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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第11話 魔力探知による調査

 情報を集め、ある程度の休息も取れた次の日、私とアイは魔力増幅装置に込められた魔力を辿って調査を行うことにした。

 花吹雪町の表通りとは異なる裏道。そこが今日の調査場所だ。

 表通りは賑やかな花吹雪町も、裏まで行くと人も少なくなってくる。まだ開発が行われていないような場所には人も寄り付かない。

 こういった裏通りには魔物も発生しやすかったもので、瞳と一緒に活動していた時も別の裏通りで戦っていたこともある。


「それにしてもよくわかるものですね」

「魔力のこと?」

「えぇ、装置に込められている魔力と土地に残っている魔力、そして前日感じ取った魔力を調べ上げて探知するなんて、わたしはできそうにないです」


 歩きながらアイの言葉を受け止めると同時に、魔力探知を続けていく。

 ……魔力増幅装置に込められている魔力の流れと地面やビルに流れ込んだ魔力に類似性を感じる。おおよそこのあたりで問題なさそうだ。


「適材適所って言葉があるでしょ」

「瞳さんもこの作業は得意じゃなかったと?」

「うん、まぁそんなところ。彼女、どちらかというとそのひたむきさと諦めない勇気とかそういうのが強かったし、よくこういう細かい作業は当時からやってた」


 瞳はどちらかというと直感的な魔法少女だった。

 潜在的な魔法少女としての実力、幸運、そしてカンに冴えていたと言える。

 しかし、そんな彼女でも見つからないものもあったりした。そういう時に私は魔力感知を繰り返し行っていたのだ。


「なるほど、地道な役割を担っていたと」

「まぁ、目立たないことも重要だったりするからね、魔法少女って」

「目立つと面倒っていうのはいつも感じてそうですよね、未来さんって」

「どうだか」


 あえて彼女の言葉に曖昧に答える。

 ……普段は、特別目立つ行為はしたくないというのは事実ではある。だからといって、特別人嫌いというわけでもない。単純な話、『愛染未来』としての私を他の人に見られるとどう思われるか心配なだけだ。ふぶきさんみたいに、まだ、私のことを快く思ってくれる人がどれだけいるかわからないというのも大きい。……もしかしたら不安症なだけなのかもしれない。


「まぁ、考えすぎるのはよくないですよ、何事も」

「いい加減な思考」

「それくらいの方が人生は楽というものです」

「それをアイが言うと少し不思議な感覚になるけど」

「あら、そうなのですか?」


 相変わらず彼女はマイペースだ。もしかしたら罠もあるかもしれない空間でゆったりした態度をとっている。これがある意味で彼女の本調子なのかもしれない。そう思いながら、私は私のペースで分析を勧めながら歩いていく。

