第13話 些細な日常の幸せ
不審な魔物騒動の調査を行った後日。
魔物を出没させている黒幕がいるという事実を知り、その男性が大規模な魔法少女のイベント時に行動を起こすということを把握することはできた。
直近に訪れるイベント、その時に私たちが行う行動について相談する為に今日は動くのだ。
「集合時間に間に合うようにそろそろいきましょうか、未来さん」
「わかった、行こう」
アイの住居から身支度を整えて、外に出る。
今日は魔法少女のふたり……牛型装置を扱っていたレガとクミのふたりに会いに行くのだ。
魔法端末を利用した連絡はしっかりと完了していて、集合場所の調整はアイが色々行ってくれていた。
「集まる場所はどこ?」
会って話がしたいというところまで話をつけたのは私だけれども、細かい場所の調整までは行っていない。
場所の調整はアイがやりたいといっていたので、彼女に任せたのだ。
何も知らない私を見つめながら、アイは小さく笑って答えた。
「ハンバーガー屋、ですよ」
「ファストフード店?」
「そうともいいますね」
彼女が集合場所に選んでいた場所に意外さを感じる。
その様子が面白かったのか、いい反応だといいそうな態度で話を続けてきた。
「青春っぽいと思いません?」
「女の子が集まってお話する会、みたいな……」
「そんな感じです。よくわかってますね、未来さん」
楽しそうな様子でそう答える彼女。
魔物騒動の相談という形で会うという形で考えていた私だけれども、アイにはそれ以外の目的もあるように思える。
「魔法少女はなにも、戦いだけが全てじゃないと思うんです」
「その意見には同意するよ」
「あら、意外です」
「些細な日常を守ったり、困ってる人を助けることも魔法少女として大切なことだからね」
「……まぁ、そうですね。未来さんならそんな感じだろうなぁと思ってました」
少し残念そうな目で私を見つめるアイ。
あくまでこれは私なりの考え。彼女には彼女の考えがあるのだろう。
「色々相談することは多めだから、時間的にしばらく滞在しそうなのはちょっと不安かな。ふたりに悩ませちゃうようなこと、言わないとだし……」
「そうですね、確かに作戦会議も重要です。まぁ、滞在時間的には大丈夫だと思いますよ? それなりに広い空間で、スペースには余裕がありますので」
なんだか、それとなく受け流された気がする。
そう感じたので、アイに疑問をぶつけてみた。
「……作戦会議以外にも、別の目的考えてない?」
「あら、察してはいたんですね?」
「作戦を考えるのは真面目な話で、それなのに少し浮かれた表情なのが気になって」
「ふふっ、まぁ、それはそうですよね。では、もう一つの目的を言いましょう」
微笑を浮かべながら、彼女が言葉にする。
「せっかくですので、少女らしいこと、しませんか?」
「……私たちが?」
「はい、魔法少女なのでいいと思うのですが」
「その一環でハンバーガーを食べると」
「えぇ、そうです。魔法少女で集まってハンバーガーを食べる。なんだか素敵じゃないですか」
「それも、そうだけど……」
彼女の言っていることは否定しない。
魔法少女同士の会話。それはきっと楽しいと思う。
だけれども、私は魔法少女としてはかなり精神的に熟成してしまっている気がする。
本当に純粋な魔法少女なのだろうか、私は。
いや、そもそも。今はそんなことをしている時間はあるのだろうか。少し、焦った方がいいのでは……
「なかなか難しいという表情ですねぇ……ま、行けばすっきりしますよ。色々と」
そう言いながら、彼女は笑顔になりながら私の手を引っ張った。
行き先は当然ハンバーガー屋だ。
「あっ、ちょっと、引っ張らないでも歩けるからっ」
普段よりもテンションが高くなっているような気がするアイに連れられながら、私は集合場所へと向かっていった。
引っ張る彼女の姿には、どこか少女らしさを感じる。私はどうなのだろうかとふと、考えるとなかなか難しいと思った。
行けばすっきりするというけれども、こういう悩みは解決するものなのだろうか。
集合場所のハンバーガー屋に着いたのはちょうどお昼時だった。
人気があるチェーン店のハンバーガー屋なのもあって、それなりに人の数は多い。
ただ、ハンバーガー屋そのものの規模も大きいので4人座るのには支障がなさそうだ。
アイが言っていた通り、混雑時でなければしばらくの時間滞在していてもいいというのはお店の張り紙に書かれていた。
「未来さん、こんにちわっ!」
「遅刻はしてませんよね? こんにちは」
レガとクミは私たちを見つけ次第、小さく手を振りながら合流してくれた。
お店の外、邪魔にならない位置での会話だ。
「うん、ちょうどぴったり合流できた感じだと思う」
「まぁ、仮に少しずれてても気にしませんよ」
今回集まっているのは全員が魔法少女だけれども、今はみんな変身しているわけではない。
それぞれが各々私服を着て、集まっている。カジュアルな見た目だったり可愛い雰囲気だったり個性が色々別れている。
