第44話 笑顔は寄り添うように
クオリアと共に魔物退治を繰り返す日々が続く。
『破滅の日』が発生するという気配は感じられない。しかし、少しずつ日常に影を落としているという事実は存在していた。
「魔法少女が苦戦しているという事態が多くなっていますね」
深夜のパトロールを一定数済ましたのちの朝。
目覚めたアイが、食卓にて魔法端末を動かし、SNSを調べながらそう呟く。
食事を終えたのち、私もその情報を確認していく。この手の情報は実体験を呟いている意見を参考にすると事態がわかりやすいということもあるのだ。
『昨日の魔物、やたら強かった……とっておきの魔法も弾かれちゃうし、大怪我しちゃうかと思った』
『そんな相手がいたなんて……大丈夫?』
『それは大丈夫。ちょうど花吹雪町でパトロールしてた未来さんが助けてくれたからっ』
『他の魔法少女のところにも助けに入ってるみたいだよね、大変そう』
『無理させないように、私たちも頑張らないとだねっ』
『うん、花吹雪町の平和は守らないとっ』
ひとつの会話をぼんやり覗くと、私に助けられた魔法少女が呟いていた。この手の話は最近は珍しいわけではない。
深夜の魔物退治を行っている魔法少女が苦戦している場に赴き、撃退を行うのは最近は少なくないからだ。そのため、最近は私が魔法少女として活動している情報も増えてきている。
『ピンチの時に助けてくれるから、ヒーローみたいだよねっ』
『ピンチじゃなくても来てくれたりしてるけどね』
『きっと、今回の騒動も解決してくれるかも!』
『そうだね、魔物もきっと減ったりするはず!』
明るい希望の声がたくさん飛び交う。
その言葉を見つける度に、より頑張りたいという気持ちになる。
「未来」
そんな私に対して、アイは軽く指摘する。
「背負いこみすぎるのはよくないですよ」
「そこまで気負いしてるわけじゃないけど……」
「真面目そうな顔にはなってましたよ。そう思いません? クオリア」
「そうだな、かなり真剣な表情になっていた。考えようによっては余裕が少しないようにも思えるような」
ふたりからも少し無理しているように感じているみたいだ。
ひとりで抱え込みすぎるのはよくない。そう思った私は心の内を明かすことにした。
「……期待に対して、うまく向き合えてないんじゃないかって心配になってるところはあるよ」
「確実に『破滅の日』の残滓が世界に影響を与えているのに、解決の糸口が見つからないのはもどかしいところですよね」
「うん、今はその場で対処できてるけど、大事になったら今みたいに手助けしきれなくなる可能性だってあるし、漠然とした不安はないわけじゃない」
「即時的に対処したとしても、人数に限界があるからな……魔物の状況が悪化すると危険も増えてしまうだろう」
漠然とした不安。それは、魔法少女に対しての負担の懸念もある。
少なくとも私たちがいない状況でも対応できるようにしていくべきだろう。
どうするべきか、考える。
少しの時間が立ったのち、新しく提案をしてきたのはアイだった。
手元で見つめていた魔法端末から何か閃いたのだろうか。
「こういう時こそ、気分展開が大切ですね」
笑顔でそう言葉にする彼女。
それに対して、私も静かに頷いた。
「コンディションを整えるきっかけにもあるよね。いいと思う」
「私も同行したい。まだ、知らないことも多いから」
「決まりですね。では、早速軽い身支度をしたら出かけましょう」
問題に集中することも大切ではあるが、思い詰めてなにもできなくなるのはそれはそれでよくない。
アイの提案を私たちは受け止めて、外を散歩することにした。
「目的地は決まってるの?」
花吹雪町の表通りの道を三人で歩いていく最中、アイに聞いてみる。
すると彼女は悪戯っぽい表情を浮かべてきた。
「公園、とだけ言っておきましょうか」
「前にサイン会をしていた場所か?」
「そうですね、中央公園。なにかイベントがあるとなかなか賑わう場所だったりもします」
「なるほど、なにかやっていると」
「はい。今日、ちょうどいいタイミングで行けそうでしたので、案内したいと思いました」
アイがあえて伏せている理由はわからないものの、なんとなく彼女が案内したい相手が予想できた。
中央公園で、今日行われるイベント。それはレガとクミのマジックショーだろう。
