第43話 不安に立ち向かうこと
お昼にケバブを食べた日の夜。
再び私たちは調査を続けることにした。
ひとつひとつ怪しい要素を潰していき、確実に対応していくのが目的だ。
「夜……特に深夜が近づくと魔物が活性化していきますが……」
使い魔を各地に飛ばしたアイが現状を調査する。
それぞれの使い魔から得た情報を確認し、小さく頷くと、その結果を私に報告してくれた。
「現状、表通りにはそこまで魔物は出没していないみたいです。まぁ、多少は現れているみたいですが、そちらは最近活動している魔法少女の方でも対応できています」
「そちらってことは、苦戦している魔法少女もいるってこと?」
「はい、裏通り、路地裏といった負の感情が集まりやすい場所となるとやはり魔物は強くなっているみたいです」
『破滅の日』の残滓の影響か、魔物が活発になることが多いのは間違いない事実。
やはり、それの影響は少しずつ広まっているということか。
「今を生きる魔法少女に大怪我させるわけにはいかないな……そちらに向かってもいいか?」
「そうだね、確実に対処していこう」
「リアルタイムで戦っている魔法少女の情報を探っていきます。確実撃破を狙いながら、援護していきましょうか」
「了解っ」
魔力を展開して、行動速度を上げる。
魔法少女の脚力などは魔力で引き上げることができるのだ。
現在地……表通りの公園から抜け出して、裏通りの開発途中区域まで移動する。
「異形の魔物がいるので、対応お願いします」
目標を確認して、その相手を把握する。壁のような胴体に手足が付いたような魔物。
見た目で言うなら妖怪のぬりかべに近いのかもしれない。
戦っているひとりの魔法少女はいくら攻撃しても傷つかない相手に手を焼いているようだった。
「弱点は?」
「おそらく内部破壊かと。クオリアさんの出番ですね」
「一点集中で打ち抜くなら、相手の動きを固定してほしい。いけるな、未来」
「大丈夫、支援は得意だからっ」
私とクオリアがそれぞれ魔力を集中させながら降下していく。
それを確認したアイは大きな声で、魔法少女に伝えた。
「下がってください! あの魔物を撃破します!」
「わ、わかりましたっ」
その端的な言葉を受け止めた魔法少女は小さく頷き、後方に下がった。
「コバルト・ヴェークっ!」
ぬりかべのような魔物の手と足に魔力の結晶を展開、動きを拘束する。
頑強に作られた結晶は確実に敵の行動力を低下させ、魔物は動けなくなる。
「お願いっ!」
「わかった」
魔力を集中させ、クオリアの右の拳に光が集まる。
そして、その拳を魔物にそのまままっすぐぶつける。
「一点集中で仕留める……っ!」
魔物の胴体を貫き、拳が内部まで届く。
そして、静かに集中し、クオリアは魔力を解き放った。
「……砕っ!」
内側から解き放たれた膨大な魔力。それが魔物に直撃し、消滅させることに成功した。
「よし」
「うまくいったね」
魔物が復活しないことを確認して、警戒態勢を解く。
「怪我はありませんか?」
あたりの魔物の反応を調べていたアイが安全を把握した上で戦っていた魔法少女に話しかけた。
「だ、大丈夫です。でも、あんなに硬い魔物初めてで、どう対処したらいいかわからなくって……助けていただいてよかったですっ」
「手助けできたならなによりです。……ところで、何故、このような路地裏に?」
「ええっと、その……みんなの力になれたらなぁって思って」
「力、ですか」
アイは情報を聞き取る為に話を引っ張り出す。
私とクオリアは途中で混じらないようにその様子を見守っていた。
「最近、不穏な気配を感じる魔法少女の方が増えてるみたいなんです」
「不穏……具体的には、どんな感じか聞いても?」
「気の流れが悪いとか、そういうものです。敏感にそういうのを受け止めてしまいがちな魔法少女の方なんかは体調を悪くしてしまってたりもするみたいです。私に戦い方を教えてくれた先輩も、それで体調崩してて……」
「なるほど、それで代わりにひとりで活動していたというところですか」
「はい、普段パトロールを行っている箇所から少し奥に進んだ時にあの魔物に遭遇して……苦戦してしまいました」
「ありがとうございます。……状況が異なる場合、無理はしないようにした方がいいかもしれません。時と場合によっては他の魔法少女の方に頼るのも大切かと」
「そうですね、気を付けていきます。助けに来てくれて、ありがとうございましたっ」
頭を下げてアイにお礼をする彼女。
ふと、私たちに目を向けると、一瞬だけ悩み、その後すぐに言葉を発した。
「未来さんと、その隣のかっこいい魔法少女さんもありがとうございますっ!」
「怪我しないようにね。頑張らないといけないってなる気持ちはわかるけど、そういう時こそ平常心が大切だから」
「はいっ、サインを見る時間を短くしたくないので、頑張りますっ」
「なら、もっと無理は禁物だよ。怪我したら先輩さんも悲しんじゃうだろうし」
「気を付けます……!」
深々と頭を下げる彼女。
かなり真面目な気質なのだろう。
きっとこれからも成長していける気がする。
「危険な時に撤退の判断を図れるのも強い魔法少女の秘訣かもしれない。ひとりで抱え込もうとするのはあまりよくない」
「そうですねっ、色々頼ってみます! あと、私もパンチで敵をやっつけてみたいです……!」
「それは、なかなか至難の業だから、自分にできることをするといい」
