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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第12話 魔法使いと魔法少女

 静止の言葉を受け止め、それぞれ戦闘態勢を解く私とアイ。

 魔物が消えた部屋の中に静かな空気が立ち込める。


「状況説明、確認の為にやってきました。魔法使いの陽空かなたです。まず、怪我はありませんか?」


 遠くから歩いてきたその存在には見覚えがあった。

 陽空かなた。彼女にはアニメ制作の方でもお世話になっているから、姿を間違えることはなかった。


「かなた? どうしてここに」

「あれ、未来さんの方こそ、どうして……」


 お互いに、偶然会ったという印象を与える会話だ。

 その様子を見て、アイはくすくすと笑っていた。


「お互い同じものを調査していた、といったところですね。こういうのは」

「アイさんに探ってもらっていたのは事実なのですが……まさか、未来さんと合流していたとは思ってませんでした」


 後ろから会話に参加しているアイに対して初対面じゃない様子で話すかなた。

 彼女らもどうやら知り合いみたいだ。


「元悪役ですので。使える手は使うんですよ」

「悪役なことは関係ないと思いますが……」

「まぁ、未来さんも積極的に調査に励んでますから、いいということにしておいてください」

「アニメの方も手伝ってもらってるから複雑な心境なのですが……」

「本人暇そうなので、いいじゃないですか」


 悪戯っぽく微笑むアイに、少し冷たい視線を送る。


「それ、私がいる前で言う?」

「いい気分転換にはならないですか?」

「……身体を動かしてたりした方が気が晴れるのは事実だけどさ」


 私の目の前で会話が進んでいく。

 ふたりの話から察するに、私が関与する前からなにか結託して行動を起こしていたらしい。

 しかし、ふたりの会話だけを聞いて、色々分析するのはなかなかに難しい。ということで、私も私なりに問いかけてみた。


「とりあえず、色々聞かせてほしいな。まず、私が今回やってくる前から花吹雪町ではこういう事件があったってこと?」

「それについては私の方から説明しますね」


 かなたが一歩前に出てくる。

 隠し事をするつもりはないというのは凛とした態度からも伝わってくる。


「ここ数年の花吹雪町の表に出ないようなトラブル解決については、私、陽空かなたとオルクス・アイさんが重点的に行ってきました」

「アイもここの魔法少女として動いてたんだ」

「はい、町を影から支える眼として行動していたことは多かったですね。ま、サボれる時は後輩の魔法少女さんに頼ったりもしてましたが」

「アイさんは文字通り、町を見つめる眼として、そして私は魔法使いとして魔法少女の方々の背中を支える役割を担ってきました」

「なるほど……」


 私がいない間の花吹雪町を支えてくれていた。それはとてもありがたいことだ。


「でも、立場的になかなか表には出てきづらいんじゃない? ふたりとも」

「魔法使いは、基本的に表舞台に立つことはないですからね。魔法少女の方を支える為に、ちょっとした使い魔を動かしたりもしていました」


 魔法少女よりも魔法使いの方が、魔法の秘匿性や神秘が強いというのは耳にしたことがある。そうした都合、表立って行動している魔法使いは少ない。

 アニメ制作スタッフとしてのかなたも魔法使いとしての姿を見せることがないあたり、徹底している。本当に見知った存在でもない限り身分を明かさないみたいだ。


「アイは……気にしてるの?」

「まぁ、ほどほどに意識してますよ。魔物なことも事実ですので、面倒ごとにならないようにはしてます」


 彼女についてはいい加減な態度ではあるものの、それなりに面倒ごとの対応は得意そうな印象を感じるので、今日までのんびりしてきたのだろう。

 とにかく、花吹雪町に厄介ごとはいくつかあったというのは事実として存在しているみたいだ。


「質問変えるけど大丈夫?」

「はい、問題ないですよっ」

「かなたは、どんな情報を掴んでここに来たの?」


 花吹雪町の中でも目立たないような場所にあるこの空間。

 私とアイも魔力探知を行ってやってきたようなところだ。なにも理由なしにやってくることなんてないだろう。

