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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第三章 幾星霜のクオリア、願いを紡ぐ未来
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第36話 久遠の夢

「『破滅の日』が終わる日は来るのか?」


 知らない誰かの声が響く。

 空の景色は赤く、終末を感じさせる肌寒さを感じる。

 あの日の光景によく似ている光景だ。

 ただ、決定的に何かが違う。私が知っている景色ではない。

 外の空間は森林に覆われていて、町ではない。知らない人々が武器を持って戦っている。

 そして何より、瞳……愛染瞳の姿が見えない。つまり、これは私が知らない『破滅の日』関連の夢だ。


 ……最近は、この手の夢を見ていなかったけど、なにかあったのかな。


 視界を動かすことができたから、少しずつ声がする方へと歩いていく。

 そこにはぼんやりとした人影がいくつか、そしてその影に囲まれている少女の姿があった。


「……魔法少女が代々受け継いだ技法がある。だからいつか、『破滅の日』は終わりを迎える」

「いつか……その言葉にどれだけの信頼性があるんだ?」


 怒鳴る男性の声が聞こえた。影が発したのだろう。

 そこには恨みのような感情も込められているようだった。


「お前は責任を先延ばししているだけじゃないか? 久遠の魔法少女」


 再び違う声が聞こえる。

 次の声は、嘲笑が含まれているようだ。


 ……久遠の、魔法少女?


 男性が発した言葉に困惑する。

 私が久遠と名乗る前に、その名前で呼ばれていた魔法少女がいたなんて、全然知らなかった。

 久遠の魔法少女。彼女はいったい、何者なのだろうか。

 私が困惑している間にも会話は続いていく。


「嘘は言えない。だけど、きっと、その日は来る。……私は今の世界を守るつもりだ」

「守るだと? 偉そうに、お前は何をしてきたんだ!」

「私は」

「助けてもらった記憶もない! 救ってもらったなんて聞いたこともない! 役立たずだ!」


 罵詈雑言の声が響き渡る。

 その声は次第に大きくなっていって久遠の魔法少女を覆い隠してしまった。


 ……待って!


