第33話 届けたい想い、響かせたい音
曲が完成した後日。
私たちはカランドに連絡して、集まることを決めた。
集合場所は前回と同じ花吹雪町の防音室。
外に音が漏れ出ることのない空間には私とアイ、シャンテの三人、カランド、かがみ、そしてかなたの三人、合計六人の魔法少女がいる。
防音室の大きさはそれなりで、比較的多い人数での演奏にも対応できるくらいの場所になっている。そのため、それぞれ座っている空間にもある程度の余裕がある。
「改めて、この部屋にボクたちを呼んだってことは、自信作が完成したってことだよね!」
楽しそうにハイトーンな声を響かせるカランド。
この日が来るのを待ちわびていたという様子だ。
「う、うん。あたしたちなりに全力をぶつけてみた」
「いいね、その気概! やる気に満ちた表情! 音を聞く前からなんだか期待が膨らんじゃうね!」
うんうんと頷くカランドを微笑ましく見つめていたかなたが私に声を掛けてくる。
「未来さんも、前よりすっきりしてる感じがあります」
「そこまで悩んでる様子だったかな、私……」
「そうですね……厳密に言うと、前回この部屋で会った時より迷いがないような印象を受けています」
穏やかな雰囲気でそう言葉にするかなた。
彼女の言葉に対して、私も同意するところはあった。
「色々みんなで話したりして、その上で改めて曲を作ったからね。これでいいんだろうか、みたいな感じは減ってるはずだよ」
「ふふっ、それなら安心して音楽を楽しめそうです」
姿勢を整えて、かなたは自身の前に置かれた音楽の端末を調整していく。
カランドも目の前に用意した再生用の音楽端末を動かす。
今回の音楽鑑賞の仕方は前回とはまた異なるやり方になっているのだ。
音楽を再生するタイミングは同時。
今回は音楽端末と連動させたヘットフォンを使って、各自に聞いてもらうというものになっている。
このやり方を提案してきたのは、カランドだ。
『前回やった時に感じたんだよね。各々、集中して聴ける場にした方がきっといいかなーって。だから、色々こっちで用意したんだ!』
部屋に入る前にしっかりと準備していたあたり、音楽に関しての情熱を感じる。
音質もしっかりとしたものを用意していて、耳を傷めないような設計になっているみたいだ。よくできている。
音楽端末は人数分存在していて、律儀に私たちの分まであった。
端末を調整している時間、かがみが顔を上げて気になったことを聞いていた。
「アイも満足げな表情……なにかしていたのか?」
「ふふっ、お悩み相談的なことをしてました」
「マネージャーみたいなことをしてたんだ」
「マネージャー……確かにそうかもしれませんね、メンタルケアとかはそういう部類かもしれませんし」
「なるほど……迷いがなくなったならいいものになってそうだな。こっちももっと真剣に向き合おう」
それぞれ準備が完成して、音楽鑑賞ができるようになった。
みんなでヘットフォンを装着し、音楽を聴く。
その題名は『未来の明日』。
迷っても、悩んでも、笑っても明日は来る。『未来』の明日は明るいものになっている。
そんな願いを込めて曲のタイトルにしたのだ。
ヘットフォンから音楽が流れる。
『ひとり見つめた夕暮れの空 夕日の色は綺麗で』
『地平線眺めて 世界と向き合う』
バイオリンが旋律を刻み、ノスタルジックで、それでもどこか明るいメロディが展開される。
そんな中、私が悩んで、考えた歌詞がシャンテによって歌われていく。
最初に考えていたメロディの歌詞は暗いものだった。それは、『はぐれた世界でひとり空を見上げた』というものだ。
どちらかというと前回の歌詞は暗い時期だったころの私を表現していたところが強い。
けれども、それはもう変えていいと思ったのだ。
ひとりでいた時間でも、夕日を眺めていた時の感動は私の心を動かしていた。
街で楽しそうにしている人々を守っている時も満たされている想いはあった。
今でもその気持ちは変わらない。だからこそ、前向きにしたいと思ったのだ。
『みらい・アイゼン』の物語は、決して暗い物語ではないのだから。
『ふと進んだ先には みんなの笑顔があって』
『瞳を閉じないでと 声が届いた』
まっすぐな声が届く。
その歌声に迷いはない。私が想像していた静かな前向きさを表現してくれている。
私がこうして活動的になれているのは出会った人たちのお陰でもある。
助けた人の感謝の言葉も、瞳がいなくなった私を支えてくれた。
かなた、そしてかがみとのアニメーションの相談も今の私を変えるきっかけになった。
アイがパートナーになって新しい世界の見方を学んで、レガとクミのふたりと事件を協力して解決したことも世界に彩りをくれた。
そして今、カランドと会い、シャンテと音楽作成をしている瞬間がある。
そのどんな時でも、優しい笑顔がある。それは素敵なことだ。守った世界の先の優しい時間を感じられるのだから。
『あなたのくれた想いをそっと胸に抱いて』
『いま、物語を続けよう』
