第17話 大脱出マジック
「こんな時にまだ舞台を演じるのか!?」
「危ない魔物がいるっていうのに能天気だよ!」
レガの発言に対して、様々な声が飛び交う。
不安、怒り、恐怖。それぞれの感情が暴れる舞台の中、レガは笑顔で立ち上がる。
「気持ちはよくわかるよ。正直、レガちゃんだって本当は今も怖い。もしこの状況で失敗して、みんなに怪我でもさせたらなんて思ったら足も竦んじゃう」
「怖いなら辞めればいい。泣いて叫べばいいじゃないか!」
舞台で魔物を召喚した男性はまるで気取るかのようにそう言葉にする。
その言葉にも、レガは怯まない。
「でもね、レガちゃんはみんなを笑顔にする魔法少女で、奇術師でいたいから! 思いっきりとっておきのマジックを見せるんだ! いくよ、クミ!」
「うん。ドキドキマジックボックス、召喚」
クミが指を鳴らした瞬間、ステージの上空に中身がわからないマジックボックスが現れる。
マジックボックスは不可視の壁に阻まれて、舞台に落ちてこないものの、特別な存在感を発揮する。
「久遠さん、お願い、マジックボックスが開くまで虎の動きを止めてほしいな!」
「問題ないよ」
その為に魔力も充填していた。
いつでも動ける。
「コバルト・ヴェーク!」
レガとクミと会った時に使った、地面に結晶の道を展開して、敵の動きを止める魔法。
虎のような足を使う魔物相手には特に効果的だ。
ひとつひとつの足を拘束して、虎の動きを封じる。
竜の魔力が同化するまでは問題なく封じることができるだろう。
「さぁ、カウントダウンの時間だよ! ゼロになったら脱出できる! そんな不思議な箱を開くよ!」
「なんだと? ふざけているのか?」
「ふふん、大真面目も大真面目! 観客のみんなも10から数えてね! じゃあ行くよ、10!」
「ええい、何を企んでいるかわからんが、阻止してやる! 竜よ、虎に魔力を束ね力を増せ!」
男性の命令により、竜の魔力が収束する力が高まっていく。
少しの時間を稼ぐならば、結晶を束ねればいい。
「ザフィーア・シーセンッ!」
結晶に包み込ませる魔法。
相手の魔力が高まっているのもあって魔物の身体を結晶ごと破裂させることはできないが、収束する魔力の流れを抑えることはできる。
「9!」
レガとクミが魔力を集中させていく。
ふたりの表情は明るい。絶対に解決できる自身に満ち溢れている。
「8!」
その明るさに観客も惹かれていき、次第に観客席からもカウントの声が響いていく。
「7!」
その声に不安はない。
期待に満ち溢れた声は、どんどん広まっていく。
「6!」
レガとクミの魔力に反応して、マジックボックスが光を放ち始める。
観客の感嘆の声が響き、場の空気が明るいものに変化してゆく。
「5!」
「……最高の舞台、期待してるから!」
ザフィーア・シーセンの拘束が合体した魔物の魔力に推し負けそうになる。
それでも、歯を食いしばって魔力を集中させて、虎の動きを防ぐ。
「4!」
「そんな茶番劇、終わらせてやる!」
男性がレガとクミのふたりに目掛けて魔力が籠った瓶を投げつける。
駄目だ、私には対応できない……!
「3!」
「駄目ですよ、そんな台無しにするようなことをしては」
男性の攻撃を阻止したのは、アイだった。
使い魔の光線で破壊しながら静かに怒りを示す。
「2!」
「みんな、レガさんとクミさん、そのふたりの舞台を楽しみに来ているのですから」
「何が舞台だ! 失敗し、負けたら何もかもおしまいだろうに!」
「……いいえ」
ふたりを守るようにアイが構える。
その目には確かな感情が宿っていた。
「1!」
「信念を持った魔法少女は、負けませんよ」
多くの魔法少女を見つめた彼女。その声には確固たる意志があった。
今を生きている魔法少女、過去遭遇した魔法少女。その様々な魔法少女を称える言葉。
その言葉を受け止めながら、レガとクミは小さく頷き、最後のカウントを言葉にした。
「0! さぁ、マジックボックスを開くよ!」
「ショータイム」
大きな音を立てて、マジックボックスが開いていく。
その中から現れたのは大型牛型装置……そう、うーしーちゃん3号だった。
「牛だと!?」
「あれは、うーしーちゃん! うーしーちゃんじゃないか!」
観客が指を刺して口々に言葉にする。
「そう、大脱出劇のキーパーソンは、私たちのマスコット、うーしーちゃん3号! さぁ、ここからは目を閉じずに見ていてね! クミ!」
「うーしーちゃん、メタモルフォーゼ……」
「ショウタイム!」
指をパチンと鳴らした瞬間、うーしーちゃんに変化が発生する。
キャタピラーでできた足元が分離変形し、本格的な足へと変貌する。
