二章二十五項 カレル
相手は、やはり一人だった。
足音から察するに、果敢にして単純な性格。負傷しているが、強い意志に満ちている。
「……ドニミ、あんた裏切ってたんだな」
「意外か?」
「いいや。別に」
来ていたのはエゲンとかいうあのイキった勘違い男だ。
しかし、青二才のクズの癖に、クタイアの襲撃から生き残るほど戦い慣れしてるなんて意外だな。
かなり血の匂いを放っているから、まあまあ苦戦はしたらしいが。
「エゲン。ただ生意気なガキと思っていたが、お前が生きてここまで来れるとはな。正直見直したよ」
「どうでもいい。あんたに評価される必要なんてねえ。あんたらを殺すだけだ」
「それは正義感から来たものか? お前にそんなもんがあるとは意外だな」
二人は武器を構えたようだ。互いににじり寄る。
見合った両人の心拍数が即座に上がって、呼吸が深くなるのが分かる。それが戦士ってもんらしい。
「我々を倒したところで、この街を救う手立てはないぞ。クタイアは、本能のままに人を襲うだけだ」
「グダグダうるせえよ」
二人は剣を打ち合った。
剣撃の音が坑道に反響する。鉄の微かな共鳴の音を、ドニミの荒い息遣いがかき消した。
ドニミとかいう傭兵、大丈夫なんだろうな……? 私は負傷しても死にはしないとは言え、巻き添えで斬られて嬉しいもんでもない。
あるいは撃っちまうか……。
タイミングが重要かもだ。弩でオッサンを撃っちまうことは問題ねえが、その結果で孤立して自分の体が傷つくリスクは侵せねえ。
三度、打ち合う音がする。
そうだ。私は離れて、クタイアに殺らせよう。ドニミと拮抗するなら、それで何とかなるくらいの相手だ。
ここまでクタイアに察知されなかったのが謎だがな。恐らく、人に悟られないように隠れて侵入する能力が高いのかも知れない。
「――うッ!!」
身体に、衝撃が走った。
「あ? あれ?」
なんだ?
何が起きた……? 冷た……。
胸から、多量の液体が滴り落ちる。声が出ない。血の匂いだ。
これ、アタシの血だわ。
何が起きたかわからない。誰かがアタシを攻撃しやがった……。
クソ。不意打ちかよ。一体、何処から……。駄目だ。負傷というか、ほぼ胴が潰れて破裂してる。
苦しい……!
体から力が……抜ける――




