第34話 私と『彼女』の重なる音
曲の合格を貰った後の時間。
私はカランドに呼ばれて、二人で話す空間へと移動することになった。
防音室を出て、すぐ外にあるベンチ。そこで私とシャンテは一緒に座っていた。
「二人きりでなにか言いたいことがあるって、どういうこと?」
カランドに問いかけてみる。
すると彼女は悪戯っぽく笑った。
「ふふん、ボクだからこそ持っている特製映像を見せたいって思ったのさ」
「カランドだからこそ持ってる特製映像?」
「まぁ見ててよ、絶対なにか反応するはずだからねっ」
そう言いながら魔法端末を準備していくカランド。
「魔力式プロジェクター展開!」
私たちが座っているベンチの目の前に魔力で構成されたプロジェクターが出来上がる。
このプロジェクターは時々かなたも使ったりする便利なもので、魔法端末の映像を直接映し出すことができる。
「で、これをこうして……っと」
端末を動かし、映像の準備を整えていく。
少しの時間が経過したのち、映像を流せるようになったらしく、カランドは私の方を向いた。
「こっちは準備はいいよ。未来は心の準備はいい?」
「心の準備って言われても、何流すかわからないんだけどね」
「何が来ても大丈夫かってこと」
「それはきっと大丈夫だと思う」
「そっか、じゃあ再生しよっか。ボクが過去にオープニングを作った時に撮った映像!」
そう言って再生を行うカランド。
少しの時間が立ち、映像が流れる。
そこに映っていたのは……
「……瞳?」
そう、愛染瞳だった。
過去、私と一緒にいた彼女がひとりで映像に映っている。
『う、映ってる? 大丈夫? うん、平気だね。よーし……』
明るい表情の彼女は当時の姿のままだ。
笑顔がよく似合う、朗らかで主人公的な存在を発揮する魔法少女。
青を基調とした私と違って、暖色系の色合いの衣装、そして桃色の髪をしている彼女。
『やっほー、未来! 私だよ。いつこの映像を見てるかわからないけど……元気かな?』
手を振って、笑顔を見せる瞳。
これは私に向けられて撮られた動画というのはその口ぶりからもわかる。
『この映像を見てるってことは……新しくオープニングを作ったってことだよね!』
『カランドさん、まさか私の映像を見せるのに条件を付けてくるなんて思わなかったからびっくりだったけど……』
『でも、見てるなら、うまくできたってことだよね! おめでとう、未来!』
拍手をする彼女。
まるで、私が完成させるのをわかっていたかのような勢いだ。
「……瞳」
なにか言葉が出てきそうになる私の気持ちを気にしないまま、映像は続いていく。
『実はね、アニメ制作の時にオープニングを作るってなった時に私、挑戦してみたんだ』
『オープニングの歌詞を作りたいってね』
胸に手を当てて、瞳は静かに続ける。
『この世界に生きた証を残したくてさ。作られたアニメーションのすべてを私は見ることができないわけだし、せめて私がいたっていう事実を刻みたかったの』
『まぁ、オープニングの歌詞を書いたって言う事実は内緒だったわけなんだけどね! わざと未来も知らないようなペンネームを使ったくらいだしさ!』
「それであの時、はしゃいでたんだ」
オープニング映像が完成した日、せかすように私に聞かせてきたのを覚えている。
満足げな表情になっていたのも、一緒に聞きたいと言っていたのも、全部繋がっていた。
瞳は自分が作った歌詞に対する私の感想を、直接聞きたかったのだ。
画面に映る瞳は少し気恥ずかしそうに、それでもはにかみながら続ける。
『……嬉しかったよ。未来に素敵な歌詞だって言われたこと。明るくてまっすぐな歌詞が瞳っぽいって言ってくれたこと。ふたりで作品を見る機会はそうそうなかったから、すっごくいい時間だった』
『だから、カランドさんがもし続編を作るなら未来に歌詞を書かせるって言ってた時は驚いたんだ。流石に完成するまでこの映像もそれまで見せるつもりはないって言ってた時はちょっと困っちゃったけど……』
『でも、私はそれを受け止めることにしたんだ。だって、カランドさんはいい人だし、私もこういう条件付きで届くメッセージみたいなの、やってみたかったから!』
『こういうのってタイムカプセルって言うのかな? 遠い将来の未来に届く言葉って考えると、ロマンがあっていいなって思ったの!』
彼女のまっすぐな感情が伝わってくる。
人を疑うことを知らない、無垢な心。
明るい世界が続くことを心から信じている純粋さ。
そして、この後犠牲になるのはわかっているのに、優しいメッセージを残してくれていた気持ち。
どれも、大切な彼女の想いだ。
『未来は私とは違う魔法少女……年月を重ねても見た目は変わらないけれど、考えることは少しずつ変わってくと思うの』
