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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第21話 ひとつの幕が閉じ、新たな舞台が始まる

「未来さん、あの日の言葉は反響が巻き起こってますよ」


 舞台が終わり、日常に戻った次の日、自分たちが暮らしている住居。

 アイから携帯端末の画面を見せられて確認する。


『魔法少女ひとみ・アイゼンの続編、愛染未来ちゃん本人が脚本誠意制作中だって!』

『えっ、本当!? どこでその情報出たの!?』

『クミとレガの舞台だって! そこにいた関係者も事実だって言ってたから間違いないって!』

『本当かぁ、楽しみっ!』


 魔法少女がよく使うSNSはその話題で持ち切りになっていた。

 改めて思うけれども、影響力が凄い。


「自分の決意表明も兼ねて言葉にしたってところも大きいんだけどね、あれ」

「『ひとみ・アイゼン』はノンフィクション系魔法少女の側面もありますから、同じ形式で描くというのが嬉しい人は多いのかもしれませんね」

「まぁ、私の過ごした日々を参考にしながら脚本を担当するっていうのを伝えただけなんだけどね」

「いいじゃないですか、瞳さんの時もそんな感じだったんでしょう?」

「そうだね、悪くない反応だと思う」


 私の舞台で話した言葉。それは『ひとみ・アイゼンの続編にはノンフィクションの脚本として自分が関わる』というものだった。

 公の場でこれを話すのは初めてだったのもあって、界隈はとても大きな賑わいを見せている。


「今の私のお話が、ひとみと過ごした日々と比べてどうなのかは正直なんとも言えないけれど……」

「なかなか期待させておくと、失敗した時が大変そうですね?」

「ちょっと怖いね、そう言われると……」


 それなりに構造は考えてあるし、私の中でもいい感じに語れるエピソードは増やしていけているはずだ。

 それをうまくやりくりすれば、きっとうまく行くはずだ。


「それにしても……」


 SNSの投稿をいくつか確認する。

 ちょっとした不安を感じている人もいれば、楽しみにしている人もいる。こういう時の反応は十人十色であるのはそういうものだろう。

 ただ……


『久遠未来ちゃんって名乗ってたんだね、最近の未来ちゃんって。なんだかちょっとクールな感じに進化してるみたい!』

『難しい読みだよね、くおんって読むの知らなかったよ』

『当時と同じような見た目をしてるんだよ! ほら、写真!』

『本当だ! 片方の目が隠れてるのが斬新だけど、あのアニメのみらいみたいな恰好! ちょっと会ってみたいな!』

『わかる、写真撮影とかしたい!』


 ネットの投稿というのは凄いもので、撮られた写真がもう広まっていた。

 これは舞台挨拶を終えた後、写真を撮っていいか言われた時に撮影されたもので、しっかりとした写真になっている。

 投稿してもいいか、という言葉に「大丈夫。投稿していいよ」と答えた結果、かなりの勢いで広まっていったのだ。


「また有名人みたいになっちゃった……」

「あら、なにか問題でもあるんですか?」

「その、いい感じに写真撮られるのとかあんまり得意じゃなくて」

「あら」


 その言葉を聞いて、面白いものを見つけたかのようにアイが微笑む。


「あらあら、そんな弱点があるなんて」

「し、仕方ないでしょ。瞳がいなくなった後はしばらく雲隠れして表舞台から去ってたんだから」


 あの時の私は、将来のことなんてなにも考えられなかった。

 漠然とした不安に包まれていて、それでも生きないといけないと思って生きていた。

 その時には、こうして写真に映ることだって億劫だったと思う。


「でも、こうして写真を撮られたりするようになったということは、表に出る気になったということですよね?」

「そうだね。私という存在で、みんなを笑顔にさせられるなら、それは素敵なことだって思えたから」


 アイの言葉に頷く。

 私を見て元気になる人がいる。

 魔法少女の力になることができる。

 色んな明るい出来事のきっかけになることだってできるはずだ。


「なるほど、そうなるとわたしもそれなりに表に出ることになりそうですね?」

「これからもパートナーでいてくれるの?」

「そのつもりでしたが?」


