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魔法少女の瞳に映る未来  作者: 宿木ミル
第一章 舞台が幕を開ける時、魔法少女は新しい世界を見る
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第9話 町に潜む不安

 レガから貰った怪しい魔力増幅装置を落とさないように気を付けながら、改めて町で調査を行う私とアイ。

 私は、次の調査はなるべく効率よく行うことを考えていた。

 魔力を集中、そして探知を開始する。

 自分の魔力を展開することによって、近くの魔法少女の魔力と共振して探るのだ。


「魔力を展開して……何をしているのですか?」

「近くにいる魔法少女を調査してるの。この町の出来事なら、知ってるだろうし」

「なるほど、悪くない案ですね」


 クミ、レガの魔力とは別の魔力を感じ取ったので、早速向かってみる。

 そこには、一生懸命、路上に捨てられたゴミを袋に入れている存在がいた。

 白くて綺麗な、装飾を身に纏った衣装の彼女は隠すまでもなく魔法少女だ。魔力もしっかり感じられる。


「よいしょ、よいしょ」


 丁寧にゴミは集められているものの、彼女が見ていない片隅に少し見落としがある。


「少し話しかけてくるね」

「わたしは待機でもしてましょうか」

「急にいっぱい押し寄せたら相手に不安を感じさせちゃうかもだし、待っててほしいな」

「わかりました」


 アイをひとまず遠くに待機させ、私は行動に移る。

 まだ回収されていないゴミを魔法で生成した袋に入れていき、纏めていく。

 魔法少女にはまだ気が付かれていない。


「ん……?」


 ふと、手に取った瓶に怪しげな魔力反応を感じたので、凝視して確認する。

 心なしか、この瓶から魔物の気配を感じる。魔物が顕現する前の予兆のような魔力反応。不自然な感覚。

 この感覚はさっき預かった魔力増幅装置を握っている時の感じによく似ている。違うのは、この瓶から魔物が発生しそうなことか。


「……これは、私が処分しておいた方がいいかな」


 魔力を籠めて、瓶を結晶に包み込む。

 外に魔力を逃がさないように、確実に魔物を追い込む魔法だ。


「砕けて」


 魔力の結晶に包み込んだ瓶に力を加え、消滅させる。

 魔物によって浸食されていたのは間違いなかったみたいで、魔力が込められていた瓶は、魔物を撃退した時のように跡形もなく消えていった。


「な、なんの音でしょうか……?」


 私が魔力で瓶を処理していた音が聞こえたみたいだ。

 音が気になった魔法少女が私の元にやってきた。

 魔物が発生しそうだった、というと不安を与えてしまうだろう。だからそれは言わないようにする。


「少し危ないものがあったから、処理してたの」

「そうでしたか……怪我がなくてよかったです」

「大丈夫、そこまでやわじゃないからね」


 ほっとした様子を見せる魔法少女。

 心配性な印象を感じさせる動作も相まって、急なトラブルに遭遇していたらパニックになっていたかもしれない。


「ゴミ回収、お疲れ様。これ、あの家の隅にあったゴミなんだけど一緒に捨てていい?」

「取りこぼしがあったのですね……!? すみません、ありがとうございますっ」


 瓶とは別に、普通のゴミもいくつかあったので、そのゴミを回収するのを確認する。

 魔法少女は快く受け入れてくれた。なかなかありがたい。そう思いながら、彼女に質問を飛ばす。


「ゴミ回収とは関係ないこと、少し質問してもいいかな」

「ふぇ? なにか、私、しましたか……?」

「そういうわけじゃないけど、ちょっと同じように活動してる魔法少女に訪ねたいことがあってね」


 そう言葉にしながら、そっと魔力を展開する。

 私の行動で同じような魔法少女であるということを把握してくれたのか、すぐに話を聞いてくれる雰囲気になってくれた。


「え、えっと、私が教えられることでしたら、教えます」

「ありがとう。早速だけど、この町で魔法少女として活動してる中で、異変を感じたこととかあった?」


 私の言葉に対して魔法少女が少し考え込む。


「異変ですか……普段はこういったボランティア的なことをやっているのですけれども、たまに魔物と戦うこともあります」

「うん」

「その魔物が、最近、普段戦っている存在よりも強く感じることが多いのです」

「魔物が強く?」


 それは知らない情報だ。

 より詳しく聞きたいから、相手の話を伺っていく。


「はい、いつも以上に行動が機敏で、なにやら攻撃性を増しているような印象です。私はそこまで戦闘は得意ではないので、強力な魔物が出てきた時に対応できるかは少し怖いです……」

「他の魔法少女に連絡とかしたの?」

「は、はい。この町で活動してる方々はやっぱり強くなってると言っているのですが、この町の外の友達はそこまで変わりないって言ってるみたいです。これってどういうことなのでしょう……」

