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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第三章 幾星霜のクオリア、願いを紡ぐ未来
43/64

第42話 些細な幸福も重なれば

「これで仕留める……!」


 クオリアの一撃が魔物の胴体を貫き、消滅させる。


「これで、魔物の反応は消えたかな?」

「えぇ、大丈夫かと。使い魔を飛ばして調査してみましたが痕跡らしきものは見つからなかったので、当分は出現しないかと」

「被害が起きる前に動くのが理想だからな。ふたりの協力は助かる」


 花吹雪町の人が寄り付かないような地域。

 そこで私たちは魔物の出没を食い止めていた。

 イヴィルが独自にマークしていた場所に現れる魔物は他の魔物よりも能力が高い。

 少なくとも、私が瞳と活動していたころの魔物くらいの強さはあると断言できる。


「『破滅の日』の再来がいつ訪れるかわからない以上、うまく手がかりを探しながら対処してかないといけないからね」

「とはいえ、働き続けるのも疲労は溜まりますね。ここ一週間、魔物退治に赴いた日は毎日でしたし」


 私が情報を貰ってからはほぼ動き続ける毎日だったのは間違いない。

 家でアニメーション制作用のメモを書くのは日課だとして、それに加える形で魔物退治が増えた感じだ。

 魔物の撃破を行う時間は不安定で、早朝から深夜。どんな時間でも危険を感じたら対応していた。

 今日はお昼前に魔物の反応があったので行動したといったところだ。


「……それは申し訳ない」

「被害を食い止める為にはやむなしですので、大丈夫です。……しかしながら、休息が欲しいのも事実です」


 忍びない様子のクオリアに対して、おっとりと考えるアイ。

 少しの時間が立ったのち、彼女はなにかを閃いたみたいだ。明るい表情になりながらもアイが提案した。


「そうですね。いい時間ですしお昼を食べにいきましょう」

「お昼を?」

「えぇ、お腹が空いてくる頃合いですからね」


 そう言葉にする彼女の眼からは強い意志を感じる。

 絶対に行く、という気持ちがまっすぐな目から伝わってくる。


「私は食べなくても……」

「問題ない、というのはなしですよ。気分転換の一環ですからっ」

「食事が気分転換?」

「えぇ、未来さんもそう思いますよね?」


 唐突に私に話が振られてきた。

 私自身、アイの意見には賛同できる。

 とはいえ、クオリアは食事に対しての感情はそこまで強いわけではなさそうだから、どういう風に言えばいいか少し悩んだ。

 そうだ、こう言ってみようか。


「そうだね。私もそう思う。まぁ、私の場合は日常を感じることができるから好きって部分が大きいけど」

「食べることが日常に繋がると」

「うん、なんていうか、生きてるなぁって感じになれる」


 これでいい印象を与えられただろうか。

 クオリアの眼を見つめてみたところ、なんとなくわかるけれども、ピンとは来ていない。そんな雰囲気になっていた。


「確かにふたりが作る料理は美味しいし、飽きることはない。とはいえ、うまく言えないけれども日常とまだ結びついてない感じがある。きっと、まだ馴染んでないというのも大きいと思うが……」


 これは、実際に食べてみたりした方がわかるかもしれない。

 そう、私が思っていた時、アイが目を輝かせて、提案してきた。


「では、こういうのはどうでしょう。普段入らないようなお店に入って食べてみる」

「……リスクが高いのでは?」

「ふふっ、会う合わないの期待や不安を楽しむのも食事の醍醐味だったりしますよ? さぁ、行きましょうみなさん」


 そう言ってアイは明るい町の道まで走っていった。

 その勢いを見つめていたクオリアは私に疑問をぶつけてきた。


「積極的だな、彼女」

「そういう強引さも悪くはないと思ってるけどね。新鮮な刺激を与えてくれるから」

「そうか」


 私の返答に対して小さく微笑して答える彼女。

 今日はどんなところに行くことになるのだろうか。

 期待しながら、私たちはアイの後を追うことにした。




「ここにしましょうか」


 花吹雪町で外食するとなった時に彼女が提案した場所。

 それはケバブ屋だった。


「ケバブ……?」


 きょとんとした表情のクオリア。

 食べたことのない料理に困惑しているようだ。


「お肉が美味しいサンドイッチみたいなものですよ」

「……サンドイッチは時々食べさせてもらってるが、この斬新なものは……洋食文化的なものか?」

「洋食、というのはちょっと乱暴な気がしますね。外国料理と言った方が自然かもしれません」

「なるほど、少なくとも普段食べられるものではないということか」

「えぇ、狙って食べないと味わえないようなものかと」


 アイとクオリアが会話している間、私はケバブ屋さんをぼんやり見つめていた。

 花吹雪町にも都会っぽいケバブ屋ができていたなんて。気が付かなかった。


「未来も初めてですか? ケバブ」

「噂や実物は見たことあるけど、食べたことはなかったかな」


 都会を歩いていた時、ケバブ屋を見かけたことはあったものの、自分から食べてみようとは思ったりすることはなかった。

 ひとりで活動していた時はチェーン店やコンビニ弁当など、比較的無難な感じに食事を取ることが多かったのも原因のひとつかもしれない。

 私が味わったことがないという言葉を聞いて、アイは満足げな表情を浮かべていた。


「好都合ですね、色々説明できます」


 そう言葉にしたのち、彼女はケバブ屋の説明を行っていった。


「まず、あの回転してる肉、ありますよね?」


 視線を誘導するように振り向くアイ。

 その先には露店のケバブ屋で回転している肉が見える。


「あれは肉を焼いているのか?」

「はい、焼いています。その肉をこう……削いで、レタスやトマトといった野菜と一緒にサンドイッチのような形式で切り込みを入れたパンに挟んでいきます。これをドネルケバブといいます」

