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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第二章 音が刻む旋律、心に響く物語
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第35話 今を生きる音のハーモニー

 『みらい・アイゼン』のオープニング曲が完成した後日。私は映像面の相談を行ったりしていた。

 まだ、未定のストーリー部分は考えられないものの、ある程度提出した物語を元に映像の形をお願いするという工程だ。

 瞳がオープニングの映像について色々質問していたのは私も聞いていたので、彼女と同じように私もある程度方向性を定めた。


『できれば物語の主軸に関わるような魔法少女はみんな笑顔で表現してほしい』

『暗い雰囲気よりも、明るくて前向きな印象を与えるような映像だと嬉しい』

『夕暮れとか綺麗な世界の雰囲気を表現できたらお願いしたい』


 アニメーションは専門じゃないから、正直漠然とした表現をしているんじゃないかと不安だったけれども、対応してくれたかなたは参考にした上で色々調整していくと言葉にしてくれていた。

 ……それと同時に『瞳さんみたいに色々要求してもいいんですよ』と言われたけれども、細かく指定するとなかなか現場に負担がかかってしまいそうだから遠慮した。もちろん、完成したのちに私が見てどう感じるかを考えた上でまた再調整する可能性はあるけれども、それはその時だ。

 現場の作業が遅れたりしないように、私も私なりに再びアニメに使うエピソードを考えないといけない。音楽作成がひと段落しても、まだまだやることはあるのだ。


 かなたと相談し終わった午後、夕暮れ過ぎ。少しずつ星が見えてくる時間。

 帰路についた私の魔法端末に連絡が届く。アイからの通知だ。


『そちらの用事は終わりましたか?』

『折角なので、今回の三人で祝賀会を開きたいと思ってますが、いいでしょうか』


 随分急な話だ。

 だけれども、祝うというのはいいことだと思う。頑張ったことをみんなで称え合うのは思い出にもなるだろう。

 指を動かし、私は彼女に返信する。


『いいよ、問題ない』

『でも、いつ、どこでそれを行う予定かは聞いておきたいな』


 少しの時間も立たないで彼女からメッセージが届く。


『今日の午後、私たちの家で行う予定です』


『えっ』


 間髪入れずに返信してしまった。

 気を取り直して、再度確認する。


『つまりどういうこと?』


『文字通りの意味ですよ』

『今日、シャンテさんを招いて祝賀会としてピザパーティーを開く予定です』


 動揺して、わざわざ聞き返してしまった。少し反省する。ピザパーティーということは注文とかしているのだろうか。


『注文はしてあるの?』


『はい、問題なく』


『……とりあえず聞くけど、私が帰れなかったらどうする予定だったの?』


 少しの時間もかからずに返信が届く。


『帰れると確信してたので、そういうことは気にしてなかったですね』


 きっぱりとした返事。信頼しているのはなんとなく伝わってくる。

 ……なんていうか、アイの行動の速さには驚かされる。とはいえ、今日はこれ以上予定があるわけではない。ピザパーティーには無理なく参加できるだろう。


『わかった』

『これから帰るね。注文、ありがとう』


 これで返信は終わりでいいだろう。

 端末をしまう前にアイの返事が届いたので確認する。


『ふふっ』

『帰ってくるのが遅いと冷めてしまうかもしれません』

『あったかいピザを食べたいのでしたら、すぐに帰ってきてくださいね?』


 直接言葉を交わしているわけではないのに、彼女の表情が目に浮かぶ。

 おそらく今、アイは悪戯っぽく笑っているだろう。

 ……少し、急いだほうがいいのかもしれない。

 そう思った私はあわてないように急ぎながら帰っていくことにした。







 花吹雪町の通り道をしばらく進んで存在する森林地区。その付近にあるのが私と瞳がかつて暮らしていた家……そして、今はアイと同居している家だ。

 家に向かって歩いていると、バイクの音が響いて私の隣を通過していった。

 この場所に人がやってくることは珍しい。ということはピザの配達が届いたということだろう。

 空を見上げると、さっきよりも夜空の星が色濃くなっていた。


「間に合ったかな」


 少し急ぎ足になっていたのは美味しいものを食べたかったからだ。

 私だってしっかりとした食事を取れたら嬉しい気持ちになれる。


 家の玄関を確認する。そこにはピザの箱を持っているアイの姿があった。

 ちょうど会計を済まし終わって運ぼうとしていたところだろうか。家に近づいた時、アイと視線が合った。


「あら、ジャストタイミング。流石といったところでしょうか」

「みんな揃ってないと寂しいからね」