魔法端末を手に持ち、情報を調べて、確認する。
『中央公園でマジックショーを行うよ! 見学無料! 気軽に見に来てね!』
そう投稿された内容を発見する。投稿しているのはレガとクミの告知用のアカウント。どうやら私の判断は間違っていなかったみたいだ。
投稿日時は数日前。マジックショーの開始時間は今日のお昼前の時間。これを見て、外に出ようとしたのは把握できた。
「あら、未来は答えを見てしまったのですか?」
「見る前から少しだけ予想はしてたけどね」
「そうでしたか……とはいえ、クオリアさんには教えないでくださいね」
「それはどうして?」
「ふふっ、初見の反応って大切だと思いますので」
「初見の反応……?」
「それもそうだね。じゃあクオリア、公園に着いたら人が集まってるところに注目しておいてね」
「わ、わかった」
アイはマジックショーであることを伏せておきたいのだろう。
そのことを汲み取り、必要最低限の情報を教えておく。
そうしている間に、私たちは花吹雪町の中央公園までたどり着いた。
大きな公園にはそれ相応の広場があり、そこでは多くのイベントが開催される。
「開催箇所は広場みたいですね」
「いこっか」
歩いて広場まで進んでいく。
その先には、存在感がある牛型の機械……うーしーちゃん3号の存在があり、その前にはレガ、クミの二人が立っていた。
今日は前回のように舞台で行うわけではないみたいだ。ある一定のスペースが作られていて、そこで立ちながらマジックを見るという方式なのだろう。レガとクミ、うーしーちゃん3号を囲むように人が集まっている。
「彼女たちはいったい……」
「そろそろ始まりますよ、見逃さないよう」
「わ、わかった」
アイがレガとクミに注目を集めるように視線を誘導させる。
私もじっくり楽しむ為に、なるべく見やすい位置を探して、移動した。
「少年少女に紳士淑女のみんな!」
「もちろんご年配の方もご注目」
「レガとクミのマジックショーにようこそ!」
うーしーちゃんから紙吹雪が展開され、観客から歓声と拍手があがる。
私とアイも拍手を重ねていく。
「マジックショー……?」
クオリアは知らないことに困惑と期待の眼を向けている様子だった。
「花吹雪町での公演、今回は大舞台は用意できなかったけど……」
「その分、色々楽しめる仕掛けは用意してきた」
「だから、みんなを笑顔にしちゃうからねっ!」
そう言葉にしながら、おもむろに取り出したシルクハットからハトを飛び立出せる。
ハトは自由に空を飛んでいき、少しの時間が立ったのち、レガの前の地面にひょっこりと座った。
「不思議な魔法の世界にご案内」
クミがステッキを振るって空に掲げると、ステッキの先端から小さな花火が打ち上げられ、空で破裂した。
昼の花火。独特な雰囲気だ。
「不思議なことをしているな……あれは魔法でやっているのか?」
「レガとクミは魔法少女だけど、あの手の動作は技術で行ってるんじゃないかな」
「マジックと言っているのに、魔法ではないと……?」
「ふふっ、クオリア。あの手の魔術は手品とも言って、かなり器用な技術で成り立たせているのですよ」
「独特な技術なんだな……」
「あのふたりは、みんなを笑顔にするために、自分なりに腕を磨いて頑張ってるんだ」
「そうか……」
じっくりとレガとクミのマジックショーを見つめるクオリア。
摩訶不思議なバルーン作成に驚いたり、道具を使った脱出劇を考察したりする彼女の姿は、普通の少女のようにも思える様々な表情を見せていた。
なにが起こるかわからない期待に満ち溢れた顔。緊張して見守る姿。そして、成し遂げたふたりに見事だと拍手を送る。
新鮮な出会いに対して、彼女なりに楽しんでいる様子がよく伺えた。
「……じゃあ、そろそろとっておきのコーナー!」
「一緒にマジックを楽しもうコーナーです」
場の空気が温まってきたタイミングで、レガとクミのふたりが笑顔で新しいことを始める。
「これは文字通り、レガちゃんとクミちゃんのマジックを身近に体験してもらうコーナー!」
「ふふっ、安全ばっちり、サポート万全です。安心して挑戦してください」
「最初のトップバッターになりたい人、だーれだっ!」
多くの観客が手を上げる。
凄い人気だ。