『でも、忘れないでほしいんだ。私たちが守る平和は、いつまでも尊いものだってこと』
『みんなの笑顔を守って、自分の優しさを貫く。そんな魔法少女のこと』
『一年、五年、十年、どんなタイミングでこの言葉が届いてるかはわからないけど……』
『未来の明日が素敵な日々であることを願ってるよ!』
そう言葉にしながら手を振る彼女。
動画の再生時間はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
『名残惜しいけど、こういうのってすぱってやった方がメッセージっぽいよね。だから、私もすぱーって言っちゃうね!』
『オープニングの完成、おめでとう、未来! 私も正直未来が協力したオープニング、聞きたかった!』
『だから、なんかいい感じの場所で完成したやつ流して! 私、どんな場所にいても聞きにいくから!』
『絶対だよ! 約束! 遠い昔から今に繋がる、たいっせつな約束!』
『じゃあ、これでメッセージ終わり! 未来、健康には気を付けてね! じゃあね! 元気で!』
動画がフェードアウトしていく。
その間も、彼女は笑顔を忘れないでいた。
瞳は相変わらずの様子だった。
「こういう時も寂しい顔を見せないんだからしっかりしてる」
「瞳ちゃんは笑顔で撮影されてたからね! そりゃあボクから見てもはっきりわかるくらいには!」
「楽しそうにしてた?」
「うん、文字通り『未来』に届くのを楽しみにしてた!」
「そっか」
その言葉を聞いて、彼女らしいと思わず頬が緩んだ。
自分の気持ちを伝える時はいつだって全力。それが瞳の姿だった。
「ボクが面白いなぁって思ったのは、出来上がった歌詞が瞳の書いた歌詞を自然に意識していたこと!」
「単純に歌詞の波長があったとか……そういう感じではないよね」
「うんうん、なんていうか、ふたりの絆みたいなものを感じ取れておぉって思った!」
その言葉には嬉しさを感じた。
瞳がいなくなった後も通じる想いがある。
紡いできた縁は無駄にはならない。
そうした繋がりを感じさせられるからだ。
「今の私も、前の私も同じ私だけど……少しずつ環境は変わっていく」
「うん」
「だけど、それぞれの出会いが少しずつ新しい私を創造しているって考えると、前向きになれてるんじゃないかなって思ってる」
「瞳ちゃんもこのメッセージの中にはいっぱいの気持ちをを込めてたからね」
「願い?」
「撮影終了した後にひっそり言ってたんだよ? 『もし、私がいなくなったあとずっと沈んだままで元気じゃなかったらどうしよう』ってさ」
「……見えないところで心配してたんだ」
辛さを見せない、不安は押し付けない。そうした彼女の一面はずっと感じていた。
一緒に活動している間、気丈に振る舞う瞳の姿は多かった。
「だから、ボクはこう言ったんだ。『平和になった世界でも、未来は自分の足で歩いていけるだろうし、いつかは再起する。そういう時にボクは手を貸そうって思うんだ』って。そしたら瞳ちゃんは笑ってさ」
静かにカランドが続ける。
「『なら、私は願いをこめようかな。未来に素敵な出会いがいっぱい訪れますように』って、そう言ったんだ」
「……出会い」
胸に手を当てて、そっと目を閉じる。
こうして活動的になるまで時間はかかってしまった。
だけれども、今を生きる魔法少女と出会い、世界を見つめて、私なりに歩めるようになっている。
自分の力だけで歩くことは大変だ。
だけれども、支えてくれる人がいるから、私は進んでいける。
「ふふっ、ボクも安心したよ。久しぶりに未来が活躍してるのを見てて、そろそろ出番かなって思ってさ」
「ちょうどいいタイミングを調べてたってこと?」
「ふふっ、それは内緒だよ? だって、音楽は作りたいときに作るものだからね!」
はぐらかす彼女。
どんな形であれ、出会いがまた私を成長させてくれたのには間違いない。
これからも、私は自分なりに世界を見つめることになるんだろう。
「それじゃ、ボクのやりたかったことはこれにておしまい! かいさーん!」
「少しいい加減かも」
「まっ、かたっくるしいのは面倒だからね。ボクはエンディング作りに励むから、未来もなにかしてなよー!」
じゃあねー、と言いながら去る彼女。
外のベンチには私だけがいる。
「……みんなに会いに行こっか」
私がこうしてオープニングに関われたのは、協力してくれたみんながいてくれたからだ。
そっと立ち上がり背伸びする。
気分は上々。爽やかな風が心地よい。
「今の私は、もうひとりじゃないから」
瞳がいなくなった世界。寂しい気持ちはまだあるけれど、孤独を感じることはない。
暖かいみんなの想いが、私を支えてくれている。その事実が少しずつ幸せを感じさせてくれる。
きっと、希望の明日が待っている。快晴の空を見上げながら静かにそう考えた。




