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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第19話 魔法少女の未来の為に

 魔力の霧から解放された時、目の前にいたのは衰弱した様子のイヴィルだった。


「ば、馬鹿な……! 何故、お前は立っていられるんだ!」


 周囲を見渡して、確認する。アイの周囲にも霧が覆われている。

 観客や、その周囲にいるクミやレガにも霧がかかっていた。


「迷ってばっかりだったから」

「なんだと……!」

「自問自答を繰り返して、悩むことを繰り返して、今になってようやく気が付いたんだ」


 静かに、それでもはっきりと言葉を繋げる。


「私は、今も私も好きなんだってこと!」

「ほざけ!」


 私の言葉に怒りを覚えたのか、イヴィルは魔物の左手で私に攻撃を仕掛けようとしてきた。

 構え、その攻撃を弾こうとした瞬間だった。


「あら、ようやくその言葉が聞けました」


 紫色の魔力を展開したアイが余裕綽々といった態度で使い魔を動かし、左手の攻撃を妨害した。


「貴様もか……!」

「えぇ、精神攻撃にしては稚拙な部分も多かったので。少なくともわたしは現状に満足してますので、魔物である過去を突っついてもなにもでませんよ?」


 そう言葉にしながら微笑む彼女。

 使い魔に相手をさせているのをいいことに、私に話しかけてくる。


「いつごろからそう思ってましたか?」

「随分前からだよ」

「チュロスを食べた時とかそういう日常の瞬間もあったりですかね」

「……それは、まぁ、あるかも」

「ふふふ、未来を明るくしよう作戦大成功ですかねぇ」

「な、なにその作戦。いつから考えてたの?」

「ふふふ、内緒です」


 笑顔のアイは本気で私が吹っ切れたことに喜びを覚えているみたいだ。

 こうして、心を許し合える友達が増えたことは嬉しいことだと思う。


「ぐぬぬぬ……だが! 霧はそれぞれの観客まで届いている! 一般人が抜け出すことなんて不可能だ!」


 その言葉の通り、霧は退避している観客まで届いていた。

 かなりの量の霧が展開されている。

 このまま、精神を蝕まれていたら危険だ。

 私が動くべきか。そう思った瞬間だった。


「ところが、そうでもないみたいですよ」


 観客の霧が晴れていく。

 ひとり、ふたりと、徐々にもやが消えていく。


「な、なんだと……! どういうことだ!」


 狼狽えるイヴィル。彼の思惑を裏切り、遠くから声が響く。


「ふっふっふ、暗い世界には奇術あり!」

「明るい世界に笑顔あり」

「レガちゃんとクミちゃんが!」

「脱出の手伝いをしてあげた」


 キラキラとした明るい声でそう言葉にするのは魔法少女のふたり。

 彼女たちも無事に脱出していたみたいだ。


「ふたりとも!」

「まぁ、脱出の際、ちょっとした手品を使ったんだけどね」

「期待に、応えて」


 その言葉に疑問を抱く。

 しかし、その次の瞬間、意味がわかった。


「あのステージに立っている未来って魔法少女は『愛染未来』だったんだ!」

「ずっと変わらず、私たちを見つめていたのね!」

「俺たちも暗い気持ちに負けられない! 頑張れ、未来ちゃん!」


 頑張れ、頑張れと応援の言葉が広がっていく。

 ……脱出の際に使った『手品』というのは、私の……『愛染未来』のネームバリューを利用することだったのだ。

 なるほど、これは期待に応えないといけなそうだ。

 明るい声援を背に、私は再びイヴィルに構える。


「くそっ、なぜだ! この世界には絶望が蔓延っているというのに!」

「どんなに絶望しても、支えてくれる人がいる。助けてくれる人がいるんだ」

「綺麗ごとを! 人は不安や不満を抱えて生きている! だからこそ魔物もまだ存在するんだぞ!」

「そうだね、それも事実だと思う」


 魔物は人々の負の感情から発生する。

 不安、不満、絶望。どんな感情だって生きている以上発生するものだ。

 魔物の大量発生がなくなったとはいえ、魔物がこの世界から消えることはない。


「だから俺は、魔物を効率的に操れるように負の感情を増幅させられるようにしたんだ! 負の感情から得られる魔力を活用する為にな!」

「……でも、それじゃ、やっぱり辛いよ」

「辛いだと?」


 昔のことを振り返りながら、言葉を繋げる。


「後悔も、絶望も、生きている限り存在するものなのはわかってる。だけど、それだけに囚われて生きてたら、きっと潰れちゃう」

「潰れたらその時はその時だろう!」

「ううん、違う。どんな人だって生きていていいって思えるようになるべきで、明るい感情を持って生きていけるようになるべきだから!」


