第41話 世界を救ってみたかった
魔法、魔術を使った犯罪を取り締まる場合、その手の警察組織に任せることになる。
その為、留置所や刑務所も通常とは異なる空間に存在していて、一般の魔法少女が出入りするのは難しくなっている。
私たちはイヴィルに関する情報を手に入れる為に、かなたを経由して、情報を得ることにした。
『彼の罪は有罪として判断されましたので、留置所から刑務所へと身柄を連行されました』
『……もし、会いたいと言うのでしたら、事件の関係者という立場を利用していくといいと思います。そうですね……未来さんひとりでイヴィルさんに会うとよいかと』
そう助言をもらい、刑務所まで足を運ぶのはひとりということになった。
多数で行くと警戒される可能性もあるだろうし、刑務所側のルールでもあまり大人数では行くべきではない。
『前、引き渡しを行った方に話して、案内状は用意しました。そのデータを元に向かうと到達できるかと』
貰った案内状は魔法端末に送られてきた。
様々な町の片隅に魔法犯罪刑務所に通じるゲートみたいなものが転々と存在しているみたいだ。
このゲートは時間ごとに位置を変えるという仕組みもあるようで、特定の時間を指定されながら、私は行動することになった。
そして、現在。
私は目的地まで到達した。
「ここが……」
厳かな雰囲気を感じる建物。罪を償う場所。
魔法犯罪刑務所。魔法を利用した罪を償う空間だ。一般的な世界とは異なる空間に存在しているのもあって、普通にたどり着くのは困難なところだ。
少なくとも魔法少女とは無縁に近い世界だろう。
なかなか慣れない空気を実感しながらも、私は次の場所まで移動する。
「面会受付口、どこかな」
なるべく目立たないように移動する。
魔法少女としての衣装ではなく、一般的な衣類に着替えているので私の正体で騒動になることはないだろう。
建物の中に入り、静かな空間に到達した時、ちょうど受付を発見した。
受付の人に話しかけて手続きを済ませよう。
「待ってました。久遠未来さんですね」
「本人です。……その、愛染未来と言った方がよいのならそちらの身分証もありますが」
「『事件を解決した人物』は久遠未来さんなので、そちらで名乗ってもらえるとありがたいです」
「わかりました、ありがとうございます」
別名称を名乗ってから、こういう場所に赴いたことはなかったのもあって、少し悩んでしまった。
とはいえ、相手がうまく対応してくれていたので、ほっとした。
「面会対象はイヴィル。未来さんが逮捕に協力してくださった方ですね」
「はい、イヴィルで間違いないです」
「では、書類の方に記載をお願いします。また、身分を証明できるものもありますか?」
「わかりました、こちらも渡しておきます」
瞳を離れたのちに作った久遠未来としての魔法少女の身分証明書を手渡し、書類には書くべき情報を記載していく。
そうして準備が整ったのち、提出を行い確認してもらう。
「確認できました。では、面会室まで案内します。刑務官の方もその場に立ち会わせることは、予めご了承ください」
受付の人に案内され、面会室までたどり着く。
まだそこにイヴィルの姿はない。
今いるのは私と、新しく入ってきた刑務官の方だけだ。
「しばらくお待ちください」
そう言葉にしたのち、受付の人は去っていった。
面会室はアクリル板で空間が分けられていて、私とのちにやってくるイヴィルの場所が直接干渉できないようになっている。声は問題なく届きそうだ。
私自身、こういった場所に赴くとは想定してなかったので、少し緊張する。
……少しの時間、座って待っていると奥の扉の向こうから、囚人服を着た男性……イヴィルがやってきた。
彼は座ったのち、静かに言葉を発した。
「面会しにきた奴がお前だったなんてな、久遠未来」
「聞きたいことがあって来た。……って言ったら、笑う?」
「まさか。僕に聞きたいことがあるんなら手短に言った方がいい。面会時間というものがあるからな」
刑務所にいる彼は、前よりも落ち着いている様子だった。
憑き物が取れたという表現が合っているのだろうか。静かな印象を感じる。
「負の感情を媒体に発生する魔物が、急に出没する現象に覚えはない?」
「研究最中にその現象に遭遇したことはある」
「その時、どう対処した?」
「僕には自前で魔物を創れる技術があった。だから、創った魔物に喰わせて対応していた」
「前にも、その現象はあった……」
水面下でなにかが変わってきているということだろうか。
魔物の発生条件や出現のしやすさみたいなものが……
