第26話 みんな仲良し夕食交流大作戦
シャンテと一緒に作曲を行うことになった私、そしてそれを補佐する形になったアイ。
それぞれの知らないことを知る為に、私たちはある作戦を行うことになった。
それが『みんな仲良し夕食交流大作戦』である。
「未来、そろそろ行きますよ」
夕食の時間。アイが微笑みながら私に話しかける。
作戦の内容はシンプル。シャンテと一緒に夕食を食べるというものだ。
「問題ないよ、一緒に行こう」
私服姿のまま、のんびり家から出る。
今日の夕食を注文したのはシャンテだった。
「気になりますよね、作曲家の方が注文するものがどんなものか」
「そうだね。どんなものを食べてるかは気になる」
食事の趣味嗜好はひとによってそれぞれだ。
私やアイの好きなものも違うだろうし、美味しいと感じるようになったきっかけもそれぞれ異なる。
だからこそ、他人を知るのに食事を通じてコミュニケーションをとるというのは効果的だと思う。
「手料理というわけではないので、好みのお店を紹介するみたいな感じなのでしょうか」
「美味しいお弁当屋さんとかそういう感じなのかな」
「ふふっ、お腹が空きますね」
シャンテの家まで歩いていき、到着する。
扉をノックして彼女を待つ。
少しした時、シャンテは急ぎながら出迎えてくれた。
「で、出前の人かと思った……ふたりが先でよかったよ」
「こんばんわ、シャンテさん。元気ですか?」
「ほどほどかな。でもまぁ、今回の作戦で英気が養えるはずだから、平気」
「英気を養う?」
「あたしの好物がやってくるんだ。机の前の椅子でのんびり座って待っててほしいな。そろそろ注文時刻になるから」
「わかった」
家に上がり、食卓に移動し、用意されたテーブルの付近にある椅子に座る。隣にはアイが楽しそうに座っている。
机の上は綺麗に整頓されていて、飲み物用のコップが置かれているだけだった。
出前がやってきてないのを確認して、シャンテが私の前に座った。
「今はちょっと殺風景かもだけど……すぐ色とりどりになるから、気にしないで」
「どんなものを注文したんですか?」
「えっと、その……実物が来るまでのお楽しみってことで」
少し恥ずかしそうに顔を逸らすシャンテ。
そんなに風変りなものを頼んでいるのだろうか。
「好き嫌いはないから、安心してほしいな。美味しく食べられると思う」
「そ、そう? よかったぁ、少し変わってるものも用意してるから……」
「気になる……」
少し時間が経過したのち、家のチャイムの音が響いた。
「あっ、出前が来たみたい。ちょっと持ってくる……!」
立ち上がり、シャンテが出前を持ってくる。
用意された出前……それはピザだった。1枚ずつ大きなピザが配膳されていく。
まだ箱の中に入っているものの、美味しそうな香りが漂ってくる。
サイドメニューとしていくつかハッシュポテトやサラダ、そして瓶の美味しそうなコーラが用意されていく。
「今日のスペシャルメニュー! それは、それは……ピザ!」
笑顔でそう告げるシャンテ。
その表情は心から嬉しそうな表情だ。
待ちわびていたという雰囲気が伝わってくる。
「ピザ、好きなのですか?」
純粋な疑問をぶつけるアイ。
それに対してシャンテはハッと驚き、恥ずかしながら答えた。
「……うん、大好物。凄い好き」
「どういうところが好き?」
「味のハーモニー、って言えばいいのかな……その、自由な味わいがよくって、ええっと満足感があるっていうか……そんな感じで、と、とにかく食べてみよう! そうしよう!」
「ふふっ、わかりました」
「箱、開けていこっか」
それぞれのピザを開いていく。
ピザは合計3つ。大きさは……私はあまり詳しくないけど、Lサイズはあるのだろう。満腹になりそうなくらいの量はあるのは間違いない。
「ひとつめは結構シンプルな感じのミックスピザにしてみた」
「シーフード、ソーセージ、マルゲリータですね。なんだかお得です」
「いっこいっこ食べるのもいいかなぁって思ったんだけど、バラエティある感じなのもほしくってね」
「どれ食べようか悩んじゃうかも……」
他のピザを開くと、なかなかこってりしたチーズが乗っかっていそうなチーズビザが出てきた。
下地にチーズ、具材の上にも別種類のチーズ、そしてチーズ、といった大胆なくらいのチーズがまんべんなく乗せられている。
「ここまでチーズいっぱいのピザは初めてかも」
「ちょ、ちょっと引いちゃうかな……もし、そうだったらごめん」
「ううん、なんだかいいなぁって思った。見たことのないものを見たりするのって楽しいからさ」
「本当? それならよかったぁ……」
そして三つ目のピザ。
それは、キノコがいっぱい乗っかったピザだった。
キノコ以外にもしっかりとスライスされたお肉も乗せられていて美味しそうだ。
「これも1枚全部ということは、お気に入りってことですか?」
