第45話 手を取り合って
マジックショーが終わり、片付けを行うレガとクミ。
ちょうど人も少なくなってきていたので、私たちは彼女らに改めて挨拶を行うことにした。
「おつかれ、ふたりとも」
公演に赴く前の道でそれとなく買っておいたお茶を手渡す。
「ありがとっ」
「みんな来てくれて、こっちとしても嬉しいです」
お茶を飲んで水分補給を終えたふたりが、私たちの方に振り向く。
私とアイの隣には、先ほどまで舞台で目立っていたクオリアの姿もある。
「クオリアさんは新しい知り合いなんだよね、きっと」
「そうなるな。今は未来、そしてアイと行動を共にしている」
「魔法少女、ですか?」
「あぁ、昔は久遠莉愛と名乗っていた。まぁ、今はクオリアと自称しているが……」
「久遠……!」
その言葉を聞いて、ふたりが私の方に振り向く。
関係がありそうといった感じなのだろう。その視線を受け止めながら、私は答えた。
「苗字の一致は偶然って言えば、偶然だよ。私も最近になるまでクオリアのことは知らなかったし」
「役割が近い関係ではあるが、子孫や先祖といった関係かと言われたらなんともいえないな」
「……子孫、先祖?」
「クオリアは百年前の魔法少女なんだ」
「ええっ」
その言葉に対してびっくりするレガ。クミは感嘆の声をあげて頷いていた。
「す、スーパー大先輩っ」
「百年前といっても少女なんですね。なんていうか魔法少女って凄いです」
「まぁ、しばらくこの世界には顕現してなかったから、そこまで精神年齢には大差ないとは思う。そんなに先輩ではないよ」
「顕現って、どういうこと?」
「未来、説明しますか?」
「うん、しっかり伝えておかないとね」
質問攻めになってしまうのもよくないだろう。
そう思って、クオリアの状況、そして私たちがいま抱えている悩みを打ち明けることにした。
クオリアが過去の魔法少女で、かつての『破滅の日』を封印を試みた存在のひとりであること。
しかし、その封印が完璧なものではない為に、再び『破滅の日』が大規模なものではなくとも再来するということ。
現状、被害はないものの『破滅の日』の再来の影響か魔物が強化されていて、多くの魔法少女の不安が広まっている事実。
そして、『破滅の日』を終息させるため空間の裂け目を発見するような手がかりが見つかっていないこと。
それらを全てレガとクミに話した。
「クオリアと関連する出来事はこんな感じ。……魔物については、話題にあがってたりした?」
「そうですね、うーしーちゃんをきっちり稼働させてもなかなか撃退できない魔物がいたりはしました」
「みんなが見てるSNSでも不安を打ち明けてる子は多いなぁって思ってたけど、まさかそんな事情があったなんてね」
「『破滅の日』の話題は人によってはかなり気にしてしまうものです。こうして直接お話できるような方に伝えるくらいがいいと思いまして」
「確かにそうだね……話題になっちゃうと混乱も引き起こしそうだし、知っている人は限られていた方がいいかも」
レガがしみじみと頷く。
魔物の強さが変わっているのはもう周知の事実といっても過言ではないのかもしれない。
知り合いの魔法少女全員が遭遇しているのもあって、『破滅の日』の影響は増えていっている。
「すぐに『破滅の日』に対処できるのなら、それに越したことはないのだが、うまく行かない状況なんだ……すまない」
「この前戦ったイヴィルっていたでしょ? 彼にも話を聞いて、魔物が凶暴化しやすいであろう場所は狙って調査してるんだけど、なかなか進展がないんだ」
「外に出たら危険な魔物は処理できてるとは思うのですが……なかなかままならない状況で」
「あの人にも頼ってたんだ……かなり本格的」
「それでもその場対処になってしまうあたり、難航してるのがわかります」
どうするべきか思い浮かばない状況。
そんな中、レガは決心したような表情で頷いた。
「せめて、レガちゃんもクミちゃんも、魔物退治とか協力するよ!」
「そうですね、魔法少女の危機は避けるべきです」
「ありがとう、ふたりの協力、すごく助かる」
「あと……みんなの笑顔を増やしていく! これも大切だよね」
「笑顔を?」
「だって、魔物は不安や心配みたいな負の感情から発生するものだからね! そういうのを忘れられるように頑張らないとっ」
「大変ではないですか?」
「大丈夫大丈夫、お客さんの為ならすっごく頑張れちゃうからっ」
そういって笑う彼女。
それぞれが行動すれば見えてくるものはあるかもしれない。
新しい協力を得られて安全が増した。魔物は花吹雪町で強力になっている。私の手が届かない場所でも手助けしてくれるのはありがたい。
「あとは『破滅の日』に立ち向かうだけではありますが……」
「ひとみ・アイゼンのアニメの時みたいに、予兆みたいなのはないのかな」
