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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第10話 手がかりと日常

 調査を終えて、家に帰還した私とアイ。

 手にした情報を元に次の調査の目安を考えていた。


「不審人物をひとりひとり見つめて調査する、なんてどうでしょう」

「時間がかかりすぎるから、やめといた方が賢明だと思う」

「まぁ、そうなりますよね。正直、興味もない方を凝視し続けるのも疲れますし」

「名乗っている時の二つ名に『凝視』ってつけてるとは思えない発言」

「わたしが特に見つめたいのは、わたしの好奇心を満たしてくれるものなので」


 ダイイングルームではない、私室で会話する私たち。

 床で座って会話する形式なのもあって、それなりにリラックスしている状態なのかもしれない。

 ふと、自分の携帯端末で情報を確認する。


「その端末、便利ですよね」

「アイも使えるんじゃないの?」

「そうですねぇ……わたしはまぁ、適当に美味しいもの調査する時くらいにしか使ってません。自分の目で見たものの方が信じられる要素は多いですし」

「その考えは一理あるけど……」


 魔法少女がよく使うSNSアプリを開き、内容を調べていく。


「リアルタイムの情報を追いかける時、こういうのが便利だったりするんだ」


 指を使って、画面をスライドさせていく。

 ちょうど近い日に『ひとみ・アイゼン』のイベントをやっていた都合、花吹雪町に集まっている魔法少女の情報が記載されていることが多かった。


「ほら、今日の調査に関連することが見つかった」

「ふむふむ……?」


 アイと共にSNSの投稿を共有する。


『昨日の夜、せっかくだから花吹雪町のパトロールでもしようかなぁって思ったんだけど、魔物が妙に強かったんだよね。ビックリ』


 ちょうど一時間くらい前の投稿。

 その言葉に色々な返信が飛んでくる。


『私もそう感じた! 普段の必殺技でやっつけられないみたいな相手もいてさ、正直怖かった!』

『なにか悪い人が手を加えてたりするのかな……不安……』


「なるほど、私たちが動いている間にも魔物騒ぎは話題になっていたと」

「ここ最近は外から来た魔法少女も多いみたいだし、色々噂とかも飛び交ってるみたい」


 憶測で不安を感じてしまうというのはよくある話だけれども、このまま暗い話題が増えてしまうと気持ち的に追い詰められてしまう魔法少女もいるだろう。

 どうにか事件解決に結びつくような情報がないか確認してみる。

 すると、ある投稿を見つけることができた。


『昨日、花吹雪町で魔物を倒した後にスーツ姿の人に話しかけられたんだ……』

『その人、「強くなりたいならば、素敵な道具がありますよ」って言ってたけど……怖かったから逃げて、元の町に戻ったんだ。うぅ……私に因縁つけてこなければいいけど……』


