二章二十四項 カレル
「そろそろか? 可能なら死体の確認がしたい。あのオカマ、あれで存外、気が回るようだからな。ふざけた見た目だが……」
「そりゃアタシに同意しようがねえだろうがよ。でも、確かにあの感じ、あんたバレてたんじゃねえの?」
ドニミとか言う男は、一度咳き込んで黙った。
「あいつは何モンなんだよ?」
「知らぬよ。気まぐれで遠征に参加した変わり者だということ意外にはな」
「実はあんたがケイオス家の復興派だって、知ってたんかもな」
「ふむ……。そうかも知れん。ケイオン家やケイオス家だけでなく、次期王位を狙う敵は多いからな。王笏に近づく必要がある以上、紛れ込んでいてもおかしくはない」
そりゃ事実、あんたがそうなんだからそうだろうよ。
でも、アタシには王家だの王位だの、誰でも一緒だとしか思えねえし。くだらんことにしか思えねえがねぇ……。
まあそれで利用させてもらえんなら、利用する方針ではあるけど。
「ケイオス家ってのは、そこまでして報いてくれんのかい」
「いいや? 何故だ?」
「見返りがなけりゃ、やる意味ねえだろう」
「ケイオス家の長女こそが、本来、正式なケイオンの統治者だ。八代前にリセ家が王位を簒奪する前は、正式にケイオス家の王座であった。然るべき場所に、在るべき人を座さしめる。それがこの世の正義だろう」
「ああ? う~ん、くだ――……、まあどうぞご勝手に」
そもそもがよ……“ケイオン”って街なのにケイオン家じゃなくて、ケイオス家が正当な統治者だって主張も説得力もねえしな。
正直、どうでもいい。
確かケイオンの貴族はそもそもほとんどが王家の血縁者で……というかケイオンの住民の三割くらいは王家の遠縁の子孫だとかなんだっけ。そんな事実も、アタシにとっちゃ、ただ気持ちわりいだけだな。
「街はどうなっているのだろうか」
「知らねえな。でも、もう死体だらけでしょうよ」
「そうか。私は行かなければ……。まだリンデレイルへの遠征隊は残っている。西の山脈を抜けられたら、引き返すことさえ難しくなる。その前に、エトラネミアの死体を奪還しなければ」
「仕事熱心だことで。あんたのお仲間に任せときゃ良いんじゃねえの?」
「それもいいが、可能な範囲で私の価値を示しておく必要があるからな。新世界には、私の力は必要だ」
なるほど、功名心が本当の動機かい。
「私はこの坑道の道を知らない。案内して欲しいのだが……」
面倒くせえコイツ。
一応は傭兵の癖に、そんなトンチキでいいのかね。
ん……? なんだ?
「ちょっと待て」
「カレル。何か、気掛かりなことが?」
「ああ。まさかとは思うが、来やがった。誰かが……この坑道へ」
「馬鹿な……。本当か? 暗闇の中、クタイアの群れを避けて、態々ここまでやって来た奴がいるというのか」
「だから、そうだっていってんだよ」
「信じられんな……」
まあな。
クタイアを凌げる人間となると、相当な手練としか考えられねえな。あいつら人間が素体になってる割に、蹴りだけで狼ぐらいなら簡単にぶち殺すバケモンだからな。
しかし厄介なことになった。
予測外の状況だ。なんたって、来訪者はここまでたった一人で来ていやがる。どんな命知らずの馬鹿なんだよ。
「万が一のこともある。迎え討たなければならんな。クタイアを倒せる上に、我々のことに勘付いている」
「言われなくても」
だりぃけど、アタシが行くしかねえわ。
このドニミとかいうオッサン、一人で坑道を歩けねえんだもの。
えーと……アタシの弩はどこ置いたかな。
「もし弩程度では太刀打ち出来ない相手であったらどうする?」
「あんたに任せてトンズラするさ。この坑道内なら、アタシは不死身だし。ここは迷宮になっている。どんな手練れだとしても、ここで迷えばいずれ死を待つのみ。どうとでもなる。ついてきな」
坑道は数百年で築かれた、大迷宮と言えるような広さをもつ。
しかし何故か、侵入者は真っ直ぐここまで来てやがる。
侵入者に私の代替品を見つけられれば厄介だが……このドニミってオッサンを上手く使うしかねえ。
この先の縦穴で待ち伏せする。
この廃坑に何年も掛けて準備したんだ。万が一でも、負けるなんてことはねえ。




