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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第三章 幾星霜のクオリア、願いを紡ぐ未来
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第46話 魔法少女の選択肢

 アイ、そしてクオリアと『破滅の日』を調査する日々。

 知り合い魔法少女が協力してくれることを約束してくれたものの『破滅の日』の再来に対しての手がかりはあまり進展がなかった。

 しかし、そんな中かなたがひとつ連絡をくれた。なにか、状況が変わるかもしれない。

 そう思いながら支度する。今日はひとりでの行動になる。これは、魔物の発生は夜以外にも起きることがある為だ。

 私が会話している間にも、強力になっている魔物と対応できる魔法少女はいた方がいいというかなたの判断でもある。


「魔物が急に発生した時の対応は任せるね」

「花吹雪町の魔物の動向は眼を光らせて対応します。安心してくださいね」


 微笑みながら彼女がそう返答する。

 頼りになる返しだ。


「魔物の撃退は任せてもらおう。魔物退治は慣れている」

「切り詰めすぎないようにね、クオリア」

「……善処しよう」


 クオリアは魔物を撃破することには問題ないと言った様子ではあるものの、やや責任を感じている部分があるのかもしれない。

 帰ってきた時に支えるような言葉を口にしたい。


「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい、未来」

「気を付けて」


 ふたりに見送られて、家を出る。

 かなたに案内された場所、それは魔法で形成された会議室だ。

 実力のある魔法使いや魔法少女は自分で一定の空間を作成することができる。人目につかないような場所に空間に繋がる扉を生成して、ひとつの部屋を創るというやり方だ。今回、かなたはそのやり方を利用しながら会話の空間を作ったのだ。

 『破滅の日』の話題は、あまり表に出すべきではないだろうという判断だろう。街のカフェなどで話して、噂話が広まってしまったら大変だ。

 私も公園で話す時は他に人がいないのを確認して会話として切り出したくらいには意識はしている。

 街はずれ、人がいない静かな道。そこで魔力感知を行う。

 少しの時間が経過したのち、かなたの魔力を感じる場所を見つけることができた。


「ここかな」


 そっと手を伸ばし、魔力に触れる。

 すると、しっかりとした木製の素材をイメージした扉が現れた。

 小さく息を吸って、扉を開く。


「こんにちは、未来さん」


 そこには机越しに椅子に座っているかなたの姿があった。

 私も向かいの椅子に座り、彼女の目を見つめる。


「かなた、こんにちわ。前、イヴィルに会いに行った時、手続きしてくれてありがとう」

「どういたしましてです。未来さんが教えてくれたことがきっかけで色々見えてきた現状もありましたから」


 静かに俯き、すぐに顔を上げる。

 なかなか難しい状況なのかもしれない。


「現状って?」

「私も魔法使いとして多くの魔法少女の方の戦闘支援を行うことが多くなっているのですが、漠然とした不安を抱えている方が増えていると感じるのです」

「なんとなくでも『破滅の日』の気配を感じてる魔法少女がいる、みたいな」

「はい。察しの良い方は、破滅の日と絡めて考えている方もいました。しかし、それ以上に……最近出没している強大な魔物に対して感じる暗い感情が多いみたいなんです」

「魔物に対する暗い感情……」


 平和が続かないことに対する焦燥感みたいなものなのだろうか。

 少し考えている間に、かなたはその答えを言葉にしていた。


「一番多かったのは自分に対する無力感です」

「普段は撃退できるような魔物も、強力になってしまうと倒せなくなってしまう。……自分ひとりで倒せない相手っていう感じになっていくとどうしても劣等感を感じちゃう子は感じそうだけど……」

