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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第15話 干渉

 作戦会議を終えたのち、私たちは各々準備を行い、当日の作戦を成功させる支度を完成させた。

 いざという時の避難の相談。多くの人が安全に動けるようにする手筈は考えた。

 当然、魔物との戦闘を行う為の準備も問題ない。アイとの連携が取れるようにいくつか調整したところもあった。


「いよいよ明日ですね」

「うん、相手側がどう動くかによって私たちの行動も変わってくから慎重にいこう」

「真面目ですねぇ」


 睡眠前。

 布団に包まりながらアイと会話を行う。


「多くの人や知り合いが危険に晒されてるなら、見過ごせないよ」

「それは魔法少女としての責務みたいなところ、ですか?」

「……個人的な覚悟もあるかな」

「わかりました」


 魔法少女としてなすべきことを行う。そういった気持ちは強い。

 しかし、それ以上に抱えている感情もある。

 言語化しようとするとなかなか言葉にならない、複雑な感情が。


「未来さん」

「なに?」

「気負いしすぎないように」

「……そうだね、できる限りそうする」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


 アイが眠りにつき、私も次第に目を閉じ、眠りにつくことにした。

 やはり、色々気を張っているように見えるのだろうか。

 ……気負いしているのはきっと、先輩としてとか、生き延びた人としてとか、そういう責任を重く受け止めすぎているからなのだろう。

 クミとレガ、そしてアイを頼りにしていないわけではないのだ。純粋に、私が私として多くのことを重く捉えすぎているだけなのだ。


 ……この性格も、直さないといけないかもしれないな。


 漠然とした意識の中、私は心の中でそう呟いた。





「置いてきぼりの魔法少女、君に一体何ができるというのかな」


 暗闇の世界。私だけが立っている空間。そこに、声が響いてくる。暗く澱んだ、不安を煽るような声が。


「何が言いたいの」

「いいや、君は見捨てられたのかな? 愛染未来」

「……私のことを知ってる」

「当然だとも。君は有名人だからね。『友人を犠牲にして助かった魔法少女』としてね」

「そうか」


 心を抉ろうとする声が響き渡る。

 その度に、私は自覚する。

 ……これは夢で、何者かが私に干渉していると。


「お前は誰? なんでわざわざ私に話しかけてきた」

「おやおや、釣れないじゃないか。せっかく君の心を抉って遊ぼうとしたのに」

「趣味の悪い性格」

「まぁ、魔物を扱うならばそれくらいはできた方がいいからね」


 その言葉で、干渉してきた相手を絞る。

 魔物を扱う存在となると、怪しいのは……


「……お前が今回の事件の黒幕か」

「花吹雪町で色々工作しているのは確かに僕だ。黒幕と言っても過言ではないかもしれない」

「随分な余裕。宣戦布告でもするつもり?」

「あぁ、そうだとも。君たちがなにをしていようと、僕は計画を遂行するつもりだからね。ちょうど、君たちの作戦の日……明日に」


 そう言葉にしたのち、皮肉らしい口調で笑いかける声。


「いやはや、魔法少女の計画なんて筒抜けだったということさ。君たちが何をしててもきっと無駄に終わるよ」

「……計画が把握されるのはわかってた。無駄にするつもりはない」

「ほう?」

「作戦の流れからして、相手の方が優位になるのは必然的だから」


 相手の計画を阻止する為に、後手になってでも行動するのは覚悟していたこと。それに相手から試供品となる魔力増幅装置を貰うという流れである以上、細工をする猶予はいくらでも存在する。不利な状況になる確率は高いのはわかっていたことだ。

 こうして、私に干渉してきたのも絶対に出し抜けるという自信があるから、という可能性は極めて高い。

 私の言葉に対し、声は少しの間、黙り込む。

 少しの時間が経過したのち、再び声は聞こえてきた。


「なるほど、伊達に長年生きてきた魔法少女ではないわけだ」

「悪役の考えることなんて、予想できる」

「よく言う、パートナーの魔法少女に見捨てられた癖に」

「……それは違う」


 見捨てられたという言葉が耳障りで、否定する。

 彼女はそんなことをしていない。

 愛染瞳はそんな魔法少女ではないからだ。


「おや、否定するあたり必死だね? 見捨てられて、孤独を感じて、苦しんだに違いない!」

「……確かに苦しかった、けど」


 それでも、彼女がいたから私は生きていけた。

 彼女が私という存在を模ってくれたから、私はここにいる。

 苦しいことも、あった。だけど。


「瞳は私を見捨てたわけじゃない」

「世界とパートナーの二択の選択で選ばれなかったのが君だよ、愛染未来! 君は捨てられたのさ!」

「お前に何がわかる」

「魔物は負の感情の集合体なことは知っているだろう?」

「それで、私の感情を把握できると」

「そうだとも。研究所に行っていただろう? 君たちが去った後に戻ってみたら、愛染未来の魔力の後があってね? それを分析したら面白い結果になったのさ」


 狂気的な雰囲気を漂わせながら、声が続ける。


「そう、後悔や絶望の魔力の痕跡があったのさ。黒く澱んだ魔力。漠然とした見えてくる記憶の因子。それを解析したら、面白いものが見えてね。君が愛染瞳と別れている光景があったのさ! 涙で別れを告げ、去っていく瞬間! 感動したなぁ!」