「そ、そう! こういうピザってね、ボスカイオーラって言ってね、色々味わい深いキノコの食感とピザの感触がたまらなくいいんだ。だから好き」
「食欲が湧いてきます」
「ピザ3枚はちょっと経験ないけど……満足感で幸せになりそうだね」
それぞれのテーブル手前に取り皿が用意され、その上にひとつひとつピザを乗せていく。
「では」
「いただきます」
「うん、いただきますっ」
私はまず、気になっていたチーズのピザを味わうことにした。
口に運び、食感を楽しむ。
「濃厚な味わい……」
ピザの味わいはサクサク。チーズの方はもちもち。そして、味は独特なチーズの味わいが口いっぱいに広がっていく。
「そのピザはクワトロフォルマッジっていうピザで、4種類のチーズが使われてるんだ」
「チーズ4種類? 濃厚なのも納得かも」
「ひとつだけだと完成しない味、っていうのがかなり好きな部分なんだ。なんていうか、力を合わせてるーみたいな感じに勇気を貰えるみたいな」
「手を取り合う味わいという印象ですね」
「そう、そういうの!」
「ふふっ、素敵な着眼点です」
そう返しながら、アイはキノコのピザ、ボスカイオーラを味わっていた。
満足そうに頷きながら、彼女が味を堪能する。
「好みの感じがなんとなくわかってきた感じがあります」
「そ、そうなの……?」
「はい、様々な要素が交わった味わいのようなものが好きと見ました」
そう言葉にするアイに対してシャンテは考えながら答える。
「確かに、そういうのはあるのかも……あたしが音楽好きな理由もそういうところにあるわけだし」
「調和する音が好き、みたいな?」
「そうそう、そんな感じ。なんていうか、交じり合って調和するのがいいというか、その……私が受けたインスピレーションを私なりに溶け込ませて作るみたいなのが好きというかそんなの。ピザもそうだよね、ピザ生地だけだと質素な感じだけど、そこにピザ用のソースがあって、チーズがあって、キノコとかの具材が交わることによって幅広い味になって、自由な感じになるっていうか……そういうのがよくって」
そこまで話し込んでシャンテはハッとした。
「ご、ごめん。あたしだけおしゃべりになってるかも」
「気にしないでください、色々興味深い話が聞けるのは好きですから」
「私も同じく。なんていうか、ピザも音楽も好きっていうのが伝わってくるし、いいと思う」
「本当? それならよかった……」
ほっとしたのちに、今度は彼女の方から質問が飛んできた。
「気になることがあるんだけど、いいかな」
「ええ、構いませんよ」
「その……未来って好きな人、とかいる?」
「あら、わたしも気になっているところでした」
面白そうな話題だと食いついたのはアイだった。
いつも以上に声色が高くなっていることからもその様子が伺える。
「き、急だね?」
「ああぁ、ごめん! こういう仲良くなる時の話題ってどういう切り口でやればいいのかわからなくって、ええっと、答えづらかったら答えなくっても大丈夫!」
「まぁ、今のパートナーとしてのわたしはそういう話題には興味があるので教えてほしいですけどね」
意地悪そうに微笑むアイに、申し訳なさそうにするシャンテ。
ふたりに見つめられながらも、考える。
好きな人。
別にそこまで恋愛とかは興味がなかったとは思う。
けど、瞳に向けている感情は結構重いというのは自覚しているつもりだ。
「かつて一緒にいたパートナーの愛染瞳かな。彼女のことは今でも好きだよ」
「どんな感じで好きだったのかな」
「……それは難しい質問だね。友愛的なところは強かったと思うけど……ちょっと彼女と距離が近かった時にドキドキしたりしたことはあったし……」
「あら、あらあら」
「アイ、その目はなに」
細かい仕草を確認したいからか、わざわざアイは使い魔の眼を出してまで私を見つめている。
私の指摘に対して、アイはさらっと答える。
「今、少し頬が赤くなってました、結構好きだったんですね? 瞳さんの感触とか」
「う、ま、まぁ、その……嫌いじゃないし、私に触れていた時とかなんとなく幸せな感じはあったけど……」
「なかなか、好きだったって感じかな……?」
「そうですね、口ではあんな風に言ってますが、かなり素直に好きだったと思います」
「なるほど……作曲の参考にするね」
「参考になるなら嬉しいけど……ちょっと気恥ずかしいような……」
過去の記憶に触れられているようで、少しくすぐったい気持ちになる。
けれども、こうして盛り上がるのは悪くないのかもしれない。
そう思いながら、まだ少し熱を持った頬が冷ましながら、のんびりピザに手を伸ばした。
「そういえば、未来はなかなか面白いところがあるんですよ?」
「どんなところ?」
「お風呂一緒にしている時、意外とわたしの身体を見つめたりすることが多いんです」
「……ちょっと意外かも」
なんだか誤解されそうな話題が展開されている。
これは説明しないといけない。
「私は成長しないから」