「強敵への挫折、自分の限界を感じること……そうした感情から発生する無力感は魔法少女の力を弱めてしまいます」

「魔法少女は夢と希望を背負うものと表現する作品もあるけど、現実でも無関係とは言えないのも事実だからね……」


 負の感情で作られている魔物に対して、負の感情をぶつけても効果的な一撃を加えられることはそうそうない。

 前向きな気持ち、言ってしまえば正の感情が強ければ強いほど、魔物に対して効果的な一撃を与えられる。

 多くの魔法少女が挫折を味わっている状況はよろしくないと言えるだろう。

 それに、私自身その状況は気にしてしまう。


「魔法少女の生き方は戦うだけってわけではないから、そこに気が付けば回復しそうなんだけど……」


 極端な話、魔物を倒さなければ魔法少女は生きていけないというわけではない。

 日常の人助けを重点的に行っている魔法少女もいれば、魔法の力を使って芸術を研究している人だっている。

 お悩み相談をしている魔法少女だって聞いたことはあるし、そもそも私の友人の魔法少女はみんな魔法を扱いながら自分なりの生活を確立している。

 戦うだけが全てではないのだ。


「しかし、頑張っている方を見かけると、自分もやらなくちゃいけないって思ってしまうのも仕方がない話ではあります」

「無理して身体を動かしてたら、心の方が先に悲鳴を上げると思う」

「……実際、沈んだ表情を浮かべている方は多くなっています」

「早期解決しないといけないね」

「未来さんたちの活躍によって鼓舞されている魔法少女がいるのは不幸中の幸いではありますが、それだけだといつか被害が出てしまいます。そのため……」


 新しい魔法の扉を召喚して、かなたが誰かを案内する。


「蛇の道は蛇。専門家の協力を得た上で行動したいと思います」


 そこから出てきたのはイヴィルだった。

 拘束されている様子は今はない。

 それどころか、ノートパソコンのような機械を用意している。


「まったく、責任重大じゃないか。一時釈放なんて人生初だよ」

「今は協力するべき状況ですので。それに、功績を得られれば釈放が早まるかもしれませんよ」

「まぁ、いまさら釈放の為に頑張ろうとは思わんさ。夢を守る魔法少女さんの為に手を貸すよ」

「イヴィル、なにかわかったことはあったの?」

「気持ちが早いな」

「それだけ事態を解決したいということです」

「そうだな……」


 キーボードを叩き情報を用意するイヴィル。

 なにか他のことを喋らずにいるあたり、きっちりとした契約のもと協力しようという意思を感じられる。


「まず、第一だ。状況は実は悪くなっている」

「魔法少女の負の感情が広まっているから?」

「ご名答。日常的ストレスと、非日常的ストレスが交じり合って、少しずつ『破滅の日』の影響が強くなっているな」

「……友人と話していたけど、どんよりとした気持ちになりやすくなる人が多くなったりすると」

「そうした魔力とかの影響が強いやつはそうなってるだろうな。現に刑務所でも影響を受けてる奴はいた」

「そうなると、どうにかして終息させないと危険なことになる」

「まどろっこしい話をするのは面倒だ。『破滅の日』の状況について端的に話そう」


 そう言いながらキーボードをさらに速い速度で叩くイヴィル。

 数秒したのち、彼は私に対して画面を見せて、断言するように言葉にした。


「あと十日。今日から数えて十日後に『破滅の日』の再来が発生する可能性が高い」


 画面の中には予測データがいくつか描かれている。

 統計的なデータはわからないものの、他の日数に対して十日後の確立が非常に高くなっていた。 


「どういう計算でそう分析したのですか?」

「負の感情の揺れ動きの予測の幅が大きかったというのもあるが、一番の理由は単純だ」


 画像を見せて、確認させる。

 それは夢の中で見た百年前の『破滅の日』の終息記録だった。


「クオリアの……!」

「そう、記録上自然消滅した、過去の『破滅の日』が活性化した日だ」

「過去の意思も影響しているということ、でしょうか」

「その可能性もあるだろうな。そのクオリアって魔法少女は百年前の魔法少女なんだろう?」

「うん、当時の『破滅の日』を封印してた」

「で、その魔法少女が今に復活した。となると、この日が濃厚になるのも変な話ではないだろう」


 ここに来て、明確な時間が把握できた。

 『破滅の日』が再来する可能性が高いのは十日後。

 その付近には戦いの準備をしなければならない。


「さて、ここからが問題になるわけだが、久遠未来」

「『破滅の日』の封印には犠牲が必要な可能性が高いってことだよね」

「確実な対処をするならば、犠牲の上での勝利が正解になるだろうな。きっとクオリアという魔法少女も自分の身を投げうって世界を救うのなら甘んじて受け入れるだろう」

「それでも私は」

「最後まで別の手段を探すっていうんだな?」

「うん。誰かがいなくなることのない、笑顔になる結末を迎えたいから」

「未来さん……」


 小さく心配そうに見つめるかなた。

 それでも私の意思は変わらない。


「ギリギリまで悩んで、私なりに答えを見つけて、ぶつかっていくしかないんだと思う。正しい選択肢はひとそれぞれ違うだろうし、結末だって選んだ道によって変わっていく。でも、後悔はしたくないんだ。あの時もっとなにかできたんじゃないかって考えないように」

「なら、僕たちもそれなりに頑張らないといけないな。世界を救う為に」

「そうですね、やれることをやっていきましょう」


 いざという時に後悔のない選択肢を取る。

 自分の心のままに、できることをする。

 全てがうまく行く保障なんてない。それでも、前に進むんだ。

 イヴィル、そしてかなたと会話する時間。私はただ、自分にとれる選択肢を考えていた。

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