「心にもないことを」

「ふふふ、そこで君の過去がわかったのさ。涙の別れ! 絶望の決別を!」


 神経を逆立てさせようという言葉。

 罵詈雑言。

 まるで戯曲の悪役のように、演じるように発せられる。


「悔やんでも悔やみきれない瞬間、君の表情が見てみたかったよ。きっと愉快な表情をしていたんだろうなぁ!」


 繰り返し、煽る言葉を耳にする。

 それらの言葉が届く度、逆に心が落ち着いていた。

 ……涙の別れは否定の余地はない。多分、あの日以上に泣いた日はないだろう。

 悔やんだこともあった。自分の存在を疑ったこともあった。間違いない。

 でも。

 それでも。

 絶望の決別は、違う。

 私は、私たちはそんな別れをしていない。

 彼女との別れの時に感じた感情は、もっと複雑で、ぐちゃぐちゃで、私の中でもまだ整理できないけれども、絶対に絶望なんかじゃない。


「お前はなにもわかってない」

「ほう?」

「表面だけなぞって、相手をわかった気になってもそれは、知ったことにならない」

「強がりを言うじゃないか」

「強がりなんかじゃないよ。むしろ、本音。……私の心を抉りたかったなら、瞳のことをつっつくよりも、今の私の在り方について指摘した方がよかったかもね?」

「ほう、逆に僕を煽るのかね?」

「勝手に人の夢に出てきてよく言う」


 もう、ある程度の決意は固まっている。

 あの日があるから、今の私がいる。

 不安定で、それでもまっすぐ生きようとしている私がいる。だから……


「……どんな仕掛けをしてきても、負けるつもりはないから」


 私から、声に対して宣戦布告する。

 愛染未来として、そして今を生きる久遠未来として。


「ふん、戦闘前に心を折ることはできなかったか。まぁいい、僕に立ち向かったことを後悔させてやろう! 覚悟してるんだな!」


 そういうと声が消えて、暗闇の世界が消えていった。

 やがて意識が鮮明になっていき、目が覚めていく。

 夢から覚めたということだろう。


「おはよう、アイ」

「えぇ、おはようございます。未来さん」


 上半身を起こし、少し考えたのちに、アイに話すことを決める。

 ふと、机の上を見つめると魔力増幅装置が怪しく光っていた。あの増幅装置から干渉してきたのだろう。


「夢で、黒幕らしい存在に干渉された」

「なにか言われましたか?」

「『お前は捨てられた魔法少女だ』みたいなことを繰り返し言ってきてた」

「あらあら」


 その言葉を聞いて、逆に微笑むアイ。

 彼女もあの別れの場所にいた当事者のひとりだ。流れがどんな感じだったかを知っている。

 だからこそ、その言葉に違和感があるということを一瞬で感じ取ったのだろう。


「……絶対に負けるわけにはいかないって思ったよ。相手がどんな奴でも」

「ふふっ、それはそうでしょう。あの時の未来さんの眼には悲しみもありましたが、決意も込められていましたから」

「あの日の彼女の決断も、今いる私の選択も、きっと新しい明日に繋がってるはずだから。……悩んでも、進むの」

「付き合いますよ、未来さん」

「ありがとう、アイ」


 戦闘の準備を行い、家を出られるようにしていく。

 基本的な食事も忘れない。集合時間に間に合うように行動する。


「今の未来さんの表情は、あの時の顔によく似ています」

「泣いてはいないでしょ?」

「そうですね。泣いてはいないのですが……まっすぐとした、前を向くという眼をしています」

「……そっか」


 瞳が去っていったあとも、私なりに歩んできた。

 正直なところ、幸せに生きてこれたかはわからない。

 思い悩んだりすることもあったし、物語になるような出来事を起こしていたわけでもない。

 だけれども、私が力になれる瞬間がある。

 私を必要としてくれる人がいる。

 そのひとつひとつが私を歩ませてくれる。

 私の選択を、肯定してくれる。


「いこう、黒幕をやっつけるために」


 扉を開き、クミとレガの二人が待つ広場に向かう。

 自分なりの信念を胸に抱いて。

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