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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第二章 音が刻む旋律、心に響く物語
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第31話 数多くの想いがあるから

「では、次は未来の話が聞きたいです」


 シャンテが自分と向き合ってすぐ、注目は私に集まっていた。

 理由は言うまでもない。次は私の番だからだろう。


「間髪入れないで入るんだね」

「ふふっ、わたしとしても聞いてみたいところでしたので」

「あ、あたしも興味あるかも。ほら、その……有名な魔法少女の過去って聞ける機会そうそうないから……」


 シャンテも気になっているらしく、そわそわしている様子だ。

 どんなことを求められているかわからないけれども、興味を持ってもらえているというのは悪くないのかもしれない。


「質問については考えてあるの?」

「そうですねぇ、聞きたいことは色々ありますが、どれを聞こうか悩んでます」

「それなら、少しお茶を用意してる間に決めといて。ささっと用意してくるから」

「わかりました」


 立ち上がり、少し歩いて台所付近にあるお茶用のピッチャーを取り出す。

 それを持ち運んだのち、コップを用意していく。

 机の上に用意したみっつのコップにお茶を注いで、ちょっとした休憩の準備は万端だ。


「これでいいかな」

「ありがとうございます」

「え、遠慮なくもらうねっ」


 すすっとみんなでお茶を味わう。

 麦茶は昔からよく用意していたもので、瞳と活動していた時も度々私が作っていた。

 味はすっきりした味わい。寒い時期、暑い時期、どちらで飲んでも美味しいものだ。


「悪くない味わいでしょ」

「そうだね、すっと味わえる」

「意外なことに未来さん、結構こういうの作るの得意だったりします」

「意外かな」

「生活能力が高いんです、なんだかんだで」

「瞳があんまり得意じゃないことを率先してやってたらこうなってた」

「なるほど……」


 お茶を再度注いだのち、アイがそれとなくやる気を見せているのを感じる。

 そろそろ質問の時間だろう。

 私も少し気合を入れるべきか。


「では、休憩もできましたし、質問していきますね」

「答えられる質問にしてほしいな」

「ふふっ、どうでしょう。では、早速いきますよ」


 小さく微笑んだのち、彼女がひとつめの質問をぶつけてくる。


「まず、未来さんにとって愛染瞳という人物はどういう存在だと思ってますか?」

「単刀直入に来るね」

「ふふっ、今のパートナーとしても気になるところですので」


 悪戯っぽく笑うアイ。

 私も素直に答えよう。そう思い、静かに考える。

 一言で説明するのはなかなか難しい。けれども、言葉にすることで見えてくることもある。


「英雄……というよりは、何かを変えてくれる存在みたいなところが強い魔法少女、かな」

「何かを変える?」

「どんな困難があったとしても、この人がいれば心配ないって思えるような存在だよ。悩んでても一緒に考えてくれたり、前向きにさせてくれるような……ね」


 少なくとも私の数段、人を励ますのが得意だったと思う。

 立場上、私も導く立場になることは最近は多いけれども、瞳のようにできているかというと疑問がある部分も多い。


「気になりますね、どういうエピソードがありますか?」

「そうだね……それならひとみ・アイゼンの3話のエピソードが印象的かな」

「あっ、見てたから覚えてるような……確か、縄跳びとか、鉄棒で苦労している子を応援しているような感じだったような……」

「それで会ってるよ。彼女、子供に寄り添って応援するのとか得意だったんだ」


 話の概要としてはこんな感じだ。

 魔物は負の意識が多いと出没しやすい。とある小学校の付近で魔物の気配が多くなっていたので、それを調べる間に、運動に悩んでいる子を見つけることになる。他の人と比べて自分はうまくできていないと嘆いている子に対して、瞳は優しく接していく。

 うまくいったと思った時、その子は失敗して、泣き出して、魔物を出現させてしまう。そんな魔物に対して立ち向かいながらも瞳はそれでも励まし、魔物の撃退に成功した、といった内容だ。