 それを聞かれたかなたは少し考えたのちに、口を開いた。


「『魔法使いの国』の技術に起源が由来とする装置が作られてるという噂を聞き、独自調査をしていたのです」

「別世界の技術、ということでしょうか?」

「そうですね。厳密に言うと、魔法使いである私のような存在が暮らしている世界の技術が持ち出されているということです」


 ここまでは実は珍しい話ではなかったりする。

 なぜならば、魔法少女が使う道具も実は魔法使いが作り上げた技術を元にしているというのはよくある話だからだ。


「……でも、こうしてかなたが調査に赴いてるってことは、その技術は違法に持ち込まれたものってことだよね」

「はい、そうなります」


 私がアイから受け取っていた瓶のようなものをかなたに渡す。

 魔物から出てきた黒い魔力を籠められた瓶はまだ怪しげな雰囲気を漂わせている。


「かつて『破滅の日』に対策する為に、魔物の魔力を封印する道具というものが研究されてきました。その技術に基づく要素をこの瓶からは感じます」

「それを使って侵入者を排除しようとしてきたんだ」

「ど、どういうことですか? 詳しく教えてください」

「先にこの部屋に入った瞬間、男性の姿が映像として投影され、その映像が流れるとほぼ同時に瓶から現れた魔物が襲い掛かってきたのです」

「不意打ち……」

「幸い、私もアイも戦闘経験があったから助かったけど、そういうすべが強くない魔法少女とかが入ってたら大変なことになってたと思う」


 少し考えて、かなたが言葉を返す。


「意図的に誰かを誘い込んで、そこで魔物に襲わせる……狡猾な手を使います。装置はどちらですか?」

「こっちです」


 アイが案内して、かなたがそれを調査する。

 分析を終えたかなたは立ち上がり、私たちに告げる。


「これも魔法使いの技術を利用した装置です。未来さんたちが見た男性というのは魔法使いの可能性が高いですね」

「負の感情を集める為に、こういう手を使ったのかな」

「……ありえますね。今の魔物が弱まった時代、急に強敵に襲われたら恐怖を感じてしまう魔法少女などは多いかと」


 魔物を強大にするために侵入者の感情、あわよくば命を利用する。

 とても許せる相手ではない。


「それを誘い込む為の手段が、この魔力増幅装置なのでしょうか」

「なにか、装置があるんですか?」

「うん、少し前に解決した騒動で、魔力増幅装置を回収したんだけど一般的な魔法少女の道具に使えるように組み込まれてたんだ」

「貸してみてください」


 うーしーちゃん騒動で貰った魔力増幅装置をかなたに一時的に預ける。

 増幅装置を見たかなたは息を飲み、話を続けてくる。


「魔物の魔力の封印はこちらもありますが……悪意のある調整がされていますね」

「悪意のある調整?」

「魔法使いや魔法少女が使う道具に対して、反応を起こして暴走を促すという仕掛けです」


 かなたが魔力を少し込めると、魔力増幅装置はガタガタと震えた。


「意図的な暴走による被害は計り知れません。道具が魔物のように変貌して人々に襲い掛かることだってありえます」

「作為的に歪められた技術ですか。あまり気持ちのいい話ではありませんね……」

「当然、この効力は魔物そのものにも影響します」

「残滓のように残り続けている今の魔物に対して増幅を行うと、強大な力を得る」

「厄介なものです。……ところでアイさんは影響されないんですか?」


 瓶や装置を返却しながらかなたが訪ねる。

 それに対してアイはけろっとした表情で言葉にしていた。


「問題ないですよ。この装置の中にある魔物の魔力は纏まりのないものに対して反応するみたいですので」

「どういうこと?」

「自我を持つ魔物に対してはさして意味のないということです」


 微笑みながら返してもらった魔力増幅装置をアイは懐に入れた。


「……まだ相手の正体ははっきりしていませんが、断言できることもあります」


 そう言葉にして、かなたはひとつの説を唱える。


「まず、相手は魔法に対してなにかしら強い感情を持っている可能性が高いです」

「魔法少女に対するいやがらせのようなこともしてますからねぇ」

「はい、魔法少女の立ち位置を陥れたいような行動にも思えます」

「言われてみれば……」


 魔法少女の道具によって大事故が起きたとなると、魔法少女を信頼する声も少なくなってしまうだろう。