 声を届けようにも届かない。

 彼女のことをもっと知りたい。

 せめて、なにかを伝えたい。

 そう思っても、夢の中だからか、届かなかった。


 黒い影に久遠の魔法少女が覆われたのち、再び別の場面が映し出される。

 赤い空。あたり一面には魔物。そして、その魔物を呼び寄せる裂け目。

 『破滅の日』を発生を食い止める為には裂け目を封じなければならない。

 久遠の魔法少女が立ち上がる。

 そして、小さく息を吸い込んで呟いた。


「呼び出された魔法少女にどれだけのことができるかはわからない。それでも」


 魔力を裂け目に対して集中させ、歩き出す。

 瞳の時と同じだ。自らを犠牲にすることで、封印を促す魔術。


「私がこの瞬間の『破滅の日』を封印する」


 裂け目は地面に発生していて、魔物を出没させている。

 夢で実体のない私はその行動に干渉を行うことはできない。


「……私にどれだけの価値があるかはわからない。だが、この出来事が奇跡だと思われるなら、それはそれで悪くはない」


 魔力を地面に発し、光に包まれていく。

 その時、久遠の魔法少女はどこか寂しげな表情をしていた。


「所詮私は、皆に求められた魔法少女にはなれなかったからな。……魔法で形成、少女の形をした何かにしかすぎなかったんだ」


 光が強まり、世界の色が変わっていく。

 その中でも、久遠の魔法少女は静かに言葉を発していた。


「……それでも、完璧な儀式にならないとしても、私は、世界を守りたかったんだ」


 その言葉と共に消える彼女。

 忽然といなくなった空間には夢の景色として見続けているだけの私が残っていた。


 魔法で形成された少女……


 彼女もまた、私と同じような存在だったのだろうか。そして、どうしてこの瞬間に私は彼女の夢を見たのか。

 わからないことが多い。

 だけれども、彼女に手を差し伸べられるのであれば、助けてあげたい。そんな気持ちは強まっていた。




「未来、起きないんですか?」


 ぼんやりとした感覚。

 夢から覚めた瞬間に目が冴えるわけではないので、少しずつ上体を起こす。

 寝室。隣にアイの姿は見えない。先に起きているのだろうか。


「あの夢はいったい……?」


 夢の内容は鮮明に覚えている。

 しっかりと言葉にして説明できるくらいには情景も浮かび上がる。

 こういうことはなかなか珍しい。

 布団の中で夢のことについて考えていると、エプロン姿になっているアイが寝室に入ってきた。


「朝ごはん、できてますよ」

「珍しいね、アイが朝を用意するなんて」

「わたしからすると、未来が遅めに起きる方が珍しく感じますが」

「それは……そうかも、あんまり寝坊とかはしない方だと思うし」


 ベッドから立ち上がり、伸びをする。

 着替えるのは朝食を食べてからでいいだろう。


「疲れでしょうか?」

「そういうわけではないと思う。疲れというよりは気になる夢を見ていて、その続きを見続けたら遅れたみたいな感じかも」

「夢、ですか」

「うん、夢」


 寝室から出て、食卓の椅子に座る。

 アイと私の前のお皿には目玉焼きを乗せた食パンがあった。

 マヨネーズをレンジで温めて周囲を取り囲んでいる感じだろうか。朝食らしい、食べやすそうな印象を感じるものになっている。


「どういう夢か聞いても?」

「構わないよ。ええっと……」


 先ほど見た夢の内容をアイに報告する。


 『久遠の魔法少女』と呼ばれる存在がいて、そして『破滅の日』の封印に関わっていたこと。

 彼女が『魔法で形成された少女』……魔法少女としては私の在り方に近い存在であること。

 ……そして、あまり周囲の声は明るいものではなかったこと。


 伝えられる情報を伝えたのち、アイはなにかを考えるように唇に指を添えた。


「悪夢、というわけではなさそうですね」

「そういう類の印象は感じなかったかな。なんていうか、実際の場面が映し出されたようなところが強い」

「なかなか現状では、答えになるようなことは言えそうにはありませんが、不思議ではありますよね」

「偶然、私が見たとしても一致するところが多いってところだよね」

「はい、『破滅の日』に関わっていて、しかも同じ在り方をしている魔法少女……名称についても一部一致する箇所があるとなると、なにかの縁を感じます。……未来は、久遠という苗字は、自分で名乗ったんですよね?」