「あぁ、その話でしたか。最近ちょっと気になって復習のついでに見てました」

「いつ見てたの?」

「未来が買い物に行っているあたりです。確かにそのエピソードのひとみさんは魅力的でしたね。『どんなに難しくっても、失敗しても、頑張ったことは嘘にはならないよ。だから、一緒にまた、頑張ろう』という台詞はなかなか印象的でした」


 アニメの活躍シーンは基本的に実際に行われたエピソードを元に作られている。

 その為、その台詞も実話通りになっている。瞳が励ました子に許可を取って、お話にしていいと言ってくれたのはまだ覚えている。


「その言葉をその日の練習に付き合ったくらいの子に言えるの、本当に凄いと思う」

「当時の未来は随分冷めてる様子でしたよね、アニメでも」

「……個人的に見返したくなるのは中盤が多い理由のひとつだったりもするけどね、それ」

「あらあら、なんででしょうか」


 是非、聞きたいという態度をとるアイ。

 その隣では、うずうずと気になっているシャンテの姿もあった。


「身もふたもないことを言うと、この世界に顕現したころの私は、そこまで感情的じゃなくってね。どっちかというと合理的な側面が強かったと思う」

「えっ、こんなにフランクに話してるのに? 全然違かったんだ……!」

「ま、まぁね。魔物を撃退できればよし、世界から『破滅の日』が消えるまで尽力する、くらいのメンタルだった」

「あぁ、だからひとみ・アイゼンの最初の方のみらいは冷めてる感じだったのですね」

「今思うと若気の至りっぽくて恥ずかしいけど……」

「そういうとおばさんっぽいですよ、未来」

「うっ、やめとく」


 見た目が当時と同じままなら、せめて感性はしっかりと持っていきたい。

 そういうことを考えている時点でよくないかもしれないけれど、とにかく新鮮さとかは大切だ。


「話を戻すけど、彼女が一生懸命励ましてる時も、私はそこまで熱量をこめられなかったんだよね」

「応援はしてたとは思いますが」

「いつ魔物が現れても対処できるように動いてただけだよ。そこまで立派じゃない。魔物の強襲には対応してたけど、その当時はあんましその子の心に寄り添えなかったし」

「あれ、でも、魔物を撃退した時にその子言ってたよね、『お姉ちゃん、かっこよかった!』って。助けては上げられたと思うけど……」

「……その言葉はわりと大きかったなぁって今思い返すと感じるよ。この世界に意識を持って、初めて瞳以外の個人から褒められたことだから」


 よくアニメで話題にされているのは『3話でしっかりとみらいが笑う』という場面だ。

 それまではあまり微笑んだりすることがなかったみらいの笑顔が増えるきっかけであり、印象的だと言う人も多い。

 当事者である私も、かっこよかったと言われた時の気持ちをよく覚えている。

 役割だけ考えていた私に、初めて第三者として褒めてくれたこと。

 そして、無垢な言葉で私を認めてくれたこと。

 今の私を形成する一歩だったかもしれない。


「未来は励ますよりも、支えるのが得意ですよね」

「役割的に、そういうのが多かったからね」

「瞳さんがみんなを照らす太陽的な存在でしたら、未来は存在することでほっとさせる月……そんな感じの印象です」

「大胆な例え」

「でも安心感があるのはわかるかも、未来と一緒にいるとなんか落ち着くみたいな」

「そこまでかな」

「う、うん。だって、楽曲作ろうってなった時に少しずつ頑張ろうって風に励ましてくれたの嬉しかったから」

「……そっか」


 その言葉を聞いて、頬が緩む。

 私は瞳にはなれない。

 彼女のように人を引っ張ることはできないし、積極的になることもできない。

 それでも、私がいることで励ますことはできる。それはとても大切なことのはずだ。


「いい感じの雰囲気になりましたし、次の質問いいですか?」

「ひとつだけじゃないんだね、いいよ」