 これまでの情報とはまた異なる、不審人物が登場するものだった。

 念のために彼女が行っているであろう投稿を調べていく。こういうのを調べる時は、本人の他の投稿を見つめながら判断するのが無難だ。


「普段は日常を楽しんでいるような投稿が多いですねぇ」

「昨日の日中はひとみ・アイゼンのイベントに参加してたみたいだし、嘘を投稿するタイプには見えないね」


 それぞれの投稿を見つめて考える。そして、これはそれなりに信用できる情報だと判断した。


「それにしても、魔物を倒したのちに登場する不審人物ですか……いかにも怪しいですね」

「同じような手段で遭遇できれば楽だけれども……」

「未来さんだと難しいと思います」

「そうだよね」


 名前や髪の雰囲気を少し変えているとしても、私が『愛染未来』であるという事実は変わらない。

 知っている存在なら、すぐに看破することだって可能だろう。それに、暗躍している人なら特に警戒してくる可能性が高い。


「直接この魔法少女の方と話します?」

「いや、恐怖を煽るだけになるだろうし、やめておいた方がいいと思う」

「そうなると、地道な探索になりますね」

「不審人物を引っ張り出す方法……ちょっとした荒業になるけど、ないわけではないよ」


 悩んでいる時、ふと懐に置いておいた魔法増幅装置を見て閃く。


「逆探知するの」

「できるのですか?」

「中に入ってる魔物の力は薄れてないし、それを閉じ込めた場所までなら調べられるはず。魔物を発生させそうだった瓶からも似た魔力を検知してたから、行けると思う」


 私はその存在の性質上、魔力をコントロールするのが得意だ。

 だからこそ、この手の調査をするのは苦手ではない。

 愛染瞳と一緒に行動していた時も、敵の感知を任されたことは多かった。


「ただ、怪しい場所に赴く都合、魔物と遭遇する可能性も高いかも。自衛手段はある?」

「えぇ、大丈夫ですよ。それなりに戦えるのは未来さんも知ってると思います」

「そこまで心配する必要もなかったかな。じゃあ、調査はいつ頃に?」

「次の日の昼とかどうでしょう」

「今じゃなくていいの?」


 少し考えたのちに、彼女が言葉にする。


「夜はパトロールしている魔法少女も多いですし、警戒している可能性は高いかと。だから、あえてお昼を狙うんです」

「なるほど、その考えには一理ある」


 魔力の痕跡が途絶えさせられたら、正直打つ手がかなり少なくなってしまうだろう。

 それを踏まえると、彼女の考えは頷けた。


「……それに疲れましたし」

「疲れたって」


 のんびりした様子で言葉にする彼女。

 まだ動けそうな雰囲気はあるものの、あまり行動するという気力はないと言った様子だ。


「それなりの休憩、そしてリラックス。これが魔法少女には大切なものだと思ってますので、わたしは」

「緊急時なったら私はどうやっても動くつもりだけど」

「働き者ですねぇ。しかし、いざという時に全力を出せるだけの体力は持っておいた方がいいとは思いません?」

「……それもそうだけど」


 こうなったら意地でも動きそうにないと感じる。

 強情とは言わないけれども、こういう時には我が強いのがアイという人物なのかもしれない。パートナーとして覚えておこう。


「わかった。じゃあ、明日に備えて今日は休もう」

「わかってくれたようで、なによりです」


 そう決めたなら、休息をとるべきだろう。

 日常を過ごすというのも、時には大切なものなのだ。


「夕食はどうします?」

「食品は買ってあるの?」

「買ってません」

「だよね、そうなると出前かな」

「あっ、そうそう。出前だとおすすめのお店があるんです、ちょっと頼んでみません?」

「まぁ、お金には余裕があるからいいと思う」


 そう言って見せてきた出前のお店は、私もよく知っている弁当屋さんだった。

 花吹雪町でずっと続いている、ふぶき屋というお店で10年前も営業していた。


「残ってたんだ、ふぶき屋……」

「あら? 知ってるんですか? 未来さん」

「知ってるもなにも、魔法少女として動いた後とかは、ふぶき屋のお弁当をよく食べてたよ。特にこのハンバーグ弁当が絶品でね。お肉の味わいがとってもジューシーなんだ」


 いいお肉を使うことに定評があるお店として有名で、お弁当の中にあるお肉がとても美味しいのが特徴だ。

 ソースの味わいも相まって私はハンバーグ弁当が好みだったりする。


「ハンバーグ弁当が好きなんですか? わたしはよく唐揚げを食べてますが」

「唐揚げも美味しかった記憶があるよ。衣がカリってしてて、お肉のうまみを逃がさないっていうのかな。そういう味わいがよかった」


 とはいえ、ハンバーグ弁当だけを食べていたわけではない。他のお弁当だって食べる機会はあった。

 彼女も言っている通り、唐揚げ弁当もいい油を使っているからか、味わい深い食感をしている。


「……食べてたの10年前ですよね?」

「そ、それくらい印象的ってこと」


 少し呆れるような、微笑ましいような、そんな視線をアイから送られて目を逸らす。

 瞳と活動していた一年間にかなりの回数頼んでいたのもあって、よく覚えているのだ。


「注文用のパンフレットもありますよ、見ます?」

「気になる。確認していい?」

「はい、わかりました」


 彼女が部屋から取り出したパンフレットを見つめて内容を確認する。

 そこにはオススメメニューとして大々的にハンバーグ弁当と唐揚げ弁当が記載されていた。

 大見出しには、こう書いてある。


『長年変わらず愛されている至高の味!』


 ちょっと大胆なその記述に思わず笑みがこぼれた。


「両方とも推されてますね」

「特に有名なのが、このふたつだからかな」

「では、それぞれ別のものを頼んでみるのはどうでしょうか。未来さんはハンバーグ、わたしは唐揚げで」

「いいね、そうしよう。……あっ、そうだ。ここの豚汁もなかなか美味しいからおすすめだよ」