「未来さんの服装いいですね! なんだかクールって感じ!」
「あんまり可愛い感じのもの着るの得意じゃなくて」
私が各々の衣装を見つめているように、みんなもそれぞれ服装を確認しているみたいだ。
レガは私の衣装について注目していた。今の服は動きやすいパーカーにスカートといった衣装だ。色は寒色系で合わせている。
「魔法少女の服はキラキラしてますのにねぇ」
隣でくすくす笑いながらアイが指摘してくる。
「……私服とのギャップが大切だと思ってるの」
「あら、拘りですか?」
「そんなところ」
それに対して適当に流して返答する。
私の私服が落ち着いたものが多いのは昔からだったりする。瞳と一緒にいる時から変わらない。
「アイさんは大人っぽいですね。なんだか風貌が独特です」
「あら、そうですか?」
「そうですね、ゆったりしていて好みです」
「ふふっ、そう言ってもらえてなによりです」
アイの服装はゆったりとしたワンピースだ。
元々魔法少女というにはやや大人びた風貌なのもあって、独特という意見も納得ができる。
「レガもクミもかわいくていいと思う。なんていうか、対になってる感じがいい」
「ふふん、お揃いコーデってやつ!」
「レガに合わせてほしいって言われただけです。まぁ、褒められて悪い気持ちはしませんが」
率直に言葉を伝えたら、ふたりとも嬉しそうな表情を浮かべていた。
黒を基調にしたカジュアルな服装をしているレガ、そして白を中心に整えたクミ。両者とも少女らしいかわいらしさが少しだけ眩しい。
「そろそろ列も控えめな感じになってきましたし、行くとしましょうか」
「わかった、行こう」
「ついていきまーす!」
「美味しいものが食べたいです」
それぞれハンバーガーを購入する為に列に並び、会計まで到達する。
各々が悩みながらメニューを決める。
私個人がファストフード店で食べることは少なくない。ひとりで各地を移動していた時は、それなりに食事をとることはあった。
ひとりでいることの方が最近は多かったのもあって、みんなで食べるという場面になることはなかった。瞳と食べに行ったりした過去はあるけれど、最近は友人とかと行くというのは無縁だった。
……今日は、ちょっと珍しいものを食べるのは悪くないのかもしれない。
一緒に行動している魔法少女を見つめながら、気分転換も兼ねて期間限定のメニューを頼んでみることにした。
「いやぁ、辛いのはいいね! すっごく元気になる!」
注文したハンバーガーのセットが席に届いたのち、私たちはまず食事を味わうことになった。
キラキラした目で激辛バーガーを食べるレガ。それをクミは呆れながら見つめていた。
「……レガ、いつも思いますが、よくそういうの食べられますね」
「クミも食べようよ。美味しいよ?」
「遠慮しときます、食べた後が大変なことになりそうですので」
そう言葉にしながらクミは静かにハンバーガーを味わう。
彼女が食べているものは何層にもチーズが積み重ねられたチーズバーガーだ。
チーズ、肉、チーズ、野菜、チーズみたいな大量にチーズが乗せられたバーガーは見ていて驚く。
「すごい迫力……」
思わず、そう言葉が出てしまうほどだ。
「チーズタワーバーガー。お気に入りなんです。ジャンキーさがいいんですよ、これ」
「どうジャンキーなの?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれました。これはですね、ひとつひとつのチーズの味わいが異なっていて、それらの絶妙な味わいがハンバーガーの味に彩りをつけてくれるんです。とろりとしたチーズの感触が口いっぱいに広がっていく感覚もよくてですね、ちょっと悪い子になったような不思議な食感がまたまたよくて……」
「飽きがこない……みたいな?」
「そうです、飽きないんです。だからこそ、好きなんです」
目を輝かせるクミ。
少し静かな印象な彼女も、好きなものに対して情熱的なのを見るとなんだかほっこりする。
「いっぱい好きなところを口にできるの、素敵だと思う」
「そ、そうですか?」
「うん、そういう話を聞くと元気を貰えるから」
「あ、ありがとうございます」
少し照れた表情を見せるクミ。
それを見て、レガは自分のことのように嬉しそうな表情になっていた。
「眼福ですねぇ」
みんなの姿を見つめながら、アイは微笑みながらハンバーガーを味わっていた。
「一歩引いて色々状況を見てるつもり?」
「そんなことはないですよ、わたしだって美味しいものを食べるのが好きなので、それなりに味わってます」
「じゃあ、何を食べてるの?」
「バジルソースましましアボカド大量モッツァレラチーズトッピングな二重肉バーガー」
「え?」
さらっと何を言っているかわからなかったので聞き返す。
「だから、バジルソースましましアボカド大量モッツァレラチーズトッピングな二重肉バーガーです」
言い間違えることもなく、すらっと言葉にする彼女。
……普段からこういうのを食べてたりするのだろうか。
「な、なにそのどう考えてもオーダーメイドなバーガー」