私も興味があるけれど、知人だからちょっと遠慮しておこう。そう思っていた時、隣で真剣な表情で手をあげていたクオリアの姿が目に移った。
「あら、やる気ですね。クオリア」
「俄然興味が湧いたからな。彼女たちの技術をもっと近くで知っておきたい」
「彼女たちなりの日常にも触れられるね」
「あぁ、それも気になっているのは大きいかもしれない」
レガが誰にしようか悩みながら移動する。
少しずつ、私たちに近づいたのち、真剣な表情をしていたクオリアとレガの眼がばったり合った。
真面目なクオリアの顔を見つめて、レガは嬉しそうに笑いながら、クオリアの手を取った。
「よしっ、トップバッターはお姉さんに決まりっ」
「ありがとう、私にできることをやってみせよう」
「おぉ、かっこいい……! じゃあ、早速案内するねっ」
レガに連れられて、クオリアが表に立つ。
彼女は多くの人の前に立って、緊張しているのか少しだけ落ち着きのない様子だった。
「お姉さん、名前は?」
「クオリアだ。マジックショーは今回初めて見学しているので、まったく素人と言っていいだろう。こうした場に立つのもあまり慣れていない」
「大丈夫、誰だって最初は舞台に立つのだってみんな初心者です。気にせず、リラックスしてきましょう」
「クミちゃんの言う通りっ! じゃあ、シンプルなカードマジックでびっくりさせちゃうよ!」
そういうと、レガはトランプカードを取り出し、クオリアに手渡す。
「これは……?」
「気に入った番号とマークを選んでみて! 私たちはそれを見ないけど、観客には見せてね!」
「わかった」
カードを手渡したのち、ふたりは後ろを向き、じっくり待つ。
トランプカードをひとつひとつ見つめながら、考え、クオリアが提示した数字はハートの5番だった。
「この数字が気に入った」
クオリアがしっかり観客に見えるようにカードを掲げる。
「そろそろみんな覚えたかな? じゃあ、レガちゃんとクミちゃんに見えないようにカードを裏側にして渡してね」
「わかった」
レガとクミが振り向き、カードを見えないように受け取り、そしてシャッフルする。
「さて、ここからが本番! 今からクオリアさんが選んだ数字をデッキの一番上にしてみせるよ!」
「ぶっつけ本番。見事当てられましたらご喝采」
そう言葉にして、全力で混ぜるふたり。
半分の束を渡し合い、交換して、混ぜて、混ぜる。
本当に引けるのか私にはわからない。
驚くほど、未知数に混ぜている。
そして、トランプカードのデッキをクオリアに渡した。
「はい、これで仕込みは完了。一番上のカードを引いてみてっ」
「それがきっと、貴女が選んだ番号と数字だから」
ふたりに促されて、クオリアは一番上のカードを引く。
すると、彼女の表情が驚いたような表情へと変わっていった。
「ハートの5……! 選んだ数字だ」
そう、レガとクミは見てもいない数字を当てたのだ。
「ばっちり」
「協力してくれたクオリアさんに拍手!」
感嘆の声があがり、空間が盛り上がる。
驚いているクオリアを見て、レガは微笑んだ。
「どう、不思議でしょ?」
「凄いな、マジックというのは……全然どうやってやったかわからなかった」
「ふふん、どうやったかは企業秘密! ……楽しんでもらえたかな?」
「こういう場で、多くの人が笑顔になっているのを見たのは初めてかもしれない。……とてもいい体験をした」
「そっか! それならよかった!」
そういって、もう一言レガが加える。
「笑顔や楽しいって感情は、エネルギーだからね! こういう場で生きる活力を増やすのもレガちゃんの目的なんだ!」
「もちろん隣のクミちゃんも同じことを考えてます」
「不安も、心配も取り除いちゃう、そんなマジックショーを目指してるんだ! よかったら、今度また挑戦してみてね!」
「あぁ。……機会があれば、そうさせてもらおう」
「では、もう一度大きな拍手を!」
暖かい拍手が響き渡るマジックショー。
クオリアの表情は明るいものになっていた。
……日常を支える手段は、戦うだけじゃない。不安を取り除くというやり方もある。
私たちにできることを、自分たちなりに行っていくことで、変わっていくなにかもあるだろう。
笑顔を増やそうとしているレガとクミのふたりに、そして日常を楽しんでいるクオリアに、私とアイは大きな拍手を送っていた。