「街の中だけで発生してるのかな……」


 他の町では発生していないが花吹雪町では発生している強力な魔物の出没。

 少し前の魔力増幅装置、そして先ほどの魔物が発生しそうだった瓶といい、なにか怪しい影がちらついているように思える。


「私が知っているのはそれくらいです。今のところ花吹雪町は平和ですから、いつものようにボランティアしていきたいと思いますっ」

「うん、一生懸命なの素敵だと思う。頑張ってね」

「はいっ! ……なるべく、その、魔物退治も頑張ります」

「戦闘は無茶しないようにね、怪我しちゃったら危ないから」

「そ、そうですね。気を付けます」

「私は最近ここに来たばかりだけど、魔物が出没しやすい時間はなるべく意識して活動するから、見かけたら頼ってね」

「わかりました、ありがとうございます!」

「こっちこそ。この町を綺麗にしてくれてありがとうね」


 話を終わらせて、アイがいる場所に戻る。

 ちょうど近くにベンチがあったみたいで、そこでのんびりと座っていた。

 ……なにやら面白そうに笑顔になっていた。


「なにかあったの?」

「いいえ、別に。ですが、未来さんがなかなか本名を明かさないのが面白かっただけです」

「見てたの?」

「情報共有を後からするのもめんどくさそうでしたので、予めそれ専用の『眼』を備考させていました」

「よくできてる」


 アイの隣に座り、休憩をとる。

 会話するなら、同じ目線の方が相手も話しやすいだろう。


「で、なんで名前を明かさないんですか?」

「私が未来って名前を言ったりすることで混乱させたいのを避けたいだけ」

「めんどくさがりなんですかね?」

「どうだか」


 ふふっと笑う彼女。

 いまのところ、名前を明かしたいと思うことはない。変に目立つのも気が引けるし、気まずい空気になってほしくもないからだ。


「ところで、あの瓶は回収しなかったんですか?」

「魔物が発生しそうだった瓶のこと?」

「はい、あれはいい証拠みたいなものなりそうだと思っていたのですが……」


 彼女の意見も頷ける。

 とはいえ、今回はそうするのは危険だと思ったのだ。


「すぐに危害を加えそうな可能性があったから、警戒したの」

「安全志向ということですね」

「うん、騒ぎになったりしたら余計な心配を与えそうだったし、未然に処理したかった」

「なるほど……お人よしですね」

「一応、魔力増幅装置と似た感じだったのもあって、相手の魔力の感じはある程度予測はできそうだから、そこは安心して」

「なるほど、無駄ではなかったと」

「そういうこと」


 ある程度の分析に繋がったのならば、未然回避も悪くない結果になったと言えるだろう。

 もちろん、魔法少女から得た魔物が強くなったということも貴重な情報だ。


「さて、そろそろですね」


 話がひと段落した段階で、アイが空を見上げた。


「なにが?」

「動かしてた使い魔が戻ってくる頃合いです」


 そう言葉にした瞬間、空から使い魔のような存在が集まってきた。


「よしよし、いい子ですね」


 蝙蝠のような羽根に一つ目がくっついた使い魔は、ぱさぱさと羽ばたいてアイの周囲を飛び交う。


「こちらで色々情報を拾ってました」

「いよいよ魔物っぽい」

「まぁ、元々魔物ですので。こちらの『眼』は便利で、視覚している場所の音を聞き取ることができるんです」

「目なのに音が聞こえるって不思議」


 そういうものなのだろうというのはわかるけれども、眼が音を拾うというのはなんとも斬新な印象だ。

 私の疑問に対して、彼女は微笑んでいた。


「魔法って不思議なものですからね、理屈で説明できないことだってあります」

「それもそっか」


 聴覚がないように見えても、アイの使い魔には音が聞こえる機能がある。それくらいの認識でいいのかもしれない。

 私が納得したのを確認して、彼女は小さくこほんと言葉にしたのち、話題をしっかり戻してきた。


「この町で魔物が強力になっているというのは事実です。わたしもこの町で活動している以上、いくつか戦っていますが硬さを感じることは多かったので」

「集めた情報の中に、魔法少女の噂とかでそういうのはあった?」

「この周辺で今、活動している魔法少女らしい存在を確認したところ、同じような話題はいくつか聞こえてきました。当然、この町周辺の魔物が強いということも、ぼやいている方がいましたね」