牛の頭は胴体のパーツとなり、元々胴体を構成していた部分からは腕や人型の頭のパーツが登場する。
ピンチの時に登場する変形する機体。それはテレビで見るようなヒーローのロボットの姿によく似ていた。
「舞台に登場、ドカッと解決! レガちゃんクミちゃんとっておき! うーしーちゃん、戦闘形態!」
「牛王三式、降臨です」
名乗りと同時に魔力のマントが牛王三式に装着される。
威風堂々とした佇まいからは、信頼を身に受ける信頼感を覚えさせる。
「いくよ、牛王三式! 邪魔な壁を打ち砕けっ! 牛王拳!」
牛王三式が勢いよく拳を振り下ろし、周囲を覆っていた魔力結界に殴りかかる。
魔力が宿った機械による攻撃。その一撃によって不可視の障壁は粉砕された。
ひび割れた部分から広がるように障壁は消えていき、やがて全ての障壁は消えていった。
障壁にさえぎられていた観客がそのことに気が付き、声をあげた。
「通れる……! 脱出できるぞ!」
「脱出劇成功だ!」
「すごい……! すごい!」
逃げることも忘れ、拍手に包まれる会場。
それを見た舞台の男性は、信じられないという態度で、動揺していた。
「ま、魔法少女があんなロボットを使うなんて! そんなの非魔法的だ! ありえない!」
牛王三式がステージに降り立ち、構える。
それと同時に、レガとクミはふたりで男性に言葉を返す。
「ふふん、魔法少女は自由だからね!」
「昔憧れてたロボットを私たちなりに研究して作ったものだから、想いの強さは魔法少女と同じくらいあります。……これが非魔法的だとしても、私たちの魔法と努力の結晶です」
そしてふたりは再び牛王三式に行動させる。
「ありがとう久遠さん、あの虎は牛王三式でやっつけるよ!」
「わかった、じゃあ、あともう少し強めに封じ込める!」
牛王三式は剣を展開してゆく。
その間の時間、私は結晶で虎の拘束を強める。
「よし、これでやっつける! 牛王ちゃん、いこう!」
剣圧を虎の魔物に向けて解き放つ。
「必殺剣、牛王斬」
舞台に強い風圧が発生するほどの斬撃。
その一撃で虎の魔物は集中していた竜の魔力と共に消え去っていった。
「ば、馬鹿なっ……!」
これで、この場の魔物は全部倒したということになる。
「形成逆転だね」
「私たちに関与した理由を説明してもらいたいものですね」
レガとクミのふたりが警戒を解かないように構える。
「多くの人を危険に追い込む行為を許すわけにはいかない」
「大勢の目に魔物を召喚した事実は映っています。言い逃れはもうできませんよ」
魔力を集中させて、私とアイも臨戦態勢を取る。
相手にとっては不利な状況。
「く、くくくっ……ははははっ……!」
そんな中、男性は狂気的な笑いと共に、声を荒げた。
「魔法を馬鹿にしたような魔法少女のふたり、そして魔物の魔法少女、過去に友人を犠牲にした魔法少女……くだらない、くだらないくだらない! 実にくだらない!」
男性は複数の瓶を取り出し、その中身を自身に向けて振りかける。
一般的な魔物は負の感情を依り代に形成される。
その核が特定の人物に覆いかぶさるとするのなら……
「魔法少女がなんでこの世の中にのさばる! 何が夢だ、何が希望だ! 人間の感情は負の感情に満ち溢れている! 人は罵り合い、見下し合う生き物だろう!」
「いけないっ……!」
この男性は自分を核に魔物を形成させるつもりだ。
自身を利用して、強大な魔物に化けようとしている。
それは危険だ。
観客も、この男性も。
魔物の魔力を浄化しないといけない。
急ぎ、駆け寄り、周囲の瓶から発された魔力を魔法少女の魔力で打ち消していく。
「無駄なことを!」
「ぐっ……!」
打ち消す魔力に対して、相手の魔力の総量が多い。
魔物の魔力によって、私ははじかれてしまった。
「未来さんっ!」
「協力しないと……!」
「危ない気配……!」
魔物化を阻止する為にそれぞれが動く。
しかし、その力をもっても相手の行動は阻止できなかった。
「魔物数十体分の魔力を詰め込んだこの変貌! 誰にも止めることはできない!」
「みんな、離れて!」
大きな魔力が展開される。
「……ルビーズ・ディフレクトッ!」
その魔力から生じる衝撃が残っている観客に届かないように結晶の壁を展開する。
「牛王ちゃん!」
牛王三式も魔力を展開してバリアを形成する。
男性の周囲に魔力が集い、そして覆いかぶさるように身体が形成されていく。
そうして男性は悪魔のような容姿の魔物へと変貌していた。
「さぁ、終わりの時間だ。この僕……イヴィルが魔法少女を敗北に導いてやる」
魔力を展開する、男性が変貌した魔物イヴィル。
強大な魔力が周囲を取り囲む。
私は変貌した男性……イヴィルに対し、覚悟を決めて向き合った。