「そうだね。『久遠の魔法少女』のことは知らなかったし、意識もしてなかった」


 少なくとも私は彼女のことを知らない。

 だからこそ、気になる点は増えるばかりだ。


「夢と魔法の関係性も遠いものではないので、なにかしらあると考えた方がいいかもしれませんね」

「『久遠の魔法少女』に関わるなにかが起きるということ?」

「そういうことです。……そろそろ食べましょうか」

「うん、色々話し込んでて食べるのを忘れてた」


 対応できる心構えは確かにした方がいいだろう。

 アイの言葉に頷きながら、目玉焼きの食パンを食べる。


「美味しい」

「ふふっ、家庭的な味を目指してみました」


 卵の白身にマヨネーズの味わいが乗っかっている。

 くどくない程度にこってりとした味わいが口に広がって、どこかすっきりとした食感を感じさせる。

 パンはサクサク。上に乗る具材はこってり。悪くないバランスだ。


「そういえば、未来。近々協力を頼みたいっていう知らせが届いていると思いますが、見ましたか?」


 食べ終わったのち、今度はアイが話を広げる。

 知らせ。どんなものだろうか。


「協力?」

「魔法端末を見ればわかると思います」

「確認してみるね」


 端末の画面を確認してなにかしら連絡が届いているかを確認する。

 ひとつ、届いているメールの中にはこのように書かれていた。


『未来さんにサインや撮影会をお願いしたいです』


 そこには、今までの私とは無縁だったであろうことが書かれていた。


「どういうこと?」


 連絡のメールを送ってきたのはかなただ。これもアニメーション作りの一環なのだろうか。

 画面を動かして、その内容を確認する。


『最近、魔法少女のSNSで未来さんを探そうとしている方が増えている印象があります』

『まだ、未来さんが暮らしている現在の住居は見つかってないのですが、色々盛り上がってしまうと躍起になって探してしまう方も増加する可能性があります』

『未来さんと会ってみたいという方のフラストレーションを解消する為に、サイン会や並びに撮影会を行ってほしいのです』


 こちらの安否を心配してくれるのはわかる。

 だけれども、そこから撮影会とかになるのはちょっと飛躍しているようにも感じた。


「なんで撮影してほしいっていう流れになってるの?」


 率直な疑問をアイにぶつける。

 すると彼女は微笑みながら答えた。


「あら、自分に結構ネームバリューがあるということに気が付きません?」

「というと……」

「こういうことです」


 そういってアイは自身の魔法端末を見せてきた。

 そこに映っているのは魔法少女がよく使うSNS。そしてその画面にはレガとクミの舞台が終わった後に撮った写真が写っていた。

 厳密に言うと、舞台が終わった後、一緒に撮影してほしいと言われて撮ったものだ。なにげなく写真を一緒に撮ったつもりだったものの、SNSではその写真が盛り上がっていた。


『いいな! 私も未来ちゃんと写真を撮ってみたい!』

『当時のままの魔法少女なんだよね……! ご利益あるかも!』

『花吹雪町にいるんだよね! 探してみようかな!』


 そこの返信には多種多様の意見が書かれていた。

 幸いマイナスな感じの言葉はなかったものの、私を探し当てたいという気持ちは強く伝わってきた。


「というわけで、未来を探せブームみたいなのが起こってるみたいです」

「……不思議なブームだね?」

「ふふっ、そのブームが起こったのは最近ですが、わたしたちは作曲してましたので」

「余計に神秘性が増してると」

「えぇ、そういうことです」


 ……なんていうか、フラストレーションが溜まっていきそうな話だ。

 持つもの持たざるもの、みたいになるのはそれはそれでよくないだろうし、手を打つのはありかもしれない。


「わかった、あんまりそういう場はやったことはないけど……サイン書いたり、一緒写真撮ればいいんだよね?」

「えぇ、一緒にポーズとか撮ってみるといいかもしれません」

「なかなか不安なんだけど……」


 写真にどう映るかとか、そういう構図を研究したこともないし、サインも書いたことなんてない。

 色んな人を満足させられるかは正直わからない。


「まぁ、多分未来なら何とかなると思いますよ」

「少しいい加減」

「それに、他のメリットもあるかもしれません」

「他のメリット?」

「多くの方と出会うタイミングです。夢で遭遇した魔法少女さんの情報が手に入る可能性もあるかと」

「それは悪くないかも」


 もちろん、可能性が高いとは言えないだろう。

 私の知らない『破滅の日』の出来事を経験した『久遠の魔法少女』の情報を知る。

 多くの魔法少女と遭遇するのならば、機会は増える可能性はある。


「情報収集はサインとかしながら、表には出さないように様子を見ようか」

「あら、共有しないんですか?」

「まだ夢で見ただけだからね。仮に『破滅の日』に関連してたりしたとしても、変に言葉にして混乱させるのはよくないから」

「遭遇しないなら、それはそれでいいみたいな感じでしょうか」

「そうなるかな。まぁ、当日色々頑張るつもりだからアシスタントお願いね」

「えぇ、わかりました。任せてください」


 夢で遭遇した魔法少女、そして突如開かれることになったサイン会及び撮影会。どれも、まだわからないことが多い。

 だからこそ、ひとつひとつ解決していこう。

 『久遠の魔法少女』の夢を頭の中で振り返りながら、そう考えた。

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