていたことに気が付く。緊張もしているのだろう。
「あんまり私らしくない」
『破滅の日』の魔物と戦う覚悟はある。
誰かを守ることも、助けることも視野に入れている。
それでも緊張、そして不安を感じているのはかつての『破滅の日』で発生した別れの部分が大きいからだろう。
瞳も覚悟の上で終息の為に戦った。その家族だって同じ気持ちだっただろう。だから、当時の結末を後悔しているわけではない。
ただ、それと似たような状況が発生するとなると話は変わってくる。私の行動で何かを変えられるのなら、悔いのないように選択したい。
その気持ちは強まっている。
「それで、動けなくなってるとよくないんだけどね……」
迷いは判断を鈍らせる。
最後の瞬間まで、どうするか悩んでいたらきっと選べたはずの選択肢だって選べなくなってしまうだろう。
だから、再度発生する『破滅の日』までに決着をつけないといけない。どうやって向き合うかを。
いくら考えていても思い浮かばない。
今日はもう考えるのを辞めるべきか。そう思った時、閉じていた扉を叩く音が聞こえた。
「少し入ってもいいか」
その声はクオリアのものだった。
「大丈夫、今は問題ないよ」
扉を開き、クオリアが私の目の前に座る。
いくつか戦闘を行ってきたからか、服が少しボロボロになっていたものの、彼女自身にはそこまでの怪我はなさそうだ。
「帰って来た後、少し暗い表情になっていたように思えたが……今はすっきりしたのか?」
クオリアの第一声は心配だった。
自分でも、表情に出るくらい深刻に考えていたのかと驚く。
「正直に言うとすっきりはしてないかな」
「『破滅の日』を今の、終息した時代に引き寄せたのは私の責任でもある。いざという時は私が……」
「再び、封印する?」
「あぁ、今度こそみんなに求められた魔法少女としての役割を果たそう。たとえこの身がなくなろうと」
そう言葉にする彼女に迷いはない。
かつての瞳と同じような眼をしている。覚悟や信念の強い意志を感じる眼。
そんな彼女に対して、私は静かに呟いた。
「……本音を言うとね、私はもう誰にも犠牲になってほしくないって思ってるんだ」
「私が封印に向かうのに抵抗があると」
「目の前で、知ってた人がいなくなっちゃうのはなるのは辛いから」
「……私は大昔の魔法少女。知り合って間もない私がいなくなったとしても気にする人は少ないはずだ」
「私は、寂しく思うよ」
「それは悩ましいな」
会話が少しの間止まる。
どういう風に言葉を切り出していいかお互いに悩んでいるのだろう。
……少しでも、言葉を伝えたいと思って私はクオリアに向けて再び話すことにした。
「私はクオリアにもっと世界のことを知ってほしいって思うし、生きていてほしいって考えちゃう」
「それはどうしてだ」
「友達だから、かな」
「だが、私が責務を果たせば『破滅の日』が終息する可能性は高い」
「……我儘なのはわかってるんだ。でも、誰かが犠牲になる結末はもう、味わいたくない」
「手段は思い浮かぶのか?」
「まだ、悩んでる。だから、浮かない顔になってるのかも」
苦笑しながらそう答える。
ここまで思い詰めるのは久しぶりだ。
そう、瞳がいなくなることを決意した日もこんな気持ちだったっけ。
重い空気が流れる部屋。
静かな部屋に再び、トントンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「アイ?」
「入りますよ、未来」
許可を取るまでもなく彼女は私の部屋に入って来た。
「あら、クオリアさんもいたのですね」
「色々悩んでいたもので」
「なるほど、作戦会議中でしたか」
「そこまでいいアイデアは思い浮かばなかったけど……」
「よくあることです、気にしない方がいいかと」
アイも座って会話に加わる。
彼女は私たちよりは明るい印象を今は感じる。
「『破滅の日』の対策会議といったところですよね」
「察しがいいね」
「ふふっ、パートナーですから」
「どう終息させるかを考えていた」
「……クオリアさんが犠牲になる選択を取ろうとしているのもなんとなくわかりますよ」
「見ていたか?」
「さて、どうでしょう」