「……『負の感情を媒体とした魔物が急激に出没するようになったのはなぜか』そう言いたそうな顔だな」
「よくわかってるね」
「当然。僕はその理由の一部を知っているからね」
小さく笑い、彼が話す。
「この世界、生きているだけでもストレスが多い。多いのさ」
「ストレス……」
「対人関係、課題達成ができないときのイライラに、うまくいかない時の絶望。積み重なっていくものだ」
「それらが全部、魔物になっていると?」
「『破滅の日』はそれらを効率よく魔物に変換していた。だから、魔物を使役できるようになれば負の感情はコントロールできると思っていたさ」
「でも、そのやり方は危険が多すぎる」
「犠牲になる魔法少女もいた可能性はあるだろうね。もっとも、君は僕が犠牲を発生させる行動を起こす前に捕まえたのもあってそうした事態にはならなかったけれど」
「……イヴィルは、負の感情を利用して何をしようとしていたの?」
その言葉に対して、彼は遠くを見つめながら答えた。
「世界を救ってみたかった。……なんて言ったら笑うかい?」
「笑わないよ。でも、私とは少しだけ考えが合わなかったって言うけど」
「犠牲が出るやり方は許せないと?」
「……世界の為って言って、隣人がいなくなるような出来事はもう起こってほしくないからね」
きっと世界の為といって犠牲になる道を選ぶ魔法少女は瞳以外にもいるだろう。
大事を成し遂げる為に、少量の犠牲は必要だと考える人もいるのはわかっている。
それでも、綺麗ごとだとしても、みんなが幸せになる手段を考えたい。それが私だ。
「そういう信念があったから、きっと僕は負けたんだろう。綺麗ごとだが、悪くない」
「……話を戻すけど、イヴィルの研究所から強力な魔物が発生していたの。原因はわかるかな」
「あの場所にはもう僕の研究物はない。従って、空間の影響を受けて強大化した魔物と仮定した方がいいだろう」
「空間の影響を受けて強大化?」
「花吹雪町の魔力状態は実はあれでいてなかなか不安定だ。『破滅の日』を封印した影響もあるだろうね。表向きは安全そうに見えても、吹き溜まりのようなものがある空間も多いのさ」
「初耳」
「だろうね、僕が独自に研究していたからね」
そう言葉にしたのち、イヴィルが刑務官にお願いをした。
すぐに対応した刑務官は事情を受け止め、ペンとメモを用意した。
簡単にメモを書き、仕上げると彼は私にメモを渡した
「花吹雪町の強大な魔物が発生する可能性が高い空間をそれぞれ書いた。不審に感じるなら行ってみるといい」
「ありがとう」
「あと、可能なら魔物を出現させている負の感情の分析を行うとなにか成果が出るかもしれないな」
「そこまで教えてくれるのはありがたいけど……どうしてそこまで協力してくれるの?」
「言ってるだろう、僕は世界が救ってみたかったと」
「……それなのに、私には結構辛辣な言葉をかけてたよね、敵体してたとき」
「計画を成功させる為に、不確定要素をつぶしたかっただけにすぎない。まぁ、反省はしているがね」
「そっか、そういうことにしておく」
彼は彼なりに改心しているのだろう。だから、禍根として気にすることもない。
あとは罪を償えばきっといい人にはなるのだろう。
「ありがとう、これで魔物関連の状況を解決する手段が増えたと思う」
「久遠未来」
「なに?」
「もし、君が『あの日』と同じように誰かを犠牲にしなければならないという選択を迫られた時、どうする?」
その問いかけに対して、私は迷わずに答える。
「みんなが助かる、幸せな選択肢を選ぶよ」
「それが困難な道だとしてもか?」
「うん。私たちは日常を支えて生きてるから、日常を失ったらいけないって思うんだ」
「それを聞いて安心したよ。お前は僕を捕まえた時の信念を貫いている」
「色々日常を経験したからかもね。守りたいものが増えたから、全部失わない選択をしたくなった」
私の力でどれだけのことができるかはわからない。
それでも、私にできることはやってみたい。そう心から思える。
「僕も罪を償ったらしっかりと改心してなにかしようかな」
「世界平和に繋がるようなこと?」
「そうだな……小さなストレスを解消できるようなものが作ってみたい」
世界に危機が迫っているとしても。
不安が頭を過るような状態があったとしても。
少しでも明るく、まっすぐに、私なりに行動していけばきっとうまく行く。
『破滅の日』の裂け目が活性化したとしても対応できるはずだ。
かつて、敵だったイヴィルとの会話。
それは、新しい視野を広げてくれるような有意義な時間だった。