「偶然ってわけではなさそうだね……」


 魔物もすべてが同じわけではない。個体差が存在するものであり、ある程度の強さは上下するものだ。

 それでも強いという情報が多いとなると、花吹雪町にだけ怪しい動きがあることがわかる。

 情報を纏めながら、彼女に問いかける。


「攻撃性が増していたって言ってたけど、そっちについてはどう思う?」

「そうですね……知性を持たない魔物は本能的に動くことが多いです。とはいえ、なにも刺激なしに攻撃性が増すことは今の状況だとほぼないと言ったほうがいいと思いますね」

「『破滅の日』が去ったから?」

「そうですね、あの日が近づくにつれて魔物は凶暴になっていったのは未来さんもよく知っていると思います。しかし、今回はそういう状況でもない」


 破滅の日を到来させるために魔物は私たちの世界で暴れていた。

 それが去った今、存在している魔物は残滓のようなものといってもいいだろう。破滅の日を阻止する前の魔物より、弱い個体が多い。

 だからこそ、戦闘が苦手な魔法少女でもない限りは苦戦することはそうそうない。

 しかし、その本来の残滓のような状態の魔物とは違う、協力な魔物が花吹雪町に存在している。

 それはどういうことなのだろうか。

 怪しげな瓶、そして装置を頭に思い浮かべて、ひとつの仮説にたどり着く。


「意図的に魔物を強くしている存在がいる……?」


 魔物が自然に強くなっているわけではないのなら、これが怪しいのではないだろうか。

 私の言葉に対して、アイは考えながらも頷いていた。


「可能性としてはあり得ますね、もっともその存在は……」

「魔物である確率は低い」

「はい、先ほども述べた通り、わたしが観測した中では知性をもつ魔物は存在しなかったので」


 再び、魔力増幅装置を取り出してその魔力を確認する。

 中に込められているのは魔物の魔力。


「……意図的に混乱を招こうとしている人がいるのなら、止めないといけない」

「この町に潜む影ですね。どうにか撃退したいものです」

「協力してくれるの、アイ」

「当然です」


 彼女は微笑みながら答える。


「わたしは、この町が好きですので」


 その言葉に、過去の風景がフラッシュバックする。

 それは、瞳が度々言っていた言葉。

 魔法少女として頑張る理由を尋ねた時に言っていたあのセリフ。


『この町が好きだから!』


 その後にはこんな言葉も続いてたっけ。


『私が、みんなを助けたいんだ!』


 ……そして、もし私にできるなら、世界のみんなだって守りたい。

 懐かしい言葉だ。

 実際、彼女は世界を救った。

 懐かしくて、心に響く言葉。


「昔懐かしむ目をしていましたね、未来さん」

「アイからその言葉が聞けるとは思わなくってね」

「あら、まさかの追憶に浸れる言葉だったと?」

「その通り。前に瞳が言ってた言葉だったから」


 その言葉で思わず笑顔になる彼女。


「ふふっ、なんだかパートナーっぽくなってきましたね」

「もしかしたら、そうなのかもね」


 ふふっと笑いながら、言葉を返す。

 好きだから、助けたい。協力したい。

 そのまっすぐな心が魔法少女として、大切なのかもしれない。

 懐かしい、彼女の心意気を思い出し、明るい気持ちになる。

 それと同時に、少しだけ気になることもあった。


「……突然昔懐かしんじゃってたけど、置いてきぼりになってない? 大丈夫?」


 今、隣にいる彼女だって立派なパートナーだ。

 それなのに、瞳のことを考えていると、なにかよろしくないかもしれない。

 そう思い、確認をとる。

 すると、彼女は微笑みながら言葉を返してきた。


「意外なことに平気だったりします」

「そうなの?」

「はい、未来さんは瞳さんを思い返したりすることはあったりしても、私にそれを求めることはしないので」

「……それは、目の前のアイに失礼だと思うからしないよ」

「あら、そうなのですか?」


 首を傾げて尋ねてくる彼女。

 それに対して、私は返答する。


「過去は過去。今は今。瞳のことは確かに今でも気にすることはあるけど……だからといって、後ろ向きになり続けるわけにはいかないから。目の前のことを考えていきたいし」

「なるほど、そういうことですね」


 なにか合点がいったように、頷く彼女。


「つまり、未来さんは未来を見ていると」

「……ダジャレのつもりはないけど」

「いいじゃないですか、名前に恥じない行動をしているのは立派だと思いますし」


 そういって笑顔になる彼女。

 きっと本心から言っているのだろう。

 こういう時の彼女はかなり素直なのは、なんとなくわかってきた。

 ならば、素直に受け止めるべきだろう。


「名前に恥じないように動く……というのも悪くはないかもね」


 そう思って、宣言する。


「今回の事件の解決、花吹雪町と魔法少女の未来の為に頑張るよ」


 前向きさはきっと新しい一歩を踏み出すきっかけにもなるだろう。

 だからこそ、私なりに行動したいことを決意した。


「その『魔法少女の未来』ってどういうニュアンスか気になりますね?」

「怪我したり、暗い気持ちになる魔法少女は見たくないの」

「……なるほど、そういうことでしたか。でしたら、今はそういうことにしておきましょう」


 あの日の彼女に近づけただろうか。そう思いながら口にする決意の言葉は、いつも以上に心を奮い立たせてくれていた。

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