アイが決めたフレーズに思わず頬が緩む。
そっとという言葉がある意味で私らしいのかもしれない。
私は瞳ほど活動的じゃないし、ヒーロー気質もない。
自分にできることを、自分なりにやっているだけだ。
寄り添うことは得意かもしれない。そう思いながら音楽の鑑賞を続ける。
『秘めた心の内を明かせば 数多くの想いがあるから』
『愛で染まった感情で 私なりに歩いていこう』
自分の感情がまだ整理整頓できていない自覚はある。
まだ、瞳のことを考えると複雑な気持ちになる部分だってある。
でも、それでいい。
瞳のことを考えている私も、今を見つめている私も両方とも大切なのだから。
歌詞には愛に染まった感情と書いた。これは、ひとつの形だけじゃない愛を大切にしたいと思ったからだ。
私は私以外にはなれない。だからこそ、私なりに歩くのだ。
『君が祈った願いを 受け継いでいくから』
『行こう 希望の明日へと』
歌詞の最後のフレーズ。
それはあえて『ひとみ・アイゼン』のオープニングである『瞳の未来』のフレーズを意識した。
想い願ったストーリーは きっと未来に届くから
ほら、進もう 希望の明日へ
瞳から未来に受け継がれる想い。
続いていく物語を形にしたい。
そういった感情から、歌詞を重ねるように意識した。
悩んだけれども、重なるようにしたい。そんな気持ちが強かったのも大きかった。
オープニングの長さはちょうどアニメのサイズくらい。
再生が終わり、各々がヘットフォンを取り外す。
「いやー、よかった!」
拍手をしながらそう最初に言葉を発したのはカランドだった。
「シャンテ、音の調和に迷いがなかったのがまず点数高いよ! いい感じの技術に仕上がっててボクも嬉しいよ!」
「あ、あたしそこまでべた褒めだと照れちゃうかも、師匠……」
「褒めて伸ばすタイプだからいいの! それに表現したいものを表現したかったみたいな情熱が伝わってきたのもよかった! ね、かがみ!」
急に話を振られたかがみは少し驚いた様子を見せながらも、すぐに答えた。
「あぁ、曲全体から魂みたいなものを感じた。自分の好きなものを好きだっていう感情が伝わってきて……こう、あたしも音楽には詳しくないけどぐっと来た」
「あ、ありがとう、ございます。……その、全力で好きな音を用意して、未来が作った歌詞と調和させるように頑張ったから、ええっと、伝わったみたいで嬉しい、です……!」
恥ずかしがりながらも、嬉しそうにするシャンテ。師匠の前だからか、口調が敬語になっているけれどもうまく表現できたことの嬉しさを噛みしめているのは見て取れた。
「あとね、歌詞よかったよ! 未来!」
「ありがとう、前よりなるべく暗い表現はカットしてみたんだ」
「心境の変化かな? ちょっとボクは気になるかも」
「瞳がいない世界でも、笑顔が素敵な人がいて、守りたいと思えるから。……それに、次回作が暗い雰囲気なオープニングになっちゃうとなんだか寂しいなって感じたからね」
「なるほど! いいねいいね、その心境。前向きな明るいオープニング。うん、完璧!」
満足げに頷くカランド。
「こちらとしてもとても素敵なものが聞けたなって感じました」
「それはよかった。かなたはどういうところがいいと思った?」
「そうですね……『瞳の未来』に通ずるフレーズがあったことに感動を覚えました。暖かい気持ちになれるくらいには」
「そう言ってもらえてなにより。『瞳の未来』より少し静かな感じになってるのはどう思った?」
「未来さんっぽい感じになっててよかったと思いますよ」
「私らしい感じ……うん、理想的かも」
目指していたものを表現できた。
それは私としても嬉しいところだ。今の私らしい一面を表現できたのではないだろうか。
「さてさて、今回の評価はバッチリってことで……」
一息置いて、カランドが笑顔で発する。
「ボクは合格をあげる! みんなは?」
かがみもしみじみと頷きながら答える。
「当然合格。ここまで理想的に表現できるなら言うことなしだから」
かなたも微笑む。
「はい、合格ですっ。きっといいオープニングになると思います!」
これでみんなの了承が得られたということになる。
つまり、今流した曲が採用されることになる。
「やりましたね、みなさんっ」
拍手をするアイ。
その表情は嬉しそうだ。
「よ、よかったぁ……あ、あれ……?」
力が抜けたようにぐったりするシャンテ。
「どうしたの? シャンテ」
「う、ううん、気をずっと張ってたから、急に気が抜けちゃって……」
「うんうん、試験は疲れるよね。しばらくゆっくりしてていいんじゃないかなシャンテ。予めこの部屋、ボクが長めに取ってたし」
「ありがとう、ございます」
「どういたしましてっ、さーってとボクもエンディング作成頑張ろっと!」
みんなの表情には笑顔が浮かぶ。
挑戦して、頑張ることによって得られた素敵な達成感がある時間。
このひとときを今は大切にしていこう。心からそう思った。