「はい。では次の質問。瞳さんに感化されて、この世界が楽しいと思えたのはいつ頃でしょうか」


 真剣な表情の質問。

 彼女自身、興味を持っているのはその態度からも伝わる。

 なぜならば、オルクスアイという人物も、世界の面白さに触れて滞在している存在なのだから。

 まっすぐ私は彼女を見つめて、答える。


「日常生活を一緒にしていく間に、自然に楽しくなってた」

「具体的には?」

「少しずつ料理をするようになって美味しいって言われたりした時とか、一緒に遠くに行って思い出の写真を撮ったりした時、あとお風呂入ったりとか色んな思い出。些細な出来事も多いから、アニメの話数だけでは語れないところもいっぱいあるんだ」


 料理は気が付いたころ、私なりにではあるけれど、できるようになっていた。

 写真はいまでも綺麗なまま残っている。

 髪を整えたりしたこともよく覚えている。

 戦うだけじゃない、楽しかった日々か瞳と一緒に過ごせていた。

 その時間が、少しずつ私の心を感情的にさせてくれていた。


「ふふっ、何気ない日常というのはやはりいいものですね」

「アイも同じでしょ?」

「はい、楽しい時間が増えています、もちろん今もですが」


 そう言って笑う彼女。

 なにげない日常が幸せを運ぶ。それはどんな時間でも変わらないのかもしれない。

 そうして、ふと気が付く。

 難しく考えすぎなくてもいいのかもしれないと。


「……意外と悩んでたことってシンプルだったのかもしれない」

「掴めましたか、未来」

「うん、少しずつわかってきたことがあるんだ」

「それは……どんなこと?」

「過去にあるのは後悔だけじゃないってことを再認識できた」


 小さく笑いながら続ける。


「今でも瞳と離れ離れになっちゃったことは寂しく思うし、時々気になったりもする。でも、それだけが私を作ってるわけじゃないってこと」

「瞳さんと過ごした日々は記憶として残り続けてますし、技量も存在していて、想いも受け継がれてますからね」

「そういうこと。ひとつひとつ、小さな思い出がいっぱい重なっていって今の私がいる。私が過ごしてきた時間全部を描写するのはやっぱり難しいかもしれないけれど、歌詞として形にしていくならば、もっと前向きで明るいものも作れそうだなって思えてきた」

「あ、あたしたち、前に進めたってことかな……!」

「そういうこと。質問して、自分のことを見つめ直して、色々知ることができた。……話を聞いてくれたり、質問してくれたおかげ。みんな、ありがとう」

「あたしの方もありがとう……! そ、その、本当にこういう機会そんなになかったし……色々勉強になったから!」


 自分を見つめる時間。

 それは、私たちをしっかりと次のステップへ導いてくれたと思う。

 少なくとも、前に比べてぼんやりすることはなくなったはずだ。

 これからは、作曲の為に再び気合を入れて頑張ろう。


「あっ、そうでした、もうひとつ気になることがありました」

「なに?」

「お風呂に一緒に入ってドキドキしたりするのはどっちですかね」

「……ノーコメントで」

「あら、お風呂場でわたしに注目してる印象ですが」

「えっ、そうなの?」

「目立つ体付きしてるから気にするってだけ! 別に注目してるってわけではないからっ」

「ふふっ、いつしか未来の眼をいい感じに奪いたいものですね」

「そんなに釘付けじゃないからっ」

「ふふっ、どうでしょう」


 雑談も明るい時間に繋がるもの。

 とはいえ、アイはどうにもアピールが多いような気もする。

 別に私は瞳にだけに目がいってるわけではない。

 だから、誤解を解く為に今度色んな時間を用意するのもいいかもしれない。

 困らせようとする彼女を見つめながら、そんなことを考えていた。

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