「へぇ、そうなんですね? 10年前の豚汁がどんな味わいだったかはわかりませんが、頼んでみましょう」


 そうして会話が弾む中で、私とアイはふぶき屋で出前を取ることにした。




 しばらくの時間を待ち、出前を受け取る準備を整える。

 お金はしっかり会計分用意してある。

 対応するのは私だ。


「いいんですか? わたしじゃなくても」

「ふぶき屋の店員さんがどうなってるのかな、とか気になっちゃって」


 新しい店員さんが受けごたえしているのだろうか。

 それとも、以前の人が対応しているのか。

 それも単純に気になっていたのだ。

 少しの時間が経過する。

 家のチャイムが鳴り、人が来たことを知らせる。


「行ってくるね」

「はい、いってらっしゃい」


 玄関に立ち、扉を開ける。


「どうも、ありがとうございます。ふぶき屋……」

「あっ……」


 ふぶき屋の配達としてやってきていたのはふぶき屋の店長だった。

 昔、この家にお弁当を届けにきていたときも、店長がやってきていたのは記憶している。


「未来、ちゃん……?」

「こ、こんばんわ」


 ふぶき屋の店長の名前はふぶき。わかりやすい名前でかつ憶えやすいのが特徴と言える。

 ちょうど10年前は25歳と言っていた。まだ年老いている様子はないけれども、大人としての雰囲気は感じさせられた。

 彼女が私のことをすぐに判断できたのは、私が当時とほぼ見た目が変わらないからだろう。もしかしたら、なにか化けているとか思われているのかもしれない。


「今は久遠未来って名乗ってるけど……愛染未来、その人だよ。夢でもないし、幻覚でもない」

「本当に未来ちゃんなんだ……! お姉さん、驚いちゃった!」


 そういって朗らかな表情を見せる彼女。

 柔和なその笑顔は10年前から変わらない。昔も、彼女は自分のことをお姉さんだと言っていた。大人としての魅力が増した今、ますますお姉さんらしさを感じさせられる。


「戻ってくるきっかけがあってね、ここにいるんだ」

「ひとみ・アイゼンのイベントでしょ? うん、知ってる知ってる!」


 お弁当をそれぞれ踏まないような位置に置きながら、彼女が対応していく。

 手慣れている雰囲気。とてもいいと思う。


「しばらくはここにいるから、またふぶき屋にお世話になるかも」

「やった! 未来ちゃんにまた美味しいものを届けられる!」


 そう言って抱き着いてくる彼女。

 懐かしい感覚だ。前もこんな感じに抱き着かれて、その時は瞳がよくジトっとした目で見てたっけ。


「10年前から変わってないね」

「ふふん、包容力は増してるのだ」

「……立派なお姉さんになってるの、羨ましいかも」

「未来ちゃんだって、こう……凛々しい雰囲気になってると思うよ!」

「まぁ、色々あったからね」


 彼女が抱き着くのを解除したので、お金を清算する。

 ちょうどぴったりのお金になるように調整してある。


「はい、受け取りました、毎度ありっ! そういえば、ここの今の住居してるアイさんとはどういう関係だったりするの?」

「アイとの関係……うーん」


 アイの名前が出てきて、ふと感覚が今の感じに戻る。

 彼女も何回か頼んでいるというのもあって、それなりに常連なのだろう。

 ふぶきの質問に少し悩み、返答する。


「新しいパートナーっていう言い方はなんだか代わりみたいで言いたくないんだよね。でも、ただの友達ってわけでもないし……」

「フレンドシップパートナーみたいな!」

「アイはアイ、でもパートナーって感じ」

「相棒とか!」

「うーん、相棒……相棒……」


 それも悪くないかもしれないけれども、気さくさも欲しいかもしれない。

 そう思って悩んでいた時だった。


「わたしは素敵な隣人だと思ったりもしてますよ?」


 優雅な雰囲気を漂わせながら、玄関にアイが姿を現した。


「アイさん、いつもありがとうございます!」

「ふふっ、こちらこそ、本日は未来さんの笑顔を増やしてくださり、ありがとうございます」

「ふっふっふ、お姉さんは笑顔を増やすお仕事をしてるからね! 元気そうでよかった!」


 ぶいっとサインを送るふぶき。アイはその様子を見つめながら微笑んでいた。


「その、私もアイのことをいい魔法少女だって思ってるよ」

「あら、そうなのですか?」

「気遣いが上手だし、フォローもしてくれるって一緒に行動して思えてきた」

「ふふっ、それはなによりです」


 その言葉に安心した様子のアイ。

 10年の日常、今の日常。どちらも異なる形として存在している。

 けれども、そのひとつひとつはかけがえのないものであって、守らないといけないものなのは変わらない。

 今も続いている町の未来を守るために、私も頑張りたい。


「あっ、長話しちゃったね! お姉さん、そろそろ帰ろうかなっ」

「よければ、未来さんもいますし、しばらく話していきませんか? お仕事に余裕があれば、ですが」

「配達員さんに他の場所は任せてるし……いいね! お姉さん、久しぶりに喋りたいことがあったんだ!」

「そうだね、こうやって懐かしい人と出会えたなら……私も機会を大切にしたい」


 夕食として頼んだお弁当の味。

 それは10年前と変わらず美味しく、そしてさらに味わい深くなっていると思えるものになっていた。


「美味しい……!」

「ふふっ、笑顔いっぱいですね、未来さん」

「それくらい味わい深いんだもの」

「ふふふ、笑顔は昔と同じで子供っぽくって可愛いよね」

「……そ、そんなことない」

「クールっぽい感じの雰囲気が形無しですね?」

「ね、狙ってクール系になってるわけじゃないからっ」


 みんなにからかわれたりしながら味わう食事というのも久しぶりだったけれども、心が温まる時間だ。

 この些細とも言えるかもしれない、日常の平和を守るために私は私なりに頑張ろう。

 日常の笑顔溢れる時間が、私の疲労を癒してくれているように感じた。

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