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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第三章 幾星霜のクオリア、願いを紡ぐ未来
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第38話 『久遠の魔法少女』

 『久遠の魔法少女』との遭遇。

 それは予想しているよりもずっと先に訪れた。

 サイン会が終わったのちの夜空が照らす町の公園。

 凛とした表情の彼女がそこに立っていた。


「初めまして、になるだろうな。久遠未来」

「名前、知ってるんだ」

「当然だ。色々話題になってるのなら、目覚めたばかりでもわかる」

「サイン会も開いてましたものね」

「色紙に名前を書く文化のことか……私がいた時代ではこうした場面に遭遇することはなかったな」


 静かになったテントの机の前に彼女が立つ。


「……気になることは色々試してみたい。だから、私にもやってみてほしい。『サイン』を」


 そう発する彼女の眼はまっすぐ私を見つめる。

 その動作には悪い感情は感じられない。むしろ、純粋な好奇心で動いているのが伝わってくる。


「いいよ。私なりに今日書いていったサインを、渡すね」


 宣言して、私の名前とマークを記載していく。

 今日、これまでにたくさんのサインを書いていった。

 それらひとつひとつが預かった人みんなの思い出になるように真剣に向き合っていった。

 今もまた、私なりにではあるけど彼女に送っていく。私のサインを。


「羽根に月……夜空に文字で『みらい』か、いいマークだ」

「ありがとう。自分らしくサインを考えてたらこういう形になったんだ」

「なるほど」


 これで、色紙に書きこめただろう。

 そこでふと、思い出す。

 もうひとつ人によってはやっておきたいと言われたこと。


「色紙に一緒に名前を書く人もいたけど、やってみる? ええっと……」

「クオリアでいい」

「クオリアも」

「そうだな、やってみたい」

「なら、ペンを渡すね」


 サイン用のペンを手渡して、彼女に渡す。

 久遠莉愛という名前がありながらも、クオリアと名乗る彼女。

 なかなか不思議な感じだ。


「クオリアと呼ばれたい理由を聞いても?」


 私と彼女がやり取りをしていると、アイがすぐさま気になったことを訪ねてきた。

 これはシンプルに興味を持ったから聞いているのだろう。アイはかなり好奇心が強い。


「そうだな……その言葉が好きだから、というのは理由になるか?」


 迷うことなく、そう言葉にするクオリア。

 その発想にはどこか親近感を感じる。


「えぇ、なると思います。とはいえクオリアという言葉は比較的最近の用語だったような」

「それも間違いない。だからこそ、その名前にあやかりたいと思ったんだ」


 そう言葉にしたとき、クオリアの表情が緩んだ。

 クオリア、という言葉に強い想いを秘めているのはその様子からも伺えた。


「世界には、知らないことがまだたくさんある。だからこそ……私は、私自身の主観で、感覚を持ってみたものを知っていきたいんだ」


 私は哲学や心理学に詳しいわけではない。

 だから、彼女の語る哲学的な意味での『クオリア』についてはあまりうまく把握することはできないかもしれない。

 それでも、彼女がその言葉をあえて名前にしている理由には、彼女なりのきっと深い感情があると思う。だからこそ、もっと知りたいと思った。


「ありがとう、このサインを受け取った時の暖かい気持ちも大切にしていくつもりだ」

「その、少し時間いい? クオリア。聞きたいことがあるの」

「問題ない、できる限り答えよう」


 彼女の言葉を確認したのち、私はクオリアに聞きたかったことを尋ねた。


「過去の『破滅の日』を封印した魔法少女のひとりがクオリアなの?」

「その過去はもう百年前のことになるが……間違いない」

「私、その光景を夢で見たんだ」

「夢?」


 彼女が首を傾げる。

 それに対して、私も返答する。


「うん。色んな人に罵声をぶつけられてる『久遠の魔法少女』の姿を見た。その見た目はちょうど目の前にいるクオリアそのもので、気になって……」

「あぁ、確かにそんなこともあった」


 静かに苦笑しながらクオリアが言葉を繋げる。


「間違いない、その光景は私が体験した出来事だ」

「そうだとしたら、妙な話です。『破滅の日』を食い止めるという行為は魔法少女の行動としては偉業に分類されると思います。なのに、どうしてそのようなことに?」

「それは繰り返された失敗の責任を誰が負うかという話になる」

「……当時の『破滅の日』の封印がうまくいかなかった、ということですか」

「あぁ、その通りだ」


 クオリアが遠い夜空を見つめる。

 昔に会った出来事を思い出すかのように。