 魔力をさらに集中させて、最後の攻撃に備える。

 これで、決着をつける。


「私は、魔法少女の未来の為に、魔物を使って悪さするなんて計画は、阻止するよ」

「阻止するだと!? やれるものなら、やってみろ!」

「アイ、観客への防御をお願い!」

「わかりましたっ」


 両方の腕から発する魔力を展開。

 思いっきり解き放つ、とっておきの魔法。


「クリスタライト・シャイン!」


 結晶の魔力を使い、解き放つ閃光の魔法。

 その一撃を全力でイヴィルにぶつける。


「その程度で、怯むと思うなぁ!」


 再び放たれるレーザー。

 今回は攻撃に専念しているのもあって、その攻撃を回避することはできない。

 全身に傷が発生していく。

 熱を帯びたレーザーが身体に触れる度、声をあげたくなるほどの痛みに襲われる。

 だけれども、私は怯まない。私は、魔法少女なのだから。


「ま、負けないで! 頑張って!」

「いけ、やっつけちゃえ!」


 声援が響いてくる。

 その声が響いているからこそ、私は戦える。


「無責任な声に惑わされてるだけじゃないのか?」

「それは違う……!」

「頑張れとか、実に他人任せだ。愚かしい!」

「魔法少女は、みんなに夢と希望を与えるんだ!」

「偉そうに語るか!」


 イヴィルから放たれる

 全方位レーザー。そのひとつひとつが私に直撃する。

 観客席への攻撃はアイが守っている。よかった。


「ぐ、うぅ……!」


 私の方は、本当は大丈夫ではないかもしれない。

 痛い。苦しい、倒れそうだ。

 弱音を吐きそうなくらい、辛い。

 ここまでダメージを受けたのはいつぐらいか。

 瞳と一緒にいた時くらいか、懐かしい。

 少しだけ、昔のことを思い出しそうになった瞬間だった。


「ま、負けないで、未来ちゃん!」

「一生懸命な未来ちゃんの姿、覚えてるよ! だから、辛かったらみんなに頼っていいんだよ!」

「私、未来ちゃんの姿を追ってここまで生きてきたんだ! いま、この瞬間まで生きてるのは未来ちゃんのお陰! ……私にはなにもできないけど、でも、応援したいの! 頑張って!」

「私たち、未来ちゃんに救われてきたんだ!」


 明るい声が響き渡る。

 ここで言う『未来ちゃん』がどんな私かはわからない。

 アニメーションに映っていた『愛染みらい』という人物なのか、それとも『久遠未来』なのか。それとも噂で聞いた『愛染未来』の姿なのか。

 どれが支えになっているかはわからない。

 だけれども、この声援を聞いているだけでも、元気が湧いてくる。

 負ける気がしない。


「な、なんだその光は……!」


 みんなの声が響いてくる。

 確かな魔力として伝わってくる。

 大丈夫、もう、負けない。

 集まった魔力を展開して、もう一度イヴィルに魔力をぶつける。


「久遠に続く、魔法少女の未来の為に!」

「ま、まさか……!」

「これで、決着をつける……!」


 声援の力が込められた魔力の一撃。

 それがイヴィルの魔物の身体を覆い、それぞれの魔物の身体を浄化していく。

 そして、最終的には魔物の姿ではなくなったイヴィルが舞台に力なく屈んでいた。


「俺が、負けた……」

「魔法少女は、負けないから」

「……そうか」


 決着がついたその時。

 観客席から誰かが走ってきた。


「……そこまでです。この陽空かなたが魔法の不正利用の現行犯で拘束します」

「かなた!」


 そう、そこに現れたのはかなただった。

 急いでいた様子らしく息を切らしている。


「遅くなってすみません。情報を受け取ったころにはもう状況が変化していて……」

「ううん、平気。私も観客も魔法少女もみんな無事だよ」

「よかった……」


 封魔の力を持った手錠をイヴィルにかけて、かなたが彼を連行していく。


「……お前は何故、人の善性を信じていたんだ?」


 完全に連行される前、イヴィルにそう問いかけられる。

 私はその質問に対して、静かに答えた。


「明るい魔法少女の物語が好き、だからかな。みんなに笑顔になってほしいんだ」

「……なるほどな。悪くない、答えかもしれない」


 この場で彼と会話を交わすのはそれっきりだった。

 波乱万丈の舞台。予想外の事態が多かった舞台だったけれども観客も無事に終わらせることができた。

 ちょっとボロボロになった舞台。だけれども、そこにいる観客はいっぱいの笑顔を見せてくれていた。

 ……私のことが完全に『愛染未来』としてバレてしまったのは、気恥ずかしかったけれども、みんなに幸せを届けられていたならよかったのかもしれない。

 そんなことを考えていた。

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