 裏道を進んでいくと、人があまり通らなそうな路地裏へと到達することができた。古い建物が多いからか、人の気配も少ない。

 まだ工事をされていない、廃墟もいくつかあった。


「装置の魔力と土地に付着してる魔力が近い。怪しい場所に着いたかも」

「なるほど、でしたらいくつか『眼』を飛ばしておきましょう」

「助かる」


 彼女が提案したのを受け止めると、一つ目の蝙蝠の使い魔が数体、路地裏の調査に出向いてくれた。

 それぞれの使い魔たちは細かいところまで見てくれるみたいだ


「まぁ、あの子たちには手がないので、なにか機械を動かす場合はわたしたちの手を使うことになるますが」

「それでも調査は楽に進められる。ありがとう、アイ」

「助手として、それなりに頑張ってるだけです。こういうところでサボっていたら、呆れられてしまうでしょう?」

「いざって時の行動の速さは頼りにしてるけど」

「あら」


 アイがやる気を見せているならば、私も頑張るべきだろう。目で見て怪しい要素は確認できるならば、魔法少女として情報を調査し、怪しい部分を探るべきだ。

 そう思いながら、魔力探知をさらに精密に行っていく。


「アイが目に頼るなら、私は……」


 目を閉じて調査を行おう。感覚に集中して、魔力を感じ取る方向で調べていく。


「こっち、かな」


 魔力を感じられる箇所まで、少しずつ歩いていく。障害物にぶつからないように丁寧に一歩一歩動いていく。


「うん、あってる」


 微弱だった魔力の反応がどんどん明確になっていき、ある一点まで到達することができた。

 目を開き、その場所を確認する。そこには鉄でできた扉が置かれていた。

 隣をふと見てみると、アイが展開していた使い魔が集まっていた。


「他の箇所も『眼』を使って見てはいたのですが、妙に不審な点がこの扉に多かったのです」

「妙に不審な点?」

「えぇ、他の場所は整備された雰囲気がなかったのですが、ここだけ少し綺麗です」

「使われた経歴があると?」

「そう考えた方が無難ですね」


 ドアノブに手を伸ばし、落ち着いて調査する。

 ここでなにか仕掛けがあったら大変だ。

 魔力を行使して、罠が仕掛けられていないか確認する。


「特に別状なし」

「鍵はなされていますか?」

「えっと……」


 そっとドアノブを使って扉を開けるか調べようとする。

 すると、扉はすんなりと開いてしまった。


「かかってないみたい」

「逆に怪しいですね」

「先に行くなら警戒した方がよさそうだね」

「そうですねぇ、明かりくらいは用意しておきましょう」


 アイがパチンと指を鳴らすと、使い魔の眼から光が発せられていく。

 懐中電灯の代わり、といったところだろうか。


「色々できるんだね、その使い魔」

「ふふっ、見ることには特化してますからね」


 調査個所ははっきりした。

 さっそく扉の先に向かうことにする。

 一歩、踏み出して前へと歩いていく。


「あら、迷いなく前に進みますね」


 扉の向こうに進む私に着いてくるアイ。

 彼女も警戒を解かないように動いている。


「なにかあってからだと面倒ごとに繋がるからね」

「そうですねぇ、油断は大敵ですから」


 扉の先には通路が広がっていて、明かりは一切ついていない。

 光源になるのは使い魔から発せられる光だけだ。

 通路の壁には一切なにも貼られていない。ただ、一方通行の道が続いていくだけだ。


「背後からなにか迫る気配もなし……魔力の方はどうなってますか?」

「一応この先に続いてるみたい。魔力は……そろそろ強くなってきた感じがあるね」


 装置に込められた魔力と同様のものが先から漂ってくる。

 その魔力がさらに鮮明になってきた時、ひとつの部屋にたどり着いた。


「ここは……」

「なにやら不審な空間にたどり着きましたね」


 様々な場所に使い魔を展開させて、部屋全体を明るくするアイ。

 そうして見えてきた空間は、大部屋のようだった。

 壁沿いにはいくつかのコンセントが置かれていて、機械を通電させることができそうだ。

 しかし、そのひとつひとつを確認してある違和感に気が付く。


「……機械類が存在しない?」


 私も魔法を行使して小さな明かりを作り、部屋を確認していく。

 なにやら作業ができそうな机が存在していて、椅子もある。

 大きな作業道具を置けそうな空間も確かに存在している。

 しかし、空間に残された魔力以外の痕跡がぱっと見た感じ見当たらない。

 まるで、なにもなかったかのようだ。


「的外れだった……というわけでもなさそうですよね」

「うん、魔力は確かに感じてる」

「黒幕さんが逃げた、といったところでしょうか」

「逃げたのかな」


