表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
3/64

第2話 そして、振り返る

 ある日の朝。

 普段使いしている携帯端末に音が鳴り響いた。


「珍しい」


 私が使っている携帯端末は魔法少女用のものだ。そのため、厳密に言うと携帯魔法端末と言った方がいいかもしれない。

 通常の携帯電話とは違う仕組みでできているのもあって、魔法少女やその関係者くらいからしか連絡が来ないものになっている。

 その為、普段は連絡が来ることは少ない。愛染瞳が去った現状、魔法少女との交友関係も控えめになってしまっている。


「なにか、あったのかな」


 端末を動かし、連絡がどのようにやってきているかを確認する。

 どうやら電話形式の連絡だったみたいだ。

 確認を取るために、私は通話を繋いだ。


「電話形式でやりとりするのは久しぶりかもしれないね、かがみ」

『まぁ、未来とはふらっと行動してる時にばったり遭遇することが多いよな。メールしたら結構近くにいたとかよくあるし』

「もう数ヶ月前だけどね。元気にはしてた?」

『それなり。あたしは色々演じてたりするから、なかなか忙しいんだ』

「なかなかに売れっ子だもんね」


 月灯かがみ。

 瞳が去った後に、お世話になった魔法少女だ。

 魔法少女が関わるアニメーションなどに参加することが多い、演技が得意な存在だ。

 魔法少女が社会に関与することは珍しいことではない。魔物退治の為にパトロールを行う人もいれば、その魔法の力をうまく利用して仕事に取り掛かっている魔法少女もいる。魔法少女の組合といった組織に属することは多いけれども、社会という場面で活躍している存在は多い。

 たとえば、かがみの場合はアニメ『魔法少女ひとみ・アイゼン』における私……つまり、魔法少女『愛染みらい』を演じていた。彼女の場合、魔法をビジュアル・デザインの調整に使い、演技は自らの実力で表現している。私もアニメ内の声の印象、そしてビジュアルの派手さに驚かされたことは多い。

 かがみがアニメ上の『私』を演じていた縁は大切にしていて、今でもそれなりに交友関係がある。……こちらからはあまり連絡をしたりはしないけれども。


「でも、こうして電話するっていうのはそうそうないと思うけど……なにかあったの?」

『そろそろ声を掛けておかないといけないことができてね。それで電話したのさ』

「重大なこと? トラブルなら動くよ」

『いや、別に厄介ごとが発生しているわけではない。だけれども、とても未来にとっても大切なことさ』

「大切なこと……」


 少し考える。

 最近は目の前の問題解決や魔法少女の手伝いをしていたのもあって、思い浮かばない。

 ここで言う『未来にとって』という言葉は、私にとってとも言い換えられるだろう。

 つまり、私に関連することだ。

 ……なかなか、どんなことなのか想像できない。いや、もしかしたら思い浮かべるのを避けているだけかもしれない。


『もうどういうことを言われるか、答えは出てるんじゃないかい?』

「……どうだろう」


 かがみは『魔法少女ひとみ・アイゼン』の主役を演じた存在のひとり。そんな彼女が私に声をかける。

 少し前、夢から覚めた後に外に出た時の言葉を思い出す。

 十年前。……十年前。


「……『ひとみ・アイゼン』の、十周年のなにかをする、とか」

「そう、その企画が進んでる。だから、声を掛けたんだ」

「そっか、もうそんな時期になってたんだ」


 アニメ作品は節目を迎えると記念作品が作られることも多い。

 愛染瞳が生きた証でもある『魔法少女ひとみ・アイゼン』は十周年を迎える。その時期に合わせて、何かを制作することになるのだろう。続編の話を作る、というのも定番ではある。

 ただ、そうなると気になることがある。


「仮に続編を作るとするのなら、ストーリーは、どうするの?」


 あのアニメは私と瞳が魔法少女として活動していた事実を元に制作されたものだ。

 新しく作品を作る場合、また別のストーリーを用意しないといけないだろう。

 私の問いかけに対して、少しの時間を空けたのち、かがみは答えた。


「それが……まだ、未決定なんだ」


 苦しそうに言葉にする彼女。

 事情があるというのはそれだけでもわかった。


「……私が関与してないから?」

『言いにくいけれど、そうだね。作品を演じているのはあたしたち役者だ。だけれども、展開される物語には本人の監修が入らないと、演技に魂が入ることはないと思う。だから、十周年企画に協力してほしいんだ』


 悩みながら言葉にしているのだろう。

 普段のはきはきしたしゃべり方とは違う、不安があるような話し方をしていた。

 通話しながらも、思案する。

 彼女も覚悟を決めて私に伝えたのだろう。私が嫌がったり、否定する可能性だって考慮できたはずだ。それでも連絡をくれた。それは、きっと新しく展開される物語を導きたいからだろう。

 魔法少女の物語は私も好きだ。物語を通じて、誰かの支えになるのなら、それはきっと幸福なことだと思う。

 ……だからこそ、迷ってばかりではいられない。

 意を決して、言葉にする。


「私が、少しでも役に立つのなら、手伝うよ」

『いいのかい』

「……少しは、前を向きたいからね」


 瞳との別れがまだ心に刺さっている事実はぬぐえない。

 『魔法少女ひとみ・アイゼン』だって好きだけれども、最終話付近はどうしても見返すのに抵抗がある。

 そんな私でも、役に立てるならば、力になりたい。

 彼女を知るものとして、そして魔法少女として。


『……ありがとう。まだ、ストーリーは完成していないとはいえ、記念の映像は作っていたりするんだ』

「しっかりしてる」

『そうだろう? 十周年イベントみたいなもので、見せるんだ。未来も見てほしい』

「どこでやるの?」

『花吹雪町さ』

「……そっか」


 その言葉であの日過ごしてきた光景が頭に浮かぶ。

 花吹雪町。

 それは、私と瞳が一緒に過ごしたかけがえのない時間がある町。私が放浪してきた十年の間、戻ることがなかった場所でもある。

 戻るのは本当は怖い。色々な感情がある。だけれども、これは私が歩む為のきっかけなのだろう。


「イベントの日に合わせて、向かうよ。日程を教えて」

『わかった。……あえて避けてただろうに、すまない』

「ううん、大丈夫。向き合うのも……そろそろ必要なはずだから」


 端末に情報が送られ、イベントの日程を把握する。

 瞳と生きていたあの町に、再び足を踏み入れるのだ。

 それなりに、覚悟していきたい。


『では、また当日に』

「うん、会おうね」


 通話が終わる。

 少しの静寂。

 新しい行先には不安もある。だけれども、進むと決めた。

 私にできることをする為に。


「よし、行こう」


 目的地は花吹雪町。かつて過ごした思い出の場所。

 身支度を行う普段の行動は、いつもよりも活動的になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