「47話でも語られてた空が赤くなる現象のことだよね。急に世界の空の色が変わって、魔物が大量発生したやつ。あの時は、大型の魔物を倒した時に発生していた記憶がある」
町を襲う大型の怪獣のような魔物を撃退した瞬間に、空が赤く覆われて魔物がさらに凶暴化したのを覚えている。
まるで、今までの努力を嘲笑うような、絶望を煽る展開だ。
私の話を聞いて、アイは考えながら話す。
「当時の『破滅の日』にはある程度の意思が存在していました」
「意思? どういうことだ」
「私のような自由に行動できる魔物に恐怖を煽らせる……そういった手段でも負の感情を集めていましたね」
まぁ、わたしは生まれつきそういうのに興味がなかったのでやっていませんでしたが、と笑いながらアイが続ける。
「当時の現象は文字通り絶望を煽る展開だったと言えるでしょう。効率よく人々を絶望させ、負の感情を活性化させることによって魔物を増やす。そういった意図があったように思えます」
「あれ、でもそうなると不思議だよね。なんで今再来してる可能性がある『破滅の日』はそういうことをしないの?」
「そうですね、そちらの方が確実に混乱を招けると思うのも自然だとは思うのですが……」
ふたりが疑問をぶつけている最中、クオリアは静かに答えた。
「今回の『破滅の日』には意思のようなものはないのかもしれない」
「衰弱しているから、でしょうか?」
「私による封印が衰弱させていたという可能性はある。それと同時にあまりにも相手の動きが漠然としすぎている」
「目的もなく、不安を引き起こしていると」
「世界の破滅を意図して発生させるものではなく、少しずつ不安と絶望に人々を陥れる存在になっている……そう、思うんだ」
「つまり、『破滅の日』としての性質が異なっているということ?」
「そうなる」
私や瞳が対処していた『破滅の日』が人類の根源的な破滅を狙っていたのだとしたら、今回対応する『破滅の日』は人々の気力を失わせることに重きを置いているという感じになるのだろうか。
漠然とした不安が積み重なると、人は行動を起こすのが怖くなってしまう。そうした恐怖といった負の感情を利用して成長しているのか。
「そうなると……放置していると、徐々にみんなから元気が失われちゃうってこと!?」
「今は魔物の強大化ほどの影響ではありますが、成長すると人の気力を奪う性質は獲得する可能性はありそうですね」
「うぅ、それはよくない! みんなが笑顔じゃなくなっちゃう世界なんて絶対よくない!」
「しかしながら、対処が悩ましいですね。どうやって相手につっつくべきか……」
最終的な話の流れは戻ってきてしまう。
そう、どうやって今回の『破滅の日』に対処するか。どのように封印するか。
そのふたつに絞られる。
そして今は、その手段が思い浮かばない。
どうすればいい、どうすればいい。頭を悩ましていた瞬間、私の魔法端末に連絡が届いた。
『未来さん、後日、時間をいただけますか?』
『あの後、イヴィルさんと話し合ってある策を考えました。一緒に相談に乗ってほしいのです』
かなたからの連絡。それは、新しい希望を感じさせる文章だった。
「かなたが何か、策を用意してくれるみたい」
「ベストタイミング! でも、レガちゃんたちだけだと思い浮かばなかった策ってなにかあるかな」
「イヴィルも手を貸してるみたい」
「負の感情のエキスパートさんもいるのですか、それは期待できそうですね」
「クミちゃん、ちょっと目が怖いよ?」
「ふふふ、うーしーちゃんに変なことした恨みはちょっと根に持ってますので」
それぞれが問題に向かって立ち向かう時間。
うまく行く保障がなくても、まっすぐ明るい気持ちでいればきっとうまくいく。そう信じている。
「いまは私たちにやれることをやっていくべきでしょう。くれぐれも気落ちしすぎないように」
「平気平気、レガちゃんはいつだって元気だもの!」
「私の問題につき合わせてしまって申し訳な……」
「そういうの気にしない! ほら、クオリアさんも笑顔笑顔!」
「わ、そ、そんなに笑顔は得意じゃ」
「いいんだって、ほら!」
明るい明日の為に戦おうとしてくれるみんながいる。
その事実がいまはとてもありがたい。
「レガ、お腹が空きました。お昼を食べたいです」
「そういえば、ちょうどいい頃合いですね。みんなでお昼を食べに行きましょうか」
「やった! じゃあ、今日はなんとなくサンドイッチの気分!」
「サンドイッチか……さっぱりしたのが食べたいな」
「レガちゃんはもちろん! 激辛トッピング!」
「いつかお腹が凄いことになりそうですね」
「ならないって! レガちゃんのお腹は丈夫なのだ!」
なにげない日常だって、大切だ。
守りたいと思える日々があるからこそ、戦える。
お昼を食べに向かうみんなの笑顔を見て、私はもっと頑張ろうと改めて思えた。