 ふと、小さな明かりが地面を照らした瞬間、不審な円盤状の装置があることに気が付いた。


「これは……?」

「新しい手がかりでしょうか」


 手を伸ばし、円盤に手をかざそうとする。

 その瞬間だった。

 バチっと音が鳴り、装置から謎の男性の姿が浮かび上がった。

 黒い衣装を身に纏ったその男性は魔物ではないものの、影を帯びているような雰囲気は感じられた。


『ようこそ、目ざといネズミくん』


 拍手をしながら笑顔を見せる男性。

 しかし、その表情にはどこか悪意を感じる。


「……実体がないですね、プロジェクターや録画の類でしょうか」


 そう言葉にするアイを無視して、男性は話を続ける。


『この空間が怪しいと思った君の洞察力はとても素晴らしいものだ。しかし、好奇心は猫を殺すという。君にその意味はわかるかな?』


 ゆうゆうと語る男性の声。

 まるで、隙をわざと晒しているようだ。声に集中させるような形の問いかけも怪しさを感じる。


「未来さん」

「……これは、罠だよね」

「えぇ」


 警戒を強める。そうする中、アイの使い魔が一点に注目を集めていた。

 その対象は私の後ろ。


「侵入者を葬る為の罠、といったところでしょうね」

「わかった」


 背面から感じる殺気。

 その気配を感じ取り、私は思い切りその物質に回し蹴りを放つ。


「グオオオォ!」


 殺気の正体は、予想通り魔物だったようだ。

 魔物は私の一撃を喰らって勢いよく壁に叩きつけられる。

 熊の形をした魔物。花吹雪町に戻る前に撃退を手伝った存在によく似ている。

 違うのは……


「見るからに凶暴ですね」

「この風貌をしてるのに、私たちが気が付けなかったのが不思議なくらいね」


 身体の大きさが前に見た魔物よりも二回りくらい大きい。

 俊敏性も凶暴さも最近の魔物とは比べ物にならないだろう。

 『破滅の日』の騒動の時に活動していた魔物の強さによく似ていた。


「ウォォォ!」


 何事もなかったかのように魔物が立ち上がり、私に迫ってくる。

 急接近。そして、爪での一撃。


「それは当たってあげられないよ……!」


 真正面から受けたら私でも苦労するだろう。そう思い、横方向に回避をして攻撃を凌ぐ。

 戦闘に不慣れな魔法少女なら対応できなかった可能性すらある。仮に一般人が迷い込んでいたらひとたまりもなかいだろう。


「この奇襲……あの装置を起動させたら行う、みたいな感じなのかな」

「その線が高そうですね。侵入者を仕留める為に用意した魔物、といったところでしょう」

「たちが悪い」


 もしも、この魔物によって被害が出ていたら……そう一瞬考えて、思考を切り替える。

 今は目の前の敵を倒すことを優先するべきだ。この空間に誰かが出入りしていたかは後で考えればいい。

 少なくとも撤退したら、多くの存在に被害が及ぶ可能性も高い。ここで撃破するべきだ。


「未来さん、戦えますか?」

「アイこそ問題ない?」

「えぇ、強大な魔物を倒すほどの力はないですが、サポート程度ならば問題ないですよ」


 そう言って、彼女は使い魔の眼から紫色の魔力を放った。

 出力は控え目、とはいえ動きを阻害するのに有効な一手といえるだろう。


「牽制射撃です」

「だったら、こっちが主力になればいいんだね」


 両腕で魔方陣を展開し、魔力を集中させる。

 一撃で撃退できるようにする下準備だ。

 そんな中、大型の熊の魔物は牽制を振り切り、どんどん接近する。

 標的は使い魔を操っているアイ。


「ウオォォォ!」

「牽制程度だと止まりませんか……」

「アイ、なにか手はある?」

「そうですね、ある程度観察して、力を振るうバランスが悪いというのがわかったので……」


 振り下ろされる魔物の剛腕を素早く飛翔して回避をする彼女。

 その瞬間に合わせて、アイの使い魔が放った魔力弾が魔物の足元を抉る。


「グオォッ!」

「ほんの少し、動きずらくさせてあげましょう。これで十分ですか、未来さん?」


 振り下ろされた腕と、抉られた足場。その両方の影響によって魔物がバランスを崩す。

 魔物が態勢を立て直すまでにかかる時間は短いだろう。

 しかし、その少しのタイミングがあれば、問題なかった。


「大丈夫、やれるよ」


 魔方陣の目の前に集中させた私の魔力を一気に放出。解放する。


「結晶魔術……!」


 解き放ち、貫く一撃。


「ザフィーア・シーセン!」


 青く輝く結晶を魔物に解き放ち、そして結晶に包ませる。

 相手を一撃で撃退する為の、対魔物用の必殺技だ。


「弾けてっ!」


 その掛け声で包み込ませた魔力を一気に解き放つ。


「グワアアァッ!」


 結晶による魔力爆破。

 その一撃によって魔物は粉砕され、光となって消えていった。