「ふふっ、そうですね。未来さんが間に合わなかったらちょっと切なかった感じになってたと思います」


 アイはピザ以外にもある程度サブメニューを買っていたので、それらを私が持ち、家に入っていく。

 ピザの箱からは美味しそうな香りが漂ってくる。香ばしい味わいを期待させてくれるそのピザは、私たちの頑張った事実を労わってくれているように思える。

 大きなテーブルがある食卓のテーブル。その付近の椅子では手を振って私を歓迎してくれているシャンテの姿があった。


「未来っ、よかった、やってきた……!」

「配達したてを食べたかったから、私としても間に合って一安心かも」

「うん! やっぱりピザは冷める前に食べるのが一番いいからね!」


 テーブルの上に広げられていくのは多種多様のピザ。

 海鮮がいっぱいのペスカトーレ。

 野菜たくさんのオルトラーナ。

 バジルの味わいと綺麗な緑色が印象的なジェノベーゼ。

 そして、素直なトマトの味わいのマルゲリータ。

 四種類のピザがどん、と置かれる。大迫力だ。サイズはきっちり大きめのものもある。

 満足感が凄そうだ。


「今日はたっぷり食べたいから、注文も多めに取ってもらったんだ!」

「ピザは結構量食べれるの?」

「ま、まぁね! 大好きだから!」

「ふふっ、好きなものでお腹を満たせることは幸福ですね」


 サイドメニューとして用意されたハッシュポテトやコーラもいい感じの味わいを広げてくれそうだ。


「では、未来。幹事としてなにかひとことをお願いします」

「……幹事になったつもりはないけど?」

「では、みんなを引っ張っていた魔法少女のひとりとして、なにかいい感じの言葉をどうぞ」

「まぁ、かしこまる必要はないけど……お礼はいっぱい伝えたかったから言ってみるね」

「はい、私は乾杯の為にコーラを用意しながら聞きます」


 立ち上がり、それぞれのコップにコーラを注ぐアイ。

 その間に私は私なりに言葉を繋げる。


「今回、音楽を創ることができたのはみんなのお陰。まず、そのことを感謝したいな」

「作詞するのはあたしじゃちょっとできそうになかったから、真正面から自分の感情に向き合って悩んでた未来、凄いって思った」

「シャンテも一生懸命初心を考えながら、自分なりの音楽を創ってたのよかったよ。少しずつ完成していく光景を見つめるの楽しかった」

「作曲班の友情は美しいですねぇ」


 コーラを注ぎ終わったアイが小さく拍手しながら微笑む。

 もちろん、アイに対しても感謝したいことはいっぱいある。


「アイも色々器用に動いてくれてたよね」

「うん、最初に仲良くなるための作戦を用意してくれたのはアイだったよね」

「それから、内面を見つめる機会を見つけてくれたのはそっちだし……ふたりだけだとうまくいかなかったこと、多かったと思う」

「だから、あたしたちは三人でチームとして頑張れた。そう信じてる!」


 ふたりの意見が合致する。

 私とシャンテだけではうまくいかなかった。

 アイもいて、三人で悩みながら行動したからこそうまくいった結果なのだ。

 その言葉を聞いて、アイは嬉しそうに頬を緩めていた。


「……ふふっ、こういう風に褒められたりする機会はそうそうなかったので、照れてしまいます」

「こういう機会も悪くないかもね?」

「そうですね、暖かい気持ちになれます」


 それぞれがコップに手を伸ばす。

 お腹が空いたのもあって、食べたいという気持ちも強くなっているのは伝わってくる。

 それなら、もう楽しむだけだ。


「じゃあ、そろそろ乾杯しよう」

「えぇ、そうしましょう」

「ご褒美のピザは絶対美味しいからっ」


 コップを上げて、みんなに号令をする。


「みんな、本当にお疲れ様。三人みんなで頑張った時間、そしてこれから迎える素敵な明日に向けて……乾杯っ!」

「かんぱいっ!」

「ふふっ、乾杯ですっ」


 コップを合わせ、みんなで食事を味わっていく。


「ペスカトーレって他のピザより新鮮な感じするよね、そこがあたしは好きなんだ!」

「確かに……海鮮の味わいがすっきりした味わいを感じさせてくれるね」

「このオルトラーナというのもいいですね。野菜とチーズのバランスが美味しいです」

「肉っぽいものは存在しないけど、野菜をたっぷり味わえるよね、オルトラーナ! 季節の野菜で作られてることもあるんだよ!」

「なるほど、そういう楽しみ方があるのはよさそうですね」

「緑が独特のジェノベーゼ……シャンテ、好きだったり?」

「バジルソースの味が人によってはダメ―っていうのはあるかもだけど、あたしは味わい深いから好きなんだ。まぁ、ピザ全般全部好きだけど……」

「なるほどね、ちょっとじっくり味わってみようかな」


 それぞれ違う味を楽しみながら、楽しい時間が過ぎていく。

 ……瞳と離れてしばらくの間。こういうひとときを過ごせるようになるなんて、思いもしなかった。

 ひとりで静かに、世界と向き合っていくしかないと思ってばかりだった。

 だけど、今は違う。