「あら、未来さん、驚いた表情になりましたね。いい顔です」
「そんなに変な表情?」
「うん、すごい不思議なものを見つけたみたいな表情してたね!」
レガに指摘される。
その彼女の隣ではクミもこくりと頷いていた。
「……ちょっと恥ずかしい」
「あらあら」
もしかしたら顔も赤くなっているのかもしれない。
そんな私を見て、色んな表情が見れてお得だと言わんばかりにアイは笑顔になっていた。
「そういえば未来さんは何を頼んだの?」
「私? ……みんなのに比べると、ちょっと期間限定だけど地味かも」
「そう言われると二周回って気になります」
「えぇ、そうですね。ぜひ、解説してほしいところです」
みんなの視線が集まってくる。
友人という立場の人からこうして注目されることはいままでそうそうなかったのもあって、少し不思議な感覚だ。
だけれども、なぜだか悪い気持ちはしなかった。
「ハッシュポテトを挟んだ照り焼きバーガーかな。照り焼きポテトバーガーっていうのを頼んだの」
「どういうところに興味を惹かれたの?」
「興味……うーん、なんとなくサクサクしたものが食べたかったっていうのがあるけど、なんだかハッシュポテトって美味しいイメージが強かったから、かな」
過去。瞳と一緒にいた時、ハッシュポテトを食べることがあった。
私がポテトを揚げて、彼女に手料理として渡した時、彼女が嬉しそうな笑顔になってくれたことをよく覚えている。
「そのイメージはどこから?」
「……友情の味、かな?」
少し悩んで、そう言葉にした。
昔懐かしんでばかりいるのもよくはないだろう。
これで私に対する話が着地するかと思ったら、なぜかレガが目を輝かせていた。
「友情の味……はっ、その言葉、聞いたことがある! ひとみ・アイゼンの27話でハッシュポテトを食べる回! そこでどっちかが言ってた台詞!」
「よく話数が出てくるね、レガ……」
「ふふん、見てたからね!」
どや顔でそう言葉にするレガ。
アニメのひとみ・アイゼンをしっかり見ていたというのがよくわかる。
ひとみ・アイゼンは現実にあったお話を元に描かれたエピソードが多くを占めている作品だ。
だから当然、友情の味という言葉も実際に言った言葉だ。
「でも、どっちが言ってたのか忘れちゃったんだよね……みらいちゃんの方だったか、それともひとみちゃんの方だったか……」
「そうですね、未来さんならわかると思いますよ」
「あっ、そうだよね。この前もなんだか技披露してたし!」
そう言いながら、アイが悪戯っぽく私に話を振る。なるほど、本人なら知っているだろうということか。
どう返答するのか楽しみにしているアイ。
それに対して、私はこう答えた。
「答えは、どっちも言ってた」
「えっ、そうだったんだ」
「てっきり片方だけが言ってるものかと」
「そうですねぇ、なかなか意外です」
記憶というのはなかなか曖昧なものになりがちだ。
アニメのひとつのエピソード、それも日常回のちょっとした会話を覚えている人はなかなかいないだろう。
だけれども、私は知っていて、覚えている。
その理由は単純明確。ハッシュポテトのお話をアニメに残そうと提案したのが私だからだ。
『もしさ、私たちがアニメになったら、どういうエピソードがほしい?』
『日常を思い出せるような、そういうお話があったら嬉しいかな』
『例えば、どんな?』
『私がハッシュポテトを焦がしたりしたけど、最終的には美味しく食べられたお話……とか』
『懐かしい! じゃあ、そのエピソードも入れちゃおう! あの時なんだか印象的だった言葉をふたりで言っちゃうみたいな感じにしてさ!』
『印象的だった言葉?』
『この美味しさはきっと、友情の味だねって』
破滅の日の別れが訪れる前に交わした、些細な会話。
その中から生まれたエピソード。
よく、覚えている。
思い返すと、寂しい気持ちになってしまう。
だけれども、今はそれ以外の感情も沸いていた。
「友情の味ってとりとめのないものだけど、形として存在してると思うんだ」
「言葉にならない、だけれども素敵なものみたいな……?」
「ロマンチックな感じですね」
「そういうので、いいんだと思う。だって、魔法みたいで素敵だから」
いま、魔法少女が集まって食事をする時間。
その瞬間だって、かけがえのないものだ。
この時味わった感触は、きっと友情の味としてずっと残り続けるだろう。
不思議と暖かい気持ちになれる。私も、こういう時間を過ごしていいのだ、という安心感を感じさせてくれたのは、ここにいる魔法少女との雑談が楽しかったからだろう。
「ふふっ、いい表情です」
「……そうだね、きっといい笑顔になれてるよ」
これがアイが作戦前に考えていた、青春で、少女らしいことだとするのなら、ちょっと私は硬すぎるかもしれない。
でも、それでもいいのかもしれない。
こういう日常があるからこそ、きっと魔法少女は明るい気持ちで頑張ることができるのだから。
作戦会議前のちょっとした青春のような時間。
みんなの笑顔が微笑ましくて、私も頬が緩んでいた。