 怪しい増幅装置を提供しているのも、地位を陥れたいからという可能性は確かにありえる。

 ふと、ゴミ回収の時に見かけた瓶のことも思い出す。

 あの瓶が放置されていたり、魔法少女の手に回収されて、自然に開放されていたら魔法少女が魔物を召喚したという噂を立てられる可能性だってある。

 そうすると様々な負の感情が湧きたってしまうだろう。


「それに、漠然とした不安を引き立たせる強大な魔物の増加。これについてもある仮説か立てられます」

「負の感情を利用した魔物の利用?」

「はい、魔物は負の感情によって強くなるものです。その習性を利用してなにかを企んでいる可能性はあるかと」

「……尻尾さえ掴めればいいのに」


 相手の目的が少しずつ見えてきている。

 だけれども、有効な一手を踏み込むことができない。どうすればいい。

 考える。ただ頭を悩ます。

 悩んでいる私に対して、アイは静かな態度で言葉を発した。


「……すみません、かなたさん。最近花吹雪町で行われる魔法少女が関与するイベントにはどんなものがありますか?」


 そうだ。男性はイベントに介入すると言っていた。

 それを足掛かりにすればいい。少し私は視野搾取になっていた。

  普段のアイ以上に真面目なその眼。その問いかけに対して、かなたはメモ帳を開いて確認し、答えた。


「魔法少女が開くイベントには……あっ、ありました。花薄レガさんと花椒クミさんが行うマジックショーがあります」

「あの二人のマジックショー……!?」


 かなたの言葉を聞いて驚く。

 あのふたりは事件に無関係ではない。

 むしろ、この場にたどり着く可能性すらあった魔法少女だ。


「知り合っていたのですか?」

「少し前に魔力増幅装置を受け取ったのは彼女たちからなんだ」

「そうなんですか……!?」

「そして、この場の男性の映像からこう言われてもいます。『魔物を使役して大規模なイベントに介入したとしたら大惨事になるだろうな』と」

「そ、それは危険な気がします。止めないと……!」

「待って、かなた」


 なにか行動を起こそうしようとしたかなたを止める。

 これは危険ではあるものの、まだ、最低な状況でもない。


「大事にしたら魔物の発生を促進させる可能性だってある。だから、ここは情報を広げないように動くべきだと思う」

「で、でも、どうするつもりなんですか……?」

「まず、ふたりに連絡を取るつもり。イベントを開催するかどうかは彼女たちの判断に任せるけど、そこで対策を練るつもり」


 ここまで来たら無関係のままにするのは危険だろう。

 必要最低限の相手に情報をまず伝達するべきだ。

 今回はレガとクミの二人。


「い、一般の魔法少女の方を巻き込むのは可能なら遠慮してほしいところなのですが……」

「けれど、危険な目にもう遭遇してる魔法少女なら、守ってあげたいじゃない?」

「で、でも」

「大丈夫」


 安心させるように、笑顔で答える。

 この場で焦るのはよくない。今できることをするべきだ。


「私も、魔法少女の未来は大切にしたいから」


 これから先に続いている明るい未来を信じている魔法少女に暗い顔をさせてはいけない。

 魔法少女の物語は幸せなものであってほしい。

 そういう願いを叶えたい。それが私だ。


「……最近見た未来さんの表情の中で、一番素敵な表情です」

「そ、そう?」

「はい、魔法少女として覚悟を決めた、強さを感じる眼をしていました」

「守りたいから、みんな」


 この感情は私の正真正銘の気持ちだ。

 魔法少女として、やれることをする。

 どんな人も明るい表情になれるようにしたい。

 不安も、恐怖もなくしていきたいのだ。


「……未来さん、負けないでくださいね」

「大丈夫。絶対に後悔しないようにするから」

「アイさん、未来さんと事件解決お願いします。私も影で支えます」

「はいっ、今の未来さんのパートナーとしてほどほどに頑張りますね」


 痕跡探しによる調査。

 それは敵を見定めるきっかけを得られた。

 魔物の魔力が入った道具も相手の出方をうかがうときに重宝するはずだ。

 一歩ずつ前に進んでいる。事件解決に向けて、私たちは歩めている。そう信じながら、次の行動に移ることにした。

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