「相変わらず物騒な技ですねぇ、それ」

「アイには放ってないけどね」

「えぇ、そうですね。でも、こうして昔の技を見れたのは嬉しい限りかもしれません、腕はなまってないようでなによりです」

「ここまでしないと撃破できそうになかったから」


 警戒を少しだけ緩め、周囲を確認する。魔物に対応している最中、映像の男性は喋ることはなかった。

 ……あれは侵入者に油断や隙を生み出させるための仕掛けだったということだろうか。


「アイ、血の跡とかがないか確認してほしい」

「わかりました」


 もし、この空間に私たちより先に誰かが入っていて、手遅れだったら……そんな不安を感じながら頼む。

 頷いたのちアイは使い魔を展開してそれぞれ痕跡らしいものがあるかを調べあげてくれた。


「安心してください、未来さん。この空間に最初に立ち入ったのは私たちが最初のようです。他に戦闘の経歴も見当たりませんし、血の跡などもありませんでした」

「よかった……」


 胸をなでおろす。

 最悪の事態になる前に行動できた。その事実だけでもまずは一安心だ。

 ふと、円盤状の機械を見つめる。

 そこから出力されている映像の男性はふたたび拍手をして、語りかけてきた。


『ほう? 魔物を撃退できたのか。この空間に入ったものは相当の実力を持つものと思える』

『しかし、この場を切り抜けたとしても無駄だ。何故なら俺の計画はもう新たな目標を定めているからな』


 ゆうゆうと語る男性。その態度には自分の目論見が絶対に阻止されないという自信が潜んでいるようだった。


『現在、花吹雪町には数多くの存在が集まっている。仮に俺が魔物を使役して大規模なイベントに介入したとしたら大惨事になるだろうな?』

『くくく、侵入者がどんな決断を下すか楽しみにさせてもらうとするよ』


 そこまで言葉にしたのち、男性の映像は途絶えた。

 不安を煽るような態度だった。情報を拡散させられる可能性すら気に留めていない。


「これは、ここに来た人が襲撃の可能性を教えまわる可能性もあった……ということでしょうかね?」


 そう言いながら、魔物がいた場所にいつの間にか赴いていたアイがなにやら怪しいものを拾ってきた。瓶のようにも見える物質だ。


「警戒を強める為にあるかわからない魔物襲撃の対策を共有するというのはありえるね」

「未来さんは信じます? あの男性の言葉を」

「そうだね……」


 少し考えて、答える。


「あの余裕……嘘を言っているようには思えない。魔物で何か厄介ごとは起こすつもりじゃないかと私は考えるけど」

「では、情報を拡散しますか?」

「ううん、それをするつもりはない。未確定の情報で不安を広げたら、それこそ相手の思うつぼだから」

「やはり、そうなりますよね」


 ふぅ、と一息ついたのち、アイは瓶のようなものを私に手渡した。


「これは……」

「魔物を活性化させていた何か。そう睨んでもいいかもしれませんね。先ほど撃退した魔物が粉砕されたタイミングで地面に落ちていたので」

「強い魔力を感じる」

「はい、同じ魔物として感じ取れることとして、様々な負の感情が込められています」

「そうだね、魔物の魔力反応は重め」


 自分も瓶から魔力を感じ取り、把握する。

 負の感情。不安や恐怖などは魔物を具現化させるきっかけでもあり、それらを取り込んだ魔物は強く強靭になる。

 このタイミングでアイが渡したというのには意味がある。そう感じた。


「情報の伝達によって漠然とした不安を広げることを狙っているという可能性は高そうです」

「私もそれは感じた。魔物を強大にする為に侵入者を利用する目論見みたいなもの」

「それでも、行動するつもりでしょう? 未来さんは」

「うん。できる限り被害が増える前に決着を付けたい」


 事件が起こってからでは、被害が大きくなる可能性もある。

 街のイベント行事を調査して、介入を阻止するべきだろう。


「色々情報を纏める必要があると思う。アイ、付き合ってくれる?」

「はい、任せてください」


 すぐに行動するべきだろう。

 そう思いながら、移動しようとした時だった。


「そこの方、止まってください!」


 今、新しく部屋に誰かが入ってきていた。

 凛とした態度の声。少女らしさの中に責任感を感じさせられる。

 そして、少しだけ聞き覚えのあるような声のような気がした。


「この場合、わたしたちが不審な人になるのでしょうか?」

「できれば情報交換できたらいいけど……」


 状況は動き続ける。

 その中で私はどれだけ動けるだろうか。

 男性の映像、そしてその内容を頭で考えながら、次の事態に備えていった。

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