「あの肉に近づくと結構暑いんだよね……作ってる人尊敬する」


 なかなかの熱気の中で、ケバブ屋を運営しているのはなんとなく察することができる。

 夏場になったら特に大変そうだから、こういう仕事をしている人は凄いと思う。


「お店を見る限り、ソースの種類が多いが理由はあるのか?」

「好みに合わせて調整する、といったところですね。ほら、辛さの表記も五段階でしょう?」

「チリソース、ヨーグルトソースにミックスソースっていうのもあるね。なかなか選ぶの大変そうだけど……」

「辛いのが苦手でなければ、チリソースの辛さ2や3あたりがいい感じに刺激を感じられていいと思います。別の食感を味わいたいならば、ヨーグルトソースなどもおすすめになってきますが」


 かなり詳しい解説が加わってくる。

 それに対して、ふと疑問に思った。


「……アイ、もしかしてここのケバブ、食べたことある?」

「あら、このお店ではないですよ? 適当にふらっと歩いていた時に食べ歩きしたケバブで色々気になって調べただけです」

「ちょっと意外」

「花吹雪町は広いですからね、まだ見ていない場所も多いものです」


 そう言いながらもそわそわする彼女。

 早く食べたいという気持ちが伝わってくる。

 目の前でドネルケバブを買っている人を見かけながら、ぼんやりクオリアが呟いた。


「斬新な食感を味わえそうだが……少しサンドイッチのような文化に慣れてない私だとこぼしてしまいそうだな。なにかあればいいが……」

「大丈夫ですよ、クオリアさん。食べやすい形式のケバブにシャワルマというものがありますから」

「それはいったい?」

「ケバブの具材をパンでくるんで味わう形式の料理です。ドネルケバブほど横に広がらないので食べやすいかと」

「なるほど、なら、私はそれにしてみようか」

「未来はどうしますか?」

「私は……普通のドネルケバブに挑戦してみようかな。辛さ3で」

「挑戦しますね、未来。わたしもそれでいきましょう」


 それぞれ注文するものが決まったので、早速注文していくことにした。

 三人分のケバブを店員さんはすぐに対応してくれて、そんなに待つことなく食べる準備が整った。

 近くに置いてあるベンチに座り、各々がケバブに注目する。


「赤いソースは斬新だな」

「結構辛そうな気がするけど……」

「まぁ、食べてみればわかりますよ。いただきましょうか」

「うん、いただきます」


 それぞれが食前の挨拶を行い、ケバブを味わう。

 まずはひとくち食べようとしたところ、気が付く。


 ……肉のボリュームが凄い。


 少しずつ食べないとこぼしてしまいそうなくらい、お肉が挟まっている。

 ソースもこってりかかっているのもあって、慌てて食べると余分に口が汚れてしまいそうだ。

 少しずつ肉を味わいながら、食事を堪能する。


「こってりとした味わいだね」

「あぁ、食べ応えがある肉の食感……いい感じだ」


 肉の味わいはジューシーといったところか。まんべんなく焼かれた肉のおいしさがソースと絡まって美味しさを広めてくれる。

 パンや野菜まで食べられるようになってくると、また食感が変わってくる。

 シャキシャキしたレタスの味わい、もちもちしたパンの食感、それらがソースと絡まって新しい味わいを作り出す。

 後からやってくる辛さがほどよい刺激になって、新鮮な気持ちにさせてくれる。


「美味しいっ」

「知らない味だったけれども、どれも味わい深い……美味しいな」


 私とクオリアが美味しく食べているのを見て、アイは満足げに微笑んでいた。


「基本的に一日に人間が食事を取る回数は三回ですよね」

「朝、昼、晩って食べるとそうなるね」

「そのひとつひとつに新しい刺激があると思うのです」


 しみじみと呟くように彼女が続ける。


「同じ味や料理を作ろうとしたとしても、完全に同一のものができるとは限らない。むしろ異なっていくのは当然です」

「この味も、今日限りのものということか」

「そうとも言えますが、それだと少し寂しいので、わたしはこう解釈します」


 アイが笑顔を見せる。


「知らない何かに出会える瞬間がいっぱいあると、日常を感じられる幸せを増やせると」


 私を前向きにしてくれたアイらしい、まっすぐな言葉だ。

 好奇心をもって、自分なりの歩幅で進む。それが彼女の生き方だ。


「日常は、なにげない瞬間の積み重ねだからね。ちょっとした幸せも積み重ねれば、嬉しい気持ちでいっぱいになるんだ」

「だから私と一緒に食事を……?」

「アイはきっとそう思ってるかも。まぁ、私もクオリアと一緒に色んなところ行ってみたいって思うけどね」


 そう言葉にして微笑んでみる。

 誰かと一緒に、笑い合いながら過ごせる日々。

 それを守るために私たちはいる。

 だから、『破滅の日』による犠牲者は増やしてはいけない。

 私は静かに胸に誓う。

 みんな、助けると。


「ありがとう、アイ、未来。……私ももっと色々知りたいと思った」

「ふふっ、でしたら、色々見て回るのも悪くないかもしれませんね」

「そうだな」


 魔物を撃退しながらも、過ごす日常。

 美味しい食事を堪能できる時間の幸せを感じ取っていた。

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