「そう、ですか……? なら、私なりに頑張っていきますっ」
それぞれ会話を交わしている間、アイが再び何かを察知したみたいだ。
「南の方角の裏通りで誰か、交戦してるみたいです。情報は追って説明しますので、そろそろ移動しましょう」
「うん、わかった」
小さく手を振って、魔法少女に別れを告げる。
「じゃあ、またね」
「はいっ、気を付けて……!」
魔力を引き上げ、再び移動していく。
目的地は南の裏通り。
移動しながら、使い魔から得た情報を確認しているアイは再び私たちに説明した。
「次の魔物は純粋な人型です。しかし、通常の人の身長より三人分大きく、やや巨人のような体躯と言えるでしょう」
「街の被害も考慮するべき相手か」
「そうとも言えます、しかし……」
少し考えたのち、アイが言葉を続ける。
「今は相手の動きが鈍っています」
「鈍っている?」
「はい、苦しんでいるような仕草を取っていて、行動が阻止されています」
「戦っている魔法少女は?」
「確認したところシャンテでした」
「シャンテが食い止めてるの?」
「はい。そろそろ到着します。撃退準備を」
「わかった! 体躯が大きいなら、一通りきっちり結晶にして割った方がいいよね」
「あぁ、抵抗するようならこちらで行動をより妨害しよう」
シャンテが戦っている裏通りまで到着する。
そこからは明るい音楽が聞こえてきた。
シャンテは全力で楽譜を展開することに集中しているからか、こちらに気が付くことはない。
彼女の演奏を聴いている魔物は苦しそうにうずくまり、首を横に振っている。
音楽を嫌がっているということ、なのだろうか。
「シャンテ、助けに来たよ。いまやっつけるからね!」
シャンテの隣に来て、言葉を交わす。私がやってきたことにほっとしたのか、安堵の表情を一瞬だけ浮かべ、再び演奏に集中していった。
私も魔力を集中させて、一撃で撃退する準備を行う。
面を攻撃するなら、青い水晶の魔法が一番効果的だ。
「クオリア、ふたりに攻撃がやってきますっ」
危機を感じた魔物が暴れまわるように手を振り、私とシャンテの方に攻撃を行おうとする。
「力任せな一撃は通させない」
その右腕をクオリアは自身の手で掴みとり、左手で一撃を加えることによって行動を阻止した。
「微力ながら、わたしも支援します」
使い魔を集め、展開し、空から地上に向けて魔力の弾を連続で飛ばしていく。
音楽によって弱体化している魔物はそれらの攻撃によって完全に動きを阻害される。
「よし、行くよっ」
魔法の発動準備が完了し、思いっきり魔力をぶつけていく。
「ザフィーア・シーセン!」
足から胴体に。胴体から頭に。巨人型の魔物の全身を結晶が包み込む。
全ての部位が結晶に覆われたのを確認して、全力で魔力を解き放つ。
「弾けてっ!」
光を放ち、魔力を解放した瞬間、魔物の身体が粉々になり、消えていく。
これで、どうにかやっつけることができた。
ほっと一息つこうとした時、シャンテが安堵の声をあげていた。
「助かったぁ……! あたし、あのまま音楽演奏してたらいつか魔力が尽きてたところだった!」
「なんでシャンテがここに? なにかあったの?」
「ちょっと趣味の音楽制作で行き詰まってね……夜の散歩をしてたんだ。そしたら、路地裏の方から怪しい影が見えて、それが妙に大きかったから確認してみたら魔物だったって感じ」
「無事でなによりです」
「あんまり戦うの得意じゃないのに助かったのは、本当にみんなが来てくれたからだよ、ありがとう」
そういってそれぞれの顔を見るシャンテ。
ふと、知らない顔のクオリアを見かけた時、少し悩んで声を掛けていた。
「えっと、そちらの方は……」
「クオリアという。今は色々調べ物をしていて、未来と行動を共にしている魔法少女だ」
「わ、わかった。クオリア。よろしくね」
「……ところで、先ほど音楽を奏でていた時に魔物の動きが鈍っていたな。あれはいったいどんな現象なんだ?」
「あの現象? 詳しくはわからないんだけど、師匠に教えてもらった護身術としての音楽なんだ」
「護身術としての音楽……?」
「明るい感情、前向きな意思を音楽にすると、それが直接相手に伝わるんだ。基本、魔物は負の感情を媒体にこの世界に顕現してるから、そういう相手に対してはちょっとした対抗手段になるんだ。まぁ、あのでっかい魔物には有効打にはなりにくかったんだけどね……」
そういって苦笑するシャンテ。
それに対して、クオリアは感心した態度で頷いていた。
「魔物に対抗する手段は戦う以外にもある、ということか」
「もし、未来たちがなにかしようっていうなら、あたしにできることはなんでもするよ。友達だからねっ」
「ありがとうシャンテ。最近、魔物の動きとかが不穏になってたりするから、状況を見ながらお願いするかも」
「その時は全力で頑張るからねっ!」
強大な魔物が少しずつ増えているという事実は時に不安を煽ってしまうかもしれない。
しかし、魔物に対抗する手段は戦うだけではないということは覚えていきたいところだ。
明るい感情が広まれば、魔物の動きを鈍らせることだってできる。
悪いことばかりじゃない。協力してくれる人もいるのだから。
漠然とした不安が魔法少女の心を覆い隠すよりも先に、なにか私たちにできることはないだろうか。
深夜の魔物退治。ひとつずつでもできることを行っていこうと、行動に移していた。