 けろっとそう言葉にする彼女。

 この事件が解決してからもそうするつもりだと、最初から考えていたような態度だ。


「色々面倒かけると思うけど……」

「同じ輝きを追いかけたもの同士、仲良くなれると思うんです」

「……瞳のこと、好きだったの?」

「ふふっ、それはどうでしょう」


 はぐらかされたので、むっとして言葉を返す。


「言っておくけど」

「はい」

「……私だって瞳のこと好きだったからね、ずっとずっと」

「まぁ、そうでしょうね? ずっと引きずっていましたし」

「ズバズバ言うね」

「パートナー、ですから」


 そう言って笑う彼女。

 それを見て、私も思わず笑いがこぼれた。

 瞳とは違う関係のパートナー。魔物と魔法少女という組み合わせ。少し変わった雰囲気の彼女といることにも、気が付いたころには慣れてきていた。

 アイと話している時間も、瞳と過ごしている時間とは異なる形で面白い。


「そういう人の注目を集めたくなるものです」

「私の目を奪いたい?」

「そうですね、その言葉もいいかもしれませんね?」

「物騒」

「比喩表現ですよ」

「それはわかってるよ」


 彼女と私の時間の流れは通常の人とは異なっている。

 それもあって、きっとこれからも長い付き合いになるのだろう。

 心から通じ合う存在になる、というのもなかなか悪くない展開だ。


「ところで、未来さん」

「なに?」

「脚本は書いてあるんですか?」


 彼女に指摘されたので、私は物置の中にしまっていたメモ帳を取り出す。

 そして、その中にあるページをいくつか開いた。


「何とも言えない状態で出会ったトラブルや、最近会った出来事まで色々書き記してあるよ」

「用意周到ですね」

「まぁ、あのタイミングで言うなら、これくらいの準備はするよね」


 どのお話が使われるかはまだわからない。

 これから色んな話し合いを繰り返しながら、きっと決定稿までもっていくんだと思う。

 私が『愛染未来』としてではなく『久遠未来』として歩んでいた物語。きっと、続きの物語にだって意味があるはずだ。


「これから大変になりそうですね」

「アイにも仕事を手伝ってもらうことになるよ」

「あら、大変そうです」

「パートナーとして、これからもよろしくね、アイ」

「こちらこそよろしくお願いします、未来さん」


 改めてパートナーとして協力関係を結んで、ふと気が付く。

 そろそろ言い出してもいいのではないだろうか。


「その、アイ?」

「なんでしょうか」

「未来さんっていうのから、未来って呼び捨てにしてもいいよ」

「……そうですね、これから付き合っていくならば、気安いくらいがいいですね」


 そう言いながら、笑顔で彼女は言い直す。


「一緒に頑張りましょう、未来」

「ありがとう、アイ」


 ひとつのお話が終わった先にも物語は存在している。

 魔法少女の物語は色々な語り手によって紡がれて、多種多様な終わり方を迎える。

 それはきっと、どんな形であっても人の心に残るものを創ってくれるはずだ。


「未来、そういえば気になったのですが」

「どうしたの?」

「これからは、どっちの名前を名乗るのですか? 『愛染未来』か『久遠未来』か……」

「そうだね……」


 私を彩るふたつの未来の名前。

 名乗りを上げるとしたら……


「どっちも隠さず使う予定だけど、今の私を表現するならきっと久遠未来なんだと思う」

「どうしてですか?」

「それは……」


 目を閉じて、言葉にする。


「魔法少女への祈りの名前だから」


 私の瞳に映る未来の物語。

 そのお手伝いをしたい。


「愛に染める未来は瞳がくれたものだから、私は久遠の未来を願いたいって思ったんだ」


 久遠、未来に語り継がれる魔法少女の物語がこれからも続いていくように。

 私は愛に染まった未来を信じてまっすぐ生きていくんだ。


「その願い、叶うといいですね」

「叶えるよ、二人で」

「……そうですね、叶えましょう」


 瞳が願った明日を、未来に繋いでいく。

 私は、私たちはこれからも生き続けていく。

 魔法少女として、前を向いて、私たちなりの歩幅で。



『想い願ったストーリーは きっと未来に届くから』

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