本人ははぐらかしていたものの、近くに浮遊していた使い魔が動いていたことに気が付く。なるほど、アレを使っていたのか。
それなりにアイも気にしていたのだろう。みんなの動きに注視していたのは彼女らしい用心深さと言える。
「少なくとも、今回の『破滅の日』は前回と状況は違うことは把握しておいた方がいいかもしれませんね」
「前回……未来が対応していた時のものか」
「そうですね、その当時の記憶は未来が詳しく知っていると思いますが、どこか違う点はわかりますか?」
「ええっと」
少し考えて、状況の違いを分析する。
当時の状況。
劇的に変化した日常。凶暴化した魔物。不安に駆られる人々。
言ってしまえば、世界の終焉のような時間や空間だったことを覚えている。明日が訪れると考えている人も少なかったような記憶もある。
「劇的に絶望している人が少ない」
「そうです。今回の『破滅の日』はどちらかというと未来さんが対応したものと違い、小さな絶望が積み重なっているように思えます」
「つまり、負の感情の影響がそこまで大きくないということか」
「なんだか真正面から対抗できそうだと思いません?」
「真正面から対抗」
「未来、思い出してください。この騒動前に私たちがやっていたことを」
そう言いながら視線を誘導する彼女。
そこにはアニメーション制作用のメモを記載したノートが置かれていた。
ノートを手に取り、その感触を味わう。しっかり書き込まれたノートには思いが込められている。
「アニメーション作りのことなら忘れてないよ。今もしっかり記載してる」
「それを武器にして、戦ってみるというのはどうでしょうか」
「鈍器にでも使うのか?」
「ふふっ、そちらの意味ではありませんよ。負の感情に対抗する手段。明るい、正の感情を引き起こすんです」
「……それはそれで、なんだかかなたたちが悲鳴を上げそうだけど?」
「世界を救う為です、安いものでしょう?」
そういって悪い顔をするアイ。
少しずつ部屋の空気が良くなっていくのを感じる。
新しい希望が見えてきた、といったところだろうか。
「『破滅の日』の再来の当日までに、楽しい感情で花吹雪町を、世界を満たすんです。そうすることで裂け目の影響を弱め、魔法少女で協力することによって終息させることを狙うんです」
「そんなことができるのか?」
「負の感情から発生した魔物は明るい感情を嫌います。そして『破滅の日』も似た性質を持っています。確実にうまくいく、とは断言できませんが有効な手立てにはなるかと」
「なるほど、やってみる価値はありそうだ」
「明るい気持ちで押し返す……瞳の時とは違うやり方だけど、やってみたいな。ありがとうアイ。こういう手段を考えてくれて」
「あら、この作戦を思い浮かぶきっかけになったのは他ならぬ未来がいたからですよ?」
「私?」
首を傾げる。
悩んでいた私になにか思い浮かばせるきっかけはあったのだろうか。
困惑している私を見てふふっと笑いながら彼女が答えた。
「かつての戦いでは、瞳さんを支え、イヴィルさんとの闘いの時にその場のみんなの希望を背負って戦い、音楽作成の時だって過去を見つめて自分なりの音楽を作成した。前向きにしていく力が未来にはあるんですよ」
「前向きにしていく力……」
「まぁ、悩んでしまうことが多いのは弱点ではありますがね」
「褒めてばっかりではないんだ」
「パートナーですので、指摘するところは指摘しますよ?」
「そっか」
彼女の言葉に思わず笑みがこぼれる。
私が歩いてきた物語が今を繋げてくれている。
支えてくれる人がいる。
その事実が今はとても嬉しい。
「……なら、私も明るくなれるようになにかしないとな」
「魔物退治をしていない時はなにか食べに行きましょうか。美味しいものとか」
「食べすぎるのはできないからな」
「ふふっ、大丈夫です。もっと長い時間たっぷり食べたいって思えるようにしますから」
「大変そうだ」
「でも、楽しいと思いません?」
「そうだな」
悩んでいた時間が解消された事実。
そして、新しい希望に向かっていこうという意思が増えていき、気持ちが高揚していく。
みんなの想いを繋げて、私たちは困難に立ち向かう。
談笑するふたりの姿を見つめながら、私は前を向きたいと思った。