「だから、こう……たゆんって感じのものを見るんですか? ふふっ、なんだか思春期みたいですね?」
「意図して見てない! ちょっと身長差で胸元のところに顔がやってきやすいだけ!」
「ふふっ、ムキになってる姿とか可愛いと思いません?」
「ちょっとわかるかも……?」
「ご、誤解だからね? 私はむっつりとかじゃないからっ」
なんだか珍しく感情的になることが多くなってる気がする。
こういう空気を狙っていたのなら、アイはなかなか考え深いのかもしれない。
……単純に、私のことをからかいたかったというのも多いと思うけれど。
「こ、こほん!」
「強引に話を変えるやつですね」
「……とにかく、私の話からは一旦離れよう。次はシャンテの番ということで、質問いいかな」
「う、うん、大丈夫なはず」
少し考えて、私の方からも質問していく。
「好きな人について尋ねてきたけど、逆にシャンテがどういう音楽とか好きなのか気になってるんだよね」
「あたしの好きな音楽……」
少し考えて、彼女が答える。
「音楽全般好きだけど、あたしが特に好きで、憧れを持ってるのはアニソンなんだ」
「詳しく聞きたいな」
「うん、師匠が作ったものもそうだし、それ以外のアニメのオープニングもそう。物語を後押ししてくれるような、多種多様のメロディに十人十色のセンス。それらが詰め込まれたものを聞いたりしてると幸せで、満たされた気持ちになるんだ。だから、特に好きなんだ」
そう語る彼女は熱が籠っていると同時に、どこか遠くを見ているようなそんな雰囲気をしていた。
「憧れっていうのはどういうところから?」
「その……あたし、趣味で作曲してるんだけどさ。実はアニソンみたいな楽曲に挑戦したことがなくってね。やってみたい、作ってみたいとは思ってても、なかなか手を伸ばせていなかったんだ」
「それは、どうしてですか?」
言葉に詰まりながら、シャンテは話していく。
「憧れに手を伸ばすのって、怖くって。なんだか自分が作ったとしても、全然違うものになっちゃいそうで、それで自分の作曲に嫌悪感とか持っちゃったらなんて考えたら恐ろしくって、やれてなかったんだ。いつも、アニソンみたいな曲を作りたいなぁって思いながら、その心を閉じ込めたまま、別の曲を作ってた」
「……でも、今回は『みらい・アイゼン』のオープニングを作ることになった」
「そうだね。……正直、今も怖いって思ってる。うまくいかないんじゃないか、満足させられるようなものが作れないんじゃないか。そう考えだすと止まらない」
うつむく彼女。
それでも、前を向こうとしている彼女の姿は応援してあげたい。
私も作詞の役割がある。彼女には作曲したいという気持ちがある。
少しでも、後押ししてあげたい。
「一歩踏み出すのは、やっぱり怖いと思う。私も新しく行動しようとした時、不安でいっぱいだったから。アニメーションの作成と協力関係を結ぶこと、アイとパートナーになること、事件解決に動くこと。どれも失敗したらどうしようって考えることはいっぱいだった。でも、少しでも歩いてみようって思ったんだ」
「それは、どうして?」
「……何かが変わるって思えたから、かな。行動を起こしたら、その分だけ変化するものがある。それがどんな影響を及ぼすかはわからないけれど、それでもやってみるのはきっと間違いじゃないって思えたからかな」
「そっか、そうだよね」
「私ひとりだと見えないものがある。色んな考えや思いが交わって見えてくるものもあるから」
「ピザや音楽のように、ですね」
満足そうにピザを味わいながらアイが続ける。
「他人がいるから面白い、ひとつじゃないから音楽も愉快なものになる。ピザの味わいだってひとつだけの味が広がっているわけではない。ふふっ、なかなか結論めいたことを言えたのではないでしょうか」
「怖くたって、やってみたらうまくいくことがある……」
そう呟きながら、シャンテはピザを味わう。
キノコたっぷりのボスカイオーラを口にして、味わったのち、再び口を開いた。
「うん、弱気になりすぎるのもよくないね。あたしもあたしなりに頑張ってみる! 未来、そしてアイと一緒に!」
「私も色々頑張るね、シャンテ」
「気分転換はどんどん任せてくださいね、シャンテ」
少しずつ、絆を結んで、私たちの音楽を作り上げていこう。
夕食を通じた交流から、仲良くなって色々打ち明けられるようになる。
こういう時間も素敵だ。
「そういえば、お風呂とか一緒できるスペースや時間はありますか? 寝間着とか持ってきてるのですが」
「一応入れるよ。一緒するのも平気、だと思う」
「でしたら、みなさんで一緒に入りましょう。胸元に注目したりする未来が見れたりするかもしれませんよ」
「えっ、それはちょっと気になるかも……」
「だから、私は、そういうむっつりじゃないから!」
『みんな仲良し夕食交流大作戦』の時間は、夕食以外にも続きそうだ。
笑顔になっているふたりの姿を見つめながら、私も思わず笑いがこぼれた。