「私も、封印を代行する魔法少女も全力は尽くした。しかし、その中で犠牲になるものも多く、最後に残ったのは私ひとりだった」

「……その行き所のない怒りやもどかしさがクオリアに降り注いだんだ」

「不安を感じるのは仕方がないことだ。だから、当時の人を憎みはしないさ」


 そう言いながら、静かに俯く彼女。

 割り切ってはいるものの、複雑な心境を持っているのも事実なのだろう。


「それでも、こうして私がこの世界に再び顕現してしまったのは少々気がかりではあるんだがな」

「……どういうこと?」

「あの日の光景を見た未来ならわかると思う。あの日……私の行った『破滅の日』の封印は完璧なものではない」

「それってつまり」

「あぁ、その推測であっていると思う」


 私の眼を見て、彼女ははっきり伝えた。


「封印しきれていない『破滅の日』が再び発生する」


 クオリアが確信を持って言っているのは痛いほど伝わってくる。

 愁いを帯びている表情。

 伝えないといけないという感情。

 どこか、後悔を含んでいるような声。

 どれも、切実に伝わってくる。

 そんな彼女に対して、アイは静かに話しかけた。


「それは、かつて私たちが戦っていたあの日のような瞬間が訪れる、ということでしょうか」


 事実確認を行うアイの表情は真剣だ。

 それに対して、クオリアは小さく首を横に振った。


「大規模な終末を発生させる『破滅の日』が訪れることはないだろう。いままで、私が抑えてきた分、力は弱まっている」

「では……」

「今すぐに事態が悪化することはありえない。だが、少しずつ封印していた空間の裂け目が活性化しているのは間違いない。魔物の性質がそうさせている」

「……負の感情が次第に集まっている?」

「そういうことだ」


 再び、街を見つめてクオリアが話す。


「不安、悲しみ、怒り、絶望……多くの感情が収束して、やがて再び規模は大きくなくとも『破滅の日』は発生する。私はそれを今度こそ止めなければならない」


 彼女が胸に手を当てて、静かに呟く。


「そして、後悔のないように決着を付けたい。『破滅の日』との因果に」


 そう言葉にする彼女からはどこか消え入りそうな印象を感じた。

 そのまま見送ってしまうと、永遠にいなくなってしまうような、そんな姿。

 そんなクオリアの姿を見て、私は静かに決意した。


「私も、クオリアに協力したい」

「それは」

「今を生きる魔法少女として、そして、久遠未来という私の意思として……助けたいんだ、クオリアを」

「私を……?」

「うん。他ならない、クオリアを」


 きっと、このまま彼女と別れてしまうと後悔することになる。

 直感かもしれない。それでも、そう感じた。だからこそ、私は私の意思で彼女に向き合いたいと思った。


「これも、なにかの縁……というものなのだろうか」

「ふふっ、合縁奇縁というものかもしれませんね。わたしも付き合いますよ、クオリアさん。皆さんのことを見届けていきたいので」

「呼び捨てで構わない」

「そうですか? では、よろしくお願いします、クオリア」


 それぞれが言葉を交わし、再び『破滅の日』に向き合うことを決心した。

 『破滅の日』はいつ訪れるかはわからない。予兆はあったとしても、すぐに発生するわけではない。

 だからこそ、もっと向き合いたい。


「……久遠の時を得て、新しい出会いを得るなんて思いもしなかった」

「折角なんです、もっと、世界を見つめてみるのもいいかもしれませんね」

「世界を、見つめる?」

「自分の意思で、感覚で、世界を知る、理解する。そう言うのも……クオリアと呼べるのではないでしょうか」

「……そうだな、そうかもしれない」


 クオリアが遠く街を見つめる最中、静かに考える。

 彼女のように瞳が帰ってきたりすることはあるのだろうか、と。そう思いながらも、首を横に振る。

 ……瞳が『破滅の日』を終息させた事実は覆ることはない。事実として平和な世界が続いている。

 だから、戻ってくることはもうないはずだ。彼女は、この世界から離れてしまったのだから。


「未来、どうかしましたか?」

「ううん。空が綺麗だなって思って」

「そうですね。……綺麗、ですね」

「……百年前とは違うが、それでもいい景色だ」

「いつまでも、続かせたいな」


 それでも、彼女にもし声が届けられるのであれば……

 そう思いかけて、苦笑する。夢見がちだ。

 瞳は瞳なりに、行動して、世界を救った。なら残った私は私としてやるべきことがある。


 ……いま、続いているこの世界の平和を守ろう。


 かつて世界を救った『久遠の魔法少女』クオリアとの出会い。

 不思議な縁を感じるその出会いにはなにか特別な意味がある。そう思わずにはいられなかった。

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