 気軽に話せる友達がいて、新しく知り合った魔法少女だって増えてきた。

 世界は孤独なわけじゃない。


「あら、どうしたんですか? 食べる手が止まってますよ」


 ふと、手元にマルゲリータを持ったまま止まっていたことに気が付く。

 指摘されたことに苦笑しながら、私は考えてたことを打ち明ける。


「こうして、楽しい時間が過ごせるって幸せだなって思ったの」

「あら、センチメンタルですか?」

「何気ない日常があるっていう安心感を感じてただけだよ。こうして、みんなで集まってなにかを食べるなんて前は思いもしなかったから」


 少なくとも寂しい気持ちになったりしているわけではない。

 私なりに今この瞬間を楽しんでいる。


「でも、わかるかも。あたしも友達とかそういうのとあんまり縁がなかったから、みんなでピザパーティーを開くなんて考えなかったもん。それも二回も……」

「ふふっ、これからも行っていってもいいんですよ?」

「いいの!? め、メニュー全コンプリートとか試したいな!」

「それも面白そうですね、今度やってみましょうか」

「やった……!」


 笑顔で話し合う光景。

 それは守った世界の尊さを教えてくれる瞬間だ。


「そうだ」


 私の魔法端末を取り出して、テーブルの上に置く。


「何をするつもりですか?」

「せっかくだから、出来上がったオープニングをこの家で流してみようかなって思って」

「音楽の祝賀会だから、そういうのもよさそうかも……!」

「それに、前は瞳と暮らしてた場所だからね。ここで流したら彼女に届くかもしれないから」

「なるほど、成果物を見せる目的もあると」

「まぁ、願掛けみたいなところだよね。流してもいい?」

「はい、大丈夫です」

「こっちもおっけー……!」


 それぞれの了承を得て、私の端末の音を上げて、出来上がったオープニング……『未来の明日』を流す。

 今は隣にいない、瞳に届くように。そう願いながら。



『ひとり見つめた夕暮れの空 夕日の色は綺麗で』

『地平線眺めて 世界と向き合う』


『ふと進んだ先には みんなの笑顔があって』

『瞳を閉じないでと 声が届いた』


『あなたのくれた想いをそっと胸に抱いて』

『いま、物語を続けよう』


『秘めた心の内を明かせば 数多くの想いがあるから』

『愛で染まった感情で 私なりに歩いていこう』


『君が祈った願いを 受け継いでいくから』

『行こう 希望の明日へと』



「気になることがあるんです」


 曲が一通り流れたのち、アイが私に問いかけてきた。

 シャンテは曲に集中しているのか、私に注目しているのはアイだけだ。


「何が気になる?」


 少し考えて、彼女は言葉にする。


「今の世界は、楽しいですか?」


 その言葉に静かに答える。


「瞳がいなくなっちゃったあとは孤独だって思ってた。楽しいって言えるかも難しかったかな。でもね……」


 ゆっくりと、言葉を繋げる。


「こうしてみんなと会えて、久遠未来って名乗るようになった私を支えてくれるパートナーと出会って、楽しいって少しずつ思えるようになってきたんだ」


 笑って、アイに向き合う。

 今の私を作っているのは悲しみじゃない。

 みんなの支えによって紡がれている繋がりが私を形成している。


「だから、これからも私なりに生きていくつもりだよ。みんなと……アイと一緒に」

「そうですか」


 ゆったりとした仕草でその言葉を受け止めたアイ。

 私の言葉を聞いたのち、小さく微笑んで……


「その言葉、パートナーとして……ひとりの友人として、嬉しい限りです」


 笑顔で、私の眼を見つめた。


「……あっ! 流れ星!」


 音楽鑑賞をしていたシャンテが窓の外に指を刺す。

 青く光る夜の星空に、きらりと星が流れた瞬間が目に映る。

 綺麗な、願いをかなえてくれそうな流れ星。

 それを見かけたシャンテは嬉しそうにしていた。


「きっと聞きに来たんだよ! 瞳さんが!」

「瞳が?」

「うん! きっとみんなで作った曲が気になったんだ!」


 そう言葉にするシャンテは心からそう信じている様子だった。

 ……私もそれを信じたいと思った。


「いいですね、その考え。素敵です」

「もし、瞳にこの曲が届いてるんだったら……」


 胸に手を当てて、伝えたい言葉を口にしよう。

 実際、彼女が聞きにきているかなんてわからない。でも、それでも、信じてみたい。

 魔法も、奇跡も存在するのだから。


「……十年越しにメッセージ届いたよ、瞳。この曲は今を生きる気持ちを込めた曲。瞳に届いたらいいな」


 目を閉じて、静かに願う。

 音が紡ぐ物語。そのひとつひとつが彼女に、みんなに、世界に届きますように。

 人と人が重ねていく物語は旋律のように綺麗で、どこまでも続いていくものだから。

 これからも、ずっと続いていきますように。

 満天の星空に私はそっと祈りを込めた。

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